表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
11/73

家族会議

 ー 3年2組 ー


「おい、昨日で最下位確定だってよ」

「それにしても、本当に今年は弱かった」

「来年もヤバイよなー」



 ガラガラガラ

「おい、来たぞ」

 康太の指示で、いじめが始まった。

「水川、最下位おめでとう」

 康太がクラッカーを鳴らした。その仲間も続いて、クラッカーを鳴らした。


「何するんだよ」

 大輔がすぐに反論した。

「お祝いだよ。昨日で最下位が決まったんだからな」

「そんなこと知ってるよ」

 大輔はすぐに言い返した。


 すると、康太がスポーツ新聞を持ってきた。

「ダメだなー。こんなに大きな見出し・・・ってわけじゃないな。やっぱり、巨人がゲーム差、広げたことが一面になってる。ハハハハー、惨めだなあ」

 大輔は腹が頭に来たので、新聞を奪い取った。


「おい、何すんだよ」

 ビリ、ビリッ、ビリリー。新聞をめちゃくちゃに破った。教室中が見ていた。

「まあ、いいさ。もう読んだからいらないし。でも、読まなくてもよかったのか?その記事」

 康太は破れた新聞紙を指で指した。そこには、大輔にとって信じられない記事だった。


『東京エドモンズ 9選手に戦力外通告』

 小さな記事ではあったが、すぐ目に入った。自分の親の名前が載っている。

 思わず大輔は目を疑った。そこに康太が足を入れる。

「もう読んだから十分だろ」

 記事はくしゃくしゃにされた。大輔は衝撃のあまり、その場に座り込んでしまった。



 ー 自宅 ー


「ただいまー」

 俺は9時過ぎに家に着いた。

「遅いわよ。もう少し早くかえって来てよ」

 妻の雪子が注意する。


「それで、どうするの?」

 食器を洗うのをやめて、テーブルに座った。顔は英吉を向いている。

「ああ、今日、ちゃんと伝える」

 俺は荷物を置くと、すぐに子どもたちを呼んだ。

「ちょっといいか。大事な話がある」

 夏実と大輔を呼んだ。



「イスに座って」

 俺は1対3になるように座らせた。

「まずは謝らなくちゃいけないことがある。おとといの1軍昇格は嘘だった。ごめん」

 俺は頭を下げた。3人の視線がにらみつけているように感じた。


「そして・・・」

 俺はなかなか口に出せなかった。時間にして10秒くらいだったが、何時間にも感じた。

「昨日、球団からクビを言われた」

 3人は無言だった。すると、夏実が口を開いた。


「それで、パパは、これからどうするの?」

「それなんだけど・・・みんなの反対がなければ、来年もプロ野球選手のつもりだ」

 夏実は“うそっ”て顔をしている。雪子は黙ってうなづいた。大輔は妙に落ち着いていた。


「でも、絶対に戻れるという補償はない。仮に受かったとしても、ずっと現役でいられるわけじゃない。

 また、1年後はクビかもしれない。それでもいいか?」

 俺は厳しい現実があることも伝えたかった。



「何言ってんの、パパ!当たり前じゃない。パパは、まだまだやれるんだから。」

 夏実が言った。少し涙目になっている。

「あなたが好きなようにすればいいわ」

 しばし沈黙が流れた。雪子が続けて言う。

「私たちはどんなことがあっても、あなたについて行くわ」

 俺はその言葉を聞いて涙ぐんでしまった。今日は、何回感動しているんだろう。


「大輔はどう思う?」

 雪子の問いに、大輔が口を開いた。

「パパ。やるからには受かってね。新聞に載ってね」

「そうか、分かった。じゃあ、これからの予定を話すな」


 そう言って、俺はカレンダーに書きこみながら説明した。

「まず、10月7日に全日程が終了する。それから、すぐにクライマックスシリーズが始まる。

 その1週間後には日本シリーズだ。そして、11月の初めにアジアシリーズがある。

 これが今年のパパの予定だった」

 家族がうなづいて、カレンダーをじっと見ていた。


「しかし、チームは最下位だから、予定がなくなった」

 俺はそう言って、マジックで予定を消した。


「そして、クビになったから、新しい予定ができた」

 家族がえっという顔をした。

「11月2日と16日に、入団テストを受けることになった」

 そう言って、俺はトライアウトと書き込んだ。

「パパ、トライアウトって何?」

 夏実が言った。雪子もなにそれ?という感じだった。



 合同トライアウトというのは、もともとはJリーグが始めたものだった。

チームからクビを言われた選手の中には、他チームで十分に活躍できる選手がいる。

それなのに、やめてしまう選手がたくさんいた。そういう選手を失くすために作られたシステムだ。

少しでも多くの人が再就職してもらう意味もある。また、挑戦の場でもある。

サッカーでは互いに試合をさせて、実力を測っている。


 野球では、2001年から始まった。

それまでは各球団が独自に行なったり不定期であったが、選手の雇用を考えられ始まった。

また、クビになった選手が活躍したことも大きく影響している。

12球団のスカウトが一同に終結し、バッターとピッチャーの対戦を見ている。

即戦力として、毎年、獲得するチームも存在していて、今では欠かせないものだ。


 ルールは、投手の場合、5人のバッターと対戦する。

対戦相手はランダムに決められる。また、野手も5人の投手と対戦することになっている。

ただし、毎年のようにルールが変わるので、今後はどうなるか分からない。


 そして、球団は獲得を希望する選手に、1週間以内に連絡することになっている。

その日のうちに契約することだってできる。連絡が来なければ、不合格だったいうわけだ。

チャンスは、2回。2回目のテストが終わってから1週間以内になければ、おそらく本当に野球人生が終わりを告げる。

たまに合格した選手がいるが、それは本当に奇跡である。


「分かったわ。あなた頑張ってね」

「パパなら、絶対合格よ」

「パパ、絶対に受かってね」

 家族の応援も受けて、俺の最後の挑戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