始まりはオワリらしい。
少しでも興味があれば覗いてみてください!
読んでいただけるだけで、有難いです。
プロローグ>
湿った土の臭いと降りしきる雨の中に少年と少女が立っていた。
活気にあふれる住宅街から少し離れた人の少ない通りに面した、二階建てのボロいとも言えばボロいが人が住めないほどではないアパートがひっそりと曇り空の下佇んでいた。
他の住人を寄せ付けない雰囲気がでているのかどこか近寄りがたい。
また、小さいがアパートの前には手入れがされていないのか伸びきった草が今にも隣の塀を超えそうで超えなさそうな微妙な境界線をつくりながら雨にうたれその場所が庭なのかは、きっとアパートの住人だけが知り得る事だろう。
もはや草むらにしか見えない。がよく見ると庭の中心だけ伸びきった草はなく誰かが刈り取ったのか、座れるだけのスペースがあるようだ。そこだけ手入れされているのは、不自然に思える。
そのスペースに先ほどの少年と少女が傘もささずに雨に濡れ寒いのだろうか小刻みに震え少女の方にいたっては、まだ幼いため湿った地面に座り込んでしまっていた。少女は、泣きじゃくりながら右手には少年の手を強く握りもう片方の手には汚れたウサギのぬいぐるみを持っていた。
ぬいぐるみは、全体が薄茶色に汚れていた。お腹あたりには適当に縫い合わせたのかワタが布地からはみ出してしまっていた。泣きじゃくる少女に対し少年は、なだめようとも喋りかけようともせず静かに見守るだけで何もしなかった。
暫くすると、しばらくと言っても数分ぐらいのことだが少女は、次第に泣くのを止めぬいぐるみを持った手で涙をぬぐった。幼いながらも泣き止もうとしていたのだ。
目元を赤く腫らし、泣きじゃくった小さな可愛いらしい顔が鼻水と涙が同化して何とも言えない表情になってしまっていた。
少年はそんな少女を横目で様子を静かに見届けていた。空いている手で少女の黒髪に優しくまるで宝物を触るかのようにそっと触れた。その手は、爪はかけ肌は、擦り傷だらけでろくに手当てされなかったのか傷口が膿んで水膨れのように腫れていた。
火傷の跡が手の甲の全体に残っていた。その火傷の跡は手の甲から腕にまであった。見える範囲ではだ。普通の火傷とは違いどの火傷も小さな円形型で独特の形をしていたのが不思議だ。
少女は、傷ついた手を気にせずむしろ満面の笑顔で少年を見上げた。
もっと撫でてと言わんばかりに小さな頭を左右に揺らすほどだった。
少年は、苦笑まじりに少女の小さな頭を何回も何回も優しく撫で続けた。
少年と少女の服装は、何日も洗われていないのか汗や垢などでシミだらけになるほどまで着込まれていた。お風呂に入っていないのかあるいは洗濯していないのかどちらにしても相当な異臭がするほどだ。
捨てられたゴミや生ゴミなどの臭いは独特の臭いがする。
あと、人の吐いたゲロの酸っぱい胃酸の臭いや死んだ人の臭いも想像を絶する臭いとはまた違った異臭だ。こびり付いた臭いは、乾いた血と同じぐらい取れないし厄介なものだ。
ホームレスの格好とまで言われそうなほど少年のシャツとズボン、少女のワンピース、元は白い色から茶色に染まり本当は何色だったのか分からない。それほどまでに汚かった。
服というより布きれと化してしまった。露出した肌は服と同じく茶色くなっていた。
裸足のせいで足の爪は、黒く変色している。
少女の機嫌は、さっきほどまで泣いていたのが嘘のように笑顔で少年に撫でられ、もし少女に犬の尻尾がついていたら左右に揺れ全身で喜びを表現しているに違いない。
だがその笑顔は愛くるしいものだが少女の左目には、眼帯がされていた。
病院で普及される白く眼を保護するあの眼帯だ。その幼い歳には不自然で見るのに痛々しいものだった。
少年も少女の頭から眼帯に視線を向けた。目つきが猫のように鋭くなり苦笑から哀しそう表情になった。
が何かを思い出したのかみるみる怒りの表情になった。鬼の形相とはこの事を言うのかもしれない。
視線を少女から二階建てのボロアパートの一つの扉を見据えた。唇を血が出るまでに噛むぐらいの憎しみと怒りが体から滲み出そうな感じがした。
その扉のポストには入きれない新聞が溜め込まれていた。ドアノブは外れたまま放置され部屋の番号を示すプレートも見当たらない。
このボロアパートの大家が見たら目から汗が出でしまう。
そんな扉の中からは、しゃがれた男の声が奇声を上げているのが聞こえ何かが割れる音と女の悲鳴も少し遅れて聞こえてきた。
見るからに中の様子は、扉のせいで見えないが二つの声は青春の一ページをきづく爽やかな喧嘩ではなく一方的な暴力だけが支配されていて教育上よろしくない事が起こっていた。
聞いている方は、目と耳を塞ぎたくなる。
そんな状況だ。
楽しいとは言えない状況で奇声を上げた男の声は、精神状態を疑うが聞こえてくる声はちゃんとした日本語で喋っているので一応、真面らしい。
扉越しのためくぐもって聞こえ雨のせいで男の声と悲鳴を上げる女の声は小さく聞こえる程度で気にしなければ気づかないかもしれなかった。
きっとしゃがれた男はそんな天気を見越してやっていたらと思うと意外にも頭の良い男かもしれない。
察しのいい人と言うのはどの世の中でも末恐ろしいと実感する。
これもまたリアルに充実している一人にはいっていたりしていなかったりする。どっちにしてもこういう光景は、道徳的に言い換えると野蛮な行い、SM関係で言い換えると幸せで主と奴隷に言い換えると日常の一コマであると色々な考え方が捉えるかもしれない。
少年の目には、怒りの他に何かを覚悟したような感じにもとれる表情をしていた。
雨で濡れ切った前髪をかきあげながら少女の頭を撫でるのをやめたついでに少女と手を繋いでいた手も離した。
その行動に少女は、驚きながらうろたえるほど動揺した。
もう一度少年の手を繋ごうと必死に伸ばしたが少年はその手を繋ごうともせず握手する形で握り、少女の目線に合わせるようにわざと中腰になった。
そんな些細な行動は当たり前かもしれないが幼い少女にとってその些細な行動こそが嬉しく、いつも上ばかり見上げているので同じ目線と言うのは、凄く新鮮に違いない。
お年頃と言うやつだ。少女は、まだ言葉を覚えてないため上手く喋れなかったが一つだけ言える唯一の言葉で少年の行動に一生懸命に答えようとした。
「おうにぃちゃん?」
お兄ちゃんと言おうとしたのか慣れていないのかハタマタ、覚えたてだったのかカタコトな感じになってしまった。
可愛いのは、子供の特権でありチャームポイントだ。不細工や美人とかイケメンと言う話はまた別の次元のお話だ。
少年は、そんな少女に愛おしそうな眼差しで見つめ言い聞かせるように口を開いた。
「兄ちゃんが今度こそ守ってみせるから。どんな事があっても守ってやる。今は、無理かもしれないけど兄ちゃんが幸せになれるようにしてやる。ごめんな。こんな兄ちゃんで。」
少女を抱きしめながら強がってみせる姿は兄としての姿だがその姿は、まだ子供だった。
その証拠に手が微かに震えている。強く抱きしめられているのか苦しそうに少年から逃げ出そうとしていた少女だったが涙を流し嗚咽をこらえ静かに泣いている少年に気づいたのか頭を撫で(力がないので手をそえる感じ)で、
「おうにぃちゃん、おうにぃちゃん」と必死に撫でる仕草をした。
少年を笑顔にさせようとするために。その姿は、どこか健気にみえた。
少年は撫でられているに気づいていた。がただ静かに咽び泣くだけだった。
そのすすり泣きは、誰にも知られず小さな少女にだけ聞こえる微かな泣き声だった。
雨は、いつの間にかやんでいた。曇天だった曇り空に少しだけ太陽が顔をみせた。雲の隙間から差し込み太陽の光は小さな庭をゆっくりとてらしたのだった。
どこにでもある平凡な日常を過ごしている少年と少女の物語はまだ始まってもいなかった。
時は流れ、やがて月日と四季がいくつか巡って年が明けた。
そうして十年‥。
ある日の何年かのお茶の間の皆さんに聞かせるようなお話が始まるようで始まらないお話を紙芝居風やセピア調に惰性にはじまるようー。
まぁ、冗談ですよ。戸にもかくにもっとって、もう始まっている‥だと。
うわぁ。カメラさんスタッフさんここはカットでお願い申しあげるでごわすよ
TVから離れて見るように、TVじゃないけどね。これ。シャレオツにしようと無駄に頑張ってみました感があるけどそこは気にしないでほしい。ここ明日のテストに出ます。出ませんよ?
一章>【始まりはオワリらしい。】
日本の自殺者は、年間三万人を超えるほど社会問題に発展しつつあるらしい。だがそんな私もその三万人の一人になりそうだ。
私いや俺は、自殺するためにどこかの高層ビルのフェンス越しの外側に立っている。
風が強いのか学校指定のTシャツとネクタイがはためいて酷く鬱陶しいし右目のコンタクトレンズがずれて痛い上に真夏日の太陽が容赦なく照りつけ熱中症になりそうだ。
暑いし汗だくだからか背中は、きっとベトベトになって透けて見えるに違いない。
8月31日、俺はまた死ねなかった。
せっかく夏休み最終日にわざわざ遺書も書いて律儀に靴もぬいで揃えてあるのにこの様だ。
今、考えている事と言ったら晩ご飯のメニュウーのおかずを何にするかで悩んでいる。
「あは。」
乾いた笑い声を出しながら錆び付いたフェンスをひょいとこえた。安全な場所に移動した。
錆臭い手をぬぐい足元のコンクリートの隙間からは、雑草が生えている。
その隙間から蟻がせわしなく動き巣にエサを運ぶため働いていた。
生きるのに接一杯と言わんばかりに。
入り口の扉さえない状態だしおまけにどこもかしこも錆だらけだ。
それもそのはずここ何年も使われていない屋上だ。
取り壊し予定の廃墟ビルをわざと選んで入ってきたつもりだ。
額の汗が流れ落ち地面に数滴落ちるのを感じながらちょうど、日陰になっている壁際に背をむけ座りこんだ。
少しヒンヤリとしていて気持ちよかったが湿っているし何より固い。
尻に優しくない。さっきまで死のうとしていた人間が文句の一つ言っているなんて笑える。
視線を空に向けると夕暮れどきなのかオレンジ色に染まりつつあった。遠くの方では、カラスの鳴き声が聞こえてきた。それと夕焼け小焼けの歌まで流れている。この歌はいつまで経っても好きになれない。
前髪をかきあげた右手の甲には、消えかけではあるが小さな円形型の火傷の跡がいくつもあった。その傷を眺め次に空高く飛行機雲が飛んでいるのを見ながら一言ぼそっと呟いた。
「帰るかぁ。」
人は、何かしら明確な目的があると行動が速いと誰かが言っていた気がするがあながち嘘ではないよな。
俺は、廃墟ビルを後にしたあと近くのスーパーで晩ご飯の買い出しをして家路についた。
玄関の鍵を開け、お気に入りのスニカーを乱暴にぬぎすてレジ袋を台所の机に置いた。
家の鍵を遠くに投げ捨てながら風呂場の脱水場に向かった。
Tシャツを脱ぎ早くシャワーを浴びたかったからか洗濯機にダサい半ズボンも一緒に放り込んだ。
学校指定の長ズボンを履こうとしたが購入したときに誤って寸法がやや長めになってしまいそのせいで年寄りでもないのに躓く事が多くなったので私用の時‥プライベート以外は、履きたくはなかった。
寸法を今更直すような二度手間はしたくなかった。
結果、やや長めのズボンは新品どうようタンスの引き出しに終いこんだままだ。
今頃は、防虫剤の匂いが染み込んでいることだろう。洗剤を適当にいれ柔軟剤を入れるか迷ったりしたが結局入れずに起動スイッチを押しまわした。
洗濯機は、いつもの機械音を響かせゆっくりと亀が億劫そうに甲羅から顔をだし短足の足を一歩踏み出したみたいに動き始めた。(遅い。もう買い替え時かもなぁこの洗濯機。)愚痴をこぼすも使い続けている。
理由は、買うのが嫌なだけだ。気に入った物や家具は壊れるまで使い続けたい。
女子のように目先の可愛い物や流行の服を買っては飽きては捨て自己満足だけで物を粗末にする行為だけはしたくなかった。勿体無い精神は、男女共通にするべきではないか。
リサイクルは、地球に優しいが人間には優しくないかもな。
そして何故このチェック入りのダサい半ズボンを着て過ごしているかは自分でもわかっていない。
エコだと思って着ていれば何とも思わない。慣れとは怖い。
シャワーを浴び終え汗だくだった俺にはいわゆる至福なひと時に思えた。
これだけで幸せを感じるなんて平和ボケも良いとこだ。
バスタオルで頭をふきながら、洗面所でコンタクトを外した。
最初と比べると手馴れた手つきだ。
コンタクトを何回落としたか手の指だけじゃ足りないぐらい落としまくった事が笑い話に思える。
脱水場の引き出しを開け黒ぶちメガネをかけた。
ふち無しとふち有りとでは全然かけ具合が違う事を初めてメガネを掛ける事で分かった。
家では、なるべくかけるようにしている。だからか家中メガネだらけだ。
物を大切に扱うように常日頃から心掛けているつもりなのだが気づけば周りの物は、壊れてしまっているからその日から物を大切にする事を諦めてしまった。
それとやけくそにお高いメガネをお小遣い叩いて買い集めた自分を少し同情した。
(数えたらキリがないだろうなぁ。)
バスタオルを首からかけたままそう思った。洗面所の鏡に映る自分を眺めた。
決して其処なへんにいるナルシストとかではないが髪は、適当に切られているせいかボサボサでおまけに天然パーマ&寝癖までついてしまう茶髪。
小学校のあだ名は「まりも」
今から思うと笑えるがその当時は、傷ついたかもしれない。
目は、少しつり目なため睨んでいないのに友達からは、怒っているのかと真剣に質問され街中を歩けば知らない不良たちに喧嘩をしかけられたりもしたし親切に落し物を拾って渡したら怯えられてしまうほど悲しいものはない。
