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お話65   ぶらりふらり

 非常に不愉快だ。

 この中にいると自分がいかに埋没しており、(にじ)み出るものがなにもないというのが露骨によくわかる。

 うるうたんとうーこちゃんとゴリさんが、他に類を見ない物好きかも思い知った。

 ワイルドな男前の一慎。シャープで美男子なコーメー君。

 ……俺。

 なぜに自分がハンサム野郎たちと一緒に行動せねばならないのか。

 無造作ヘアをかきあげてコーメー君がかすかに笑った。


「一度中立とはちゃんと話したいと思ってたんだ」

「偶然だな俺もだ軟派野郎」


 一気飲みしたホットのブラックコーヒー缶をゴミ箱に遠投する悪友。

 いい男はこういうとき狙いをはずさない。


 曇天の空の下待ち合わせたこの公園は、以前コーメー君がうるうたんに振られた場所であり、一慎とその彼女が仲直りした場所でもある。

 今回男だらけの集会もどきを提案したのはうーこちゃんの幼馴染だ。

 振られたことにいつまでも(こだわ)っている、と自身が暴露したものの、それはうるうたんに向けてではなく、一慎に対してだったらしい。


「暴力的で粗雑な君の、一体何に惹かれたというんだろうな。外見はいいんだが」

「女々しいお前よりはまともなんだろうよ。顔以外はな。顔以外」


 悪友も拘っているようだ。

 さすがの奴もコーメー君のハンサムぶりは認めざるを得ないらしい。


「まあでもしかし……一番の不思議はやっぱり」


 いまにも噛み付きそうに威嚇する一慎をさらっと流して、俺に向き直った。


「残念会で二人して湯に浸かったんだが、それだけでは何もわからずだ」

 

 一慎が思わず鼻で笑った。意図しない行為にみえた。


「こいつを理解しようとしても、お前じゃ無理だろ」


 風が冷たい。俺はいまだに無言。

 いいかげん暖かい場所に移動しないかなこの男前どもは。


「無理か」

「九介にでれでれの明春さんを理解できないお前に、九介本人の何がわかる」


 ようやく一矢報いたのか、押し黙るハンサムを見やってやれやれといった様子のこれまたハンサム。どちらも容姿の優れた野郎どもだ。

 不愉快ゆえに、俺が無口になるのは当然の成りゆきだと思う。





 寒空を(こら)えつつ歩いてきた結果、男3人が選んだのは鼻水を垂らしながらすするラーメン。コーメー君が何を提案したかといえば、野郎による野郎のための野郎向きの過ごし方であった。

