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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
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弱気な自分

 俺の名前は、水川英吉(34)

職業はプロ野球選手。右投げ右打ちの投手だ。

東京エドモンズに所属し、背番号は36番。チームでのポジションは、中継ぎ投手。

毎日、肩を作らなければならないタフな仕事だ。

しかし、最近は若手が出てきたこともあり、出場機会が激減。2軍暮らしが続いている。


 出身地は、神奈川県横浜市。中学から野球を始め、高校3年の夏に県大会でベスト8に残った。

弱小校だったので、甲子園出場を考えたことすらなかった。

最後の試合では、強豪校の打線をわずか1失点に抑えたのだ。つまり、完封負けだった。


 その後、大学には一般受験で進学。大学も弱小だったので、目立つことはなかった。

自分自身、プロは全くと言っていいくらい考えてなかった。


 でも、スカウトの山城さんの目に止まったことで、俺の人生が変わる。

ドラフト直前に挨拶され、6位で名前を呼ばれた。大学など自分のまわりは大騒ぎだった。

後から話を聞いたら、山城さんは、高校時代から俺のことを気にしていたらしい。

こうして、プロ野球の世界に飛び込んで12年目になる。



「俺は今年でクビだと思う。チームは最下位なのに、俺の出番は来ないんだ」

「あなた何を言ってるの?そんなことないわ。まだ分からないって」

 そう言い返してくれるのは、妻の雪子。

 自分で言うのもなんだけど、かわいくて、しっかりしている。

 高校時代の同級生で、野球部でもマネージャーをしていた。


「まだ8月の後半じゃない。あと1ヶ月くらいあるんだからさ」

 今日は、まだまだ暑さの厳しい8月の後半。

 球団から戦力外通告されるのは、早くても9月中旬過ぎである。

 どんなに遅くても10月の終わりだろう。しかし、チームは最下位にいる。

 そのため、今年は早めに言われることが予想された。


 加えて、今シーズンの成績はヒドイものだ。1軍での登板はなし。

最近は、2軍でも若い選手に出場機会を奪われている。


 監督やフロントの方針は、若手の育成と切り替えらしい。

しかし、チームは主力選手の故障が目立ち、最下位に低迷している。

そのため、多くのベテラン選手が、最下位脱出のために1軍に上げられていた。

けれど、自分には全くそんな声がかからなかった。


「だからって、まだ分からないわよ。きっと、まだチャンスはあるわ」

「いや、今年は厳しい。最下位は確定なのに、俺は昇格できないんだ」

「そんなに弱気になることないわ。あなたはやれる!」


 雪子はそう言って励ましてくれたが、実際、自分でもボールが衰えたとは思っていない。

それほど早くもないけど、常時140キロを越える直球を投げられる。

調子がいいときは、145キロを計測した。


 変化球だって、スライダー、カーブ、フォーク、シュートと豊富だ。

弱点といえば、中継ぎというポジションなので地味な印象しかないことか。

あとスタミナ不足。2イニング目は必ずというくらい捕まってしまう。


「ただいまー」

 娘の夏実と息子の大輔が帰ってきた。

 夏実は小学校6年生で、中学受験を控えていた。今日は模試だったらしい。

 大輔は小学校3年生。野球ではなく、サッカークラブに入っている。


「子どもたちも帰ってきたし、今日はおしまい」

 そう言って、雪子は夕食の支度を始めた。俺も気分を変えて頑張ろうとした。

 しかし、不安の方が大きかった。こんな状態で9月を迎えた。

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