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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
23/73

トライアウトを終えて

 俺はロッカーでボーっとしていた。

少し納得がいかない気持ちと調整に失敗したという気持ちだった。


 しばらくして、俺は坂本のところに行った。

「すいません、さっきは失礼しました」

「いえ、大丈夫ですよ。おつかれさまでした」

 ほんの少し沈黙が流れた。


「今日の結果について、どう思われますか?」

「実はあまり調子がよくなかったです。でも、捕手のおかげで落ち着くことができました。しかし、最後に落とし穴があったという感じです」

 カメラも回っていた。

「そうですか。われわれもビデオで確認したのですが、ちょうど映像がきれちゃいまして・・・あれはホームランじゃなかったと思うんですよ。とてもいい勝負でした」

「はい。今日はわざわざ、ありがとうございました」

 俺はその一言を言うのが精一杯だった。


 気持ちが沈んだまま、ユニフォームを着替えていた。

 そんななか、島本が声を掛けてくれた。

「おい、そんな落ち込むなって。あれは誤審だよ」

 島本も同じことを言ってる。本当なら、なおさら悔しい。それで思い出したかのように俺は聞いた。


「そーいや、結果はどうだったんだ?」

「5人全員打ち取ることに成功したよ。でも、2回目にかける」

「全員打ち取ったんだから大丈夫じゃ」

「いや、まだ分からない。1週間以内に連絡があったら、嬉しいけど。」

「そうか」

 そういえば、そうなんだ。結果を残しても声のかからない選手も多くいるのが、このトライアウトの厳しさ。

 逆に結果がなくても採用があるのもトライアウト。言われて、はっとした。


「おい、まだ誰も合格の切符を手に入れてないんだぜ。それに2回目もある。まだ始まったばかりだ。マラソンでいったら折り返し地点。元気出せよ」

「ああ」

「じゃあ、お先に!なんか違う緊張感で疲れたから帰るわ」

 そう言って、島本は帰っていった。俺も家に帰宅した。



 家に帰ったら、今回はすぐに家族にも報告した。しかし、すでにテレビのニュースで見たらしい。

雪子は「次もあるわよ」と言ってくれた。

夏実は「あれはおかしいよ。ニュースキャスターも言ってたわ」と言ってくれた。

家族の顔を見て安心した。でも、気持ちは沈んでいた。



 その夜。雪子と真剣に話をした。

「あなた、2回目も受けるわよね?」

「ああ、受けるよ」

「その前に決まってくれたらね」

 雪子も少し落ち込んでいた。


「今は2回目に向けてがんばるよ。連絡はないものと考えてる」

「あなたのボールなら、まだやれる。テレビで他の球団の選手を見たけど、イマイチだったわ」

「だけど、結果が悪いからさ」

「あなた緊張しすぎなのよ。前日、寝れなかったって。プレッシャーに弱いわ」

 雪子に弱点をつかれてしまった。さすが、妻だけある。


「それに“右のリリーフ”というポジションも損かな。人数も多いし。たぶんだけど、島本さんは、どこか受かるわ。あのボールでサウスポー。きっと契約する球団があるわね」

「あー、たしかにな。5人キッチリ抑えたって」

「やっぱりね。そこが島本さんとあなたとの違い。あの人はプレッシャーに強いわ」

 俺は黙って雪子の言うことを聞いた。


「とにかく今回見たいに不完全燃焼にならないようにね」

「はい。分かってるよ」

「私、あなたを信じてる。いつまでも、ずっとね」

 俺は黙ってしまった。雪子のいつになく真剣な表情を見つめていた。

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