転生に気が付いても、心がすぐに追い付かないよね☆ byロゼリア
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悲しそうな顔は一瞬のことで、彼女はふんわりと花がほころぶかのような笑顔を浮かべた。同性の私ですらうっかり見とれてしまうほどのとても綺麗な笑顔。
泣きそうな顔から頑張って浮かべた精一杯の笑顔。何それ可愛い。 惚 れ て ま う や ろ !
「アリスです。…私は、アリス。奨学生として入学します。先程は支えて下さってありがとうございました」
そう言って兄を見つめる彼女の瞳には、隠しきれない恋慕の色と強い決意が滲んでいる。
直感的に思った。ああ、この子は覚えているのか、と…
彼女はアリス。本当の名はアリシア=ローゼンクラウンといい、隣国ローゼンクラウンの行方不明の第一王女だ。
そして、彼女は――乙女ゲーム『不思議の国で貴方と~恋と魔法の運命』のループするヒロインなのだ。
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私がその事に気付いたのは、七歳の誕生日。その日は朝からちょっと寒気がして身体が重怠かった。とても楽しみにしていたので無理をして黙っていたら、パーティーの最中にぶっ倒れた。前日に興奮して夜更かしをしてしまったのがいけなかったらしい。
三日間高熱に魘されて、起きたときには前世の記憶を思い出していたんだよね。
生まれ変わったんだって理解して、一番最初に思ったのは、もう家族や友達に会えないんだって事だった。そうしたら、悲しいって思う前に涙がぽろぽろ零れて来て。どれだけ泣いていたんだろう。このままじゃいけないって気付いて、新しい人生を一生懸命生きてみようって思い直した。
ここで話が終わっていたら幸せだったのかもしれない。でも、一通り泣いて冷静になったら気付いてしまったんだ。ここが昔やってた乙女ゲームの世界だって!そのゲームの中で、私は、ロゼリア=マーチェルは、ヒロインを苛めて国外追放や幽閉、処刑されてしまう悪役令嬢だって!
ロゼリアの両親は典型的な貴族の政略結婚で、その関係は冷め切ったものだった。
多くの貴族は義務として、家を守る為に親の決めた許婚や家格の見合う相手と結婚する。本当に好きになった相手や、恋愛の相手とは愛人関係を結ぶのだ。男性が妾を囲うように女性が愛人を持つことは、けして誉められたことではないが黙認されている。人によっては複数の愛人を持ったり、愛人の方も小遣い稼ぎとして複数人と愛人契約を結ぶ者もいるらしい。
父は領地の経営に忙しく、元々口数も少ない人だったので屋敷の中で会話らしい会話をしたことがなかった。母はと言えば、そんな父を余所に愛人を通わせているらしい。9つ年上の兄は父と母の子だが、ロゼリアは母と愛人の子なんだとか。
曰わく、兄は焦げ茶の瞳でロゼリアは薄い紫の瞳だとか。ちなみに、父と母は焦げ茶と青である。曰わく、兄は父に良く似ているがロゼリアはどちらかというと母に似ていて、しかも父の特徴は余り見受けられないのだとか。兄は攻略対象だけあって美形である。
幼いロゼリアは侍女達の噂話を聞いてしまう。驚いた彼女は父に突撃し、何故自分が父に似ていないのかをそれとなく問うた。その時の会話は以下の通りだ。
「お父様。私訊きたい事がありますの」
「……なんだ」
「私はどうしてお父様に似てないんですの?瞳も紫ですし」
「…」
「…」
「…お前は、亡くなられた私の祖母に生き写しだ。あの方の瞳も紫だった。話はそれだけか?」
父の答に納得出来なかった彼女は、それからどんどん我が儘を言うようになる。父母の関心を求め、叱って欲しかったのだろう。しかし、両親は我が儘を叶えるばかりで放置したのだ。
ちなみに、私の場合はと言うと…
「お父様。私訊きたい事がありますの」
「……なんだ」
「私は本当はお父様の子ではないんですの?私はどうしてお父様に似ていないんですの?瞳の色も紫ですし。お父様は私が本当の子ではないから余り構っては下さいませんの?」
ここでちょっと涙目で見上げるのがポイントである。
「…」
「…」
「…お前は、亡くなられた私の祖母に生き写しだ。あの方の瞳も紫だった。だが、何故急にそんな話を?」
驚いた父の顔などめったに見られるものではない。表情筋は殆ど動いていなかったが、瞬きが多かったし、瞳が揺れていた。動揺した父を見たのはあれが最初になるのではないだろうか。そして、父は、
「私はロゼもエルリックも…妻のことも、家族を愛しているよ」
と、私を抱きしめて、頭を撫でながら小さな声で言ってくれた。
ああ、この人は大丈夫。ちゃんと家族だ。そう思った。ゲームの画面では分からなかったことが沢山ある。
作者は真剣にコメディを目指しています!