サングラスを興味本位でつけてしまった時は、店にいた全ての人に避けられる始末だ。
二度サングラスは、つけないと密かにあの時誓った。
中学に上がる頃には視力が下がったためこの頃からメガネをかけはじめた。
原因はパソコンのやりすぎだ。
メガネが好きではないがよく壊してしまうからだ。
勉強なんて参考書を見ただけで眠くなるし本なんて絵本しか読んだことがない。
体つきは、細くもなく太くもない普通の体格だ。
昔、鍛えようと色々試してみたが日頃から使っていない筋肉を無理矢理使ったので体の節々が悲鳴をあげ接骨院と言う所でお世話になってしまった上に貴重な生活費をけずるはめにもなった。
ある人からは軟弱と言われ会うたびにネタにされ今では、苦い思い出だ。
肌は、人より白い白人ではない。アジア系特有の黄色人種だ。
がさっき屋上にいたせいか二の腕に日焼けの跡が叩かれた後の色みたいにはっきりと残っていた。
どうりでシャワーした時痛かった訳だ。
日焼けあとの風呂は涙目になる事を散々小学生時代に嫌というほど味わわされた。
色あせた赤ジャージをトランクスの上からイモムシが這う感じで履いた。
高校のジャージを家で使い回しする男子高校生はあんまりいない気がする。
いたら気が合いそうだ。
楽だからでは男子力の株が一気に下がってだからモテない、冴えない、影が薄いと言われ続け彼女がいない歴17年をブログやツイッターで更新をお知らせする度に炎上する。
思った事を書くと炎上の原因だ。火の用心。
上半身は裸のままリラックスモード全開で台所の冷蔵庫に足をはこんだ。
スーパーで買ったレジ袋の中身を手際よく入れた。
その後に市販のアイスを取り出した。袋から取り出したアイスは溶けはじめていて食べにくい。
指についたアイスを舌で舐めながら考えた。
(そういえば明日の宿題やりかけだったけっか。
まぁ今更、徹夜したところで終わらないだろうし何よりやる気がおきない。
俺のやる気スイッチは一生故障したままでメンテナンスする必要もないぐらいエコロジーである。)
諦めてテレビのリモコンを探し電源をつけた。
テレビは、ニュース番組だろうか最近噂になっている殺人事件の解説と今後について議論していた。
やたらこればかりの話を何回も繰り返されると他にニュースは、ないのかよと思う。
見る番組もなかった俺は、そのまま仕方なく見ることにした。
暇な上に食べていたアイスもなくなってしまった。
アイスの棒を齧りながら面白くもないニュース番組をながめ、ニュースは、誰が犯人なのかを徹底的に調べなぜ殺したのか身内や親戚など色んな角度から話し合っている。
司会のお姉さんがテンションを上げながら饒舌に番組を進行していた。
(俺には、どうでもいい話か。)
結局、誰かが死のうが生きようが関係ないと俺個人はそう思っている。
この考えは、このご時世に不謹慎やら何やら言われそうだ。
自分の家族がそうなのだから。母親は、気づいたら万引きの常習犯になった。
今は、絶賛刑務所の中で罪を償っている。
父親は、小さい頃から傲慢で家庭内暴力(主に母親ばっかり)をし続け二年前のある日、
交通事故であっさりと亡くなった。
これが俺にとって拍子ぬけした。葬式やらなんやら忙しかったが涙ひとつ流れなかった。
あれを父親と呼んで言いのかよく分からなかった。
実の親に対してここまで冷淡なのは俺だけと思う。そう思ってしまう自分が一番嫌いだ。
複雑な心境で父親の最後の顔を見届けた。どうも記憶があやふやでどんな顔をしていたか覚えていない。
それから母親はおかしくなっていた。
泣いたり喚いたり暴れたり物を壊したりと日に日にやつれていった。
犯罪に手をそめストレス解消し気づいた時には、刑務所の中と言う訳だ。
裁判や拘置所などお洒落な手錠をハメられた母親の姿を死んだ魚のような目で見届け、面会室で顔を一度合わせたきり会っていない。
手紙を送って寄越すが目を通していない。読む気さえなくなる。
残してくれたなけなしの財産でやりくりしながら気ままな一人暮らしをエンジョイしている。
近所では、いつも軽蔑した眼差しで見られた。
世知辛い世の中なのでこういう反応がごぐ普通だ。
異端なのは俺の家族だけだ。今ではその眼差しも慣れてしまった。
あと同情しながら結局、遠巻きに避けるクラスメイト、教師、身内や親戚の顔を思い出すだけでもイラつく。
泣くよりイラついていたほうが時間の無駄にならない。
まだバイトに精をだした方がよっぽど利益になる。時は金なり。
母親は、いつ務所から出るか分からないが出た後、どんな顔をして会えばいいか考えただけで10歳ぐらい一気に老けてしまいそうになる。
いつしか白髪になって禿げたりしてな。(冗談きついわこれ。)
親なんて俺にとってどうでもいい。
アイスの棒をゴミ箱に捨てると明日の学校に行くべき方が優先実行だ。
悩みはつきない。
死のうとしていたから、明日なんて悩むべき事柄じゃなかったが現にこうして、生きているのだからか嫌でも悩まなくてはならなくなってしまった。
人は、生まれる方法は一つしかないのに死ぬ方法は、飛び降りたり毒で死んだり首吊りなどと、箇条書きしても足りないぐらい何通りの死に方がある。と、どこかのお偉い様の本で書いてあったのをふっと思い出した。
「何てタイトルの本だっけ?えっとーまぁいいか。」
ソファの上でだらしない格好で首を後ろに回し隣の部屋に目を向けた。
父親の仏壇があるだけの和室がある。仏壇以外何も置いていない殺風景な和室だ。
俺の家は、2LDKのマンションで七階にある。どこにでもある家だ。
「何のために俺は生きているのだろうか。」何か哲学じみていなかったか?
それに言っていて何だか恥ずかしくなってきた。赤面ものだ。穴があったら入りたいです。
誰もいない部屋でつぶやいた一言は、テレビのブラウン管からながれる人の声でもうすぐ終わるニュース番組が定時的に流れ外で鳴いている蝉の合唱を聞ながら組んだ足をあぐらになおした。
***
9月1日(月曜日)>始業式。長い長すぎる、長すぎな一日。
駅のホームから電車がきたことを伝える独特のサイレンじみた音が鳴り響いた。
やたらと五月蝿い、その音と共に朝の通勤ラッシュアワーで賑わった。
電車に乗り込んでいく人ごみを駅のベンチに座りながら俺は無意味に見ていた。
新聞を読みながら電車を待っているサラリーマン、
化粧が少し濃いめで爪が長く赤いマニキュアで手入れされた指で、
目に痛い薔薇色に装飾されたスマートフォンを操作するスーツ姿のOL女性、
俺より年下の学ラン姿で分厚い参考書を片手に必死に勉強している受験生がちらほらいた。
あとは、杖を持ち立つのがやっとのお年寄り達が慎重に歩いていた。
様々な人が目の前で行き来し一日の始まりを有意義に過ごし始め時を刻んでいた。
そんな俺もその一人だ。この駅は、『久里駅』。
名前の由来は、知らないが田舎のため無人駅だ。
たまに都会から来る人がいるけど結構、戸惑う人が多いのか切符をどうしたらいいのか尋ねられた事がある。
最初、これが当たり前だったが自分も改札口がない駅と比べて驚いた。
教科書もノートも入っていないカバンから携帯を取り出し指でタッチし起動させた。
前の携帯は、ガラケーと言って折りたたみ式で画面を保護するタイプだったのを使っていたが、あまりにも使いすぎて早くにも寿命がきてしまい急遽‥新しく携帯を買い換える羽目になってしまった。
とても金銭的に悩んだが俺にとっては死活問題だったので貯金をやりくりして何とか一番安くってお得なプランで契約した。
携帯会社のお姉さんと少々小競り合いになったがそれに見合うだけの事はしたと満足している。
使い方に手間取りながら慣れない手つきで操作する。
(慣れるのに時間がかかるのが何となく新しい携帯って感じがして更に大満足だ。)
ちなみに待受は、有名な海外の歌手で黒人男性が熱く歌っている姿が写っている。
英語は、苦手で何を言っているか正直なところ理解していないが心のそこから熱く歌っている姿と声がなんとなく聞いていたらいつのまにか好きになってしまった。
時刻は、7時30分。一応、アナログ。
お気に入りのアプリをやっとの事で見つけた。
そのアプリでゲームを始めた。
(暇つぶしにもってこいだ。)
イヤホンを耳につけようとした瞬間、耳元で、【お願い。私をここからダシテ】
「なっ」なんだ、今の声。
その拍子に携帯を地面に落としたのか手が虚しく宙をつかんだ。
買ったばっかりの携帯を落とすなんて!あとイヤホンも。
道行く人が俺に奇妙な目でこちらを見ていたので気まずくなった俺はベンチから重い腰をあげた。
ついでに携帯とイヤホンを拾い上げ、人とは逆向きに歩き流れに逆らうようにして駅の隅の方に移動した。携帯には、傷はついてないし壊れてもいない事をすぐに確認した。
(良かった。)
買ったばかりなのに壊れでもしたら1ヶ月間分の食事は、パンのミミと水だけのサバイバル生活が始まるのを阻止できた。
(落ち着け。多分さっき聞こえた声はきっと空耳だ。
疲れていたのかもしれない。この所あまり寝ていなかったせいだろう。イワユル不眠症というやつだ。)
駅には、色んな人がいるがあんな切実そうな声をだしている人なんて何処にもいなかった。
それに幼い少女の声だった。
あと自分が座っていたベンチには自分以外に座っている人は誰もいなかったはずだ。
怪奇現象を信じる俺ではない。現実主義だ。
勿論、SFやファンタジーの類は全否定だ。架空や創造物は、ご遠慮くださいだ。
「幻聴って言うやつか。」
いつのまにか心の声が口にだしていたらしい。
「何が幻聴なの?お兄ちゃん」
「おわっ」
突然、視界に現れ上目遣いで見られたら誰でもビックリするはずですよね?
そのため俺はそのはずみで尻もちをついてしまった。格好わるすぎる。
「うわぁ。だっさ。」
お前のせいだよと口が裂けても言えない一言を喉元まで、でていたのを無理やり止め飲み込んだ。
「悪かったな。」
飲み込んだかわりに出た言葉は、ありきたりな言葉を言うしかなかった。
ここで慌てて変な弁解をしたら相手の思う壺だ。
尻もちした拍子についた埃を手ではらいのけた。
立ち上がり必然的に声の主を見下ろす形になってしまった。
少し長めの黒髪をポニーテールでうなじが見えた。
近くで見ないと分からないが日本人には、珍しい緋色に近い色の目をしていた。
流行りのカラーコンタクトではないと知っているがたまに見ると間違えてしまう。
あと、左目に眼帯を付けているせいか余計に目の色が目立ってしまっていた。
ファションでつける人もいるみたいだが、相手の事をよく知っているのでそんな訳はない。
中二病でもない。
その眼帯を見るたびに無意識に目を背けてしまった。
五月蝿すぎる雨音、泣き喚く声やタバコと酒の臭い、何もできないくせに何度も何度も手を伸ばそうとするその光景が頭によぎり呼吸が少し荒くなり、冷や汗にちかい汗が背中に流れ指先が震え始めた。
(あぁ、またか。治まったはずなのに。薬を飲み忘れた自分が悪いだろうけど。)
拳を固く握りしめいつも通りに冷静を装う。
震える指先を相手から見えないようにさりげなくごく自然に隠した。
まるで現実から逃げているかのような行動にもみえた。
そんな自分が本当にどうしよもないぐらい嫌悪して、反吐が出るほど死にたくってたまらなくなる。
「さっき言っていたのって何?」
声の主は、俺の態度を気づいていないのか会話の続きを聞いてきた。
「え?別にただの独り言。気にするほどでもない。」
慌てて違う話題に切り替えようとしてみたが、
「ついに独り言まで病気が進行してしまったの!
お兄ちゃん。どうしよう。腕の良い病院をいくつか紹介しようか?」
切り替える一歩手前で先手をうたれた。
将棋で言うと王手でチェスだとチェックメイトだ。
「反応がリアルすぎって俺は、今にも心が折れる寸前だ。妹と言うか栗山凪紗さん。」
新しい携帯とイヤホンをカバンにしまいながら胸を苦しそうにする仕草をしてみせた。
「はいはい。相変わらずのシスコンみたいで呆れを通り越して今後の人生が心配になってきた。
お兄ちゃんこと神矢光琉さん。」
下の名前で呼ばれるのは久方ぶりだ。ちなみに光琉と書いてヒカルと読みます。
ヒ〇ルの碁と言う漫画のネタにされるのも慣れた。
大好きだった漫画だったのに、自分の名前のせいで大嫌いに変換されそうだったので敢えてここは粘着質のガムテープ並に頑張って大好きなままにしてみた。
自己報告は置いといて。
「みたいは余計だ。みたいではなくシスコンです。」
ドヤ顔でそう間違いを指摘する兄と言うのは日本中を血眼に探しても俺しかいないだろう。
「…」無言で兄のシスコン魂をガン無視された。
(やっぱり。どこへいってもシスコンやらブラコンなどの最後にコンがつくものは理解され難いな。)
背中に背負っている部活動の荷物を妹は、かけ直した。
カバンから本を取り出し俺を無視する形で独り勝手に読み始めてしまった。
妹の部活動は、弓道部らしい。
俺にあえて、記憶力を求めてはいけない。そのためどの動作も姿勢がよく猫背の俺とは天と地の差だ。
中学生になった初めは慣れないでいたセーラー服が今ではよく似合っている。
肌が健康な小麦色に焼けているのを見ると夏休みを充実した毎日を過ごした事を物語っていた。
俺と妹は、実の兄弟じゃない。顔もそんなに似ていない。
それもそのはず母親が違う。異母兄弟だ。
俺は、バツイチするまえの母親で犯罪者の息子だ。
罪を犯した母親に父親は手のひら返すみたいに離婚した。
妹の凪紗は、その後に再婚した母親に生まれた子供だ。
再婚したと聞いて驚きはしなかったが子供がいるとは知らされなかった。
ご対面した時は顎が外れた。そのため苗字も全く違う。
まるで昼のドラマのように話がよくできているとは思わないかい?