 つまりいつも俺や一慎がしている放課後のだらだらを、自分も体験してみたいらしい。


 ハンサムすぎるというのも少し困り者で、コーメー君にはくだらなさ過ぎる行動を一緒にとってくれる男友達がいないとのこと。

 明確な用事、たとえば女性関係とか人気のイベントとかそういうときには一緒に行く知りあいはいるものの、気のまま赴くままといった遊びはほとんどしたことがないようだ。


「女ばかりに(まと)わりつかれて男友達ができねえか。ざまあみろだ」

「中立は意趣返しのときが一番輝いているな」

「汁が飛ぶ。熱いからそっと食え」


 ずるずると麺をすすりながら、男たちは一心不乱に丼に集中しつつ、応酬するのをやめない。

 最後は俺が隣の席の悪友に言った文句だ。


「替え玉はやめとけよ」


 男前野郎どもの動きが止まった。

 そう釘さした俺だけは箸を動かしていた。


 張り合う気まんまんだった奴らが口から汁を飛ばして抗議の声をあげたものの、俺には婆ちゃん家でうるうたんとすごす夕食時間のほうが大事だ。

 一切の雑音をスルーして食べ終える前に、一慎がぼそりと呟いた。


「牛丼か」





 こいつらが何故チキンレースもどきの張り合いをしているのか理解できない。

 さらに言えば、長身で筋肉質な一慎がよく食うのは認識していたが、一見体までシャープなコーメー君が胃袋まで丈夫だとは想定外だった。

 バクバクと白ご飯をかきこみながら、必死にどんぶりを傾けつつ、またもちくりと応酬しあっている。


「あまり無理すると逆流するぞ中立」

「お前こそ太ると女にもてなくなるんじゃね」

「お茶くらい静かに置け。飛沫(しぶき)がとんできて熱い」


 最後は俺が隣の席の悪友に言った二度目の文句だ。

 奴らが並盛りをがっつくのに対し、俺は小盛りを静かに食べる。


 とどめとばかり、外見だけはハンサムなふたりの子供たちは、ファーストフード店にて食後のハンバーガーをもりもり消化していた。

 ここまでくると俺はレモンティーだけを注文。

 分厚い挟みパンへ獣のようにかぶりつく奴らの姿はとても男前には見えず、ただの欠食児童だ。


「おいこれが本当に君らがよく展開する放課後の行動なんだろうな」


 少しげっそりしてコーラを嚥下(えんげ)するコーメー君が今更の疑問を口にしたが、ポテトをくわえたままの一慎も今更気思い当たったようだ。


「いや、今までほとんどメシのはしごはしたことない」

「……」


 お互いの敵対心が自業自得を生んだことで、誰のせいにするわけにもいかなくなったか、彼らはそれでも注文の品をすべて平らげた。

 親御さんの教育かそれさえも張り合っていたのか、食べ物を残すという概念はないようだった。


「もう食えねえ」

「夕食は抜きにしよう……」


 天井を見上げて力尽きる悪友と、落ち込むような姿勢でテーブルに肘をつくコーメー君。満腹すぎて言葉の応酬もない。

 力尽きた奴らの様子を尻目に、自分といえば奇特にも程がある物好きな女の子から来るメールの返事を返していた。この意味不明な会合は一応内密にしておく。


「あとは……何をする予定だ」


 そのままの体勢でコーメー君が問いただす。

 一慎は口呼吸でそれどころではなさそうったった。


「動けるようになるまで休憩したあとは、そうだな」


 男友達ってのは特に予定や行き先がなくとも、ぶらりふらりと適当にどこだって徘徊するもんだ。商業施設で興味のある店舗を見回っていれば、そのうち腹の張りもなくなっていくだろう。

 気持ち的な張り合いもこれでなくなる、とこのときは思っていた。


 しかし甘かった。やつらは胃袋のチキンレースを諦めた代わりに、店舗ごと細かい拘りを発揮して、意見を激突させ始めたのだ。

 奴ら以外どうだっていい価値観を言い争うその姿は、もはや男前同士ではない。

 俺が保護者、ふたりはただのきかん坊だった。


「凶暴な君にカジュアル系はまさに詐欺だな。ストリートものにしとけよ」

「美人で清楚で色っぽい彼女がいるとな、お前のようにふにゃふにゃな服一辺倒になれねえんだよ」

「ふにゃふにゃってなんだよ」

「なんかきれいめな格好っていうか、女受けがいいやつだ」


 いがみあっているわりには会話が成立している。

 ファッションに疎い俺は会話に参加せず、得意な分野の音楽ショップで奴らの応酬に参戦した。


「八方が洋楽に詳しいとは意外だ」


 皮肉の欠片も感じられない本気の疑問符を顔に浮かべる無造作ヘアのハンサムだが、そこは見損なってはもらうまい。

 俺の影響を受けた一慎とともに、主にガレージパンクを愛する俺たちと、エモな音を好むコーメー君とで店員の迷惑も考えず唾を飛ばしあいながら視聴コーナーで論戦を交わした。

 人はそれぞれ好きな系統がある。詳細を披露すると誹謗中傷にとらえかねないので、ここは割愛しておこう。


 隣接する食品売り場で食材を買い求める俺に対して、主婦づいてるなあといった様子のお子様たちだったが、あれほど大量にカロリーを摂取しておいて、会計時には俺の買い物カゴへシュークリームなどの甘食を投入していた。燃費悪すぎだろ君ら……





「特になにか目的がない寄り道なんて、こんなもんだぞ」


 満腹の酸欠状態から完全に復活し、ショッピングモールの外にある長椅子に座りながらシュークリームをほおばる悪友。

 もう解散だからいいが、こいつら寒空でも平気な顔してやがる。

 俺だけ赤鼻で震えていた。


「楽しさというよりも、気付いたら時間が経っていたって感じがする」


 最後まで食い物で張り合いながら、コーメー君はエクレアを食べていた。

 ココアをお年寄りのようにちびちびすすっているのは俺だ。


「野郎同士ってやつは女の子たちと過ごすのと違って、相手を楽しませようとする意思がないからな」

「そういえば、今日は常に我が我がだった」

「本音全開、ハンサム君の実像ってやつさ。女の子が見たら泣くぜ」

「君の子供っぷりもな」


 意外に相性が良く思えるのは俺だけか。

 言葉の応酬はあっても、以前の険悪さはもうない。

 このままいけば結構な悪友同士になるだろう。

 だがこの中には入りたくない。男前はもげろ。


「卯子からのメールだ。今日あれの家で一緒に晩御飯らしい」


 携帯端末を見ながら、空の袋をゴミ箱に入れてコーメー君が立ち上がった。


「明春さんのなら食えないでは済まされないだろうな。そのまま腹を破裂させてしまえ」


 一慎にもメールが来た。それを確認した奴は固まって無言だった。

 覗いて見てみれば、今日ばあちゃん家で俺と4人での夕食の誘いだった。


「こいつも強制ディナーに参加確定だ」


 笑いをこらえつつ俺がコーメー君に相討ちを暴露する。

 それを聞いて彼は大笑していた。

 意外に面白かった、と笑いのなかで素直に感想を述べていた。

 一慎は憮然としている。


 俺たちにとって当たり前のことがこのハンサムには新鮮だったのか、最初の棘棘しさを一切感じさせず去り際に手まで振っていた。

 人間砕けてくると意外な一面を見せるようだ。

 手を振っていたときの彼はうーこちゃんに通じる明るい笑顔になっていた。

 悪友がそれを遠目に見て、鼻を鳴らしながら毒づいた。


「あの笑顔だ。いつもクールなのに、時折見せる可愛い仕草で女を騙すんだな」

「お前も辛いな」


 俺としては気が軽い。

 うるうたんと一緒の会食も、そのあとの応接間の時間を恋人と一緒にすごしてもらうために無念の辞退、という態を装えば胃袋にこれ以上負担をかけずにすむ。

 人事のように一慎へ家路を促して立ち上がったとき、奴は言い放った。


「お前だけ逃亡はさせん。死なばもろともだ」

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