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お話52   逃亡阻止

 昼過ぎまできちんと睡眠時間をとった後、3人の女の子が一度それぞれの家に戻って新しい服装で出かけることになった。

 疲れもとれたようで、賑やかにお互いの服装を褒めあいながら前を歩いている。

 俺といえば肉林に包まれた環境だったためか、やや寝不足気味だ。


 Pコートもデニム生地のパンツもショート丈で、首もとの赤いマフラーがアクセントのうーこちゃんは相変わらずガーリーで可愛さ炸裂だし、ニット帽とコートを黒で固め、レギンスっぽいクラッシュジーンズをモデル並みに着こなすうるうたんは周囲から、とくに同姓からの注目をあびていた。ゴリさんはベージュのニットワンピースに黒タイツという体の線がもろに出る姿で男の視線を集めている。

 寒いので皆ブーツは共通だった。

 自分の格好……ブラウンのスリムダウンコートにジーンズという没個性。

 とくに言うことなし。


 とりあえず目的地に向かう前に、大都市中心部の駅直結ショッピングとグルメゾーンをぶらぶら歩きいている。

 すでにこの場所からして女の子向けであり、俺としてはこの子たちがご機嫌でファッションアイテムを物色する様を手持ち無沙汰について回るばかり。

 仲よさげな彼女たちを見るだけでも一緒にいる価値がある。

 

 しかしこれだけ可愛い子たちが3人もそろうと、行く先々の道すがら野郎どもに声をかけられるのは仕方のないことか。

 誘われ慣れているのだろうか、それぞれスルー力が半端ない。

 一瞥すらせず、また一歩も立ち止まることなく相手を置き去りにする光景は爽快そのものだ。


「お嬢さんがた、おなかの虫が鳴る前になにか食べにいきましょうね」


 親父気分になったような食事の誘いに「はーい」といいお返事。

 引率の先生とかこういう感じがする。

 

 サンドイッチとコーヒーが美味しいと評判の、とある小さい店にご案内。

 ちょうどみんな小腹がすいていたらしく、軽食の類で正解だったようだ。

 ツナタマゴやハムタマゴを口にしながらお喋りに夢中な女の子たちを尻目に、マヨ嫌いな俺はひとりハンバーガーとポテトに食らいつく。

 やはりここでもこぼした食べかすは、ゴリさんに処理してもらっていた。


「八べえ、連れて行きたいとこってどこなの?」


 そういえば聞いてなかったと言いたげに、うるうたんとうーこちゃんも俺を見た。


「夜景を見に行こうかと思いまして」

「夜景? いろいろ場所あるけど」


 うーこちゃんが首をかしげた。


「山からの夜景、海からの夜景もいいけども……」

「そうだねー。夏キューちゃんと一緒に夜景見たもんね」

「夜景? 夏に?」

「とりあえずね! 誰でも知ってる有名な場所ってことはないけど、少し変わった施設に隣接する公園だよ」


 うーこちゃんのさり気ない暴露にゴリさんとうるうたんが食いついたが、これからの行き先を説明してそれを遮った。

 早く完食して店を出よう。いろいろ突っこまれるとまずい。

 予定の場所にはサプライズも用意しているし、電車とバスを乗り継いで目的地に向かうことにしよう。





 飛行場滑走路に隣接し、幅にたいして長さがキロ単位になる構造のスカイパークが今回の目的地だ。

 なんといっても見どころは、公園内のどこから見ても飛行機の離着陸が間近で見物できるという点。

 いくつかある丘には噴水やライトアップされたエントランスなどもあり、飛行場のパノラマ夜景やLEDの青い光で照らされた石畳の道など、夜景のための雰囲気あふれる一風変わったデートスポットになっている。


 寒いなかでもクリスマスということもあり、やはり男女のペアで来園する人がほとんどだった。

 そのなかでも、美人や可愛い子を連れた冴えない男の一行は人目をひいた。

 突き刺さる視線がそれを実感させていた。


 ライトアップされた丘をのぼりつつ、日の沈んだばかりの夜景を見上げて女の子たちは感嘆の声をあげている。


「こんな場所があったなんて」

 

