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お話8   選球眼

 展望休憩所での相談は続く。

 お昼少し前とあって人の行き来はそれほど多くはない。

 昼食時になると混雑するはずだろうから早めに発たないと。


「三年生で受験だからそう部活の時間がとれるわけでもないけど……」

「だからこそ早い段階で色々詰めていくべきだろうね」

「今もそこそこは話せるんだ。けどただの先輩後輩とかから……もう一歩二歩三歩」


 歩数はともかく、まずは女してのゴリさんを意識してもらわないと。

 自信をつけるためにやせるというなら短期決戦というわけにもいかず、受験シーズンを考えても遅いと手遅れになるから結構微妙な問題ではある。


「趣味があうなら口実も作りやすい。一緒に帰って途中で……ありがとうこの唐揚げもうまいね」

「一緒に帰るかあ。どう誘ったら……生姜醤油がきいてるだろー? 自信作だからね!」

「ゴリさん手作りのお弁当か、すばらしいね」

「唯一のセールスポイントなんよ、うちの」


 傾向と対策を練りつつ脱線気味の昼食を終えて、これまたもらった緑茶をすすっていると、いつのまに来ていたのか自他共に認めるまぎれもない男前がわざとらしく前を通り過ぎた。悪友の一慎だ。


「おい女の子に囲まれて先行ってたんじゃなかったのか、なんでここにいる」


 さらにわざとらしく気付いたふりをしてこっちに近付いてきた。

 にやけ顔ということは誤解してるなこれは。


「ソロで登頂なんて可哀相だからと戻ってきてみればこれだ。おまえこそ女連れでなにくつろいでんだ」

「あーゴリさんもうこいつ紹介する意味ないだろうけど、同じクラスの中立一慎(なかだていっしん)

「当然知ってる。学校で一番かっこいいもんね」


 ゴリさんの反応が薄い。好きな人以外に興味なしか。

 そういえばうーこちゃんもこいつに似た対応していた。

 彼女たちにかかれば、こいつほどのいい男でも眼中にないというわけだ。


「中立君、今回ちょっと八べえをお借りするね」

「酷使してくれていいよ。しかしゴリさんに八べえ呼ばわりって、お前ほんと特定の女の子と仲良くなるの早いよな。天性のたらしか」

「……振られ続けるたらしなんてこの世にいねえよ」


 しかしちょうどよかった。

 歯にものを着せぬ一慎に、彼女の印象を聞いてみよう。

 本人目の前に聞く俺も答える悪友も大概だが。


「その天性のたらしがひっかけた新たな獲物はどう思う?」


その言葉にびっくりしたのはゴリさんだけで、奴は平然と彼女を見つめて破顔した。

 ひがみたくなるほど様になっていた。


「尋ねた時点で答えが出てる。そうやって聞くのならゴリさんとやらはいい女だろ? お前が目をつける子にハズレはない、これもう俺のなかの常識な」

「いやそういう意味じゃなくて」

「見た目でいうならやせたらもっと可愛くなるんじゃないか。外見だけで語って悪いんだけどねゴリさん」

「え、あっ、うん」


 八べえと同じこと言ってる。

 彼女がかなり面くらってつぶやいた。今日何度驚いただろうか。


「……そんなこと今まで言われたことないんですけど、男の子から」

「俺と九介は選球眼がいいからね! いい女を見分けるのはいい男の条件てやつだ」


 言うべき男が自分でなく一慎だからこそ、へらず口も現実味を帯びるというものだ。

 俺が言っても説得力がない。

 ついでにおかずをもらってやがる……

 うるうたんの弁当あるだろ。近い将来必ず禿げろお前は!




