二話
僕は途中で建設を中断して廃墟となっているマンションの屋上で寝転がっている。
太陽が出ていて日差しが強く暑いなかで、風が心地よく吹いていて気持ちいい。
空を見ると雲が早く流れている。
「こんなところで何やってるんですか?」
呆れた様子で標が歩いてきた。
「標と待ち合わせ?」
「あなたがやってるのは違う気がしますけど」
「そうだね。」
僕がやったのは、標を自分の所にこさせることだ。昨日シマズ達はニオイで分かると言っていた。つまり、標達のような奴らと関わると何かしらのサインが発信されるっていうことだ。
だったら見渡しのいい場所にいたら、標にも気付いてもらえるだろうって計画だ。
でも、敵にしか分からないという性質だったら僕は命を投げ捨ててるような行為だった。
「それで、私は昨日家で大人しくしてくださいって言いましたよね?聞いてなかったんですか?」
「聞いてたよ。」
「じゃあなんでいるんですか?」
標の声に少し苛立ちが入り出している。
自分でも自分が注意した奴が、無視して行動していたら凄く苛つくだろう。今僕は標の優しさを無視している。
「自分のやりたいことをやるって、久しぶりに卒業文集をみながら決めたからかな」
「何わけわからないこと言ってるんですか。」
「標は何かやりたいことあるんじゃないの?」
「…ありませんよ。」
「嘘でしょ。」
「嘘じゃないです。」
どうやら標は簡単には折れてくれないらしい。
「ないってことないでしょ。」
「いい加減怒りますよ?」
標は声にはっきりと怒りを見せてきた。僕はそれを見ないようにする。多分ここで見てしまったら、僕は標の怒気に押されて何も言えなくなってしまうだろう。人が怒った声を投げられるのは苦手だ。
「じゃあなんで標は俺に会えたの?」
「…。」
二人とも口を閉じる。僕は標の答えを聞くために閉じている。
標は下を向く。
「偶然です。」
「違うでしょ。」
「違いません!」
また静かになる。
周りの音がいつもより聞こえている気がする。
僕らの会話と真逆で木々が風に揺られて葉が涼しげな音を出している。
「じゃあきくけど、標は消えようと思えば自分で消えられるよね?なんで、消えなかったの?消える選択肢があって、消えないのは偶然じゃない、標が自分で選んだ選択肢の一つ。偶然だったのが関わったのが僕ってことだけ、僕じゃなかったら違う奴が同じような目にあってた。」
「それは…。」
「消えたいっていってるのに消えない構ってちゃん的なのやめた方がいいよ。命かかってるなら皆が心配してくれると思ってるの?標がやっているのは前に一歩も進まない足踏みだ。そんな下らないことで命を捨てるとかいうもんじゃない。」
「そうじゃない!」
標が思いっきりアッパーをレバーに入れてきた。
戦ってるせいか綺麗なフォームで、ちゃんと腕を振りかぶり、腰を回してうっている。
打たれた僕はくの字になって体の動きが止まる。食べ過ぎとかであじわう腹痛とは違う息苦しさと腹の痛み、痛みに必死に耐えているせいか自分が見ている光景がはっきりしない。
胃のなかが逆流してきそうだ。
「あなたに何が分かるんですか。私だって好きでこうなってるわけじゃないんです。でも、こんな私のために自分の大切な記憶を無くしてでも尽くしてくれた人がいました。その人達のこと思うと簡単に消えられるはずないじゃないですか。でも、そんな私の大切な人達は私のために死んでいくんですよ。段々自分がどんな人間だったかすら忘れて最後には私も忘れられるんです。その気持ちがあなたにわかりますか!?」
それを標は言い切ると同時に僕の体に回し蹴りをした。
僕は腹の痛さを我慢することに精一杯で回し蹴りの威力に耐えきれずに横にふっとんで倒れた。
「今私は他の子の核を3つ持ってるんです。もう少しで叶うかもって考えちゃうじゃないですか。もう少しで幸せになれるかもって考えたら消えられないですよ。出きることなら私は人になって、こんな生活から抜け出して、私のためにいなくなった人達の分まで生きたいですよ!私だって消えるのは怖いです!」
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
僕は大の字になって倒れる。
「は?」
「消えたくないなら消えないでいいじやん。幸せになりないなら幸せになればいいじゃない。」
「簡単にいいますけど、皆そうなれたら苦労しませんよ。運っていう不確実な物にあなたは賭けるんですか?」
「なれないやつは苦労してないだけかもよ。」
「そんな事言ったら大半の人が怒るに決まってますよ。」
「とある競技のプロが言ってたんだけど、運で勝つ人はより運で勝ってしまうだけの努力した人だって」
「はぁ…。無茶苦茶な。」
「無茶苦茶でも人生一回きり、それも確実なんてない世の中だったらやりたいこと、やって死にたいって思わない?」
「そうですか…。」
標はぺたんと腰を下ろして空を見上げた。
「あなたは怖くないんですか?」
「想像できないと怖さはあんまり感じない。」
「後悔しますよ。」
「なんとかなるでしょ。」
「私が怒って消えたら、どうするつもりでした。」
「なんとなく標は無責任に消えそうじゃなかったから考えてなかった。」
「本当に無茶苦茶ですね。」
「うまくいけばなんでもいいでしょ。」
「そうですか。では、私の契約者、質問があります」
標は立ち上がって、僕の近くまで歩いてくる。
すると標は白い欠片を撒きそれを鉄の塊に再構築する。
瞬間、鉄の塊に電撃が衝突する。
周りの地面が少しめくれ、焦げ臭い匂いが漂う。
「これの場面も想像していました。」
「うーんと…なんとかならない?」
地道に書いていきます。