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お話58   会場はボロアパート

 慌しい年の初めと違い、新学期になってしばらくは平穏な学園生活が続いていた。

 冬のイベントは年末年始にだいたいこなしてある。

 学業が再開してからというもの、特に目立った行事は公的にも私的にも見当たらない。楽しい大荒れがあるからこそ静かな日常が映えるというものだ。

 このごろ落ち着いた女の子たちの攻勢をよそに、一慎や男友達らと野郎どものぶらり遊びをしばらくは満喫していた。

 それと同時に彼女たちも女子会を開いて女同士いろいろ遊んでいるようだ。


 悪友などは3人の子たちがみな美人ということで、悪い虫がつくかもと心配したが、そんなことはありえないと俺が全否定しておいた。

 つんつん頭などのクラスメイトはあれほど可愛いなら浮気もし放題、そのうち男の影がきっと出てくるなどと軽口をたたいたて一慎を震え上がらせたが、確たる理由もないまま確たる意思をもって、余所見(よそみ)はありえないと一刀両断した。


「じゃあ確かめてみねえ?」


 昼休み、屋上へと続く階段の踊り場で俺と一慎、合コンの面子であったつんつん頭とその連れが座り込みながら昼食をとっていた。

 うるうたんの弁当を食らうふたりだったが、幸い鈍感な彼らに気付かれることはなかった。


「確かめるって?」


 一慎の問いかけに、わが意を得たりとつんつんの連れのもっさりヘアのそばかす野郎がささやいた。


「多聞先輩と明春と五里が、浮気しないかどうかの検証」


「……オイ」


 怒りの兆候を示した悪友をまあまあと抑えつつ、つんつんが話をつなげた。


「あの3人、ほかの学校の男からもチェック入ってるんだよな。俺の中学時代の友達とか」

「そうそう。近郊の男子生徒ならほとんど知ってるぜ? 特に多聞先輩はこの地区一番の美人だし」

 

 地区どころか県内随一か、とふたりの女好きは言い直した。

 女好きなら俺もだ。


「明春なんて声も仕草も可愛いしな。五里なんかむちむちで色気でいえばふたり以上だし」


 舌なめずりするつんつん。

 俺を見ているようでいらっときたのか、一慎がもっさりともども頭をはたいていた。

 俺も便乗してはたいた。


「つまり会食の場を設けて地区のあらゆる男前を動員し、あいつらを口説けるかどうか見るんだよ!」


 言いながら興奮する野郎ども。なんという下劣で下種な発想だろうか。

 男ってやつは時に恥も外聞もない止まらぬ暴走ぶりを発揮することがある。

 煩悩に支配されたやらしい顔が、年末の破廉恥な俺であり、今のこいつらだ。


「そんなことを許すと思ってんのかオレガ」


 一慎が歯をぎりぎりと食いしばりながら威嚇するも、いったん肝のすわった下種野郎には通じない。口八丁で壮大な綺麗事を吐き続け、ついには検証の実行を押し切ることに成功した。

