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青春☆虚無戦記  作者: ひしゃまる
2/3

シーン2


 あたしは、神野のほうをチラ見した。


 雨に濡れて前髪から水がしたたっているのもかまわず、神野は真剣な瞳で、真っ黒な空を見上げている。

 口をへの字に曲げて、目つきはちょいキツめ。


 あたしのことを、こいつはどう思っているんだろうか?


 夏服のYシャツの下、透けて見えるブラピンクを見ても、なんとも思わないわけ?

 って、あたしは痴女か!?

 カバンを抱きしめて、胸もとを隠す。

 しかし、あたしは知っている。

 神野はあたしのことを、そんな目ではない。


 小学校の頃から一緒で、同じクラスになることも多かったけれど、神野はいつも女の子なんかどうでもいいって感じだ。逆にそこらへんがクラスの女子たちに人気があって、あたしはもちろん、面白くない。


 愛想はよくないけど頭はいいから「勉強教えて」って、中学生の時に何度か部屋に連れこんだりもしたけれど、本当に必要最低限を教えるだけで、なんのモーションもかけてこない。


 あたしが必要以上に接近してみても、なんの反応も示さない。


「……むぅ」

 自分の頭の中のひとり言に耐えられなくなって、思わずうなってしまう。

 絶望的すぎる……。

 幼なじみなんて、いいこと一つもない。


「止まないな……」


「え?」

 ついつい、大きな声をだしてしまったのは、意外すぎるからで。

 神野からあたしに話しかけてくるなんて……ねぇ?

「雨」

 神野も、こっちをむいた。ぐっしょりと濡れた前髪のすき間から、神野の瞳は容赦なくまっすぐにあたしを見つけてきて、そんな風にされると、あたしは視線をそらしてうつむかずにはいられなくなる。


「ああ、うん……止まないね……」


 ああ、もうチクショー!

 顔から火を噴きそうだぜ。

 なんだってあたしはこんな天然ジゴロに心を許しちまったんだ!

 あたしは肘でカバンをはさみながら、頭を抱える。

 神野は視線をまた真っ黒な空に戻して――。


「まだ、一年前のこと、怒ってるか?」


 そう、訊いてきた。


「……怒ってる」


 神野があのことを訊いてくることに驚いて呆気にとられてしまったけど、あたしは正直に、答えた。


「今でも神野のこと、許せない」


 吐きだしてぶつけるように、いってやった。

 だって、だってこいつは――。

「ごめん……」


 あたしのお父さんを、殺したんだ。


「ああするしか、なかったんだよ」

『そんな言葉を聞きたいんじゃないし……」

「あのままあいつが悪魔王を召喚していたら、この世界はとっくの昔になくなることになくなっていた」

「お父さんのこと、あいつとかいわないで!」

 噛みつくようにいってやると、神野がこっちを見てきた。短い距離を大股で詰めて、かなりマジな顔が、キスもできそうな場所にあった。


「あいつはあいつだ。裏切り者で、真希那の父親なんかじゃないんだ!」


「その話は何度も聞いた。意味分かんないこといわないでよ! たしかにお父さんは悪魔王を召喚しちゃうようなろくでなしだったけど……でも、あたしぐらいはお父さんのこと――」


 あたしは泣きそうだった。

 そのせいだろうか? 神野は、言葉をなくした。言葉をなくしてうつむいて、また真っ黒な空を見上げた。

 追い打ちをかけてやるつもりで、あたしは口を開いた。


「悪魔に魂を売っても、お父さんはお父さんなの……だからあたしは、お父さんを殺したあんたを許さないし、さらにそんな悪口をいうあんたなんか……」

 大っきらい! って、続くはずなんだけどね。

 でも許せないのは本当で、怒っているのもマジで、でもでも神野のことが好きなのも本気だから、困っているのだ。


 本当に邪悪だったのは、悪魔王を呼び出そうとしたお父さんだっていうことは、わかってる。


 あたしが神野のことを恨むのは、筋違いなんだ。


 家族であるあたしぐらいはって思うんだけど、でもそれと同じくらい、悲しそうな瞳で空を見上げる神野を見たら、仲直りして、許してあげたくもなるのだ。

 だけど、事が事だから、踏ん切りがつかない。

 お父さんとの思い出なんて、ほとんど残ってないのにね。


「なぁ……」


 空を見上げたまま、神野はいった。


「この雨が止んだら、仲直りするっていうのは、どうだ?」


 神野がまた、容赦なくまっすぐにあたしを見た。


――この雨が止んだら、仲直り……。


 あたしはついつい、心の中で反芻してしまっていた。


 この無愛想が、なかなか、ロマンチックなことをいえるじゃないか。


 だからあたしは、神野のことで頭がいっぱいになってしまって、もうろくでもない父のことも忘れて、いってしまった。


「それ、いいかもね」



     ☂


 

 そして、雨は止まずに、三日が過ぎた。


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