 少しだけ茶系統に染めた黒髪を風になびかせて、うるうたんが目を細めて微笑んだ。

 あれ以来、いかに俺の婆ちゃんとはいえ他人の家に住む彼女を思えば、今見せる渾身の笑顔には自分としても心温まる思いがする。

 

 幻想的な光の風景のなかで、しっかりと手を握ってうるうたんの呟きに応えた。

 艶やかな横顔は美しいの一言に尽きる。

 彼女以上の美人さんというと自分には心当たりがないくらいだ。

 別の方向性として、健康的だったり色気だったりという可愛らしい子には、うーこちゃんとゴリさんがいる。


 携帯端末でこの光景を記録しながら、ショートボブの小さい子も俺とふたりの写真をとったり、元気よくあちこち動き回って喜色を見せていた。

 お母さんのような世話好きの眼鏡っ子はにこにこ顔でうるうたんと反対側に位置どり、もう片方の自分の手をつないで離着陸の様子を眺めている。


「ふたりきりじゃないけど、でも八べえと一緒にここにいられてうち嬉しいよ」

「あたしも! もしふたりっきりだったら、間違いなく間違いが起きるよね」

 

 あちこち駆け回りながら、うーこちゃんが白い歯をみせてにかっと笑っていた。

 苦笑するうるうたんとにっこりするゴリさんを映像に収めたような、うーこちゃんの動きだった。あとで見せてもらおう。


 それからそれぞれペアになり、交代でゴリさんと腕を組んで親指立てしながら撮り、うるうたんに背中から抱きつかれて横向きに撮り、うーこちゃんを腕のなかで抱きかかえて俺を見上げる格好で正面から撮って、記念の静動画を数多く量産していった。

 端末で撮影するものは画像的に限界があるが、雰囲気だけは伝わるはずだ。

 個人的にはお蔵入りしてくれるとありがたいが、一慎や利くんやコーメー君にこれを見せるのだろう。彼らの形相が目に浮かぶ。


 うーこちゃんを腕のなかに抱きかかえたまま、ライトアップされた飛行機の離着陸を間近で見つめる。

 手すりに手をかけながらもその両側にはゴリさんとうるうたんが寄り添っていた。

 密集することで暖かさも確保できている。お猿さんの集団のようだ。

 時折周囲にいる恋人同士の男から厳しい視線が突き刺さるが、肌寒さに混ざってそれほど気にはならなかった。

 可愛い生き物たちへ余所見する男を、女の子がぽかりと一撃を食らわせる様子がときどき見受けられた。

 この子たちに目移りするのは不可抗力で仕方がない。男の本能だろう。

 目移りしているのは実際俺だし……


「キューちゃんがこれ以上他の女の子を好きになりませんように」


 両手をあわせ空に向かって拝むうーこちゃんの独り言に、ほかのふたりも反応した。


「切実すぎるその願いには同意するが、これにあまり期待はできないな!」

「八べえに余所(よそ)ヘ気をやるなって? それは無理な相談だよねえ」


 的を射られるどころか集中砲火で即死状態。

 寛大というか達観というか、彼女たちは一様に、にこやかな威嚇をあらわしていた。

 気の多さに関してはもはや救いようがないが、それでもいつか訪れる結末については、ある程度推測とか理解ができていたりするのだ。

 

 結局一兎も得ず。婆ちゃんの言葉は至言として心に留めている。

 けして最後の一線は越えないでおこうと決めているのは、彼女たちのためだけではない。相手をひとりに絞れない以上、自分としてはこれだけは譲れない。

 優柔不断でどれほど変態になったとしてもだ。

 せめて自己満足くらいは、貫徹の意思でいたいと思う。

 

