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お話74   恐ろしきは女の所作

 披露宴。正確な意味である必要はないらしい。

 呼んで字の如く披露する宴、という趣旨のもと着崩した浴衣の裾から綺麗なおみ足を見せる女の子たち。

 暗がりの照明がさらに艶めかしさを増殖させている。

 ゴリさんの白い脚とうるうたんのすらりとした長いそれを交互に見つめていると、彼女たちが宴の内容とやらを説明をし始めた。


「ホワイトデーに君から貰ったやつだ。贈った本人が忘れたわけじゃないだろう?」

「……もちろんです」


 しゃっくりが出た。あの変態極まる贈り物にまったく引かないこの子たちへ感謝や安心はしたが、それきりそのことはほぼ忘れていた。


「それを穿いて見せてほしい、っていう意味だものね!」

「まったくど変態のむっつりめ。獣のくせして時折そっけないのはどういうことだ」


 下種というか下心という点では贈った意図は明白だ。

 そしてそっけないのではなくぼっち部屋で仕方ない行動なのだが、そう捉えてはもらえないらしい。

 ゴリさんからも積極性を見せたほうがいいと言わている。

 こちらから攻める姿勢というのは大事だとしても、それを想像するにみっともない押しの姿しか浮かばない。

 やはり向き不向きがあるように思う。

 自爆覚悟でいいなら、今度の機会にでも強引になってみようか。

 心の会議必須だろうけど。


「健全で楽しい彼らとの交友もいいが、やはり私の本性はこれだからな。宴は今からが本番だ」


 舌なめずりする黒髪の痴女。今本番て言葉はしゃれにならん。


「今日ほとんど八べえとナニもしてないぶん、濃密になるよー?」


 ゴリさんがナニとか濃密とかワードを強調するがスルーした。

 コートを広げて中身を見せる痴漢男ならぬ、浴衣をめくって下着を見せる露出女たち。いたずらっぽくにへらと笑うその目は本気だ。やる気だ。

 薄暗い部屋のなか、逃げる俺を追いかける狩りの女ふたりに捕まってもみくちゃにされていると、ドアを叩く音と声がした。


「おーい、九介起きてるかあ。電源切ってつながらねえじゃねえか」


 へべれけの悪友の呼びに、俺と狩人の動きがとまる。

 うつ伏せの背中に乗りかかるうるうたんに、ゴリさんの膝枕に顔をうずめる俺。

 当然裾ははだけていてアレが丸見えだ。白い肌にライトパープルがよく映える……それどころではないのだが、冷静になった色魔はそう思った。


「寝落ちかよ。せっかくの夜につまらねえぞ!」

「気がすんだりゃ戻るぞ中立。俺はまだまだ()ける、お前も付き合え」


 騒いでいる一慎に落ち着いてたしなめているように聞こえるが、コーメー君もそうとう酔っているはずだ。へべれけ口調になっていた。


 しばらくして物音が遠ざかったので、まとわりつく彼女たちを引きずって一応外を確認する。ドアを開けて誰もいないことを確認したが、扉の影に隠れていたコーメー君に胸倉を取られてれて補足された。


「奴は先に返した。部屋の中を見せてもりゃおう」

 

 ()わった目に気圧されて、彼を迎え入れた。

 薄暗い部屋の照明にも目立つふたりの可愛い破廉恥を一見して、酔いがさめたのか動作を固定させる。

 無造作ヘアのハンサムの姿に、うるうたんとゴリさんは酔っているにもかかわらず、いつの間にか裾を直して浴衣の襟を正していた。


「あ、あれ。卯子は……」

「明春さんはうちらの部屋で寝てるよ」


 含み笑いのゴリさん。少し赤い顔の嫣然とした姿に、さすがの彼もお、おうと見とれるばかりだった。


「彼女がここにいると思ったのか、あわてんぼうだな上戸くん」


 美しい髪をかきあげてうるうたんが微笑する。

 アルコールのためではない赤ら顔になったコーメー君が、ひとつ咳払いをした。


「そ、そっか。ついあれがここに連れ込まれたと……」

「君の相手は明日してあげるから、今は仕込みの邪魔はしてくれるなよ?」

「……」


 とらようによってはすさまじい意味の台詞になるのだが、うるうたんにとっては昼間のデートの相手というつもりなのだろう。

 しかし勘違いしてしまうほどの艶やかな言葉尻と出で立ちに、さすがの美少年も呆けたように頷いた。

 うるうたんに背中を押されて出て行くコーメー君の表情はふやけきっている。

 これは遊びや興味本位などというものではなく、完全に惚れたなと推測した。

 また彼女に篭絡された男が誕生した瞬間だった。


「さてと」


 扉を閉めてロックしたうるうたんがにんまりとして振り返った。

 この子は本当に小悪魔なのだろう。今ひとりの男を翻弄しつつ追い払ったすぐあとでこの顔である。

 後ろから抱きついたままのゴリさんと前後から挟むかのように、胸に顔をうずめてくる。


「そろそろかな」

「そろそろですね」

「なんの合図です?」


 しばらくその姿勢でじっとしていた前後の狩人が、浴衣を完全に脱いで上下の下着姿になった。咄嗟の判断で部屋から逃走しようとするが、前後からの魔の手に逃げられない。


「とりあえず披露し終わったので、完全に見せてみたんよ」

「視界は完全に閉じました」

「かわいいな君は。しかし見せ物がひと段落したから、つぎはお風呂だ」


 えっ? っとつい前のうるうたんを凝視してしまう。気がついてふたたび閉じた。


「だって部屋のなかに温泉あるんだよ? 使わないともったいないじゃん」


 人攫(ひとさら)いとはこのことか。説明しながら脱衣所へと引きずり出した彼女たちだが、今はお互い水着はないはずだ。


「温泉というのは裸のお付き合いだぞ。そんな無粋はいらん」


 下着すら脱ぎだしたうるうたんとゴリさんだが、脱衣所のガラスのドア付近を占拠しているので逃げられない。もはや収拾は不可能なのか、半裸の彼女たちに近寄ることも、触れることもできなかった。背を向けて震える子羊状態だ。


