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お話75   シャッフルでデート

 バイキング形式の朝食を済ませ、外出の用意をして皆がロビーに集まった。

 すでにシャッフルしたペア同士になって、エントランス横の空間でお披露目。

 透かし柄のフリルが可愛い、ベージュ色のワンピース型フリルスカートのうーこちゃんはいつもながらキュートだ。

 裏生地がチェックでボリュームネックパーカーの黒とチノパンの俺は、なんとかこの子と一緒にいられるくらいは次第点だろうと思う。


 ベーシックなニット編みボーダープルオーバーと黒タイツでショートパンツ姿のゴリさんは、こういったカジュアルなものが好きみたいで、クリスマスもこういう系統だった。

 ニットキャップもおろしたミディアムロングな髪によく似合っている。

 相手の一慎は偶然にもネイビーのニットカーディガン、ローライズカーゴパンツとカジュアルに整え、ゴリさんとの相性も抜群だ。


 圧巻はモデル然としたうるうたんとコーメー君のふたりだ。

 薄手のコートを片手に、露出した肩がまぶしい黒のキャミソール、造形美部分の曲線が視線を誘うなぴちぴちのデニムショートパンツと黒ニーソにパンプスといういでたちに、彼女は勝負服だとはっきりと宣言した。

 フードつきレザージャケットの黒にジーンズというコーメー君との一対はもはや恋人同士以外ありえない雰囲気を漂わせている。


上戸(かみと)くんほどのいい男と出かけるからには、私も気合を入れて勝負服でいかないとな」

「似合いすぎて抑制がきかないかもだよ、うるうちゃん」


 どうだと言わんばかりの長い脚で仁王立ちする黒髪の美人を熱っぽく見つめ、コーメー君が真顔でささやいた。うるうたんは満足そうに髪をかきあげている。

 ここで普通は一慎が怒り心頭という行動に出るはずなのだが、奴は意味ありげに美男美女のペアを見つめるばかり。

 やがて無造作ヘアのハンサムが腕を組むように無言で肘を突き出すと、うるうたんはそれをすぐ察して手をすべりこませ、恋人同士さながらに腕を組んでエントランスを出ていった。

 

 こちらを一瞥することもなく、ふたりの世界といった後ろ姿に悪友の顔が曇る。

 ゴリさんがそれを気遣って、手をつないで外に促していく。

 持ち直した表情の一慎の横顔が微笑んでいた。

 最後に取り残されたのは俺とうーこちゃん。


「すごいねえ。高明と多聞先輩もう恋人同士確定じゃん、あんなお似合いなペア見たことないよ!」


 興奮気味に俺に語りかけるうーこちゃんに、俺も満腔の意をもって頷いた。

 見た目は完璧なふたりだ。趣味やらセンスがあうというのならなおさらだ。

 悪友がどう思っているかは謎だが、俺としてはさしあたって何かリアクションを起こす必要性は感じない。すべては彼女自身の問題だ。


「あいつと一緒だとドキドキする高揚感があるはずなんだ、多聞先輩も」


 腕をそっと組んでくる。小さい彼女は俺を見上げて真面目な顔をしていた。


「気合いれて、とか言ってたからさ。あれってけっこう疲れるんだよね。それで帰ってきてキューちゃんで癒すって感じ」

「ほほう」


 俺はリラクゼーションとして優秀か。ならそれだけでも存在する価値がある。


「……悔しくない?」

「ん?」

「いいとこ取りは高明で、家族愛みたいな感覚で戻ってこられても、それは違うんじゃないかとか思わない?」

「どうだろうな」


 話しながら玄関口を抜けていく。

 快晴とまではいかないが、曇り空のなかでも日差しはちゃんと届いていた。


「あたしがいつも感じるキューちゃんへの好きって、時折家族愛みたいな安心感があるって思うんだもん。多聞先輩もそうかなと」

「……なるほど。いいお兄さんかいじめたくなる弟とかそういうとらえ方だね」

「えっちいことが恥ずかしくない、とかいうのもその延長」

「ははっ」


 海岸沿いを歩き出す。たしかにそうかもしれない。

 そういえば浴衣開帳で下着を見せていた未明の夜の出来事では、入室してきたコーメー君を見て、うるうたんもゴリさんもそっと身だしなみを整えていたのを覚えている。

 家族感覚の俺と、王子様風の美少年とではおのずと対応が異なるということか。


「嫉妬や羨望は一慎で間に合わせるさ。俺としてはうーこちゃんを今日一日歓待するほうが、実のある行動と思うからね」

「賛成だぜ!」


 飛び跳ねるように歩きながらそんざいな言葉を放つ彼女につられて、俺も少し歩みを速めた。





 婆ちゃんたちお年より向けの保養地とはいえ、探せばそれなりの見所はある。

 バスを利用してジャージー牧場でソフトクリームや牛乳をむさぼり、牛とともに写る小さい彼女にほのぼのし、桜にはわずかに早くともスイセンを見て癒され、また海にとってかえして小天橋と呼ばれる海岸線をゆたりゆたり散策する。