「何を考えている?」


 勘の鋭いうるうたんが俺の表情を読み取って、覗き込んだ形で見上げてきた。

 腕のなかのうーこちゃんも垂直に仰ぎ見ている。


「何事も自分ひとりで解決してしまう君のな、そういうところだけは直してほしいよ」


 頬をつねられた。反対側からゴリさんもつねってきた。


「うちらを気遣って思いやってばかりだもんね。いつも自分は後回し」

「いあ、ふぉうでもないでふよ」


 まじめに答えたつもりがまぬけになった。

 笑いの沸点が低いことを自認するうーこちゃんが、喉の奥から押し出すような声でくっくっと笑っている。


「そうでもあるよねキューちゃん。あたしたちがいないところで、どれだけあたしたちのために何かしてても一切何も誇示しないし、話さないもんね?」

「……」


 それをいうなら、おそらく君たちに関わりある男前なあの3人もそうなんだろう。

 そして君たちも彼らに対して同じ事をしているに違いない。

 つまり誰かが誰かをいつだって思いやっているということになる。

 別に俺だけということはない。みんな同じだ。だから俺も何も言うことはない。


 離着陸の音は意外に大きい。

 考えこむことに集中はできないし、この夜景を臨んでマイナスの感情は場違いということで、今しばらくは能天気でいよう。

 そしてここに来ることは彼女たちだけではなく、前述の野郎どもにも伝えてある。

 それが俺の女の子たちへのサプライズだ。





 屋根とベンチで風除けもできるスカイテラスに移動する。

 遠目にもわかる長身の一慎に、モデルもかくやと思われる出で立ちのコーメー君、猫背で眼鏡の利くんがそれぞれ女の子を出迎えに歩いてきた。

 当然彼女たちは驚いただろう。

 これは昨日からメールで連絡をとりあっていた男側のどっきりみたいなものだ。

 近づいてくる男たちを横目に見ながら、うるうたんが腰に手をあてて嘆息した。


「つまりな、こういうことだ。君の気持ちや思いやりは嬉しいが、やはり今回も自分は後回しなのだな」

「うん。これが八べえなんよね」

「それで、またひとりで帰るの?」


 (きびす)を返そうとする俺の腕や袖や襟足をそれぞれががっちり掴んで、逃亡阻止の状態になった。容疑者逮捕の様子に近い。

 男たちがその姿を見て失笑する。

 一番先に近寄ってきた悪友が、俺の頭をばしっとはたいて白い息を吐いた。


「今回は帰さないとよ。この子たちとイブをすごした俺らも、とりあえずは心に余裕がある。勝手に退場はなしだ」


 利くんが肩を組んできた。こうなれば離脱は不可能だ。


「真昼くんその服もかわいいね」

「ありがと利くん。逃げないようにそのまま肩組んでてね?」

「了解」


 お互い顔を見合わせてにっこり。いい連携だ。

 

「男を見る女性の一般的価値観というものがまったく通じない、不思議な奴だよ君は。いつも可愛い子を連れているね」


 無造作ヘアの男前、コーメー君が初対面のゴリさんを見て驚きを隠しつつ(こぶし)を突き出してきた。それに応えるように俺も(こぶし)をあわせた。

 過日のうーこちゃんの件で、彼もかなり幼馴染に対して過保護というか、べったりになっている。この企画に賛同したのも、少しでもうーこちゃんと一緒にいたいからだろう。クリスマス本番だし。


 大所帯になった。7人の男女グループで夜景を楽しむことになったのは少し俺の計算違いだったとしても、当初の目的を達成できたのでまあ及第点だろう。

 あとは盛り上げ上手なうーこちゃんと人見知りしないゴリさんがいるだけで、その場は明るくなるし行動にも問題ない。


 男3人からは見えないような部位へなにやら鋭い痛みや鈍痛を感じるが、それには気付かないフリでいこう。

 彼らのもとへ無傷に近い形で彼女たちを戻せたことは、俺としても十分満足に値する。

 あの色気でいつ面目ない状態になるかも知れず、彼女たちとのチキンレースはいつだって薄氷を踏む思いの連続だ。

 とにかくも持ち越して、来年につなぐことができたようでなにより。

 一慎から熱い缶コーヒーの差し入れをもらった。とりあえずは乾杯しよう。

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