5人目のバッター
なんと、そこには巨人の大崎が立っていた。
一番対戦したくないバッターに当たってしまった。
思わずタイムをとってしまった。
「どうやって、打ち取りますか?」
捕手の中山が声をかけてくれた。
「本当ならくさいところをついて四球でもいいんですが、最初に出しているので」
俺は本音を話した。今日の調子では打ち取る自信がなかった。
「そうですよね。一番いいのは、1球でしとめたいとこですが・・・すでに初球打ちでホームラン。さっきの打席では、低めの難しいボールを2ベースですし」
「今日は調子がいいみたいだし、初球は様子を見ましょう」
「そうですね。変化球を低めに外して様子を見ましょう。うまくいけば、ゴロで打ち取れますし」
「わかりました」
打ち合わせをして、ポジションに戻った。
俺はロージンバックを手に取り、ボールを握った。
サインを見た。低めに外すスライダーだった。
ふと観客席を見た。スカウトが熱視線を送っている。
今回は自分にも注がれているのが分かった。
とにかく弱々しさを見せないようにしようとした。
俺は振りかぶってスライダーを投げた。
一番のベストはストライクゾーンから低めに外れるスライダー。しかし、ボール。
低めに外れすぎてしまい反応がなかった。
2球目のサインは外角低めのストレート。おもいっきり腕を振って投げた。
カキーンと乾いた音が球場に響いた。高めになった分、ファールになった。
スイングのスピードは明らかに早い。クビにされたのが不思議なくらいだ。
今日は制球がいまひとつだということを改めて分かった。
その分、ストレートに力はある。
3球目はスライダー。外角にミットを構えている。
しかし、力んでしまい、外角に外れた。カウントは1−2
4球目は内角低めのストレート。微妙なところだったがボール。
1−3になってしまった。自分が追い込まれてしまった。
俺を帽子を取って、汗を拭いた。緊張が高まっていた。
次がボールだったら、2つ目の四球。採用が遠のく可能性がある。
そう考えると、投げるのが怖くなった。しかし、投げなければならない。
ピンチでもないのに、こんなに緊張している。これがトライアウトなんだと思った。
サインを見た。内角高めのストレートになっていた。
バッターにとっては意表をついていると思い、うなづいた。
振りかぶって投げた。
少しすっぽ抜けた感じがしたが、予想通りのところにボールがいった。
判定は……少し遅かったがギリギリストライクのコールだった。
俺は一息ついた。でも、まだ2−3。フルカウントになった。
まわりも静かになって、勝負の行方に注目していた。
こんなに注目されたのは久しぶりだった。
続くサインは外角のカーブ。見逃し三振をねらっているのが分かった。
俺はカーブの握りを念入りに確認して投げた。
真ん中低めにいってしまったが、ファールとなった。
7球目は内角低めのシュート。これも見逃し三振を狙って投げた。
非常にいいところにいったが、カット。
まだ勝負は続いていた。観客席も静かだった。
8球目は空振り三振を狙ったフォーク。俺は握りを確認して投げた。
ストンと落ちたが、これもカット。なんというしぶとさなんだろう。
そして、勝負は9球目。果たして次で決着がつくのだろうか?