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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
夢のつづき
34/73

家族会議・パート2

「ちょっと帰りが遅くなっちゃったな」

 腕時計を見ると、夜の7時をまわっていた。

 携帯を持たずに言ったので連絡をできなかった。

 俺は恐る恐る玄関を空けた。


「ただいまー」

「おかえりなさい」

 パン、パン、パン。クラッカーが3つ鳴った。

 俺は突然なので、びっくりした。家族が俺を出迎えていた。



「あなた再就職おめでとう」

「パパ、来年もプロ野球選手だね」

「アメリカって、自由の女神があるんでしょ?」

 雪子、夏実、大輔がそれぞれ言った。


「えっ?」

「あなたの様子がおかしかったから、封筒の中身を見たわよ。そしたら、契約したいって書いてあったから。よかったじゃない。みんな大喜びよ」

 家族はニコニコしていた。


「とりあえず、あなた座って話をしましょう」

 雪子に言われ、1対3で座ることにした。


「どうして早く言わないのよ。いいことじゃない。まっ、昨日は、それどころじゃなかったけどね」

 俺は黙って聞いていた。なぜなら・・・

「さすがに家族でアメリカってわけにはいかないから、あなた単身赴任ね」

「えっ、そうなの、ママ」

「当たり前よ。とりあえず、1年間なんだから。それに夏実は受験を控えてるんだからね」

「そっかあ、寂しいな」

 家族は楽しそうに会話していた。


「で、あなたのチームは、アメリカのどこにあるの?」

 家族が目を輝かせて、俺のことを見ていた。だから、余計に言いづらかった。

「すまん、辞退しようと思っているんだ」

 それを聞いた家族は表情を曇らせた。


「どうして行かないの?パパ。教えてよ」

 夏実が身を乗り出して聞いてきた。

「いや、夏実だって受験を控えているし。もう野球選手はいいかなって・・・」

「何言ってるのよ。あたし、全然気にしないよ」

「それに大輔のことだって、もっと近くで見てあげたいからさ」

「どうして、パパ。もうこれからは心配かけないから大丈夫だよ」

 しばらくの間、沈黙が流れた。雪子が言う。


「あなた、何を心配してるのよ。別に私たちのことは大丈夫だって。今までだって、やってこれたんだから。これからも平気よ」

 俺は雪子の言葉を聞いて、ありがたかった。しかし、心は決まっていた。


「やっぱり、昨日の件で気がついたんだ。自分の未熟さを。これからは、もっとみんなのそばにいて支えていきたいと思う。仮に契約しても、また1年でクビかもしれない。そうなると、また同じことになる。就職できなければ、生活だって大変。だから、国内に絞って就職活動を続けていくつもりだ」

 俺は自分の出した結論を家族に伝えた。


「何よ、それ・・・パパ、最低」

 夏実が怒っていた。雪子や大輔も夏実を見ていた。

「あたし、パパが野球を続けたいって思ってるから応援してたのに。まだまだやれるって思ってたから応援してたのに。挑戦する姿がいいなって思っていたのに。バカみたいじゃん!せっかくのチャンスなのに、どうしてつかまないのよ」

「夏実、ちょっと落ち着きなさいよ」


「だって、そうじゃない。“運も必要”って言ってたじゃん。きっと、縁があったんだと思うよ。それなのに、どうして断るのよ」

 夏実は続けて言った。

「あたしは納得できないわ。今のパパ、中途半端な気がする。これじゃあ、他の職に就いてもクビよ」

「ちょっと夏実、言いすぎよ。謝りなさい」

 雪子が怒鳴り口調になっていた。俺は言い返すことができず、ただ沈黙していた。



「あなた、もう1年続ければいいじゃない。契約の紙を見たけど、たしかに不安定よ。でも、またアメリカだけど挑戦できるじゃない。私はその方がいいと思うわ。トライアウトも一生懸命やったけど、少し未練があるの分かってたわ」

「たしかに、それはあったけど・・・でも、俺はおまえたちのためにも」

「何言ってるのよ。せっかくのチャンスを逃してもいいわけ。あなたの性格からして、一生後悔するような気がする。それに私たちも後悔するわ」


 俺はそう言われ家族に聞いた。

「本当にいいのか?」

「当たり前じゃない。私たちは覚悟できてるわ」

「また1年後はクビかもしれないんだぞ」

「別に・・・あなたに後悔されるよりはマシよ」

「お前たちを日本に置いていくことになるんだぞ」

「全然、寂しくないわ。ねっ?」

「うん、大丈夫だよ」


「そっか、分かった」

「そうと分かったら、明日から、またトレーニング再開ね」

 家族がにっこりと笑っていた。俺は“夢のつづき”に挑戦することにした。

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