久しぶりに会う妹は、少しだけ背が伸びている以外何も変わっていなかった。
口は悪いし会うたびに不機嫌なのか仏頂面だ。が根は優しいと知っている。
(笑えば可愛いのになぁ。)
再婚したが父親の死により離婚した妹の母親は、凪紗をひきとり現在進行形で一緒に住んでいる。
当然、俺は母親の事もあり気まずい関係なので高校にあがったついでに一人暮らしをした。
その提案を、阿吽の呼吸みたいに受け入れられたのだった。
その方が妹のためにもなるし何より負担にならない。
お互い迷惑にならない事は素晴らしいことだ。清い関係だ。
(嫌われてはいないがさっきの一言は凹む)
ボサボサの頭を掻きながら横目で妹をみた。
眼帯さえなければ普通の女の子なのだか妹は眼帯を取ろうとはしなかった。
間違って中二病と思われるぞと脅してみたが通用しなかった。
理由を聞いたことがあるが、
「別に意味なんてないけど付けるのに慣れてしまったからかな。」
と答えた妹の表情はいつも仏頂面じゃなくその時、眼帯を触りながら、はにかむ感じで笑ってくれたのだ。
妹ながら男心をくすぐられました。ありえんが。
自分日記専用のノート三ページぐらいに書ききれなかったシスコン魂を汚い字で埋め尽くした事は秘密だ。視線に気付いたのかいつのまにか本を閉じ妹がこちらを見ていた。
ジト目で。「何?ジロジロみないでくれるかな。」
「す、すんません。」
昔は、可愛かったのにこれが反抗期って言うやつですか。
末恐ろしい。反抗期。いやゆとり世代のせいかも。
妹と会話した俺は、一気に疲れてしまった。
「サボるか、学校?」
「お兄ちゃんは、いいけど私は一応優等生だから。」
自分で優等生言う人初めてみました。
妹の横を通り過ぎようした瞬間、制服の裾を掴まれてしまった。
「妹よ。話せばわかるからその今にも殴りかかりそうな姿勢は、やめてくれませんか。すっげぇ怖いのですけど。」
思わず敬語口調になってしまうほどだった。あとへっぴり腰ぎみなのは男としてどうだろうか自分よ。
「今更、お兄さんぶってもダメ。」
兄としての立場が危ぶまれる状況だがここは何としても気にぬけねばならない。
「いいから離せよ!」
俺は、無理矢理妹が掴んでいる服の裾をはねのけた。声もつい大きくなってしまった。
「きゃっ」
力をそんなにいれたつもりはなかったのに妹は、吃驚した声で手を離した。というか半ば強引に離したと言った方が正しい。
「あっ。そ、そんなつもりはなかった。悪い何と言うかそのつい力が入ってだな…」
今、素直に謝っておかなければいけないと本能的に思ったが最後のほうは声が小さくなっていた。
「大丈夫か?」
咄嗟にいつもみたいに手で頭を撫でようとしたが、
「お兄ちゃんの馬鹿!もう顔も見たくない。地獄におちればいい。この変態シスコンやろう!」
その手は、力強くはねのけなられた。罵倒と共に。
シスコンは、罵声の内にははいらないけど。逆に褒め言葉です。
俺にとっては。その罵倒を言いながら妹は泣きながら呆然とする俺を一人のこし走り去ってしまった。
初めて人にはねのけられた手は、痛かったが何より妹に対してとった態度の方がそれよりも痛かった。
俺は、呆然としながら駅を出た。その後、どうやってあの廃墟ビルに向かったが記憶が曖昧だ。
屋上は、昨日となに一つとして変わっていなかった。
持っていたカバンを勢いよく地面に叩きつけた。
その衝撃でカバンに入っていた真新しい携帯が飛び出してしまったが気にしなかった。
あれほど新しい携帯を気にしていたのにだ。「っ!」
(これじゃただ物に八つ当たりしている餓鬼みたいな拗ね方じゃないか。)
そんな俺をあざ笑うかのように突如、バケツがひっくり返したような大雨が俺の体おそった。
「最悪どころじゃねぇよ。不幸すぎる。」
土砂降りの雨の中、立っていた俺にもう一つ不幸がおきた。
その不幸は、空から女の子がふってくるわけじゃなく、これは不幸じゃないか。
死神のノートが落ちてきてこれから新世界の神になる訳ではなく
今から七つの玉を集める旅に出ようとかでもなく、
子供の姿になって名探偵みたいに推理する訳もなく、
超大型巨人が攻めてきたなんて論外な訳で日本ではありえない事がおきたのだった。
人間痛みを知るときは、よく血を見てはじめて怪我に気づくが気づいた頃にはなんとやら。
「がっ」
痛みでそれ以外に言葉が出せなかった。出そうとしても思いつかなかった。
あまりの痛みに膝をつき手で咄嗟に腹をおさえるしかなかった。
その手には、生暖かい大量の血がとめどなく、流れ真っ白なTシャツがみるみる真っ赤になっていくのを見た時には倒れたことにすら数分経ってようやく頭が撃たれたのだと理解した。
真っ白なキャンバスに真っ赤な絵の具を塗りたくたらこんな感じだろうと間抜けな感想しか考えつきませんでした。5段評価だったら最低の1をとるレベルの感想だ。
まさしく弾丸が俺の腹部を貫通したのだ。
ゴ〇ゴ⒔並みの腕前みたいな感じに狙って撃ったとしか考えられないほど命中率だ。
狙った狙撃手は、とてもハイセンスの持ち主らしい。雨は、容赦なく降り続けながら徐々に俺の体温を奪っていくのを感じた。血はいっこうにとまる気配がしない。
止血している傍から滝のごとく血が溢れている。その血は、雨に流され滲んできてさえいる。
(なん、何で俺血を流しながら倒れている。何がおきた。さっきまで普通だったのに。)
「そうだ、けいた・・い」
思いついたように俺は、這いつくばる形で携帯をさがし助けを呼ぼうと浅はかな行動をおこしたが、その携帯がどこにあるか分からないし視界がだんだん霞んできてしまっている。
「うっ・・・あっ」もう声にすらならない。
(俺、こんな所で死ぬのか?)
強烈な痛みに耐えながら仰向けになり消え入りそうな呼吸を繰り返しながら冷静に悟った。
(畜生。まだ何もしていない。それに妹に謝りすらしていないのに。シスコン魂に相反するぞ俺。)
霞んだ目に涙が頬をつたった。雨に混じっても気にしなかった。
【どうして此処に人がいるの!?くっ、そんな事より早く手当てをしないと手遅れになるじゃ。
あぁ、また悪い癖が。たしかこの辺りにしまっておいたはず‥】
土砂降りの雨の中にも関わらず突如、声がした。
何かを探る音もしばし聞こえてきた。近くから人の声がしたが今の俺には、その声を聞きとれないほど衰弱しきってしまっていた。
目を閉じそうになった俺にその声は、【青年!答えて!生きたい?】
そんな当たり前なことを聞いてどうする。(俺は、生きたいのか?死にたがりのくせにだけど)
「い・・いきたい」
消え入りそうな声ではっきりとそう答えた。
【よし!KHM⒓】
途中から聞き取れなかったがその声と同時に俺の視界は、あの廃墟ビルの屋上から見える空ではなく知らない天井を仰向けに見ていた。
有名なアニメで少年が知らない天井を見上げるお約束のワンシーンみたいだった。
そして仰向けに倒れている俺に美しい金色の長い髪に青色のドレスを着ている幼い女の子が俺の額に手を添えながらつぶやいた。
『私をここからだしてくれるのね。やっと』(駅で聞いた声と同じだ。)
触れられた手は、氷のように冷たかった。
その閉じきった目からは血の涙を流したように見えたのは気のせいだろう。
次に俺は、目を開けたときは、知らない天井ではなくどんよりとした雲が広がる空をみた。
湿った空気と微かに血の匂いがした。
口の中が妙に乾くしまだ腹部に痛みが残っている。
血がついた服は、破けまるで映画みたいに撃たれた跡があった。
さながらハリウッドの俳優にでもなったみたいだ。特に脇役のゾンビの気持ちが痛いほどわかる気がした。
【おっ!青年、気がついたか!良かったじゃん!
心配したけどどうやらその様子じゃ成功したみたいで一安心。】
僅かな痛みに耐え起き上がりながら声がする方を見ようとアタリを見渡した。
キョロキョロとする。空を見上げてもどんより空が広がるだけだ。
そんな俺に声は、【どこを見ているの?青年。後ろだ。うしろー。バック。】
振り向くと変わった姿をした俺と同い年ぐらいの少年が入り口の上にあぐらをかいて座っていた。
【よっ!】右手をあげ気軽に挨拶してきた。
まるで昔からの親しい友人であるかのような気軽さだった。
少年の姿は、一言じゃ表せない奇妙な格好をしていた。
まずクマの着ぐるみを頭の部分だけをかぶっているせいか顔が隠れて素顔が見えなかった。
だから声が若干聞き取りにくいのだと分かり、声だけで相手の性別を認識しなければならなかった。
そのクマはお世辞にも可愛いとは無縁な手作り感満載な歪な表情していた。
不器用にも限度がある。
(笑っているのか口元が開いているが遊園地なら入場禁止だがお化け屋敷なら大歓迎だろうなぁ。)
顔から下は、黒いジャージに揃え首には緑色のヘッドフォンをさげていた。
唯一、まともと言えるのは持ち物と思しきリュックサックぐらいだ。
灰色のリュックサックは、入れるだけ入れてあるのかリスが頬いっぱいにエサを詰めるだけ詰め込んでパンパンに膨れ上がった時みたいにリュックの留め具部分が勢いよく外れそうなところまできていた。
ちょっと太めの男性が着ていた服のボタンが取れそうな危うさだ。
全国の太めの男性に対して失礼な発言なのは、お咎めなしだ。
例え話というのも必要だ。いつ中の物が飛び出してもおかしくない状態とひと目でわかる。
だから余計に何を入れたらそこまで膨れ上がるが気になってしまった。
そんな重そうなリュックを片手でひょいと持ち上げ俺の所へ歩み寄ってきた。
寄ると同時に俺は一歩後に下がる。
また一歩近づくけど俺は、一歩後ろに下がるのを繰り返したが相手の方が早くに二歩ぐらいで来てしまったので地味な戦いは終わった。
正直こういう類には、生きているうちは一番関わりたくない分類にあてはまる。
危険分子、モンスターペアレントなど思いつく限りの言葉が頭の中で反芻した。
何故なら関わってもロクな事がおきたためしがないからだ。
過去の経験から言わせてもらうと。
だが今の俺は、危うく三途の川を渡りかけ死にそうにもなった。
そして足に力が入らない。人生オワッター。終わったって言う意味。
「おい。あんたさっきまでここに金髪の少女を見かけなかったか?」
体力さえ戻れば自力で逃げきるか助けを呼べば助かる可能性はある。
生憎…手元に武器がない。
ドマクエでも最初は、木の棒を用意してくれるの安心設計なのに。
我々は、棒で戦うしかないとゲーム冒頭でそう思った。
しかも此処は屋上。
石ころ一つとして落ちていない。
雑草だけが生えているのを見ながら俺に素手で戦えと言うのか?
そんな無茶ぶりはゲームかアニメの世界だけにしてほしい。
殴り合いは、痛くて困る。
時間稼ぎみたいなセコイ事をしたくないが命があっての時間稼ぎだ。
【金髪の少女?あぁ!青年もしかして物語の魂と出会ったのか。
ふーん‥珍しいなぁ。あっちから声をかけられるなんて…。】
話しかけたまでは良かったが自分の世界にはいってしまったのか腕くみをしたまま考え事を始めたのだ。
「そ、そうか‥」
クマの被り物をしているだけでも奇妙なのに考え事をするその動作は、シュールだ。
この言葉‥こいつがいるからこその言葉に思えてきた、どうでもいいけど。
(あれだけの血を流したら立てるわけがない貧血で動けない。
こんな事だったら日頃からレバーを食べていれば良かった。逆に立って逃げるなんて超人かバカしか出来ない芸当だ。
俺には絶対無理。だとしたらやる事はただ一つ。
クマ野郎は気づいていないのか入口の近くに雨で濡れ、見るも無残なカバンが落ちているのはいいが携帯を目だけで探した。
携帯さえあれば逃げきれなくなるかもしれないが脅しとしては十分。と言うかハッタリだけど。)
携帯はすぐに見つかった。
カバンから少し離れたところにあったのはいいが…。防水で本当に良かったと心の底から安堵した。
サービス万歳、防水は何のために装備されているのかようやくわかった。
そして日本の携帯をここまで親切設計に作ってくれた事をもう頭が上がらない。
携帯をトイレに落ちた時よりも勝るかもしれないよこの気持ち。
あの絶望は、携帯がなくては生きていけない人種にとってはこの世の終わりかと思った。
がその携帯は悲しいことに‥変人のすぐ傍に落ちている。
(どうしようか。すぐにでも携帯を拾い上げ110をリダイヤルしてこの変人を警察に突き出して事なきを終えようとしたいのに現実はそうはいかない。自分の思い通りになる事なんて一回だけでもおきてほしいものだ。
もし俺が普段よりも使わない筋肉をフルに活かしたとして無事に携帯のもとに辿り着いたとしてもこのクマ野郎は、きっとリュックの中かジャージのポケットなどナイフを持っているか凶器になりうる物を持っていたら太刀打ちしようがない。
あと辿り着く寸前で邪魔をされたら本末転倒。
瀕死状態から救ってくれた命の恩人であるには代わりがないが変人なら話は別だ。
なにせ初対面なのに顔も見せなれない輩だしどことなく喋り方も他の人とは違った感じがする。
とにかく第一印象が最悪すぎる奴を変人以外に何と呼べばいいが教えて欲しいぐらいだ。
時間は、ゆっくりと砂時計の砂が落ちるがごとく過ぎてゆく。
何かされた訳じゃないが一緒にいると言う現状が俺にとって耐え難い拷問に感じた。
変人なら尚のこと。その変人は、考え事が終わったのか腕くみをといて俺と同じ視線にするため屈んだ。
至近距離で見ると一層クマの被り物が不気味に見えた。
子供の夢をブチ壊しそうなほどに可愛くない被り物だよ、これ。
目がリアルすぎだからか。
屈んだ瞬間に携帯を取るべく膝を曲げ陸上選手が最初のスタートダッシュにとる姿勢をした。
いざ走り込もうとしたがクマ野郎が力づくでの両肩を押さえ込まれ地面に叩きつけられた。
背骨にヒビが入ったのかと思うほど激痛がはしった。
肩が外れるなんてもんじゃない。骨が折れるぐらいのレベルだ。
肩を掴まれ仰向けでクマ野郎に押し倒される図になってしまった。
(馬鹿力すぎる。ジャイアンですかてめぇは。)
試しに殴るが効いていない。蹴ったりもしたが同じ反応。
必死に抵抗を試みるが結果は散々な形で終わった。ビクともしない。銅像でも少しは動くのによぉ。
暴れたせいか唇の端を切ってしまい血が出て無駄な怪我を増やしただけだった。
【ちょっ。手加減している身にもなってよ。
抵抗しても困るじゃん。これでも痛いのだから。
ただうちは青年の命を救った自分の物を返してほしいだけなのにさぁ。
あともうすぐ相棒が来る頃合いだし面倒は嫌。喧嘩中だけどね。怪我させてしまった事は素直に謝るよ。】
「さっきから何を言ってやがる?クマ野郎?」本当に意味が分からないこそ素直に聞くしかなかった。
変人には、冷静な対応をしなければいけない。
下手に刺激でもしたら今度こそ救われた命がお陀仏だ。
命の恩人だったらもっと真面な恩人なのが普通だ。
クマ野郎は、俺の両手をふさぎ身動きがとれないようにした。
しかも片手だけでふさいでいる。プロのレスラーだったらこんな状況をきっと涼しい顔して赤子をひねる様に簡単かもしれないけど素人にはどうする事もできない。
「ちょ、おい。お前何やってだてめぇ!」つい口が悪くなってしまった。
何せクマ野郎がいきなり空いた手でTシャツのボタンを、ご丁寧に一つずつ外しはじめやがったからだ。変人よりタチが悪いそう変態だ。変態言う名の紳士とかぬかしやがって。
【何って?回収だけど?】「はぁ?」
悪気がないのか首を傾けその頭の上には、クエションマークが浮かび上がりそうな仕草をした。
(天然なのか、馬鹿なのか分からないなぁ。)
そうこうしている内に血で汚れたTシャツは脱がされ怪我をした部分が露になった。
(おいおい、勘弁してくれよ。これは何かの罰ゲームか。)
クマ野郎に馬乗りにされあげく好き勝手やりたい放題される罰ゲームなんて聞いた事がない。
世界中探してもそんな罰ゲームは存在しないはずだ。俺を除いてはのお話。
クマ野郎の手は、さっきまで風穴になっていただろう傷跡に躊躇なく触れた。
手はほんの少しだけ生暖かかった。
傷口部分であろう所を数回叩いてまるで何かを探す手つきで俺の身体を触ったクマ野郎の反応は狐につままれたような声をだした。
【ない、ない。え!何でないのよ!
