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お話72   ここでもぼっち

 休憩がてら豆や栗が地元の特産品である洋和菓子店のカフェスペースで、甘食を堪能。黒豆茶付きの栗わらび餅やクッキー生地のシュークリームなど、甘いものに目がない女の子たちの胃袋をわしづかみしていた。

 特に注文してから中にクリームを入れ始める製法でサクサクのシューは絶品だった。

 無言でご当地人気メニューを消化する彼女たちの顔は本気そのもの。

 ほどよい甘さで空腹を満たしていた。 

 リミッター解除のゴリさんをはじめ、小柄なのに大食のうーこちゃんやうるうたんも、男どもの給仕を受けながら黙々とたいらげている。


 ようやく落ち着いたのか、口元にクリームをつけたうーこちゃんが抹茶をひとすすりして口を開いた。


「生菓子は買えないけどここの気に入っちゃった。なにかほかのをおみやげにしよっと」


 お手拭でコーメー君にクリームを拭き取ってもらいつつ、席を立った。

 異議なし、とうるうたんとゴリさんも後に続く。

 早速土産物の物色に行った女の子たちを尻目に、のんびりとしたお茶会だった男たちはそれぞれ一品目の甘食をつついている。黒豆茶を含んで、一慎がやれやれと肩をすくめた。


「これ昼ご飯扱いだな。買い物もすぐには戻ってこないぞ」

「さっきまで男旅行の行程だったし、おとなしく待つしかない」


 コーメー君は女のそういう行動に慣れているようで、とくに感慨もなく落ち着いた雰囲気のシックな店内を見回していた。

 女性だらけの店に居心地が悪い感覚がするのは、どうやら俺だけのようだ。

 悪友は平然としている。


「ちなみに宿泊地はオーシャンビューの宿ということで、当たり前だが夜は魚貝が中心だ」

「肉が食いてえ」


 俺の補足説明に、一慎がため息をもらした。同意見だ。


「肉欲は道中の買い食いで発散だな」

「……表現に誤りがあるけど、言っていることの意味は理解できる」


 ボケた様子がまったくない一慎の呟きに、一応コーメー君が反応した。

 このふたり、やりとりの息というものが結構合っている気がする。





 そうそう都合よく道中で買い食いができるわけもなく、散策中に偶然見つけた外観が城の美術館に立ち寄る。

 うるうたんが興味を示し、コーメー君もそれに同意したからだ。

 ゴリさんもうーこちゃんもそれに連れ立って入館して行ったが、俺と一慎は満たされない肉欲を近くのコンビニで買い食いして発散していた。

 芸術とか絵画に造詣がまったくないふたりのがさつな男は、一度は付き添って見たものの、絵画のひとつに感嘆をあらわすコーメー君と、それの色使いに賛同したうるうたんとの趣味の合致に憤然として先に出てきてしまっていた。

 どちらかというと嫉妬より食い意地が優った瞬間だった。



「芸術を理解しないがさつな男ども、ってな感じの視線だったなうるうたん……」

上戸(かみと)の野郎うまくやりやがって。女の子3人引き連れて両手どころか手に余る花園かよ」


 カリカリのソーセージにかぶりつく子供たち。

 一慎の言葉尻にはスルーでいこう。


「こうしていると中学時代の素泊まり旅行を思い出すな」


 肉欲を少し満たして気分が変わった悪友の言葉に、同じように感じていた俺も頷いた。


「食堂も風呂もない民宿未満の宿で寝泊りだ、忘れるわけもない」


 しばらくコンビニ前の路肩で昔話にふけっていると、美術館から出てきた女の子たちとそれに囲まれる美男子がこちらに近寄ってきた。

 一慎が上戸、と名指しで彼に飲み物を放り投げる。

 俺も女の子たちにお茶を配った。


 コーメー君がうわっと声をあげた。渡された飲み物は炭酸だったようで、蓋を開けた際に中身が零れ落ちたようだ。面倒見のいいゴリさんと幼馴染のうーこちゃんがこぼれた部分にハンカチをあてている。

 一慎に目を向けると、奴はにんまりと笑っていた。

 なさけない仕返しだが、子供モードの俺たちには大うけだ。


「上戸くんにあやまれ」


 うるうたんが恋人の頭にぽかりと一撃。

 笑った俺も同罪なのか、ゴリさんとうーこちゃんに頭をはたかれた。


「君らはがさつなだけでなく、性根もがさつなのか。上品な彼と差がありすぎるぞ」

「そうだよ!」

「今回ばかりはキューちゃんの味方できないね」


 お母さんのような子と彼の幼馴染も立腹中だ。

 険悪には程遠い雰囲気だし、コーメー君自体もいやいいんだとか笑っているからこの話はすぐ流れたが、可愛い女の子たちが無造作ヘアのハンサムと歩き出したので、お子様の男ふたりも後を追った。