「恥ずかしいのはうちらも同じだよ! ここは勢いで入っちゃうんよ」

「そうそう。だから君も脱ぎなさい」


 うるうたんが俺の浴衣に手をかけだしたので、勢いよく露天風呂方向のドアに非難した。それでも色魔の性なのか、薄目で彼女たちの様子を窺う。


「……」

「残念だったな変態たらし」

「色欲の塊よね」


 バスタオルを巻いていた彼女たちがいたずら顔でぺろりと舌を出していた。

 俺へのからかいはすでに堂に入っている。一瞬期待してしまった自分が恥ずかしい。


「腰をタオルで隠すのは許してあげるから、八べえも一緒に入ろうね」


 拒否不可能なので即効浴衣を脱いでタオルを腰に巻く。

 大晦日うるうたんに見られたときと同じく、ゴリさんにも興味津々で一点を注視された。だからふたりして含み笑いで顔を見合わせるのはやめなさい。へこむから。


 露天の部屋風呂は大浴場に比べて当然広さでは劣るが、ほかに誰もいない空間ということで使い勝手では上を行く。

 岩風呂風の湯船と目の前に広がる大海原の絶景からは、波の音すら聞こえてくる。

 まさに夢見心地なのだが、本当の天国というべきなのは背後で体を洗いつつある彼女たちがいるためだろう。

 タオルを取った裸の背中ふたつを無心で流し洗い。

 極力バスルームのミラーを見ないようにして、透き通るほどの白い背と黒髪がかかるしなやかな背中とを流したり、逆にふたりして背洗いしてもらったり、髪を洗いっこしたりして試練の荒行をこなしていく。

 血が一部位に集中しないように無表情だったが、うるうたんやゴリさん双方が相手では男の本能など抑えようがない。


「前かがみと相反する平然とした顔。君の葛藤が読み取れて面白いな!」

「獣になっても責任は負いませんよ?」


 造形美部分を水着なしで洗わせる恐るべき痴女ぶり。視界を閉じて業務を遂行するも、ときどき部位を確認しなければならないのは天国か地獄だ。


「責任は取ってくれ。君が初めてにしたいからこうしてるんだから」


 こちらを向こうとする気配のうるうたんに目を閉じながら押さえこんだ。

 先に体を洗い終えた黒髪の美人が湯に浸っていると、次はゴリさんの番だ。

 うるうたんも凶悪だったが、この子のアレは変態の忍耐を振り切れるほどの上物。

 もはやクッ、とか歯を食いしばり必死に耐えてスポンジを上下左右に動かした。


「襲い掛かるなら、うちからねー」


 できるか。湯船のうるうたんがむう、と難しい顔をしている。

 開けたり閉じたりの目は忙しい。前かがみながらも主張するなにかを見続けるうるうたんから逃げるような姿勢で泡を流した。


「でもさすがにそのままの姿で洗いっこは恥ずかしいね」

「顔が首まで真っ赤だぞ五里くん。私は二回目だから少しは慣れたが」

「ここで八べえが獣になってくれたら、うちとしてはいろいろ助かるんですけど」

「一度に初めてのふたり相手か。まさに色魔だな」


 湯船の端にある石畳にもたれつつ、乗り出すようにこちらを見るうるうたん。

 ゴリさんもそれを受けて揺れながら笑っている。反則的な動きでついに俺は限界を迎えた。旅行初めての土下座で作業は中断させてもらい、とりあえず天然温泉に浸かって猛りきった何かや昂ぶった感情を鎮めるため無言の瞑想に入った。


「私のは最後まで洗いきったのに、五里くんには堪えきれず昇天か。何からしら負けた気分だ」

「途中で投げ出されたうちとしては微妙かな」

「相打ちか?」

「まあお尻はうちの勝ち。そのほかでは押され気味ですけどね!」


 お湯をはじいて立ち上がったゴリさんが、岩風呂にもたれて仰向けぎみに瞑想している俺を背にした形でもたれかかってきた。足と足の間にちょこんと。


「あっ、抜け目ないな君は」


 バスタオルを巻き直した状態とはいえ、肌との触れ合いはかなりの忍耐を必要だ。

 せっかく猛々しいのが収まりつつあるというのに、目の前でもみあう彼女たちのキャットファイトで元の木阿弥に。

 乱れて見える胸部やら臀部(でんぶ)やら、破廉恥の様相はもはや上限がない。


 リミッターが振り切れる前に風呂場を後にするも、狩する女と狩られる男は布団のなかでも揉みあいへしあい、明け方までそれは続いた。

 ついには川の字で3人仲良くおねむとなったが、この事態がほかの連中にばれなかったのは幸いだった。

 うるうたんとゴリさんはうーこちゃんが目を覚ます前に部屋に帰還し、何事もなかったかのような態で起床を迎えたらしい。恐ろしきは女の所作だ。

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