嘘でしょありえない。あるにはあるけどこれはないよ。ていうか何で埋まっているの!】
子供が親に欲しい物を目の前で買ってもらえず床に大の字になって駄々をこねるみたいな悲痛な声に似ていた。
クマ野郎は必死になって俺の上で手を叩いている。ぺちぺち。
(地味に痛い。)ぺちぺち。
何故か無言で叩くクマ野郎。ペチペチ。
表情が読み取れないのが怖い。ペチペチ。
俺は、両手をガッチリ塞がれながら首に負担をかける姿勢でクマ野郎が叩いている自分の腹部を見て頭を鉄パイプか金属バットで殴られたかのような衝撃を与えられたかのようだ。
まだ殴られていた方がよっぽどマシだ。
普通は綺麗さっぱり治っていたら傷跡なんてものはないだろう。
それも奇跡みたいな事がおきたらの前提の話だよな?
医者がこの場にいたら即手術だなんて慌てふためいてお祭り騒ぎをしながら言いかねない事が俺の傷跡は、理屈や常識を覆していた。
なんせ俺の傷跡には‥が埋まっていた。
それはよく女性がパーティーや華やかな舞台なんかで活躍したり称号などにも使われたりする、ドレスに何かつけたりする白色の菊の花をモチーフにしたブローチが俺の傷跡あたりに埋まっていた。
へその部分にファションでつける臍ピアスは趣味で付ける人がいるがこれは俺の趣味じゃないし埋めた覚えもない。
白色の菊の花言葉は、たしか誠実・真実だったはず。
(最近、変な雑学だけが取り柄な気がしてきた。)
そのブローチは、皮膚に張り付き木の根っこのような血管をうかせ栄養分を吸う事はないだろうが見ていると物なのに生きているかもしれないと思ってしまった。
「なんじゃこいや!」あ。舌を噛んでしまった。
改めてなんじゃこりゃ!大事なセリフなのにここぞと言う時に舌を噛んでしまう。
クマ野郎が笑いを堪えているのは気のせい。
認めたら負けだ。決して受けを狙うあの有名なギャグセリフなんかじゃない。
本気と書いてガチな叫びだ。そのセリフしか思いつかなかったのだから仕方がない。
ヒステリックに叫んだ所できっとこの問題は解決しない。
パニックをおかさず泣き喚いたりしないだけ自分に拍手を贈りたいけど生憎、手が塞いでいるから現実にはできないけど。
俺よりもクマ野郎の方がよっぽど重症だ。加害者のくせに。
(埋まっている当の本人よりも重症だなんて。あれか手術している医者が血を見て患者の前で失神する人や他の人よりも感情移入しやすい人とかいるものなぁ。)
【冗談じゃないよ!
私の物がどこの馬の骨かも分からない男の身体に埋まっているなんて信じられないじゃん。】
(まったくその通りだ。俺も未だに信じられん。)
【どうにかしなさいよ!責任とってよ!あと時間がないのに!】
「そんな無茶苦茶な…」
俺だって訳がわからないのにこのクマ野郎ときたら責任転換しやがっる。
時間がないと言いやがる。
(そもそも変態の言葉に耳をかたむけた俺が馬鹿だった。)
今更、嘆いた所で埋まったブローチが取り外せるとは思えない。
餅を喉に詰まらせ背中をたたいた拍子に餅が取れましたみたいなオチにならないかと淡い期待を抱いてみたがクマ野郎の一言はその淡い期待を残酷にも一刀両断した。
【いっその事、取り除くしかないようね。強引にでも。痛いのは耐えるしかないけど】
リュックからは刃渡り17cmぐらいの果物ナイフを出した瞬間、
俺は、
「そんな殺人鬼みたいな方法でやるのか!お前それでも人間かよ!頭いかれてやがるとしか思えんぞ。
その前に死んだらどうする!」
死にそうになった俺が言うのもなんですけどね。
【仕方ないでしょ!これ以外の方法を思いつかなかったの。手取り早いじゃん!
まさか埋まっているとは、思わなかっただし…。大体こんな所にいる青年が悪い!】
「あぁ?」変態なんてこんな奴ばっかりなのか。急に頭が痛くなってきた。
そういえばクマ野郎の喋り方が女子みたいだな?
まぁいいけどよ、とにかく腹をえぐり出される前に逃げたい。
今日食べた朝食と見たくない臓器までご対面する事になる。
(塞がれている上に馬乗り状態じゃ足しか動けない。だからこそやるしかない。)
俺は、クマ野郎がヒステリックにわめき散らすその腹に思い切り足蹴りを入れた。
溝内には、入らなかったがその衝撃でクマ野郎の持っていた果物ナイフは派手な音をたてて落ちた。
その音がボクシングで言うリング状のコングと同じように生死を分ける闘いの幕を開けに合図となった。
身体を若干だが横に傾き塞いでいた右手を離した。
(浅かったか。)その瞬間を俺は逃さなかった。逃すはずもない。
【いったぁ!】クマ野郎は、逃れた俺を恨めしそうに見ている気がした。
被り物をしていて本音は分からないが痛いと言いながら痛がるそぶりを全く見せずゆっくりと立ち上がった。ついでに果物ナイフをリュックに入れる余裕さえみせた。
(タフすぎる。)俺は、塞がれていた両手を摩りながら相手からは目を離さないようにした。
脱がされたTシャツを着なおす時間さえもないなんて。
【意外ね、てっきり命乞いをするのかと思っていたのに残念。まぁいいけどー。】
ため息混じりにそれも偉そうに言うと見ていて腹が立つ。
おまけにお手上げポースまでするからどうやらクマ野郎には人をこ馬鹿にする才能があるようだ。
屈んだ体勢でクマ野郎の出方を慎重に待つ時間が途方もなく感じだ。
曇天の空が次第に晴れてきていたのか俺の頭上には、雲一つない青空が広がり一番高い所に太陽が神々しく街を照らし地上にいる人間たちにこれでもかと紫外線を浴びせている。
そのせいかさっきまで凍えそうだった俺の体温が上昇し気温は、熱くないはずなのに俺の周りは干からびそうなほど暑い。コンクリートが太陽の紫外線を吸収し反射して、鉄板焼きみたいに俺とクマ野郎を熱々のローストビーフに仕立て上げたいらしい。
(こんな時に目に汗が入ってくる。)
クマ野郎も暑いはずなのに被り物をぬぐ素振りもせず長袖長ズボンの黒ジャージをまくし立てもしないなんて正気の沙汰としか思えない。
ジリジリと相手の様子を見ながら出方を待つ日くるとは夢にまで思わなかった。
何故あんな事をして戦うか分からなかったがなんとなく分かった。
(根気がいるし疲れる。家に帰りたいが無事に五体満足で帰れればだけど。
変態と楽しくティータイムするよりまだ嫌いな相手と喧嘩したほうが心なしか安心して朝日が昇るまでやり合っていたいぐらいだ。)
【そこまで嫌わなくたっていいじゃん!本当男ってどいつもこいつもマナーの一つもなってない‥大体‥】
このクマ野郎の癖なのかヒステリックに明後日の方向めがけてマシンガントークみたいにしゃべりだした。この隙に携帯を取ろうと動きはじめた俺の頭に冷たくって固い何かが触れていたのに数秒かかって気づいた。
「動くな。ちょっと、でも動いたら撃つ。下手に動いても、撃つ。だから目だけで、僕を確認して。」
肝が据わる気持ちを体で思い知った。
俺の身に覚えがないその感触を目で、認識し命を相手の思い通りにされた。
例えるならライオンが鋭い目と歯で獲物を確実に仕留めようと、今か今かと待ち構え狙いを定められた時きっと鹿やシマウマさんなどの動物は、こういう気持ちで餌食になっていると思うと生態系の素晴らしさに感銘を受けてしまう。
銃に詳しくはないがやたら親しい友人がたまに銃の写真が載っている雑誌を見せてくれた。
だからか詳しくないはずなのに、その銃が45口径の拳銃だと分かり友人にこの拳銃、ほかの銃より大きいし重そうだな~と質問したらその銃の特徴と威力を一日中分かりやすく絵や図式まで見せられ聞かされた。
(無駄な知識だけ身についてしまった。友人の趣味によって、その知識がここで役に立ってしまった。)銃口を頭に突きつけられ恐怖が頭の先から足のつま先まで電流みたいに駆け巡った。
映画と違うのは向けられているのがイケメンの俳優さんや美人女優さんじゃなく自分だと言う事だ。
しかも偽物や玩具じゃない。本物の銃だ。
(写真でしか見た事ないけどこうして直に肌で感じて見ていると迫力ある。ありすぎる。感触が桁違いだ。)
両手を抵抗の意思がない事を伝えるためにあげた。
動くなと言われたが、銃を向けられ丸腰しで俺にとってはこうでもしていないと生きた心地がしなかった。
銃を間近で見た俺の心は大分、疲弊し折れそうになる寸前だが銃を持っている相手を目で見て心が粉砕。
跡形もなく木っ端微塵なった。止めをさされてしまった。
そして顎が、顎関節症みたいになった。
銃なんて大それた物を持っているとなると不良じみたヤクザか軍人崩れや巨人のように、馬鹿でかい奴とか、とにかくろくな生まれじゃないのは確かだと思いながら相手を横目で見ると予想を斜め下あたりぐらいに大きく外れた存在だった。
クマ野郎と言う変態とは違った驚きを隠せなかった。
【来るのが早かったね。来なくても良かったのだけど正直言って。
話が変わるけどうちの商売道具がそこにいる助けた青年の腹に埋まったって言ったら信じる?ハチ?】
あの毒をもつ凶暴な虫の名前じゃないようだし、主人の帰りを健気に待つ犬の名前でもなそうだ。
言い方がどことなく違う。
ハチと言われた少女というより幼女は、45口径の拳銃を片手で持ち直した。
(その小さな手でよく持っていられるな。)
大人でも重い銃なはずなのに。ましてや子供が片手で持っていい代物じゃない。
日本は銃刀法違反という法律で守られていると思っていたのに意味がなさすぎて空気同然の扱いだよ。
「信じない。じゃあ、殺していいの?この人?」
爆弾発言を躊躇なく言った。
その姿は、銃を持ちながら律儀にもリボンや花柄の絵が刺繍され、赤いランドセルを背負い動きやすい体操服を着ていた。首からは緑色の宝石をうめこんだロザリオをさげていて体操服姿に似合わない。
あと、体中に絆創膏が貼ってある。
名前を書く欄には何も書かれていない。最悪な事に拳銃は一つではなく左脇の下には、持っている拳銃と同じ装飾の銃がゴムバンドでしっかり固定され灰色の革で出来たホルスターにしまわれていた。
大きい銃なのでその分ホルスターも大きいサイズになってしまう。
(ホルスターは、使う本人の体格にあったサイズを選ぶのが常識なのにこの子のホルスターは大人サイズの物だ。小学生が二丁拳銃を携えているなんて警察が聞いたらどんな反応をするだろう?)
