お話62 浮気ものの色情魔の天然たらし
女の子とご飯といえば、うるうたんと夏前に、うーこちゃんとゴリさんとは秋に寄ったことのあるケーキがおいしいお店というのが定番だった。
そしてその名をだしたとたん「似合わねーから却下」と花子に退けられるも、似合う似合わないは出資する俺が決めるということで、半ば強引に店に連れてきた。
「アタシがこんな女子供っぽいところでメシってなあ。男同士で来てるようなもんじゃないか」
席についてもぶつぶつ文句を呟く花子。
じゃあパスタやオムライスのような店がお好みか、と尋ねてみればそれも違うという。
「パン生地ではさんだやつとかで十分だろ? あと中華とかカレーとか」
「まさに男の考えだな」
「ここはそういう意味で少し居心地悪ぃよ」
周りを遠慮がちに見渡しつつも、メニューを見て大きめな瞳を輝かせて凝視している。その姿の現金なこと、可愛らしいやら微笑ましいやらでつい吹き出した。
「なんだよもー。腹へってるんだからしょうがないだろ!」
「そうかそうか。で、何するか決まったかい」
「スパイシーグリル」
お腹は正直だ。それから注文後にあらためて今回の手渡しのご足労を含め、お礼を述べた。そのときの花子はやはり少し照れくさそうに、ぶっきらぼうに水をがぶ飲みしていた。
「ああ、もういいよそれは。あいつらにけしかけられたのと、アタシもイベントに参加してみたいってのもあったし」
「女子高なら手近な相手ってわけにもいかないしな」
「ま、そういうことさ。以前にもいろいろ男友達はいたんだけどな。えてしてみんな仲良くなると、なんていうか男として露骨になってくるんだ」
「と、申しますと?」
仲良くなると何かの拍子で体に触れることもある。
そうなると野郎どもは自分ののことを女として意識するようになる。
触ってくるのがいやらしいのでぶん殴って疎遠になる、の繰り返しらしい。
「コイチローはまだ出会って間もないから知らんだろうが、こう見えてなかなかのナイスなバディなのだよ」
「ほほう。ナイスなバディね」
やってきたスパイシーグリルをブスっと突き刺し、フォークでかぶりつく。
もはやわざと男っぽく振舞っているようにしか思えない。
「だけどアタシはそういうのまだいやなんだ。せっかくいい友達で楽しかったのにさ、この体のおかげで関係がおかしくなる。だからなりふりもそんざいになってね」
「なるほど」
「男が全員そんなんじゃないのは理屈でわかってても、今までの過去からして実感できない。つまり男と仲良くなっても信用できなくてさ。なら女を出さなきゃいいっていう悪循環でな」
ということは今俺は試されているということか?
たしかに自分は色魔のようなどエロぶりだが、そんな話を聞いた以上は意地でも賢者になってやろうという気がしてくる。
この子がナイスなバディと自白するまで、そのことに気付かなかったほどだ。
つまりは俺は胸の大小に全く興味がないということがあらためて証明されたことになる。
「こういうの男に初めて暴露するんだけど、どう思うコイチロー」
「紳士たれ、とのご要望なら理解したよ」
「ははっ」
のけぞって笑う花子。
「おかしいだろ。デカ女のブサイクがなんの自信があってそんなことほざけるんだって」
「おかしかないな」
ナポリタンプレートのソーセージを頬張りながら花子を見る。
ライスを口一杯に入れてリス状態の彼女に思わず笑いが出そうになったが、水を流し込んでなんとか堪えた。
「ハナコは実際女の子だし。たまにはそれなりの行動やそれっぽいこともしてみたいっていうだけで」
「……」
今日のイベントに参加、ってのはそういうことだろうしな。
「男は獣。その認識は間違いないから紳士たれってのは問題ない」
「へえ、あんた紳士なんだね」
「わははは」
良心に特大級の何かがぶっすり刺さった。
その実変態魔人であることを悟られてはならない。
「ま、この話はもういいや。けどあんたが相変わらず変わってて、なんでも話しやすい奇特な奴ってのは再認識したよ」
「変わってるはお互いさまだ」
水の入ったグラスで乾杯。その後は無言でお互い食事に専念した。
やはり男友達といるようだ。
食後にケーキを何個か平らげるナイスなバディの女の子。
体の大きさに比例してカロリーも必要らしい。
俺の財布はそれに応じて軽くなる予定だ。
すっかり痩せこけた財布をしまいこんで、ガソリン満タン入りました状態の花子と幹線道路を歩き出す。
満腹でご機嫌な彼女からありがとうと言われたので、こちらもまじめに受けてどういたしましてと答えた。なかなか魅力ある可愛らしい笑顔だ。
男が出来ないのではなく、作ろうとしないのだろう。
俺は彼女から試されているのかもしれないということで、あえて受けてたってやろうと思った。
以前ボウリングでさんざんしてやられてしまっている。
今日も男たちを球技で圧倒していた。
つまり彼女に何かしらリベンジしたいという矮小な理由から、俺はこの子に対して賢者であろうと決めたのだ。
