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同じ徹

作者: 秋津元梨

・登場人物

 私(父)、息子、お爺ちゃん(実父)。最後に妻。


 お爺ちゃん(実父) 「まだ住めるわい」

 私(父) 「この距離なら」

 息子 「だいじょぶー?」

 お爺ちゃん(実父)の家で私の息子が怪我をした時の話をする。

 以前、お爺ちゃんの家は改築前の木造家屋だった。柱、天井、床、全てが木材で建築されていた。そして築65年と、相当年季の入った家だった。

 木造建築物の耐用年数はおよそ、22年。お爺ちゃんの家は三倍の年数が経っていた。築20年以上のものは注意が必要とか、そういうレベルを遥かに超えていて、実際かなり危険な域にまで達していた。それでもお爺ちゃんは生まれ育った家を大事にしたかったらしい。裏山で伐採した木材を加工して、壁の穴を塞ぎ、柱を当て木で補強してまでその家に住み続けていたようだ。歳の割りに元気で活発なお爺ちゃんだった。

 そして、三年前の夏。

 お爺ちゃんが救急車で運ばれた。

 老朽化した床を踏み抜いて足を骨折したらしい。

 当時、5歳になったばかりの息子を連れてお見舞いに行ったら、お爺ちゃんは軽快に笑いながら言った。病室でニコニコする姿を確認して、心配するのがアホらしくなる程だった。それでも本当に無事で良かったと安堵したのを覚えている。今思えば骨折しているので無事ではないのだが……。

 それから世間話や、息子の事など一通り談笑した後、お爺ちゃんに頼まれて家にある着替えを取りに行くことになった。

 家は病院から徒歩でいける距離にあり、息子を置いて一人で取りに行こうと思ったが、それは息子が頑なに拒否した為、仕方なく連れて行った。

 そして、家の前で棒立ちになった。純粋に酷すぎるからだった。思わず苦笑いした。

 息子は『うおー。カッー!ブァー!やー!』と何故か興奮していた。

 息子を引き戸前で待たせて敷居をまたいだら、見た目とは裏腹に内装はそんなに変わっていないようだった。何処と無く懐かしくもあった。

 そして、玄関入って直ぐの廊下の床で想像以上にでかい穴を発見した。細い廊下はそこで分断されていた。

 これかと、直ぐに理解した。

 お爺ちゃんの家の地下には収納スペースがあるので廊下の床下はかなり高い作りになっている。なので、穴の深さは一メートル位あった。落ちれば危険なのは初見でわかった。

 丁度、腐った木組みが折れたようで薄い床板も同時に陥没していた。

 跳ぶしかないとその時、直感で思った。

 助走をつけてジャンプする。走り幅跳びの要領だ。長さ2メートルは息子にとっては危険でも成人男性である私には取るに足らない距離だ。

 そう考えてジャンプした。

 どうしてあの時、安全な裏口を忘れていたのかわからない。

 飛距離は申し分なかった。しかし、着地した後、床が陥没した。

 消失した地面。両手は必死で空気を掴もうとして、身体は重力に捕まり落ちていく。

 遅れてやってきた股関への衝撃。下半身から突き上げる稲妻。言葉にならない叫びが顔中の穴から噴き出した。

 私は骨木に馬乗りになっていた。抜けたのは足裏部分の床の板だけで、折れなかった骨木は見事に私の身体全体を支えていた。つまり股間を押しつぶしていた。

 助けを呼びたかったが股間を強打して病院に運ばれるのはいくらなんでも恥ずかしすぎたので躊躇われた。しかし、痛すぎて身動き取れないのも事実だった。

 暫く、どうしようも出来ずに呻いていたら、5歳の息子が心配してくれたのかテトテト駆け寄ってきて、手前の穴に落ちた。

 私は直ぐに携帯で119を押した。それからは良く覚えていない。

 私は、私達は、いや、私達も病院に運ばれた。

 気が付けばベットの上。そして左にお爺ちゃん、右に5歳の息子がいた。夕方駆けつけた妻は私達の前で悲しそうに泣いていた。


 三年前の夏、私の息子は怪我をした。

 あの痛み、いつまでも忘れはしないだろう。


 ダメな男集 by 妻

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