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アリス革命~乙女のための運命開拓史  作者: ワンと聞いたらにゃーと鳴く
1/6

prologue

修正しています。


***


 ――お願いどうか私のことを忘れないで。


 遠くで声が聞こえる。とても大切な人だった気がするのに思い出せない。


 ねぇ、君は、誰?


***

 

 春の柔らかな日差しを浴びて、茶髪――金に見えなくもない――でやや長身の青年、エルリック=マーチヘア公爵子息は人捜しに奔走していた。


 この国では貴族の子女は十三歳になると王立学園に通うことが義務付けられている。一部の金に余裕がある商家の者や特に才能を認められた奨学生らも通うこの施設では、様々な知識と技能を学ぶ事が出来るのだ。

 内容は、魔法の基礎や応用であったり、文官に必要な算術や一般教養、騎士に必要な剣技や戦術、応急手当てなどと多岐に渡る。卒業は一種のステータスであるし、その後の進路にも有利である為、人脈作りを兼ねて子を入学させたがる親は多い。


 今年入学する妹の付き添いとして父母の代理で来たのだが、途中ではぐれてしまった。まさか(よわい)十三にもなる公爵令嬢ともあろうものが、迷子になるなどとは思うまい。昔に比べれば落ち着いてきた方なのだが、時可愛い妹は時々突拍子もないことをしでかして周囲を驚かせるのだ。


 あたりを見回していると、突然目の前に金色の髪が躍り出た。よろけた彼女を支えてやると、目が合って息を呑む。


 日の光を受けて輝く金の髪、こちらを真っ直ぐに見つめ返す翠の瞳。その少女を見たとき、俺は強烈な既視感を覚えた。

 

(…勿忘草の髪飾り。俺は…この子を知ってる?)


 ざっと記憶を探るが該当者はいない。仕事柄、記憶力には自信がある。さすがに全てを正確に覚えている訳ではないが、同じ特徴を持つ知り合いはいなかった筈だ。けれど、記憶と感覚は真逆のことを訴えて来る。初めての感覚に混乱してしまう。

 改めて目の前の少女を観察してみると、なかなかに可愛らしい子だった。真新しい制服を着ているので、妹と同じく今年の新入生だろうか。色白の頬はほんのりと上気して薄紅色に色づいており、瞳は潤んで目尻には透明な雫が溜まり始めている。


 …自惚れではなく自分の見目が整っている自覚はあるので、女性に熱っぽい反応をされることはよくある。だが、彼女の反応はそれらとは少し違う気がした。

 例えるなら、長年生き別れていた家族に漸く会えた時のような。喜びと安堵と不安の入り混じったそれ。


「あ、あのっ、私……!」 

 

 声が上擦ってあたふたしている。


「おや、これは失礼を。お嬢さんが余りにも麗しいので、つい引き留めてしまいました。お許しください。」


 どうやらずっと彼女の手を握り締めていたようだ。茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばしてみる。


(すぐに放してあげてもいいのだけどね)


 ふと悪戯心がわいて掴んでいた手にそっと口付けを落とした。嫌らしくならない程度に軽くリップ音を立てると、少女の顔が目に見えて赤くなる。心なしかボンッと音が聞こえた気がするな。ふるふると羞恥にふるえる様はとても愛らしく庇護欲をそそられる。


(小動物みたいな子だなぁ。ずっと見ていたくなる。)


「お兄様。探しましたわ…また公衆の面前でセクハラしてるんですの?」


 涼やかな明るい声が聞こえたかと思うと、妹が姿を現した。迷子になったのはお前だろうに…。それにしても『セクハラ』か…性的嫌がらせの意味らしいが、そんな言葉をどこで覚えて来たのだろう。少しきつめの顔立ちの妹は誤解されることもあるが、心優しく少しお転婆でとても可愛らしい。


「セクハラとは心外だな。嫉妬かい?我が妹は可愛いな。」


「もう、自重してくださいと申し上げているんですの!…そんなだから三月ウサギだなんて言われるんですわ。」


 思わず苦笑してしまう。ロゼは小声で言ったつもりなんだろうが、バッチリ聞こえている。自分が影でその様に言われていることは知っている。泥沼のように狂った三月の兎のように見境なく盛っていると言いたいのだ。ちなみに、兎の繁殖期は半年近くあるので別に三月だけに盛っている訳ではない。今のところ実害は無いし、その方が油断を誘えて便利なこともあるので放置している。


「確実にいつか刺されますわよ…あなたも災難でしたわね。私はロゼリア=マーチェル。マーチェル侯爵令嬢ですわ。あなたのお名前を聞いてもよろしくて?」


 どうやらロゼは彼女に興味を持ったようだ。アメジストの瞳がキラキラと輝いている。こういうところは昔から本当に変わらない。妙な既視感の正体も気になるし、ここはロゼに乗っておこうか。


「ああ、そうだったね。初めまして、私はエルリック=マーチェル。この子の兄だよ。」


「…!」


俺がそう告げた瞬間彼女の顔が悲しげに歪んだ。

彼の既視感の正体は何なのでしょうか?

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