ちなみに脇の下に銃を吊るすホルスターの事をショルダーホルスターと言うらしい。
そのまんまだ。また俺は無駄な知識を。
二丁拳銃の小学生は、どこかの国のハーフなのか髪が脱色を繰り返したのか少し傷んだ毛先がピンク色でも気にもしないしボブなのは男子として喜ばしいが白いのだ。
とにかく雪のように白く、白百合のごとく純白の白。白髪とは違って自毛だ。
正真正銘の白い髪の毛だ。黒髪の女性がいるなら白髪の女性がいるのは頭の片隅で分かってはいたが俺の知っている白髪の女性は、実家にいる祖母や近所のお婆さんばっかり目に穴があくほど見飽きていた。
瞳は、透き通るような青色で海を連想させ顔立ちは愛くるしく綺麗な顔立ちできめ細かい白肌のため白人だ。鼻に絆創膏が貼ってあっても子供だからどこかで怪我をしたのだろう。
髪と同じくらい白い。奥
様方が追い求めるほどの肌がとても白い。身長は低学年の平均身長よりやや低めな小さな女の子だった。
髪の色だけのぞけばただの餓鬼だが二丁拳銃を持つ餓鬼と会う予定はなかったはずだ。
【殺しはなし。一応、一般人だから組織の先輩か上司や偉いさん方とかに報告してから判断しなきゃ。
うちら個人で勝手な事したらランクに影響する。
そして組織にとっても。だからハチその銃は使わずにしまってくれると嬉しいじゃん?】
(一応は余計だろ。組織?ランク?何について話をしているか分からん。)
「わかった。チサが、言うなら。従うだけ。」あっけなくハチは、銃をおろした。
クマ野郎にも名前があったとは。ホルスターにしまわれても存在感が凄い。驚異は、なくなった。
両手を上げたまま密かにほっと息をついた。生きていて撃たれていない事に対して安心した。
二度はごめんだ。
クマ野郎は、そう言いつつポケットからメモ帳を取り出すといつのまに左手には、使い込まれ古そうな万年筆が握られていた。何かを走り書きにメモ帳に書くと万年筆を手から落とした。
(その被り物をしていてよく字が書けるよな。)
「あっ」という間に地面に落ちたと思ったが
万年筆は落ちる前に音もなく消えた。物体が消えるなんてマッジックしか考えられない。
トランプのカード、小さなボールが手から消えるマッジックをテレビで見てその種明かしも知っているが何処かに隠し持っているか他の物にすり換えている。でもその素振りが見受けられない。
「き、消えた?」(万年筆自体を跡形もなく目の前で消えた。まるで最初からなかったかのように。科学が世の中なのに消した原理が分からない。魔法はない。あるのは現実だけだ。ならこの現象をどう解釈したらいい。)
考え込む俺を置いてクマ野郎は走り書きした紙をメモ帳から乱暴に引きちぎった。
びりっ。
一枚だけ引き抜くつもりが何枚か引きちぎっていてみるからにもったいない。
その引きちぎった紙を器用に紙飛行機に折り適当に飛ばした。風もない屋上でクマ野郎が飛ばした紙飛行機は、屋上の手摺りまで飛び突然、白い鳩になって飛び去った。
誕生日プレゼントを開けたてみたら中からびっくり箱を開けてしまった感覚だ。鳩が豆鉄砲をくらったの感じも。
【報告は、早めにしないと色々うるさいんだよね。けど毎回この手順で報告しなきゃいけないなんて面倒。伝書鳩より携帯の方が便利なのにあのスケベ王様ときたら頑固すぎ…。】
「我が儘。いわない。組織、決めた。悪口。よくない。」
ハチの喋りは、単語だけなのによく会話として成り立っているのが不思議だ。
変人同士だから?通じ合う?同族意識?
俺の存在がいつのまにか空気と同じとか泣けます。
酸素と一緒でしょある意味やめてよ。酸素とかもう人間扱いしてない事でしょう。
無視って一番堪える。虐めはよくない。
「さっきからなに俺おいて話を進めんな!」
【あ、まだ居たの?忘れていたとかそんな事一ミクロも思ったりしてないから全然。ねぇハチ?】
「うん。思ってない。空気だなんて。思ってない。安心、しろ」
空気確定ですか。
「くっ。否定はしない。」そこは否定して俺。
【ハチがここにいるって事は、片付いてないって事でしょ?
しつこすぎるよ。毎回。あいつら休暇の一つもくれないとか。肩がこるわ。】
肩を回し家事に疲れた主婦のような愚痴をクマ野郎がもらした。
その悪趣味な着ぐるみを脱いでから言ってほしい。
「あいつら?」蚊帳の外とはこの事だ。説明書は、どこに行ったらありますかね?
「うん。一人、キツい。ごめん。僕、弱いから銃に頼る。けど何とか、残りの能力で止めた。けど‥あと三分でくる。」
ハチは、しょんぼりとした。
その小さな体を更に小さく縮まったが銃を持っている小学生に励ます言葉をかけられない。
【ふーん。大丈夫、大丈夫。ハチはよく頑張った。
三分あれば十分。カップ麺ができる時間までよく頑張った。
任せきりにしたうちの方が悪いからお互い様ね。喧嘩は一旦、中断しよう?】
「これとそれは別。倒してから言う。」
クマ野郎がしょんぼりするハチの肩に腕をくみながら人差し指で頬をつつきその人差し指を小さな手ではらいのける二人の変人の姿をほのぼのと見ていたい所だがそうはいかない。
血で汚れたTシャツを着直しながら怒った口調で、「俺にも分かるように話をしてくれませんか?」
これ以上、独りぼっちになりたくはないので。
【仕方ないな。あ、三分経った。そろそろ来るじゃん。入口の方から四体か‥。ハチこのビルって高いけ?高くなかったらこの一般人を逃がしてくれる。
足でまといだけど一人だし見たくないものまで見る必要ないし。いい?ハチ?この借りはかえすから。お願い?】
腕時計を見ながら変態が両手で二丁拳銃の小学生にお願いポースを取るとハチは、見間違いか頬をあかくして「分かった。約束。」指切りするとこが小学生だな。
よく見ると体操服の袖口から刺青のような感じで、コンビニやスーパーの商品に見かけるバーコードが彫ってありそのバーコードの下には、167Kとご丁寧に漢数字とローマ字が焼印してあった。
(主人が奴隷に自分の物だと分かるよう焼印を入れるのを人は拷問と言うけど刑務所の囚人にも識別番号としてわざといれる所もあるらしい。今の時代に焼印なんて珍しすぎる。天然記念物並に珍しい。
しかも幼い女の子の腕に焼印を見たロリコン(ローリタコンプレックスの略らしい)の人がこの場にいたら焼印をした犯人を血祭りにしそうだ。
ロリコンと言う人は、
この言い回しが気に要らないのかロリコンは幼児性愛つまりペドフィリアとよく分からん表現を、使って否定してくるけど要するに心の病気で同じ男として理解しがたい。
理解したくもない。
理解してしまった時、警察にお洒落な手錠をプレゼントされてしまうだろう。
きっと。
「おい、小学生その腕にある刺青どうしたんだ?」
何気なく聞いたつもりなのにハチは、無言でホルスターから拳銃を目にも止まらぬ速さでぬき俺に向けた。
ついでに安全装置を外した。気づかぬうちに地雷を踏んでしまった。
「見えるのか‥。小学生、言うな。名前で呼べ。撃つ。」
チャカを持つ小学生は、少年兵より恐ろしい。
「わ、分かったからハチさんその銃をおろしてほしいです。お願いします。」
小学生相手に敬語とは友人が見たら爆笑ものだろう。撃たれる前に死にそうです。
【二人とも遊ぶなら別の場所でやってくれないかな?集中できないのだけど?
しかもその空気を助ける前に来てしまったじゃん!】
クマ野郎がパンパンのリュックから器用に一冊の本と先ほどの果物ナイフ、緑色の宝石をはめ込んだロザリオを取り出した。ハチと同じやつか?
そして、入り口の方を向いた。
(少しイライラしてないか?このクマ野郎。)
俺もハチからクマ野郎が見ている視線の先を見た。
世の中には、知らない方が幸せな事だってあるとよく耳にするが昔の人は、いい言葉を残す。
俺とクマ野郎とハチの目の前にいる得体の知れない存在が四体ほどどこから湧いて出てきたのだろう。
そして、さっきまで晴れていたのに次第に曇りはじめった。考えたくもないし目を覆い隠したくなるほど醜い姿だ。
がその得体の知れないものは、蜘蛛だった。
あの節足動物で糸をはいて、蝶などをご自慢の巣で捉え生き抜く生物だ。
殺虫剤で殺せる蜘蛛がまだ可愛い。だが目の前にいる蜘蛛は人間の大きさより遥かにデカイ。
二倍いや三倍のデカさだ。
そんな蜘蛛が一匹なら新種だと喜ぶが四匹もいると叫びたい。
(昆虫の中で唯一、蜘蛛が苦手だ。男のくせに蜘蛛が苦手だと笑われても別にきにしない。
苦手なものは、苦手だ。)
デカすぎるし動く脚は、内出血して赤紫色に変色し黒色も混ざってシマシマ模様になっていて非常に目立つ。
(気持ち悪い。)
目は、無数にあり眼に痛いほど赤い信号機や電車の踏切の点滅みたいに光っていた。毛は、そこまでないが咀嚼する口が動いているあたりや脚の周りにはうぶ毛みたいにフサフサしている。
無意識に鳥肌がたって爪で肌を掻きむしりたくなった。
糸をはく尻の部分が振動して小刻みに左右に動く姿が奇妙だ。
子供の頃、誰しも植物や昆虫の図鑑を暇つぶしや好奇心で眺めていた時期があったはずだ。俺もそうだった。
だからこの蜘蛛の名前がすぐに頭の中で検索しヒットした。
殺虫剤で殺す方法が一番安全方法だけど、このバカデカい蜘蛛には、心もとない。巨人に武器なしで戦えと同じなほど無謀だ。
(使えない知識だけ覚えているなんて悲しすぎる。昔は、図鑑が恋人だなんて妹にも秘密にしている。
人には言えない秘密の一つや二つ俺にだってある。消したい過去があると涙が砂漠みたいに干からびそう。)
写真でしか見たことないし、特に蜘蛛だけ避けて図鑑や本を読んでいたから、名前は知らないが‥
蜘蛛=危険と思い込んでいたからどんな特徴で人にどれだけの被害をもたらすか見当もつきません。
危険な蜘蛛ではないが人に害をなす毒を持っていて凶暴な蜘蛛だ。
「ひぃ!」
恐怖と絶望を交えた俺は逃げ腰で蜘蛛から一目散に遠のいた。そんな俺に対してクマ野郎が
【ハチの刺青と言いあいつらの姿が見えているの?】
当たり前の事を聞いてきたよ。
「見えるけどそれが何だよ。」声が震えるのをこらえながら言った。
【青年、とことんついてないよね。】厄日だと言ってほしい。
気絶してないなんて奇跡だ。アンビリバボーだ。
(この状況‥どうすれば助かるって言うかこの変人二人は、この蜘蛛が来ることを知っていた?
倒すのか?倒す前に逃げたいです。)
やばい‥吐きけと目眩いが耐え抜け、そして我慢だ。巨大蜘蛛を見て気絶したら後悔しそうだ。
一章!長い長すぎる一日(パート2)
屋上に来てからどのぐらいの時間が経ったのか分からない上に変人二人と蜘蛛四匹、自分というにわかに信じられない状況に陥っている。手に変な汗出てきた。
(夢じゃないよ…な。)
指で手の甲をつねみてみるが痛いだけで何も変わらない。信じたくねぇ。
気持ち悪い蜘蛛四匹は、こちらの様子を無数の目で捉え逃がさないぞと脚が地面の上でカサカサと動いていた。
腰がぬけていたら立っていられなかっただろう。
クマ野郎とハチは、平然と準備体操のついでとも言いそうなリラックスモードで蜘蛛と対峙していた。
ハチなんて柔軟体操なのか前屈や左右関節ストレッチまでしていて、
(体柔らか!じゃなくって)
「なにこの状況でリラクッスしている!」
ついノリツッコミをしてしまった。しかも芸人がコントをする時の手までお墨付き。
「もっと!こうキャーとか逃げてーとか他に言うべき事がたくさんあると思うのだが!」
【えっ?何で?】首を傾げるクマ野郎。
「意味、分かんない。」ストレッチするハチ。
意味分かんないのは、俺の方だよ。
両手で顔を隠して悲劇の主人公みたいに絶望を体全体で表現していたら、全頭にいた一匹の蜘蛛が痺れを切らしたのか近くのクマ野郎に襲いかかってきた。
「あぶなっ」
思わず手を伸ばして助けようとしたがハチが俺のズボンを引っ張ったため助ける前によろめいて助けにいけなかった。
ハチの身長と俺の身長差があるからか多分、ハチはTシャツを掴みたかったのだと推測する。引っ張ったハチの顔が不機嫌そうにズボンを掴んで睨んでいた。
(俺のせいじゃない。)
「離せ!どう見ても危ないだろうがあのクマ野郎が!」ハチの手は、離れない。
【危ないのは青年の方じゃん!うちが1体倒したらハチその青年と一緒に逃げて、
いつもの秘密基地に合流しよう。いいね?】
クマ野郎は、ひらりと蜘蛛の攻撃を横に飛び退いて交わした。蜘蛛は脚で攻撃してきた。
蜘蛛の攻撃は、コンクリートを粉砕できるほどの力があるらしい。
石よりは固いはずのコンクリートが蜘蛛の攻撃で穴があいて凹凸ができて土埃が舞うほどだ。
凹凸に脚がひかかったのかその場でもがいていた。もがく姿もまた気持ち悪い。
もし真面に当たっていたらと思うと身震いする。骨が砕けるよりもタダじゃすまない。
【人前では、あんまり見せたくないけどこの際仕方ないじゃん。】
クマ野郎がリュックから取り出した本を適当に開いて本を裏返した。
財布にお金がない時に逆さにするみたいに本を上下に振っていた。
(ふざけてはいないよな?真剣みたいだ。)
すると本から古びた装飾でアクセサリーを入れるジェリーボックスみたいな箱がでてきて地面に音をたてながら落ちてきた。
「おぉ?」間抜けな声がでた。【まあまぁ。そこで見てなさい。】
得意げに古びた箱を拾い上げ俺に向けてきた果物ナイフをその箱にしまった。
【さぁて、地味に頑張りますか!タダ働きだけど‥。
割に合わないじゃん。せめていい値段で買い取れればいいのに。】
自分で開けた凹凸にまだひかかっていたがやっとの事で抜けたのか再度クマ野郎に襲いかかってきた。
【しつこいじゃん!】
襲ってきた瞬間に古びた箱を開け小さく聞こえるか聞こえない声でつぶやいた。
【KHM46フィッチャーの鳥】
すると箱の中から沢山の果物ナイフが溢れんばかりに出てきて、クマ野郎の足元が見えなくなってしまった。
(すっご‥)
つい見とれてしまったがクマ野郎が箱を閉じると果物ナイフはもう出てこなかった。
【これぐらいかな?】
そう言うと箱をリュックへ戻し足元のナイフを指の隙間で持ち襲いかかってきた蜘蛛めがけて投げた。
ダーツ的を当てるかのような正確さで投げるので蜘蛛の目や足、体全体に果物ナイフが刺さり気持ち悪い雄叫びをあげて蜘蛛は消えた。代わりにピンクと緑の混じった石が落ちていた。
「ナイス‥」
ハチが拍手し素早くその石を回収して俺のもとへ戻ってきた。
「なにそれ?石?」川の近くや道に落ちていそうな石に見えた。
「お金、になる石」
石をランドセルへ嬉しいそうにしまってドヤ顔で言った。
「へぇ‥?」なるほど‥全く分からん。
【ハチありがとう。後はやっとくからその足でまといさんを宜しくじゃん!】
ナイフを投げながら残りの数匹の蜘蛛を次々と倒していく姿は、感嘆するが果物ナイフで倒せる事の方がすごくないか?