 うわごとのように愛の再確認だと真剣に口ずさんでいる悪友は、ここにきて洗脳されたといっていい。

 焚きつけられて負けん気のつよい性格をつかれ、術中にはまったのだろう。


 俺は蚊帳の外のはずが、巻き込まれた。

 リアルが充実は許すまじらしい。結果どうなっても知らんぞ……


「問題はどうやってあの子たちを会食(仮)の席につかせるか、だが」


 もはや企みの一員となった悪友が腕を組んで思案している。

 俺は終始口をはさまず傍観するのみだ。


「いかで可愛い子だけしかない奇跡の集団とはいえ、いい男が嫌いな女はいない。あてはある」


 つんつんともっさり頭の彼女に、モデルのような風体の美人の知り合いがいるらしい。

 その子と仲がいい男というのが超男前なんだとか。


「お前も相当ハンサム野郎だけどな、そいつはもっと女受けする王子様な男前だとさ」


 つんつんが一慎を見やってなぜか威張った。

 だとさ、となるとお前も知らないんじゃないか。

 ついでにもっさりも威張っている。


「……望むところだ。どれほどの男前だろうと外見で多聞ちゃんをめろめろに出来ると思うなよ? 俺の勝利はゆるがない」





 さて会場の様子を実況します。

 狭いながらも誰にも邪魔が入らず、金がかからず、心おきなく狩りと会話と親交を深められる特設会場、我が家のボロアパートから……八方九介と申します。


 ローテーブルをふたつ並べて向かい合う手前側に多聞うるうさん、明春卯子さん、五里真昼さんが座っています。

 その奥には無造作ヘアのシャープな男前、上戸高明(かみとたかあきら)くんをはじめとする私立進学校のエリートかつハンサム男子生徒3人が向かい合う状況。


「おい。なぜに明春さんの幼馴染がここにいるんだ」


 玄関口と居間入り口で固まる部外者その1、中立一慎(なかだていっしん)が不機嫌につんつん頭の胸倉をつかんで威嚇した。


「知らねえよ! 俺の彼女の友達の紹介なのに明春の昔なじみがいるなんて想定できるか」

「ところでつんつんよ。お前とこのもっさりの彼女ら、彼らだけ紹介だけして帰った理由はなんだ?」


 俺の問いかけにもっさりが説明した。

 あんな美男ばかりの集団に彼女を近づけるのは危険なので、さっさと帰ってもらったと臆面もなく正直に白状していた。

 悪友がそれを聞いてキレていた。


「うるさいぞ外野。せっかくの邂逅(かいこう)に邪魔をするんじゃない」


 わずらわしげにうるうたんが振り向いた。

 すでにうーこちゃんとゴリさんはコーメー君以外の男ふたりに質問攻勢を受けており、狩りはすでに始まっている。

 つまりその並びだとうるうたんの相手はコーメー君ということになる。


「多聞ちゃん、ちょっとそのあの」

「君が強引に私たちを誘ったんだぞ。それに応えて出会いを楽しむ私にいまさら中止はなしだ」


 しどろもどろにあせる恋人を一瞥(いちべつ)して、シャープさと美形ぶりで一慎に優るコーメー君のほうへ向き直った。

 無造作ヘアの彼もうるうたんほどの美人相手に気分が高揚しているのか、めずらしく自分から話かけていた。うるうたんも余所行き声でそれに答えている。

 悪友に向けた声とはぜんぜん違うのだから、女は怖い。


 あうあうと言葉にならない葛藤をあらわす一慎だったが、これは自業自得だ。

 お前の勝利となるのかなー、とつんつんが余計なからかいを口にした。

 案の定殴られていた。


「うるさいから、当事者以外は出ていってねー」


 うーこちゃんの冷たい声が飛ぶ。見ればゴリさんも冷ややかな表情だ。

 なぜ彼女たちが俺に研ぎ澄まされた視線を送るのか理解しがたいが、玄関にたむろする野郎どものなかで一番先に外に出ようとして、引き戸を開けた。

 すると俺の背中へお茶うけのお菓子袋が高速でぶち当たった。

 うーこちゃんとゴリさんは笑い、うるうたんがふんと鼻をならしてコーメー君に向き直る。

 どうやら黒髪の美人の仕業か。

 さほど何かリアクションを返すことなく、その他の男どもを促して家の前に移動した。


「さてさて~。これは面白くなってきたぞ。あの上戸って奴想像以上ののハンサムじゃないか。女的には中立より受けがいいだろ。多聞先輩もころっと」


 もっさり頭が面白おかしそうに呟いて吹き出した。つんつんもそれに(ならう)う。


「奴ほどの男がくるなんて想定外だ……多聞ちゃんも知り合ったときから格好いいと褒めてたし」


 顔が青白くなりながらもはや勝負などどうでもよくなった悪友が頭を抱えて独語する。


「ほかのふたりも俺やつんつんやもっさりよりいい男だしな」


 卑下するようで何だが、これは事実だ。

 頭の良さといい、顔の良さといい、仕草の洗練さといいとても勝ち目があるとは思えない。一慎でさえコーメー君に女受けでは一歩ゆずるだろう。

 ただし男気や豪快さを好む女性には、こいつのほうが有利か。

 

