長い1週間
トライアウトの翌朝、スポーツ新聞を見た。
一面を見ると、巨人の大崎は“千葉”が獲得した。終わった直後に電話をしたらしい。
そのまま、合意をしたそうだ。今日、記者会見が開かれるそうだ。
記事をみると、参加者の名前と成績が載っていた。
55人が参加していた。その中から、合格者は10人程度だろう。
しかも、右のリリーフ投手だけで8人もいた。激戦区である。
俺は一日ゆっくり休むことにした。
連絡が来るかもしれないので、携帯電話をポッケに入れていた。
プルルルルー。携帯が鳴ったので、俺は反射的に取った。
「もしもし?あっ、母さんか?」
「あっ、じゃないよ!全然、連絡くれないから心配してるじゃない!」
電話の主は母親だった。そういえば、昨日の連絡もしてなかった。
「ごめん、ごめん。気が回らなくて」
「それより、大丈夫なのかい?テレビも新聞も見たよ。ちょっと納得のいかない結果ね」
「心配してくれて、ありがとう。俺は大丈夫だから」
「なーにが大丈夫だよ。まっ、あなたの好きなようにしなさい・・・って言いたいけど、あんたには家族がいるんだからね。分かってるわね?」
「分かっているよ」
「とにかく全力を尽くしなさい。それでダメだったら、父さんの会社を紹介するから」
それを言われて驚いた。でも、自分にもプライドがある。
「いや、俺は必ず自分でなんとかするよ。いつまでも母さんや父さんの世話にはならないよ」
「だったら、いいけどね」
こんな感じで電話を終えた。俺は素直に嬉しかった。
今は2回目に向けてがんばっていくつもりだ!それでも、電話が来ないか気になっていた。
しかし、かかってくる気配はなかった。
3日後。いつものようにスポーツ新聞を見て驚いた。
島本はリリーフ左腕が手薄な大阪に入団することになっていた。
俺はすぐに電話をかけた。
「おめでとう。どうして連絡をくれなかったんだよ」
「なんとなく言いづらくて。だって、同じ立場だからさ」
「何言ってんだよ。ちゃんと連絡くれよ」
「悪いな。先に受かっちゃって」
島本は俺のことを気にかけてくれたらしい。
話を聞くと突然、球団事務所から電話がかかってきて、採用したいのでと言われたらしい。
即決をして、すぐに新幹線で向かったそうだ。
来週には正式に契約をして、入団会見を開くらしい。
年棒は1000万円。
新人選手と変わらないどころかドラ1で入った選手よりも安い。
奥さんとはこれから話し合うみたいだが、単身赴任の予定でいるらしい。
続けられても、あと2,3年。
こんな感じで1週間が過ぎた。
結局、1回目の合格者は7人。右のリリーフ投手は誰も受からなかった。
残念ながら、どこからも声がかからなかった。俺は2回目にすべてをかけることになる!