「行くぞ。えっと、空気?」足でまといと呼ばれた方が嬉しいです。
「空気?じゃない!俺のなま」
名前はと言おうとしたが途中でハチの一言で言えなかった。
「どうでもいい。早く僕を抱っこしろ」
銃を向けて言うセリフじゃありませんよ‥小学生。
「何で、俺がハチを抱っこしなきゃいけない!説明しろ!」
理由もなく小学生を抱き上げるなんてまだ警察のお世話になりたくなかった。
「説明?逃げる、ここから。だから抱っこしろ?頼む?」何故、疑問形ですか?頼まれても困ります。
「第一、どうやって逃げる!出口には、蜘蛛がいる。
それにここは屋上だ。逃げるとか言ったって出口が塞がれちゃ逃げられないじゃないか。」
指で出口のある方向をむけた。前も後ろも八方塞がりだ。
クマ野郎が倒してくれているが次から次へと蜘蛛は増えてきていてキリがない。
(段々、足元にたくさんあった果物ナイフが減ってきていないか?)
「大丈夫、まだ逃げられる場所ある。あそこから逃げれば、いい。」
ハチは狭い屋上の手摺の向こう側を指し示した。
「馬鹿か!取り壊し予定のビルだ。その上高層ビルだぞ!
落ちたら怪我だけじゃすまない高さはあるもっと考えてくれよ!」
(これ以上、巨大蜘蛛を見ていたら頭がどうかなりそうだ。)
「わかっている、そんな事。空気が抱っこしたら僕が、銃で撃ったら助かる。」
きっとクマ野郎しか会話は続かない。時に分かったふりも大切だ。
呼吸するたびに嘘をつく人だっている。些細な嘘も今の俺には必要だ。
「助かる。傷つかない。」
真剣に頷くハチをとりあえず信じてみる事にした。
「とりあえず、あそこからダイナミックにハチを抱っこしてジャンプすればいいのか?」
屋上の手摺を横目で確認しながらため息まじりに言う俺に対しハチは、
両腕を伸ばし小さい子が大人に抱き上げるポースをして、
「うん。」抱き上げろと上目遣いで命令してきた。
可愛いがそういう趣味はない。そう言った方面には目覚めたくもない。
誰がハチの言っている事を訳してください。
「わ、分かった。絶対落ちても助かるよな?」
嫌そうにしたら銃を向けられそうなので仕方なく変な所を触らないように肩車かお姫さま抱っこが色々と考えたか無難な背中でおぶった方がいいと思ったので背中をむけて早く乗れと催促した。
「むぅ。」
何がお気に召さなかったのか、ハチは不機嫌にしぶしぶ俺の背中に乗るため小さな腕を首に回しおぶさってきた。
それと同時に立ち上がるとハチが驚いたのか首に回した腕を強く締め上げた。
「グエッ。苦しい」蛙が足で踏み潰された時みたいな声をだしてしまった。お約束だ。
「あ、すまん。」
慌てて手を離してくれた。
「いや、大丈夫だ。俺が悪かった。」合図なしで立ち上がったら誰でも吃驚するよな。
「そうか。空気がそう言うのなら。」切り替えが早すぎる。
もう空気ってあだ名で呼ばれることに違和感ないのはやばいよね。
頼む違和感、仕事してくれ。
背中におぶったハチにあまり負担をかけないようにおぶりなおしながら、屋上から降りるために心の準備をした。
深呼吸でもしてみようかな?やめておこう。
逆に緊張してしまう。「何をしている?早く、いけ。」
急かすように小さな手で頭を叩いてきた。ついでに足もバタつかせてきた。落としてやろうかこいつ。
殺意が芽生えても行動にうつさないのが大人だな。そんな事を言う自分も子供だ。
銃を持っている相手にそんな事をしたら火を見るように明らかに不利だしな。
それにしても軽い。
まぁ、重くても困るけど。ランドセルと二丁拳銃の重さもあるけど本当に軽い。
(太り過ぎは、いけないが軽過ぎもいけないような気もする。普通ってなんだろうな。)
いちいち気にしていたら頭痛がしそうだからこの辺で考えるのはよそう。
ちゃんと食べているのか‥。
初対面でしかも小学生に対してデリカシーのない言葉をかけても仕方がない。
「分かったから暴れるな。い、いくぞ。」勇気を振り絞って屋上の手摺まで走った。
走る速度は、人並み遅くはない。
「おりゃああああああああぁぁぁ」
掛け声がゴリラの雄叫びに聞こえるのは、この際気にしない。
今すぐこの場から逃げだしたかった。
ただそれだけを思って無我夢中で走り手摺に右足をのせた。
スニカーの靴底に手摺の感触が伝わりジャンプした。
一瞬だけ無重力みたいに体が浮いた感覚に陥った。ふわっとうき落下した。重力だ。Gとも言うか。
あの世界中の人間に嫌われる虫の名前じゃない。
「うっ」
舌を噛みそうになった。目が開けていられない。
この高さか勢いよく落ちたのだから助かる確率は、0%にちかい。
(くそ。せめて片手でだけでも動ければ。)
急速に落ちる時景色がスローモーションにみえた。
でも足が地面について折れて臓器が飛び出す自分の姿を想像する前に、背中におぶさっていたハチが二丁拳銃をすばやくホルスターからぬき地面に向かって迷うことなく撃った。
(耳元で撃つなよ!なんも聞こえない。あと撃つ前に合図してくれ!)
銃声が鼓膜を破るかと思うほど大きな音が俺の体全体に響きわたった。
「ランケ!」
ハチは、銃声に負けない声でそう叫んだ。
たしかランケってドイツ語でツタと言う意味だったはず。でたよ‥無駄知識。
銃弾が地面にのめり込みいきなりツタらしき植物が地面から生え俺の足に絡まってきた。
なんじゃこりゃー。本日二度目。
「うおっい」
ツタは足から俺の胸元までからまりそのおかけで落下速度が弱まった。
身体に絡まって地面にそっと音もなく下ろしてくれた。
ハチは、銃をしまいながら背中から猫のようにするりと降りた。
「助かった。無事だよな?」
怪我はないか無意識に体のあっちこっちを手で触って確かめた。
高い所から落ちた経験がなかったが生きた心地がしなかった。
(やばい!足が震えてやがるし心臓がバクバクしている。)
あの興奮したり緊張したりすると脳を活性化させるホルモンが、
脳細胞を刺激して出るアドレナリンのせいか妙に気持ちが高ぶっていて息を整えないと初めて興奮状態を体験したが、決して良いものじゃない。
前髪をかきあげハチと助けてくれたツタもどきをみた。
「くすぐったい。いつも、ありがとう。」
ハチの言っていることが分かるのかツタもどきは、ハチの頭や首に絡まって褒められて喜んでいるみたいだ。
「じゃあ、もういいよ」ハチが体操服のポッケトとから巾着袋をだし砂のような粉を、
ツタもどきに振りかけるとツタもどきがみるみるうちに枯れてしまった。
ナメクジに塩をふりかけ時みたいだ。
ツタもどきを枯らした粉をパンパンとはらいおとし巾着袋をポケットにしまいながら、
「さっさと歩け。僕は、疲れたからまたおぶれ。それで指示、従って走れ。」
やっと心臓が元通りになり呼吸もなおってきた俺にハチが無理矢理おぶさってきた。
(銃が当たって痛い。)首にぶら下がるハチに両腕で小さな足をもった。
傲慢すぎる‥だろ‥この小学生。可愛くねぇな。
逆らえば小学生をおんぶするのに抵抗はもの凄くある。
絶対に銃を向けて脅してくるかもしれないから半ばやけくそにハチに従った。
まさか高校生にもなって小学生をおんぶする日くるとはなぁ。
昔の妹のおかげで小さい子の扱いは、慣れているつもりだ。
でも、反論せずにはいられなかった。
「何が疲れただ!自分の足で歩け。
助けたことには、感謝するがいちいちハチの言うことなんかに俺が従って何のメリットがある?」
口を開けば言い訳ばかりとはこの事だ。
「黙れ、空気。助けたのはチサの商売道具。
空気、じゃない。そこ間違えるな。」
ボサボサの頭をハチの手が叩いて吐き捨てるように言い返してきた。
(年上の頭を気安く叩くことないのに。
将来ハゲたらどうしてくれる。あと、頭の上に両腕を置くな!重い‥)
ハチの方を向きたかったが位置的に見えないので渋々歩きながら喋る事にした。
「んで、これからどうする?あのクマ野郎を待っていなくていいのか?」
廃墟ビルがあった方をチラッと見ながら言ってみた。
人に小学生を背負っている所を見られないかと人目を気にしながらそわそわしながら最初を歩いていたが、一向に人の姿を見かけなかった。
(人通りが少ない所だがもう少し行けば車の多い大通りにでる。
其処についたらハチをおろそう。人に見られたら恥ずかしいからな。)
ハチは、背負っている事を気にせずむしろ喜んでいるのか、
「おぉ。楽だ。」
足をぶらぶらさせながら俺の頭を叩いてご満悦のようだ。
「いてぇから叩くのをやめてくれ!」
この年になってハゲにでもなったら人生二度目のオワッターになる。
「別に、へるものではない?あ、次曲がり角を右。キビキビ歩け。」
(自分の足で歩いてないからって言いたい放題いいやがって。)
「もうすぐ大通りにでるから、でたらおりてくれよ。」
曲がり角を右に曲がり大通りにでた。
「何、言っている?最後までおんぶしろ。」
昼過ぎでも大通りには、人が歩き喋り声や五月蝿いほどの車が行き交っているはずなのに大通りに人の姿はおろか車の音さえ聞こえない。
「えっ?」
信号機が虚しく点滅しながら車の通らない道路を通常どおりに動いていた。
丁度、蛍光灯に明かりがつきはじめたコンビニや野良猫が路地裏にはしり暗闇の中で目を光らせいたりさっきまで人が
乗っていたのかエンジンのつけぱっなしの車を窓越しで覗き込んで周りを見渡した。
もし人だけが居なくなったらきっとこんなふうに閑散とし静かに物だけが日常を繰り返して残った生き物だけが、
街を徘徊する所謂、ゴーストタウンになってしまうと思ってしまった。
「な、何だよ。これ」
言葉につまりながら唾を飲み込んだ。
「何と、言われても。ビル、周りを人払いした。だからいない。多分見えるだろうか、見とけ。」
ハチが近くの電柱を指差した。
電柱には、御札みたいにびっしりと貼ってあった。呪いかよ。
(どこの宗教ですか!これは!)
この電柱だけじゃなく大通りの電柱のどれにもカードが貼ってあった。
トランプなのかカードには、スペード、ハート、ダイヤなどがランダムに貼られ書かれていた。
日本で一般的に使われているトランプはフランスタイプまたは、
英米タイプと呼ばれるものが多い。
世界共通のトランプ構成だ。
(だけど‥このトランプの絵柄は、ラテンタイプだ。
騎士が剣を携えるカードはスペード、
僧職が聖杯を持つカードは(ハート)、
商人が紙幣を持つカードは(ダイヤ)と言う感じで表されている。
それにカード全体が細長いのが特徴的なトランプは、ラテンタイプしかない。
そんな無駄知識は、置いといて。)
「人払い?このトランプと何の関係がある?いたずらか?これ」
もっと詳しく見ようと電柱に近寄ろうとしたがハチが髪の毛を引っ張り邪魔してきた。
「近寄るな。効果、きれる。本来は、花札が一番いいけど‥。時間、なかった。
モタモタするから、きてしまった」
俺の首を両手で無理矢理後ろをむかされた。
後ろには、屋上にいた蜘蛛より少し小さめで色違いの蜘蛛達が高速で、追いかけてきた。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ」きゃあでなくぎゃあしか言えない。
蜘蛛の姿を見た俺は半泣き状態で走り出した。
人のいない閑散とした街を不思議がる余裕はもうなくなっていた。
(もぞもぞしている。やばっ、目があった。気持ち悪いから来るなよな!ちきしょう!)
「そういう事ならももっと早く言えよ!」
パニックになったので間違えて余分にもが増えてしまった。
後ろを見る勇気がないけど音をたてながら確実に小蜘蛛達がついて来ていると分かった。
「説明、めんどい。早く行けば問題ない。」(そういう問題じゃないから!!!)
車がないと分かったのでいつもだったら出来ないが道路のど真ん中を走り続けた。
贅沢な逃げ方だ。
人の足と蜘蛛の脚、どちらの方が早いとかの実験があったら蜘蛛の脚が早いと言いたくなる。
だって、
(くそおお!このままじゃ追いつく!これだから節足動物は大嫌いだ!)
