お話69 本心なので
店内の忌避の視線と近寄るなオーラに苛まれながら、とうとう奴らは目的を完遂して獲物を手に店をあとにした。
ついでに言えば、俺も女の子3人分の下着を買わされた。
あまりにも堂々とする奴らの品物選びに耐えられず、店員さん任せにして隅っこで震えていた。この場だけでいえば正しいのは彼らで、自意識過剰の自分がおかしいのだろう。
とにかくも男3人が下着専門売場から脱出したあと、疲れきった精神状態から回復するために、しばしの休憩をとることにした。
堂々と見えたつんつんともっさりも気疲れだけはしたようだ。
「やれやれだ、ずっと監視されていたような気がしてたな。変質者か俺らは」
フードコートで喉を潤しながら、つんつんが吐きすてた。
「店員に向かって彼女への贈り物だって事前に言ってるのにな。商品には一切手をつけてないし」
たしかに男が触れたものを買う気にはならないか。こいつらも結構考えている。
結局のところ女性店員さんに丸投げして選んでもらったという無難な買い物だった。
しかし俺が選んでもらう際、関係ないこいつらがやたらとはりきって、俺の知り合いである3人の女の子の特徴を店側に説明しだしたのにはさすがに驚愕した。
そしてこれならどうでしょうと推薦してきたのは、可愛いのとエロ可愛いのとどエロなものの3点。見た瞬間石になった。
固まった俺をよそにまた勝手に了解をだすつんつんともっさり。
我にかえったときにはお会計の金額を提示されたあとだった。
変態の自分が強く否定できないのをよいことに、奴らは面白半分でエロ下着を買わせることに成功したというわけだ。
ちなみに下着はショーツであり、ブラではない。
年齢身長、ある程度の身体的特徴や、推測のサイズなどを自白した俺に奴らを責める資格はないかもしれない。
最初に考えていたのとは大きく違う、まさにド変態の買い物結果に疲れは増すばかりだった。
気疲れの男ふたりはそれでも呵呵大笑している。
学生の出せる予算内なので上等なものとは言えないが、それでも満足気な様子だった。
変態心理としては自分も同じ考えだ。しかし冷静になってみると恋人でもない女子高生への贈り物に下着とは、気持ち悪さと気味悪さの極致だろう。
アクセサリーやら甘食やらと予定していたのにこの違いとは……。
野郎どもと買い物に来た自分の愚かさを悔やむしかない。まさに自業自得だ。
せめてハナコへの贈り物は安物であるものの、アクセサリーでも選ぼうか。
「八方14日空けとけよ? 花子とかも来るからみんなでお返しの会合でもしようぜ」
「ああ」
「夕方までに美人さん揃いのあの子たちにそれを配っておくんだな。俺の予想では大うけすること間違いなしだ」
もっさりが無責任なことをほざいた。
わかっているのは、彼女たちは懐が深いということだけだが、中身が見えないので受け取ってもらうことは可能だろう。
あとは確認するのを家のなかでひとり、という限定した環境でしてもらいたいものだ。学校で開封というのはどんなことをしても避けねばならない。
ホワイトデー当日。朝うるうたんの部屋でエロくて可愛い系のブツを進呈。
昼休み同好会部室でゴリさんにどエロなものを献上。
放課後部活が始まる時間の前に、体育館裏でうーこちゃんにキュートなアレを贈って女の子3人へ現物を配り終えた。色形状などの詳細はまたの機会に。
中身を確認するのは今日帰宅してから一人きりの部屋で、という約束をしてもらった。
下着を贈るという普通の感覚ではどん引きな行為にはたして彼女たちはどう思うのか心配になるが、そこはつんつんともっさり頭の男どもが保障してくれた。
「女友達やらただの知りあいなら引くどころか距離をとられるところだけどな、お前の場合は違う」
下校の道すがら、花子たちとの待ち合わせ場所に向かいつつ、奴らが自信を漲らせてご高説を垂れ流していた。
春先となると堤防沿いの道も突き刺すような冷たいものではなく、日を追うごとにやわらかい風になっている。桜並木が咲き誇るのももうすぐだ。
「多聞先輩も五里も明春も、八方九介という固体の信者だからな」
「そうそう。なぜあんな可愛い子たちに心酔やら執着されているのか未だにわからんが、事実としては溺愛されてるものな」