「これはいよいよ奴の思う壺だ。見ろあの後姿、ハーレム状態じゃないか」

「自業自得すぎて泣けてくるけどな」


 悔しそうにするも男同士の旅行然としてきたのか、一慎の横顔は楽しそうだ。

 がさつ者同士肩を組んで駅まで闊歩した。

 当たり前だが、我々はノーマルだ。

 振り返る彼女たちのジト目に無意味な笑いで応えていた。


 駅でローカル線の第三セクター鉄道に乗り換える。

 宿への最寄り駅まであとは座って過ごすのみだ。

 合席の4人には芸術のわかる面々、がさつな奴らはその後ろで、華やかな声を聞きながら風景を見つめて旅行気分に浸っていた。


「もっと怒り狂うと思ったが」

「俺か? いやいやせっかくの旅行だし」


 俺の問いに、悪友はははっと白い歯を見せて失笑した。


「趣味があったりするのもせっかくだし、か?」

「それは個人の自由」


 達観してるな。外を見る横顔はそれを証明していた。

 さっきのいたずらも一慎にとってはただのからかいで、怒っているわけではないのだろう。

 ああいう仕掛けは俺も散々やられた記憶がある。


「ところで部屋割りだがな、どうなっている?」


 一慎が姿勢を正してこちらを見た。気がかりはそっちのほうだったか。


「それが少しややこしくなってる。さすがに婆ちゃんのコネで宿泊できたのはいいけど、場所も部屋人数もまちまちだ」

「具体的には?」

「豪華な部屋が1人。一番割安な部屋が3人。普通の部屋2人」

「……どう割り振るんだそれ」


 お互い腕を組んで考えた。男が一番安い部屋としても、女の子の誰かが1人ということになる。豪華なのはいいが、ソロは寂しいだろう。

 女の子たちがどう意見するかだが、自分としては少なくとも夏のように風呂の前でソファということだけは避けたい。

 宿にチェックインするまえに、ロビーで話し合いの場を設けよう。





 駅から5分、ワゴンの送迎バスに揺られて海に隣接する全部屋オーシャンビューの目的地に到着した。

 さほど大きい旅館ではないものの、それだからこそ全部屋に温泉がついており、料金も客室露天風呂があるわりにはリーズナブルな設定になっている。

 和洋式の玄関から吹き抜けのロビーに入り、受付からは離れた長椅子に腰掛けながら遅まきの部屋割り相談に移行。

 チェックインの先客がいるので、それまで待機の時間を利用する。


「簡単じゃん! お婆ちゃんが宿代の補助してくれて、予約もとってくれたんだから、豪華な1人部屋はキューちゃんでしょ?」


 当たり前の行動として俺の膝のうえに座りながら、うーこちゃんが断言した。

 それはそうかと納得するうるうたん。


「うちら女3人部屋で、中立くんと上戸くんが2人ね?」

「いいのかい五里さん? 女の子一番安い部屋になるけど」

「いいよー、お部屋に温泉あるからね」


 にっこりするゴリさんのべっぴん顔に、一慎がつられてにやりと笑った。

 俺のにへら笑いとはえらい違いだ。


「ふむ中立と相部屋か。夜首絞められないようにしないと」

「入浴中も気をつけろ。入水の拷問にかけてしまいそうだしな」


 お互い微笑んでにらみ合う男前たち。もはや険悪とは言えない気安いいがみ合いなので、女の子たちはそれに関して突っ込まなくなっている。


「1人部屋は――がなるべきだよ!」


 九介、八べえ、キューちゃん。

 それぞれが俺の呼び名でソロ部屋になることを奨励し、拒否不可能の決定を下す。

 俺が口を挟むヒマもなく、受付でチェックインの手続きをし始めた。

 そのあとに続くハンサム野郎たち。

 学校の昼食、夏の保養所、ここでもぼっちか。

 部屋の豪華さでは寂寥感は癒せない。

 まあ就寝や入浴以外は野郎どもの部屋に入り浸ってもかまわないだろう。

 温泉好きとしては、深夜だろうと朝だろうと豪華な露天風呂に入りまくって料金のもとを取ってやるつもりだ。

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