ハチを背負ったままじゃ走る速度も半分遅くなるのは仕方ながない。
一匹の小蜘蛛が追いついたのか俺の背中めがけて鋭そうな脚をふりあげ攻撃してきた。奇声をあげながら。
咄嗟に殺られると思った。
「雑魚が。め、ざわり。」
ハチの銃弾が正確に小蜘蛛の脚に当たった。蜘蛛は痛そうな断末魔をあげながら地面にころがった。
必死に走る俺の背中でハチが二丁拳銃を器用に撃って残りの蜘蛛を倒す。
リロードも忘れずに、小蜘蛛達をミスなく倒し俺の走った後には、
倒された元小蜘蛛だった石と銃の薬莢だけが、
残ってまるでヘンゼルとグレーテルがわざとパンくずを残しているみたいだ。
大通りをぬけ気づいたら知らない路地裏に逃げ込んでいた。
追いかけてくる小蜘蛛は、もういなかった。
「もう、いい。おろせ。ここから歩く。」狭い路地裏で息切れする俺は素直に従った。
背中から降りたハチは、二丁拳銃をくるくると回しながらホルスターにしまい足早に路地裏の奥に進んでいった。
「ちょ‥待てよ。休んでから…行こうぜ。」
千鳥足ではないがフラフラしながら奥に進むハチを呼び止めた。
(あれだけ全力疾走したのだからそろそろ体力が限界だ。)
長距離走を完走した後一気に疲れがくるみたいに息切れは止まろうとしない。
「弱音、はくな。もう少しで着く。」
冷めた目でランドセルを背負いなおしながら俺を見上げていった。今時の小学生は、ドライすぎる。
「勘弁してくれ。もうヘトヘトだ。5分でいいから休ませろ。」
足が痛い、喉も乾いた。かかなくてもいい汗までかいている。
心臓が痛い。
(それと貴重品が入ったカバンや携帯まで屋上におきぱっなしだ。
最悪。頑張って働いてタダ働きさせられ休ませてくれやしない。)
ハチは、奥に進む歩みをやめてランドセルからミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し美味しそうに飲んだ。
半分飲みかけのペットボトルを、
羨ましそうに見ていたらハチが俺にその飲みかけのペットボトルを投げてきた。
「おっと。」
落としそうになりながらも投げられたペットボトルを上手くキャッチした。
「残りは好きに、しろ。僕はいらない。」
ランドセルを地面に置きその上に体育座りに座った。
(たしか俺も小学生の時よくランドセルの上に座っていたな。)
素直に渡されたペットボトルをどう喜ぶべきか。
飲みかけじゃなきゃ一気に飲んでいたのに残念。
(世に言う間接キスと言うやつか。まぁ、小学生相手にそんな感情はないけど。)
背に腹はかえられず半分のミネラルウォーターを残さず飲み干した。
普段は、水なんか飲まないが走った後の水分補給は、身にしみる。
砂漠の上でオアシスを見つけ飲んだ水は、こんなふうなのだろうか。いやあれは、チガウカ。
「有り難う。」
空のペットボトルを横に置いて、渡してくれた相手にお礼を言った。
「礼なんか、いらない。」
そう言いつつも顔を真っ赤にしながら銃を無意味に弄び始めた。
ハチは意外にも照れ屋さんだった。
大分息切れも落ち着いてきた。「大丈夫か?なら、行くぞ。」
ランドセルから立ち上がり背負うとポケットから小さな紙を取り出しそれを見ながら奥へと進んだ。
それに続いた俺は、ハチが手にしている紙を上から覗きこむ形で見た。
その紙には簡単に綺麗な字で地図が書かれていた。
道に迷ったら見るようにと余計なメッセージまであった。
「もしかしてハチ、道が分かんないのか?」
地図を見ていると言うことは、迷っているからこそ見る必要がある。当たり前だ。
迷っていなかったら地図なんて物最初から見ない。
(てっきりハチは、地図なんかに頼らないタイプなのだと思った。)
「いつも来ている場所。けどたまに分からなくなる。馬鹿、にするな。」
地図を食い入るように見つめたり逆さまにしたりしていた。
左右を確認してからこっちだと左に曲がった。
(何と言いますか‥こう‥小動物を連想させるよな。ハムスターとかヒヨコとかね。)
小さな後ろ姿について行った。
当然、歩く歩幅が違うので直ぐに追いつく。
ハチは、負けず嫌いなのか俺より前を歩きたいのか一生懸命に小走りした。
その拍子にランドセルに入っている中身がガッっドンと中で当たっているのか派手な音が聞こえた。
小走りするたびに何が入っているのかは、気にならないが小学生の持ち物と言えば教科書や給食袋などだと思う。
(二丁拳銃をもつ小学生のランドセルの中身‥手榴弾とか?そんな訳ないか。)
「ハチ?そのランドセルの中身って?」
「何って?手榴弾や銃弾に決まっている。あと、爆弾や包帯。」
そんな事も分からないのかと罵られそうな顔をしながら脛を蹴られた。
(予想通り手榴弾かぁ。むしろ教科書自体の存在とか知らなそう。)
「いてぇ!分かったから蹴るな」
弁慶の泣き所を蹴るのを楽しむ小学生を止めさせる俺って一体…。痛い。イタすぎる。
満足したのか脛を蹴るのをやめたハチは、また俺の一歩前を小走りした。
ハチについていき右や左と数え切れない曲がり角を曲がったり時には2人で地図を見ながら道を進んだりした。
「俺らが向かおうとしている場所って結構、遠いな。まだつかないのか?」
さっきから歩きぱっなしで足が棒のようだ。
蹴られた脛も痛い。小走りするハチに少しだけワンテンポ遅れてついていく。
こんなに体力がないとは自分でも呆れかえってしまう。
(日頃の怠惰な生活のせいだな。帰ったら筋トレでもしてみよう。)
ハチは、疲れていないのかどんどん先に進んでいた。
(気をつかえとは言えないけどそろそろ目的地を教えてくれないかな?)
「ここだ。」
ようやく目的の場所に着いたらしい。(近道してきた感じがあるような…。)
まだ歩かせられるかと思ったがこれ以上歩かせられる心配はなそうだ。
「やっとかぁ。ここか‥ほう。」またこれは、何と言って良いのか、コメントに困ります。
読書感想文や意見を求められる訳じゃないけど。
ハチが先に進んで入口の扉を開いてさっさとしろと目でガンを飛ばしてきた。
ついでに中指まで立ってないでください。小学生のイメージが音をたてて崩れていくからさ。
(不良ですか。)今時、流行らないしそういうの。
本物の不良に会ったことないから分からん。
入口のドアノブを回して扉をくぐった。鍵は、かかっていないようだ。
そこは、トタン屋根の古びた工場の跡地のようだ。
屋根は、数箇所で穴が開いていて雨水を凌ぐことは出来なさそうで窓と言う窓は割られていた。
むき出しの地面には、割れた窓ガラスの破片が落ちていた。
ここで何が起きたかは、知らないままの方が良さそうだ。
工場の跡地には、機械などなく勝手に構造が工場のあの感じに似ていたからだと思ったからです。
本当のことは、ワカラナイ。
その工場の跡地の中央には、コメントに困った代物が堂々と鎮座していた。
(触らぬ物に祟りなしなのだけど嫌でも視界に入るので無理にコメントしよう。)
それは、年代物テレビが山のように積み上げられていた。
天井(トタン屋根だけど)には届かないが結構の高さで積み上げられていますっと芸能人が無理してコメントする気持ちを代弁した感じがする。
いまいちな感想しか言えない。まず、不法投棄は良くない。
不法投棄だと甘く見てはいけない。罰金を取られるのだ。
その罰金が年々高くなっている。学生の俺には、ビビル額だから大人は凄い。偉い!
(褒めても何も出ないよな。)年代物と言っても古い昭和物のテレビだ。
電気が通っていたらモノクロに映るはずだ。何個も積み上げたテレビが一斉についても嫌だ。
学校のパソコンが一斉につくホラー映画を見て以来無数にあるテレビとパソコンが置いてある電気屋さんに行きづらくなった。
(ビビリでヘタレなだけど俺の場合。あぁー嫌だ。嫌だ。こういう性格。)
中央にあるテレビには、近づかないようにした。
ハチは、俺が入ったあとランドセルをその山積みになったテレビの横に放り投げた。
投げられたランドセルはサッカーボール並にバウンドしておかれた。
そして、近くのテレビにちょこんと座ると持っている銃でガツンと叩いた。
すると古いテレビが寝起きみたいについた。
最初は、ノイズ混じりで、砂嵐で何も映らなかったがだんだん何かが映り始めた。
それは、どこかの部屋だった。
その部屋にはソファしかない寂しい部屋だった。モノクロな画面だと新鮮にみえる。
「おい。何だ。それ」
テレビを凝視した。
「用もなく口を開くな。これで、いい」
テレビの上で足をブラブラとしながら左ポケットからチューインガムを取り出し食べ始めた。
(俺の方が年上なはずですが。小学生だったら年上には敬意をはらうべきだよな。)
山積みテレビから数cm離れた場所で座った。崩れそうで怖い。
テレビに映った部屋は、ソファ以外何も映し出していなかった。
ジジっと時折ノイズがきこえるだけ。
見るものがなくなった俺は、他に入口がないか探してみた。
入ってきた入口以外なかったが山積みテレビの後ろを見ると入口の扉と同じものがあった。
ちなみに壁もトタンで出来ている。
住み心地が悪そうな場所だ。
夏は、暑すぎっていられないし冬は寒すぎる人間には、優しくない場所だね。
ハチは、チューインガムをくちゃ、くちゃと行儀悪く噛んでいた。
(ニッポンの大和撫子とは、何だっけ?)
それに今思った。刺青と銃ってすっごいインパクトある。
宣伝広告に出したら一躍有名人になりそうかも。
それが小学生だなんて。こんな絵ヅラ見たくない。
多分、五分ぐらいはたった。俺は、無口な男には決してなれない。
なんせたった五分間、この会話しない空間に耐え切れなかった。
我慢大会なら最下位。(何かを話でもしないと。でも餓鬼相手に何を話せばいい?)
腕組みしても頭を掻いても話す話題がみつからない。(会話って苦手だ。)
天気についてでも話そうか?それじゃあ、ただのお見合いだ。
いいお天気ですね。ご趣味は?
(一人漫才していても楽しくない)のでガムを噛み続けるハチに、
「なぁ、いつまでこうしていたらいい?」
「うーん?そう(くちゃ)だね。チサがあと少ししたら(くちゃくちゃ)来るからそれまで(くちゃ)待つ。帰りたいのか?」
ガムを噛みながら会話する餓鬼は嫌いだな。
「わざとか?」
ガムを粗食する口元を顎でしゃくってみた。
ハチは、風船を作りながら何の事を言われているのかさっぱりっと目をパチクリした。
多めの瞬き有り難うございました。
「いや。何でもない。」家に帰りたい。今すぐ帰りたい。
どっかの超高速で走るタクシーでもつかまえて帰りたいぐらい。
(あの映画は、まだDVD屋さんいあったか‥。)
現代に何故ドラ〇エモンがいない。どこでもドアが欲しい。
する事もないからってよく小さい時、雑草や砂いじりして記憶が蘇る。
童心にかえればとの神の思し召しですか。ふざけるな。
「あぁもう!やっていられるか。帰る。」前髪をかきあげる癖はなおらない。
なおそうと思ってもなおらないのが癖だ。
爪を齧るのも癖だしマイクを持つときに小指だけが上を向くのも癖。
だったら前髪をあげて狭いおデコを見せるぐらい許してほしい。
ズボンのあっちこっちに擦り切れた所の汚れをはらい、前屈さながらの立ち上がりをした。
(身体を労らない日だ。)
理由もなく両サイドのポケットに手を突っこみハチに背を向けのそのそと歩いた。
「勝手にすれば。あとそっち」
意外にも止めには来なかったが、ガムを吐き捨てながらハチは最後まで話す前に自慢の二丁拳銃を俺の横で撃ったため聞こえなかった。
あと入口が最大級の蜘蛛に破壊され俺は見事に腰をぬかし地面に大の字になりながら転がった。
肘と頬に擦り傷が新たにケガとして追加された。
扉は、ロウドロラーに潰された如くぺちゃんこになって俺の隣で仲良く転がって、壁のトタンも竜巻が通ったあとみたいに無残にぶっ飛んだ。
(登場の仕方にも色々あるけどこれはさすがにやめて。)
蜘蛛は、目立ちたがり屋なのか雄叫びをあげ自分に立ちはだかる物を粉砕するぞっと夕方の空に向かって派手に騒音並みの雄叫びをあげた。
(世界的人気のあのゲームキャラクターである悪役の方とかがまだマシだ。)
頭についた砂とガラスの破片もはらって蜘蛛野郎から距離をおいて立った。
いつの間にか俺の横にハチが仁王立ちで蜘蛛を見ていた
「大丈夫?」
「何?心配してくれるの?」優しいと思ったのも束の間の出来事だ。
「別に。」
銃をリロードしながらどうでもいい態度をして言った。
蜘蛛はと言うと派手な登場をしてから狂犬みたいに辺りを破壊しながら暴れまわっていた。
(破壊王ですか、見ているだけで本当に本当に気持ちが悪い。
黄色と黒のクラデーションがまた気持ち悪いとかとおりこしてしまいそうじゃないか。おえっ。)
口元を塞いで吐くと言う醜態は免れた。
「邪魔だから隅にいていろ。」
あっちに行けとばい菌を追い払う虐めがはやった事があったなと思い出にふけった。
あれは確か幼稚園だったかな。
「死にたくないならそこ、どけ。」
ハチと喋っていると人ではなくロボットと話す感じだ。
(ワレワレワみたいなっと今そんな事よりハチの邪魔にならないとこへ移動しないと。)
男だったら当たって砕けろと言う男気を見せる時かもしれん。
ヘタレと男気は、紙一重だ。
「わ、分かったから蹴るな」どうやらハチは俺の脛を蹴る事に目覚めたらしい。いて。
「ふん。助けたくないがチサ、ため。」
脛を数回蹴り終えてから、素早い動きで巨大蜘蛛に向かって躊躇なく走った。
「俺より男気があるな。」俺の場合は、なさすぎるだけか。
俺は、巨大蜘蛛の視覚にはいらない位置に移動した。そこは、丁度蜘蛛の後ろにまわりこむ位置にあった。
キモイ巨大蜘蛛の尻が左右に揺れ動いているのが、山積みになったテレビの隙間からよく見える。
虫と言う生き物に可愛いと表すマニアがいるらしい。
(どこをどう見たら可愛いいのだろ。)身の毛がよだつだけだ。
まだ、軍ヲタと略す銃や戦車とか大好きなオタクや二次元のフィギュアばっかり集める萌えを、
求めるオタクの方が少しけ分かり合える要素があるかもだ。酸っぱそうだ。
ハチの的確な攻撃をさっきからしているが全く効いていないみたいだ。
きっと全体の表面が堅いせいだ。鉄を撃っている音がする。
弾が跳ね返って巨大蜘蛛の足元に砕けちった弾がちらばっている。
ハチは、その事に気づいているのか様子を伺いつつ撃つ回数を減らし始めた。
無駄弾を撃ち続けても意味がない。銃だって無限じゃない。いつか弾も尽きてしまう。
マシンガンだって撃ち続ければ数のうち当たるが弾が尽きればただのゴミ同然。
弾があってこそ銃という武器は武器として機能する。
銃を撃った事は、ないけど映画やドラマを見てると弾の重要性がよく分かる。弾切れだ。逃げろー。
巨大蜘蛛は、ハチに撃たれている事に無関心のご様子。
ハチを襲わず何かを待っている感じがする。
(感だけど。エスパーじゃないし俺。なってみたいけど。)
ありゃ??地面が揺れている?俺が揺れているのではなくって?
