シーン1
シーン3まで続きます。楽しんでいただければ幸いです。
あたし江古田真希那が今こうして寂れたバス停で雨宿りをしているのは、下校途中に通り雨に遭ってしまったからで、なのにいますぐにでもこの雨の中に飛びだしていきたい衝動にかられているのは、すぐ隣にいるのが、神野だったからだ。
なんで、よりにもよってこいつと二人きりになっちゃうんだろ……。
話しかけられると怖いので、今日の昼休み、図書室で借りてきたACクラークの短編集『九十億の神の御名』を広げたりしてるわけだけど、あたしの瞳は真っ黒な空をにらむ。
バケツをひっくり返したようなという比喩そのままの雨は、今がまさにピークで、止むのは十分後か二十分後か、それとも一時間後なのか見当もつかない。
まいったなぁ……。
神野が後からカバンを片手にこのバス停にやってきてから、すでに十分が経過していた。
今、この豪雨の中に飛びだせば、神野はどう思うだろうか。
そんなに俺と一緒にいたくないんだ……と、落ちこむだろうか。
あたしは一刻も早く、この場所から逃げだしてしまいたい……けど、神野に悪いように受けとめてほしくはなかった。
ハァ……あたし、なにやってんだろ。
広げた文庫本に視線を落とす。
なにを書いてあるんだか、ぜんぜん頭に入ってこない。
SF、ムツカシイ……。
どうしてあたしはこんな本を選んでしまったのだろうか?
答えは簡単だ。
記憶によみがえる、奥付のページに貼り付けてあった読書カード。
その一番下に記されたサイン――神野義男。
はい……そうです。
白状します。
今、隣にいるこの男が借りた本だから、あたしは借りました。
あたし江古田真希那は、神野義男が好きなんです。