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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
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結束

 俺はすぐさま練習に取りかかった。

しかし、選手が来ると、すぐにその場所を空けた。

選手も申し訳そうな顔をしていたので、気にするなと言った。

こんなに集中して練習したのは、いつ以来だろうか?


 そして、練習を終えたのは、17時過ぎだった。

今日は同じように戦力外通告を受けた選手と、今後の話し合いをするようことになった。

いつもの行きつけの飲み屋に行くことになった。



「じゃあ、とりあえず、乾杯しますか?」

 チームの野手では、最年長の37歳。エドモンズ一筋19年活躍した北田さんも来てくれた。

 2000本安打も達成し、数日後に引退試合も組まれていた。

 また、チーム最年長の竹崎さんも来てくれた。近々、現役引退を表明するらしい。

 現時点では、11人が退団することになった。


捕手  白井 一彰 (28) 右右 8試合 打率.142 

内野手 杉本 吉宏 (31) 右左 14試合 打率.181 1打点

内野手 倉田 智弘 (32) 右右 一軍出場なし

外野手 北田 哲昭 (37) 右左 37試合 打率.262 2本 12打点

外野手 三島 祐一郎(29) 右右 一軍出場なし

外野手 渡辺 仁  (26) 左左 16試合 打率.230

投手  島本 渚  (34) 左左 一軍登板なし

投手  竹崎 淳一 (38) 右右 8試合 防御率 3.36

投手  水川 英吉 (34) 右右 一軍登板なし

投手  森田 剛典 (30) 右右 5試合 防御率 9.00

投手  安田 翔  (27) 左左 1試合 防御率 4.50

  


「じゃあ、順番に今後をどうするか言ってこうや」

 北田の進行で、一人ずつ挨拶をすることになった。


「僕は故障もあり、もうやめることにしました。今後は、実家の酒屋を継ごうと思います」

 おー、そうだったのかと全員が驚いた。同じチームでも、年が離れていると話さないことも多い。

 実際、お互いの名前と顔も分からないなんてこともあったりする。

 さらに野手と投手では、全く関わることがないことだってある。


「僕も同じくやめることにしました。今後の職は、これから決めます」

 三島も言った。彼は故障続きで、本当に運がなかったと思う。



「俺は現役続行です。このままじゃ終わりたくないです」

 捕手の白井は、リードと配球には定評があった。課題はバッティングだ。


「俺も現役続行です。子どもに自分が野球選手だと認知してもらうまでは、やめられない」

 島本が言った。悩んでいたが続行することにしたらしい。そして、自分の番がやってきた。


「俺も現役続けたいです。まだまだ野球で家族を養っていきたい」

 俺は家族の顔を思い浮かべながら言った。



 そんな感じで、全員が言い終えた。

自分以外に“現役続行”と答えたのは、白井、杉本、渡辺、島本、森田、安田の6人。

果たして、この中で野球界に残るのは、何人なんだろうか?そう考えると、怖くなってくる。


 例年、戦力外通告を受けるのは、全体で80人前後である。

最近では、100人を越えたこともある。その中から他球団に移籍できるのは、僅か10人程度だ。

トライアウトのおかげでリストラされた選手の雇用は増えたが、未だに厳しい現実が待っている。


 そして、残酷なのは、今からここにいる全員が自分のライバル関係になるのだ。

しかも、野手と投手は、チームに関係なくトライアウトで対戦する可能性も高い。

また、自分と同じような特徴を持つ選手にも注意しなければならない。

最近では、秋季キャンプで2人をテストし“どちらかいい方を採用する”球団もあった。


 しかし、会は和やかに進んでいった。それぞれの今後の発展と健闘を祈った。

ベテラン選手らしい北田や竹崎の昔話なんかも面白かった。

そんな感じであっという間に過ぎていった。


「最後に、みんなに謝らなくてはいけない」

 北田はそう言って席を立った。

「俺だけ引退試合をしてすまんな!」

 北田は深々と頭を下げた。

「何言ってんですか?19年も貢献してきたんですよ」

 竹崎がすかさず返した。


「いやいや、年数なんて関係ないよ。1年だって、20年だって同じ。みんな頑張ってきたんだから。

 たしかに、俺はレギュラーで日本一にも貢献した。でも、みんながいたからできたんだ。

 それだけで、俺だけが引退試合を用意してもらえるなんて思わなかった」

 みんなは北田の言葉を黙って聞いた。


「みんなの分まで頑張るよ。最後は必ずヒットを打つ。

 ただし、4打席ももらわない。もらうくらいなら、未来ある選手に1打席も多く立ってもらいたい。

 俺は1打席しか立たないつもりでいる」

その言葉を聞いて、俺は涙ぐんでしまった。この人は、チームの未来も考えていた。

俺と違っていた。俺は自分のことばかりを考えていた。情けなく思った。


「だが、みんな。トライアウトでは、他人を考えるな。とにかく誰よりも目立ち、結果を残す。

 そうしなければ残れないぞ。ちょっとでも甘えがあれば不合格。そこで本当に野球人生が終わるんだ」

 全員がそれを聞いて固まった。

「俺は全員が無事に受かることを祈っている。お互い後悔だけはしないよう頑張ろう」

 選手たちは、結束を強めるのだった。

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