「今回は連絡先を聞いておくぜコイチロー。3月14日を忘れるなよ?」
「望むところだ。ハナコが夕ご飯に何食べさせてくれるのかを期待しておくよ」
「アタシにおごらせる気かメシを!」
「男女平等。財布は重くして来てくれ。帰り際には軽減できてるはずだから」
「てめえ」
怒って笑う奇妙な笑顔で羽交い絞めしてくる花子。
体が大きいので自然と彼女のほうが俺の頭より上になる。
「っと」
先ほどの話を思い出し、胸をおさえて離れる彼女に、できるだけやらしくならないようほくそ笑んだ。
「紳士の俺に、色仕掛けは通用しない」
どこかの女の子たちが聞けば大爆笑するであろう台詞を、気取ってほざいてみせた。
どうしてか花子も大うけしていた。
「ぷっ……なんで半笑いの真顔なんだよ! 大体そのチッチッっての古すぎるだろ。おっさんか」
「おっ……」
「あははは。あんたの真顔はどこかしらにやけてるから、その、これからもそれで頼むわ。おかしな雰囲気にならんもの」
なんてことだ。会心のキメ顔がおかしいってどういうことか。
まあ笑われるのには慣れている。後々紳士として思い知らせてやればいい。
――とかいうどう考えても負け惜しみでしかない捨て台詞が浮かんだ。
頭をかかえている間に、花子は遠くから手を振っていた。
すでに連絡先は聞いてある。いつかかならずリベンジしてやろう。
そこはかとない敗北感を胸に抱きながら家に戻る。
考え事で家路についたため、思ったより早くアパートについた。
なぜか鍵は開いている。また閉め忘れかとため息をつきつつもにやけ顔で玄関に入った途端、同じ言葉で異なる声の合唱をいただいた。
一喝と言い換えてもいい。
「遅い!」
思わず後ずさった。可愛いが、般若の形相のメイドさんたちがそこにいた。
狭い玄関からすぐ奥の段差に腰掛ける眼鏡のメイドさんが足を組んでこちらを凝視し、居間ではローテーブル突っ伏していたであろう小さいメイドがこちらを見つめていた。
玄関横の台所で仁王立ちの黒髪の美人が、とんとんと長い足を踏み鳴らして床板に悲鳴を上げさせている。
「どこに寄り道していた?」
無表情で尋ねられるも、返答に窮する。
手前で腰掛けるゴリさんに手を引かれ、彼女の横に座り込む形となった。
「うちらずっと待ってたんよ? それを放っておいて、何してたの」
「……クラスの男子連中と遊んでまして」
いやな汗が流れる。そう最大の懸念は、鞄のなかのアレだ。
けして見つかるわけにはいかない。
「今日は何の日か知ってるでしょ、キューちゃんも!」
背中からもたれるようにして、そんざいにうーこちゃんが覆いかぶさってくる。
ハイと小声で返事をした。
「サプライズと思ってな。君に一切何も知らせないで、夕方すぎに3人でメイド服に着替えてここにきたんだ」
膝たてしてきたうるうたんに顎を持ち上げられ、睨みつけられた。綺麗な顔立ちだが、怒りの波動を感じて思わず目をそらす。
「いつまでたっても帰ってこないし、サプライズだけに連絡もできないしね!」
隣のゴリさんに手をぎゅっと握られる。とりあえず言い訳をしてみた。
「みんなにもらえなくて途方にくれていたら、友達に残念会みたいなのに誘われてですね」
浮気した旦那さんみたいになっているが、俺は当然独身で恋人はいない。
この追い込みはなんだろうか。
「嫁を放置しっぱなしで外で豪遊か。すばらしい旦那様だな」
俺の思考を読んだのか、にやりとしながら頬をぺちぺちと張ってきた。
ワード検索機能のすぐれた美人さんだ。
「つまり浮気なんよね」
「浮気だね」
ゴリさんの決めつけに、うーこちゃんが同意する。
この子たちの恐ろしい連携に震えがきた。
「その残念会とやらに、女はいたのか」
普通上目遣いというのは可愛いものだが、うるうたんの上目遣いは鋭いものだった。
半笑いなのがよけい恐ろしい。
「いたみたいよね」
「いたんだよね」
ゴリさんの追い討ちに、うーこちゃんも同意した。
この子たちはエスパーかなんかか?
「可愛い子だった?」
「いや、可愛いというか」
うーこちゃんが背後からにょきっと顔を横だしして聞いてきた。
ゴリさんも顔との距離を詰めてくる。
「美人さんだったん?」
「……なんていうか」
「はっきりしろこの浮気ものの色情魔の天然たらしめ」
ついに胸倉をつかんできてうるうたんが切れた。
なぜ絶体絶命の危機に瀕しているのか。
あとは寝るだけの工程だったのがなぜこうなった……
結果的に、花子のことはバラさなかった。
もらったアレも見つからずにすんだ。
しかしながら用意していた自称嫁からの貰い物が、俺の口に入ることはなくなった。
彼女たちの心のこもった手作りチョコは、利くん、コーメー君、一慎に貰われていったらしい。ちなみに悪友は2度本命ものを受け取ったことになる。
自業自得の所業とはいえ、結局俺の収穫は花子からもらったひとつだけに。
そのあとしばらく3人から口を利いてもらえなくなったのは言うまでもないだろう。