地震がおきたのかと錯覚してしまったほど地面が揺れている。割れたガラスの破片や小石がガタガタと揺れている。
「地震!? こんな時に!?」震度何度ぐらいですか!
山積みになったテレビが崩れないかと恐れたけどテレビは、平然としていて崩れる様子はなさそうだった。
俺は、地震に耐えるためにトタンの壁を支えに耐えぬこうとした。
耐え抜くには心もとない。
(ハチの方は、大丈夫か?)
地震の嫌なところは、身動きができない事と揺れに規則性がない事。
次に津波の心配も‥これは、また別の次元か。
動く事ができないなら、せめて耳と目だけであの気持ち悪い蜘蛛がどうしているのか確認しないと。
巨大蜘蛛は、脚を地面に何回も何回もつきたてはぬいてはつきたてはぬいてはと繰り返していた。
(工事中のおっさん達みたいに。
まさか。この地震を引き起こしている原因は、こいつか!自然のせいじゃないってかよ。)
壁を支えに地震が収まるのを待った。
待つ間にハチが地震の最中、蜘蛛に安全ピンを歯でぬき手榴弾を投げ込んだらしい。
多分、ポケットに忍び込ませてあった物だ。
(両手が銃で塞がているかって歯で安全ピンを外すハチを目の端でとらえた。)
その手榴弾は、変わった手榴弾だった。
丸くはない、形状が細長い手榴弾だ。弧を描き見事に蜘蛛の目の前に落ちてくれ爆発した。
と思った。
正確には、爆発と閃光が巨大蜘蛛を襲った。ついでに俺も。
(たしかスタングレネードだっけ。
付近の人間に一時的に失明、目眩、難聴、耳鳴りなどの症状が襲い相手にパニックと見当識失調を、
目的に作られた手榴弾。ちなみに見当識失調とは、
簡単に言うと自分がどこに居るかなどの基本的な状況把握することが出来なくなることです。
人質事件では安易に殺傷が許されない時に、このスタングレネード(フラッシュバン)と呼ばれる特殊な手榴弾が大活躍するらしい。)これも親友のしょうもない豆知識。
一瞬の人工的に作られた閃光と音が俺の目と耳を一時的にうばわれた。
蜘蛛だけじゃなく俺まで巻き添えにされるとは。とことん運がわるい。近くにいるのが悪かった。
「くっ」何も見えない。聞こえない。
見えるといったら自分を支えてくれていた壁だけだ。あとは、白い光しか見えない。
凄まじい威力。
本物の手榴弾だったらこれより威力倍増だと思う。特殊とはいえ相手が人間なら効果バツグンだ。
現に俺が瀕死状態です。(蜘蛛野郎は、どうなった?)
徐々に視界が元の状態に戻ってきた。耳は、まだキーンとして聞こえない。
聞こえないより見えない方が個人的に怖い。
よく目隠しされ誘拐される事件があるが目が見えないだけなのにパニックになる人の気持ちが分かる。
普段は、見える景色が見えているので気にしないがいざ見えないと
その恐怖ははかりしれない。人は、目で物や人物を特定し日常で生活する時に欠かせないのが目だ。
耳も鼻も口も大切だ。見えないと意味がない。
目で見てそれが物なのか、人なのか動物なのか、虫なのかを判断する。
バラエティ番組で箱当てゲームと言うゲームをやる事がある。
あれは、箱の中に何が入っているかを手と耳、鼻で当てるゲームだ。
中身を当てるのは、難しい。いかに人が目に頼りすぎているのかが分かる。
その事をゲームで分からせてくれていると思うとバラエティ番組は、えげつないゲームをやるもんだ。
(やっと視力が回復してきた。)
見えてきたのは、山積みになったテレビと手榴弾を真面にうけてピンピンしている巨大蜘蛛と血を流しているハチがうつ伏せに倒れいる姿が見えた。
「なっ!これ。おいハチ!」地震はハチの手榴弾のおかけで収まっていた。
そのおかけで負傷したハチの元に行けた。
ピンピンしている蜘蛛野郎から引き離すためにハチを抱き抱え俺がいた場所に運んだ。
腕に血がついても気にしなかった。運んだ際に、血が地面に滴りおちる。
ハチをゆっくりと地面におろした。「いいい、生きてるよな?死んでないよな?」
抱き抱えた時、ハチの体は微かに冷たかった。
慌てふためきながらどうしようと思った時ハチの手が動いた。
そして、「がはっ。大きな声で喋るな。」吐血しながら苦しそうに口を開いた。
「よ、良かった。生きてた。」
ほっと息をしながら胸をなでおろした。
「勝手に、殺すな」起き上がりながら吐血した血を拭った。
「おい、無理するなよ」
小さなハチの背中を支えながらそう言った。
「で何があった?」
俺が見た感じでは、蜘蛛野郎に殺られたとしか考えつかなかった。
「手榴弾を投げたあと致命傷、負わそうとして、サバイバルナイフ、攻撃した。けど、殺られた。」
左腕と横腹から大量の血が流れていた。
それをみた俺は、ハチのランドセルを急いで取りに行った。
躓きそうになったがとにかく急いだ。
(自分が怪我をする時と他人が怪我する時の違いは、目の前の人を助けたい。
ただそれだけだ。冷たくなっていく人を間近で見たくはない。
助けられるなら俺は助ける。ヘタレだけど。助ける事しかできない。悔しいな。)
ランドセルは、直ぐに見つかった。俺の場所からそう離れたとこじゃなかった。
ひったくるようにランドセルを持った。
蜘蛛野郎の動きも気になるけど今は、ハチの怪我の具合の方が先だ。
横目で蜘蛛野郎をみた。
ハチの攻撃は効いていないので元気そうに跳ねたりして遊んでいた。
(ムカつく。蜘蛛のくせに)
まだ俺たちから数メートル離れたとこにいるから攻撃はしてこないはずだ。
その間に早くハチを。急ぐ足がもっと急ごうとする。
寒くもないのに震える。
(こんな時に震えてられるかよ。)「ハチ!包帯持ってきたぞ!大丈夫か!」
見りゃ大丈夫じゃない事ぐらいわかるだろう。
「あ、有り難う。空気」もう空気でいいや。
ランドセルから取り出した包帯を受け取り失血をとめるため包帯を巻こうとしたがうまくいかないらしい。
「あう」巻けない包帯にハチが泣きそうになっていた。
「かか、貸せ俺がやる。」震える手で包帯を奪いとる。
血で濡れた包帯を怪我した左腕と横腹に痛くない程度にまいた。
その様子を静かに見つめるハチ。
「よし。できた。」
結び目が不格好だが血を止めるにはちょうどいいはずだ。
「空気にして、よくやった。」
お礼は、嬉しいけど何故そんなに言いたくなそうな顔をする。
(俺に助けられたことがそんなに嫌なのか。借りを一つだな。こんな時に借りとか言ってる暇ないのによぉ。)
「ここまで、手こずると、思わなかった。最終兵器つかう。」
(最終兵器?巨人〇とか出すのか?)
「まだ戦うのか?」左腕は、見るからに使い物にならないだろう。横腹は、血が止まっていない。
では、ハチはどうやって戦う?
ハチは、怪我していない右手を口元にちかづけ指笛を吹いた。
よく響く指笛だ。
サッカーの試合で観客席の男性がよくやる指笛より高い。2回ぐらい指笛をしたハチは、満足そうに指笛をやめた。
「助けを呼んだのか?」この状況からしてそうとしか思えない。
「うん。」即答。助けが来るなもう一安心だ。
「そっかぁぁぁ!!??。」
安心だけど蜘蛛野郎が猛スピードで迫ってきやがった!
「うわぁぁぉぉうおぉ!??」逃げたいけど逃げれない。
ヘタレでも小学生を見捨てて自分だげ、逃げるのだけはしたくない。
ハチをもう一度抱き上げ蜘蛛とは反対方向に走った。
「バカ!僕のことは、いいのに。」もがくハチ。
「良い訳ないだろうがぁぁぁぁうぁああ!」怒鳴る俺。
「グワァァァァァァァァ」吠えまくりながら追いかける蜘蛛。
地獄絵とは、この事よ。逃げる。逃げまくる。逃げ足だけは、自信がある。
(外に逃げた方がいいかもな。ここは狭い。デカすぎる蜘蛛のせいで。
この節足動物め! 一匹残らずこの世から絶滅してしまえいいんだ!自然のせつりとか知らん!)
愚痴りながら入口に向かってダッシュ!
「待ってここから、出るな!」
動かない左腕を支えていた右手が俺の胸を殴ろうとしたが、弱っているハチなので胸ぐらを掴む感じになった。
「ここから逃げるに決まっているだろう!さっさと逃げたほうが」
胸ぐらをつかまれ一旦入口を目指す足が止まってしまった。
(しまったぁぁ!あわわわ!)
両手でハチを抱きかかえているので胸ぐらをふりはらえない。
「助けが来る、出るな。」息苦しそうに言い捨てた。
「それは、わわわわわわかってるけど。」
後ろを振り返る。巨大蜘蛛の眼がギラギラとしていてきもい。
いつ襲いかかってきてデットエンドになりかねないぐらい俺のHPは残りわずかだ。
(緊迫感がある。重い。)
汗が拭えないのが歯痒い。
「その助けは、まだなのかよ!」
みっともなく何回も後ろを振り返る。いつ蜘蛛の餌食になるかと思うと涙がでそう。
「むぅ、きた。」
逃げようとした扉から助けが来るわけではなく、ダイナミックに割れた窓からその助けが来た。
「わぁっ!」人が来ると思っていたのに助けとは狼だった。
それも4匹の白銀の狼だ。
「がうぉぉぉぉぉぉぉ」遠吠えが巨大蜘蛛を威嚇する。
4匹の狼たちは、蜘蛛を囲むような位置にスタンバイした。唸る様子がまさに狼で、牙からしたたるよだれが猛獣みたいだ。
(近寄りたくねぇ)「ぐわぁぁぁ」狼に威嚇された蜘蛛野郎は反撃するかのように糸を吐いた。
その攻撃を蝶のようにひらりっとかわした。
蜘蛛野郎は、まさか自分の攻撃が避けられるとは思わなかったのか明らかに動揺した。
狼たちのチームワークは見とれるほどだった。
1匹が鋭い牙で蜘蛛の目を食いちぎりほかの狼は、蜘蛛の脚にかぶりついて逃げないように固定していた。
「ぐわあああ」痛みに悶える蜘蛛野郎。俺はハチを抱きかかえたままだった事を思い出した。ので近くの壁際に運んだ。
「さすが、僕の狼たち」血をぺっと唾と一緒に吐き捨てた。(お、男前だ。)
男の俺が言うのもなんだけどよ。「すげぇ‥」連携する狼がこんなにも頼もしいなんて。
4匹は、蜘蛛野郎の目や脚を食いちぎり動けないほどのダメージをくらわせた。
「ぐるるぅ」威嚇する狼の前では、蜘蛛野郎は為すすべもなく倒れた。
倒れたにもかかわらずまだ足掻く蜘蛛野郎。
(諦めわるすぎる。)
「もう戻れ。」ハチの低い声が威嚇する狼たちを自分の元に帰らせた。
素直に従う狼たち。躾がしっかりとしている。
「いいのか?止めをささなくて?」見るからに無残なお姿になれ果ててしまった蜘蛛は生きている。
のを指差す。本当は、指とかさしてはいけない。
「いい、これでいい。僕の役目はおわり」
ハチの周りに狼たちが囲み主人に褒めてもらおうとする。
犬のように尻尾をゆらしハチを心配しているのか左腕を舐めたりくぅんと鳴いた。
(羨ましくなんかない。犬好きの俺でも可愛いよ。)
撫でようとしたら蜘蛛と同じ運命を辿りそう。アーメンだ。
「おおぉ!お待たせしました。間に合ったじゃん。」
クマ野郎がタイミングよく入口から顔をひょこりっと覗かせ入ってきた。
「この変態野郎。生きていたか。」てっきり天に召されたかと思ったのにそうはいかない。
「しぶとく生きますから。」リュックサックを入口に置いてジャージを腕まくりした。
(これからが本番だと張り切るみたいだな。)
クマ野郎が瀕死寸前の蜘蛛に近ずく、その手には、大きなカマを携えながら呑気に鼻歌まじりにスキップしながらだ。
(いつのまにカマなんか持っていた?あのリュックの中に折りたたみ傘のように持参してたのか)
疑問がこの山積みテレビと同様にいっぱいだ。
「痛いよね。すぐに楽になるよ。」
怯える蜘蛛をよそにクマ野郎はカマを大きく振り上げ処刑人のように蜘蛛を真っ二つに切り裂いた。
緑色の粘液を噴射させながら巨大蜘蛛は消えた。
中ぐらいの紫色の石を残して塵一つのこさず。
「終わったのか?」腰が抜けたのかその場に崩れ落ちる。
「うん?そうだよー。お疲れ様―。」カマを折り畳みながら石を拾った、クマ野郎は俺に言った。
クマ野郎の服や被り物などにあの蜘蛛の粘液を、返り血みたいに汚れてしまっていた。
「あちゃー。帰ったら綺麗にしないと。臭いとかとれないよこれ。」
腕についた粘液をジャージで拭っていた。
その様子は、緑色の粘液じゃなく真っ赤な返り血みたいで何か得体の知れない恐怖と焦燥が俺の中で、
ぐるぐると、
コーヒカップの速さを最高速度で回した感じに、ぐるぐると頭の中を掻き回されて、最悪な気分が一層最悪くになってしまった。
俺の長い長い一日がようやく終わろうとしていた。
最後まで、読んでくださり有り難うございました!
続きが区切りの良いところで終わっていない気がします(笑)
ほんの少しでもお楽しみいただければ幸いです。