夢のつづき
「え〜〜〜っ、メジャーですか?」
俺は大きな声を出してしまった
「しーっ。声が大きいぞ!」
「すいません」
俺は頭をぺこりと下げた。
「といっても、最初はマイナー契約だ。最初から、イチローや松井と対戦できるわけじゃない」
俺は黙って話を聞くことにした。
「とりあえず、キャンプに参加してもらう。そこでチーム内の競争に負ければクビ」
「はい」
「だけど、結果を残せば、開幕メジャーにだって入れる。もちろん、シーズン中にも昇格のチャンスはある。9月は出場枠も拡大するしな。」
俺は自分には縁のないところだと思っていた。日本で活躍した一流選手が行くところ。
最近では、マイナー契約や独立リーグを経て、日本球界に入った人もいる。
しかし、それはドラフトで指名されなくて、単身で渡った若い選手が中心。
それに自分のようにクビにされた選手がオファーをもらうことは少ない。
中にはそういう選手もいるが、それは実績を残している選手。
実績も残していない自分には奇跡のような話だ。
「どうするかは、お前次第だ。今、ここで決めてほしい」
山城は机の上に契約書を置いた。年棒の欄は“4,000,000”と書いてある。
金額が分かりにくかったので、0を数えてみる。400万円だった。
俺は迷っていた。突然のことだったし、なにより家族のことが心配だった。
契約をすれば、家族は日本においていくことになるからだ。
異国の地なので危険性もある。英語が得意とはいえ、生活や言葉も大きな壁になる。
しかし、離職の可能性はあるが、再び就職することができる。俺は悩んでいた。
迷っている様子が分かったのか、山城は迷っている俺を見て言った。
「俺といっしょに“夢の続き”をみないか?」
そう言われて、俺は決心した。印鑑をカバンから取り出して朱肉をつけた。
曲がらないように注意しながら丁寧に押した。かなり緊張していた。
「よし。じゃあ、早速、準備をしてくれ!1月の下旬に、また会おう。飛行機のチケットは、こっちが手配する。何かあったら困ったことがあったら連絡をくれ!それから、マスコミには言わないように」
そう言って、山城さんは連絡先のメモを渡し、店を出て行った。
俺はアメリカという地で、夢の続きにトライすることになった。