  

 最頂部にたどり着くとすでにほとんどの生徒が登りきっていたようで、芝生の展望広場で思い思いにくつろいでた。

 大パノラマといっても過言ではない雄大な景色を見下ろせる場所に疲れきって座りこむ。隣でゴリさんもさすがに息を切らせて顔を紅潮させていた。

 その間に一慎の奴は目ざとく女子達に見つけられて連れ去られていったようだ……もげろ。


「見つけた。こんなところで男子と2人きりってなんだ真昼ー」


 ゴリさんの女友達数人が含み笑いをしながら姿をあらわした。


「おい八方また新しい女の物色かこりねえな」


 俺の男友達らしき奴らもにやにやしながら周りを取り囲むように集まってきた。

 どうもー、とかいってお互い話出したが、偶然のタイミングとはいえ合コンのような雰囲気でそれぞれ挨拶している。


「うち決めたよ、やせる。今度こそやせて念願を果たしてやるんだ!」

「何が起こった。なんだか朝と気合が違うんだけど」


 ひそひそ声でガールズトークする女の子の前で、狩りの目をした男共は必死に獲物に話しかけている。

 賑やかな男女の会話を環境音楽にして無心で上空を見上げていると、ショートボブの可愛い女の子が空を遮るように俺の顔を覗き込んだ姿が目に入った。

 思わず素で「あ」って声が出た。


「おっそーい!お昼一緒に食べようと思って待ってたのに」

「あらそれは失礼。途中で寝てたのと、途中で食べてしまいました」

「どうせパンだろうしまたお弁当分けてあげたかったのにな」


 ふくれっ面で腕を組んでいるうーこちゃんのその姿に、男共はへろへろになって見とれている。愛らしいもんなしょうがない。

 女の子たちは面識がないようで、それでも学年の人気者へ興味あり気な視線を送っていた。


「えっとね、うちがひきとめたんだ明春さん。それでこんな時間に」

「そうなの、ってキューちゃんの知り合い?」

「朝に知り合いになったんさ五里といいます。ということで八べえは悪くないんよ」

「八べえ?!」


 男女数人のハーモニーを聞いたその瞬間、立てと言わんばかりにうーこちゃんに襟足をつかまれた。痛いっていうか歩くの速すぎて服伸び伸びになっている。


「どこへ連れていくつもりなので?」

「黙って」

「いやいや周りみんな見てますし、俺引きずられてるんですが」

「うーるーさーいー」


 小さい体のどこにこんな力が。

 広場を下った人気のない雑木林のなかでようやく離されると、ジト目全開の彼女に無言の圧力をかけられた。状況を説明しろってことだよな。


「寝てたら彼女も横で寝てたので」

「ふうん」 

「目が覚めたときに二言三言話しまして」

「へえ」

「その話のなりゆきで相談にのってですね」

「相談?なんの」


 恋愛相談、と言ったとたんうーこちゃんがぷっと吹き出した。

 爆笑と表現しておこう。


「そっかそっか。どうせそんなことだろうと思ったよ」

「ですよねー」

  

 言われるがままに木陰に腰を落ち着けると、彼女が(かばん)の中から弁当箱を取り出してきた。

 ありがたくただきます、と一礼しつつ、もらった梅干入りのおにぎりをほおばりながら烏龍茶も受け取る。

 なにからなにまでお世話かけてるなこの子にも……


「今日のは失敗じゃないよね」

「もちろんウマウマでさ」


 料理が得意でないと公言するうーこちゃんだが、俺が味加減をのたまうなどもってのほか。もらえるだけでもありがたいのだ。


「これで橋渡しみたいなことするの何度目? あたしが言うのもなんだけど、キューちゃんて仲人みたいなのに縁があるよねえ」

「良縁ばかりってのが俺のひそかな自慢だよ」


 何回目か忘れた。しかしまあお互いの気持ちが通じ合う瞬間を見れるってのはなかなかない経験なのだ……悲しくなんかないんだからね。


「あたしも大事な幼馴染を失うかもっていう時に取り持ってもらったもんね。キューちゃんなら今回だってきっと大丈夫だよ」

「ゴリさんはいい子だし、相手にも必ずわかってもらえるさ。ありがとうおにぎりおいしかったようーこちゃん、ご馳走様」


 腹は当然許容オーバー。しかし余分に作ってくれてたであろう食べ物を粗末にするという選択肢は存在しない。つまり夕飯は抜き。

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