 次の瞬間、軽快な笑い声とともに長身の女がモデル歩きでこちらに向かってくるのを察知する。舗装されていない婆ちゃん家の私有道路を、優雅な動きでモデルばりのスタイルを見せ付けるようにして近づいてきた。


「あ。ロールパンだ」

「いいかげん私の名前くらい覚えなさい一般人、それと誰がロールパンか」


 ブラウンの巻き髪の、うーこちゃん曰く自分より美人さん、高明の想い人(過去)の登場につんつんともっさりの表情が一気に緩んだ。

 どうやら奴らの彼女つながりで顔見知りらしく、へろへろになりながら挨拶している。それに対し一慎はまったく眼中にないのか、うるうたんが中にいる俺のアパートの引き戸を見つめるばかりだった。


「なんでロールパンがここにいるの?」

「……高くんたちを連れてきたのはあたしよ」

「ふーん。君も女子高だったんだ」

「ミス梅蕾ばいらい高2年連続の美人である(わたくし)を知らないなんて」


 そう言いかけて、呆然とする一慎に気付く。

 意外そうな顔をしながら奴の目の前に仁王立ちすると、品定めするように全身を鑑賞してから少し微笑んだ。好意的な笑みだった。


「へえいい男。あんたの学校にもこんな荒々しいハンサムいたんだ」


 覗き込むようにして顔を近づけるも、一慎は反応なし。


「気になる? まあ雨ヶ崎東程度の女なんか、高くんにかかれば即落ちだよね。ほかのふたりの男も次第点だし」

「気になる」


 厳しい顔でなんとか苛立ちを堪えようと一点を見つめるも、その横顔は不安そうだ。

 しかしながらこいつもかなりいい男ではある。ロールパンは獲物を見つけた狩人ような様子で品定めしながら、至近距離まで近づいてまとわり始めた。


「寒いな。どこかでお茶でも飲まないか」


 完全に他人事のように俺が提案すると、つんつんともっさりが即同意する。

 すると一慎がすばやく手を伸ばして俺の襟足をつかんだ。


「お前気にならんのか。あの子たち相手が相手だけに全然嫌がってなかったぞ。多聞ちゃんなんてあいつと見つめあって……」


 うろたえてるな。

 日頃から直情径行の男でも、時と場合で冷静になれる奴だが、こればかりは話が別か。奴の血走った目を見て俺はどうしようもない、と答えて肩をすくめた。


「あはは。見つめあって、ね。高くんに翻弄されることはあっても、されることはないってば。気を引き付けてからさよならだよ。他のふたりの付き添いなんだし高くん」


 余裕だなロールパン。

 まあでもうるうたんを見てからそうほざけるものならすればいい。

 コーメー君が黒髪の美人にまじ惚れして家から出てきても、俺は一切不思議に思わない。

 大体うーこちゃんも可愛いし、ゴリさんはぷりぷりで色気満載の眼鏡っ子だ。

 へろへろにされるのは間違いなく男のほうだろう。あるいは互いがへろへろか。





 家の近くのショッピングモールでお茶休憩で暖をとったあと、再度アパートに戻った。

 時間にして一時間ほどだったが、その間ずっと貧乏ゆすりで落ち着かない一慎と、新たなハンサムを発見して上機嫌なロールパンとを観察して思ったより時間は早く過ぎた。

 結局戻る時間や足の遅いロールパン待ちのロスを含めると、アパートを出てから

大体2時間弱はたっただろうか。家の玄関前まで来ると、なかから笑い声が聞こえた。

 どうやら盛り上がっているようだ。

 もはや我慢ならんと一慎が引き戸を開ける。

 俺も続いて中にはいって様子を(うかが)った。

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