「……立派な奴だなそいつは」
彼女たちはそんな甘い相手ではない。
こちらには決定権も拒否権もないし、色事に関しては男女が完全に逆転している。
あの子たちが普段見せている一面は純真とか清楚とか貞淑だろうが、もう一面は破廉恥かつ大胆な恐るべき狩人の女の顔だ。
口が裂けても暴露はできんが。
「つまり普通の女の感性とは違うんだよあの3人は。お前がよく見えるんだから、どれだけ引くものを贈っても問題ないって」
つんつんももっさりも無責任というか、もしどん引きしたとしてもそれはそれでいいと思っているんだろう。そのにやにや顔がすべてを語っていた。
まあどちらにしてもそれに甘乗っかりした自業自得だ。
明日以降の反応は明日以降に対応しよう。
「今開けていいかい?」
出会った早々につんつんともっさりのふたりは、それぞれの彼女とともにどこかに消えた。奴らの贈り物も下着だろうし、衆目に晒せるものでもないという理由と、すでに仲よくなった俺と花子を置いてきぼりでも問題ないという判断からだろう。
ファーストフード店に入ろうとした花子を誘導して、以前一慎と来店した川沿いのカフェでお返しの品を贈ってみた。
テラスに座る一ヶ月ぶりに見た花子を正面から見返して、彼女が贈り物を開封するのを黙して待つ。
「あれ、なにこれ!」
取り出したのはピンクゴールドのステンレスリング。
シンプル極まりないデザインで、基本アクセサリーをつけない花子にも受け取ってもらいやすい作りになっている。
「アタシに似合うかな」
なぜか左手の小指につけて、こちらに見せていた。
綺麗な肌の手に綺麗な指だ。女性らしい一面をまた発見できた。
「似合うと思ったら買ったのだ」
「ありがとうなのだ!」
おかしな言葉遣いで会話したが、花子の満面の笑みを見て俺も笑い返した。
喜んでくれたようで何よりだ。
カフェオレをすすりながら贈り物の話をしばらく展開していたが、ほぼすっぴんだったこの子が薄く化粧しているのを見て、そのことを指摘した。
「あの子らが男と会うのに少しは身だしなみを、とかうるさいからさ」
似合わねえだろ? とかわざと伝法な言い方をする花子だが、眉を整えてナチュラルメイクをするだけでも随分と女の子らしく見える。
実際会ったとき少しとまどったくらいだ。
「十分可愛らしいよ」
なるべくさり気なく、あっさり風味で応えておいた。
あえて粗暴に振舞っても彼女は可愛らしく映る。もしくは男前に。
「そうかい? 大柄なアタシにこのセーラー服もなんだかうさんくさいしな」
「足長いし、おかしなところはないけどね」
「口がうめえなあコイチローは!」
ばしばし肩をしばかれる。カフェオレこぼれるからやめなさい。
「つかよ、コイチロー彼女いないってウソだろ」
「どうして」
豪快にブラックを飲み干す花子。俺もつられて一気飲み。
少し舌をヤケドしそうになったので途中でやめた。
「いろいろ手馴れてるみたいだしさ。褒めるの自然だし」
「まあ本心なので自然かな」
水で口内を無音でゆすぐ。少し痛い。
「いろんな女こまして侍らせているんじゃないか?」
「わははばれたか」
「バーカ」
意気込んで反り返ったが、スルーされて一蹴された。
合いの手も堂に入ってきた気がする。
「予想以上にいい物もらっちまったなあ。このあとメシいいもん食わせないと」
「女の子らしいものを贈ったから、行く場所も女の子っぽいとこな」
「……コイチローはアタシに女の子になってほしいのかい?」
「女の子だよねハナコ」
そのままの答えを返す俺に、花子がため息をつきながら肩をすくめた。
背もたれた椅子がきしんでいた。
「足組むのなしな」
長い足を組もうとした花子が、はっと気がついてスカートの裾を押さえた。
パンツ感覚でいたのだろう。
「ま、アタシのなんて見たくないよな」
「俺も周りの男も見るのは禁止だ」
紳士ですからね、と付け足して残りのカフェオレを飲み干す。
花子といえば、つけたばかりの指輪を手かざしで見上げて俺に視線を向けた。
「不思議なやつ」
ぼそりと呟いた彼女だが、すぐいつもの調子に戻って豪快に立ち上がった。
「さてメシいこうぜ。女の子っぽいところだろ? アタシの判断で決めてやるよ」




