トライアウトを終えて
俺はロッカーでボーっとしていた。
少し納得がいかない気持ちと調整に失敗したという気持ちだった。
しばらくして、俺は坂本のところに行った。
「すいません、さっきは失礼しました」
「いえ、大丈夫ですよ。おつかれさまでした」
ほんの少し沈黙が流れた。
「今日の結果について、どう思われますか?」
「実はあまり調子がよくなかったです。でも、捕手のおかげで落ち着くことができました。しかし、最後に落とし穴があったという感じです」
カメラも回っていた。
「そうですか。われわれもビデオで確認したのですが、ちょうど映像がきれちゃいまして・・・あれはホームランじゃなかったと思うんですよ。とてもいい勝負でした」
「はい。今日はわざわざ、ありがとうございました」
俺はその一言を言うのが精一杯だった。
気持ちが沈んだまま、ユニフォームを着替えていた。
そんななか、島本が声を掛けてくれた。
「おい、そんな落ち込むなって。あれは誤審だよ」
島本も同じことを言ってる。本当なら、なおさら悔しい。それで思い出したかのように俺は聞いた。
「そーいや、結果はどうだったんだ?」
「5人全員打ち取ることに成功したよ。でも、2回目にかける」
「全員打ち取ったんだから大丈夫じゃ」
「いや、まだ分からない。1週間以内に連絡があったら、嬉しいけど。」
「そうか」
そういえば、そうなんだ。結果を残しても声のかからない選手も多くいるのが、このトライアウトの厳しさ。
逆に結果がなくても採用があるのもトライアウト。言われて、はっとした。
「おい、まだ誰も合格の切符を手に入れてないんだぜ。それに2回目もある。まだ始まったばかりだ。マラソンでいったら折り返し地点。元気出せよ」
「ああ」
「じゃあ、お先に!なんか違う緊張感で疲れたから帰るわ」
そう言って、島本は帰っていった。俺も家に帰宅した。
家に帰ったら、今回はすぐに家族にも報告した。しかし、すでにテレビのニュースで見たらしい。
雪子は「次もあるわよ」と言ってくれた。
夏実は「あれはおかしいよ。ニュースキャスターも言ってたわ」と言ってくれた。
家族の顔を見て安心した。でも、気持ちは沈んでいた。
その夜。雪子と真剣に話をした。
「あなた、2回目も受けるわよね?」
「ああ、受けるよ」
「その前に決まってくれたらね」
雪子も少し落ち込んでいた。
「今は2回目に向けてがんばるよ。連絡はないものと考えてる」
「あなたのボールなら、まだやれる。テレビで他の球団の選手を見たけど、イマイチだったわ」
「だけど、結果が悪いからさ」
「あなた緊張しすぎなのよ。前日、寝れなかったって。プレッシャーに弱いわ」
雪子に弱点をつかれてしまった。さすが、妻だけある。
「それに“右のリリーフ”というポジションも損かな。人数も多いし。たぶんだけど、島本さんは、どこか受かるわ。あのボールでサウスポー。きっと契約する球団があるわね」
「あー、たしかにな。5人キッチリ抑えたって」
「やっぱりね。そこが島本さんとあなたとの違い。あの人はプレッシャーに強いわ」
俺は黙って雪子の言うことを聞いた。
「とにかく今回見たいに不完全燃焼にならないようにね」
「はい。分かってるよ」
「私、あなたを信じてる。いつまでも、ずっとね」
俺は黙ってしまった。雪子のいつになく真剣な表情を見つめていた。