 結構動きのはげしい行程になっているが、もともと体を動かすことが大好きなうーこちゃんとのペアなこともあって、時間は思っていた以上に早く過ぎていった。

 兄気分で変態を発動することもなく、親密ながら健全なペアのふたり。

 この子と今日一緒だったことを感謝せねば。

 自分のくじ引き運にも感謝しておこう。


「キューちゃんが心から楽しそうで、あたし嬉しいんだ」


 まとわりつく小さな可愛い子に、にへら笑いを返す。

 うるうたんやゴリさんが男前と一緒だからといって、それはまた別の話。

 お年寄り向けの観光地でこの子に楽しんでもらうという命題をいつしか忘れ、自分が満喫していた。

 パワースポットのような癒しの光景が広がる海岸沿いを歩きつつも、水平線や並木通りを映像に収める彼女にリアクションを求められ、咄嗟(とっさ)に寒い動作の連続を披露する。

 内容は察してほしい。笑い上戸な彼女には受けがよかったのが救いだった。


 そしてお昼どき。

 現実味を実感するようでなんだが、貧乏旅行に地域名産を食する余裕はない。

 婆ちゃんからの資金提供があったものの、宿代とお土産代、交通費で精一杯だ。

 カニなんぞもってのほか。道の駅とかの食事処で海産物の丼を頂き、お互いあーんして臆面もなくいちゃついた。


「旅の恥はかき捨てだよねー」


 ソファのような席で彼女を前に抱きかかえたままの食事風景。

 野郎どもの視線が痛い。小動物のような可愛い動きと可憐さが売りのうーこちゃんは、やはりどこに行っても人目についた。

 ましてやこの密着ぶりではなおさらだ。

 今回だけは兄バカを最大に放出して持続。

 ぶん殴られて終了するオチという、いつもの心配もない。


「これまで初々しくて微笑ましいデートだったけど」


 甘食のあんみつをあーんしてもらった。

 にっこり見上げた際にショートボブの髪が揺れる。

 小さい顔に対してバランスが絶妙なやや大きめの瞳は綺麗で、思わず吸い込まれそうになる。可愛い彼女も、こういった部位では綺麗としか表現しようがない。


「今ね、キューちゃんがくれたアレ穿いてるんだ。これからは大人の時間にするよ?」


 ささやく吐息が色っぽい。うーこちゃんもスイッチが入ったようだが、明るい食事処では場違いいいところだ。

 妖しい目つきになってきたので、ほぼ人攫(ひとさら)いの様相で店を後にした。

 うるうたんの意気込みに影響されたのか、元恋人であるコーメー君への対抗か、おそらくどちらもだろう。




 

 とある神社の境内の(やしろ)に、縁結びのご利益がある御祭神(ごさいじん)があるらしい。

 前々から調べていたうーこちゃんの案内で、最寄り駅から20分ほどかけて辿り着いた。

 石橋を渡って、池のなかにぽつんと建つ小さい社でご祈願。

 手を合わせるうーこちゃんの瞑想は長かった。

 この施設は境内の末社として使われているとのことで、偶然にも人影は見当たらない。そのこと確認したうーこちゃんが背伸びをして、俺の襟元を自身にひきよせるように、顔と顔の距離を狭めてきた。


「あのね」


 顔が近い。すなわち口元も至近距離だ。


「初めてが、キューちゃんじゃなくてごめんね」

 

 とまどいながら、恐る恐る上目遣いで見てくる。反射的に首を縦に振った。

 自らを省みるに、断じて俺が気にしていい事案ではない。

 そう考え込んでいると、唇が触れた。触れてきた。

 割って入ってくるそれは、ゴリさんにも劣らず情熱的で、うるうたんに勝る積極性だった。


 うーこちゃんと正面からの本気のキスは、これが初めてになる。

 風の音を聞きながら、外で行うには刺激的な唇の交流をしばらく展開する。

 彼女もやはりあのふたりを少し気にしているのだろう。

 本心では俺も同様だ。それを振り切るように、お互いが求め合う形になった。


「ふう。これですっきりしたかも」


 名残惜しそうに唇を離しながら、飛びつくように再度の抱きつき。

 そしてこれで俺は気になる女の子すべてとナニしたことになる。

 つまるところ、人の恋路をあれこれと言う立場ではないのだ。

 ゴリさんの同郷のクラスメイトや、うるうたんのコーメー君に見せる高揚感などを冷静に観察できたのは、多分に引け目がある遠慮からということでしかない。


 未来に訪れるはずの自己満足を完遂させるというのは、この子たち全員から振られるということだ。

 受身ばかりな俺は、自分から彼女たちを振り切ることは出来ないだろう。


「贈った現物、見てみる?」


 ベージュ服の白いレース部分を持ち上げようとするうーこちゃんを、慌てて押さえ込んだ。

 俺の好きになった女の子限定かもだが、一度火がつくと外だろうが人目だろうが大胆すぎるにも程がある行動をするから恐ろしい。

 普段学校で異性に対してはそっけないというのが、ギャップとしての魅力でもあるのだが。


「あたしが一番キューちゃんに合う物件だと思うんだけどねー」


 社から境内をぬけて歩きつつ、完全にふっきれた様子のうーこちゃんが笑って言った。


「相性もよさそうじゃん。ちゅーしてみた限り」

「体のかい!」

「もちろんさ!」


 ぼんぼんと肩に頭をぶつけてくる。

 隙あらば頬にちゅっちゅする彼女の吸い付きで、後になって跡が残ったのをこのときはまだ知らずにいた。

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