お話51 勘違い
12月25日、早朝。
ひとりで過ごしていたアパートの居間に、正座をして叱られる俺と、仁王立ちで説教をするふたりの女の子の姿があった。
もうひとりの眼鏡の子は、なにやら嬉しそうにお茶を飲んでいた。
「仕方ないよねー、うちとチューしたかったんだから。夢だとしても、うちが一番だよね」
ゴリさんが俺に満面の笑みでささやいた。
うるうたんとうーこちゃんがキッと睨むものの、ゴリさんは平然とその視線を受けている。
「ひとりにさせたイブだったから、すまないと思って来てみれば……」
「ほんとだよ! 変態するのにむちむちぷりぷりがそんなにいいのかー?」
……否定できん。
うるうたんは美人で色っぽいし、うーこちゃんも圧倒的なキュートさで魅了できる武器があるが、このごろのゴリさんの艶やかぶりはやはり際立っている。
突出する造形美のアレがあるというのも、変態の心をとらえて離さない。
「腹立ちはともかく、今日は君のために時間をとる。私自身は誕生日も一緒にいられなかったんだ、もう離れないからな」
「今日クリスマスですようるうたん……奴とはどうするんです?」
「一慎? 彼には納得してもらったよ。平和的にな」
「……」
奴のうなだれた姿が目に浮かぶ。
怒りの矛先は無論俺だろう。次会った時は鉄拳で出迎えられるはずだ。
「うちも今日八べえとすごすからね!」
「あたしもー」
寂寥感のイブから一転した。
華やかなのはいいが、別の理由で気合が必要か。つまり自省だ。
「さて、お風呂に入って汗を流さないと。デートの前には綺麗にしておきたいし」
俺の腕をとって立ち上がろうとするうるうたんに負けじと、うーこちゃんとゴリさんも反対側の腕を捕らえて固定する。
「おば様の家のお風呂は広いからな。4人くらいはなんてことないだろう」
「そうですね! うち汗かきだからちゃんと流さないと、八べえに悪いもん」
「入ってないのはみんなだよね。あたしもすっきりしたい」
男と女の立場が逆だ。恥じらいのない彼女たちに対応する術はない。
しかしながら婆ちゃんのいない間に破廉恥極まる行為を実行するわけにはいかない。
内心欲望の塊なのだが、この子たちが積極的なぶん俺は逆に一歩引くことができた。
色気垂れ流し恥じらいまるでなしの相手に対して一緒に入ろうものなら、秒単位で獣になる自信がある。ということで解決策は……
朝早くから営業していて助かった。
歩いて行ける距離でスーパー銭湯があることに感謝しながら、内湯に浸かってほっと一息。一緒じゃないとかごねていた彼女たちも、やはりそこは女の子。
皆お風呂好きの銭湯好きということで、仲良く女風呂へ向かったようだ。
寒空のなか歩いてきて体も冷えている。
このこみ上げる安息感は熱いお風呂ならではだ。
ついついうー、とかあー、とか声に出して顔を洗った。
まさにおっさんだ。
ゲルマニウムの湯でひとまず温まった後はジェットバス風呂、のぼせてくると露天風呂に行き、体を少し冷やしてサウナに行ったり、ひさしぶりの浴場めぐりで恒例のお子様モードになった。
それにしても男の入浴時間などたかが知れている。
彼女たちが風呂から戻ってくる間にコーヒー牛乳などを飲みながら、受付外のフロアにある寝ころび処で横になった。
時間帯のせいもあるが、性別関係なく年齢層の高い人たちが多い。
若い奴らはときおり見かける程度だ。
さてこのあと何をしようか。朝ご飯を婆ちゃん家で済ますとして、そのあとだ。
夕方から夜にかけては、その手の情報にうとい俺でも少し心当たりがある。
それまでの時間どこで過ごそうと、それはあの子たちに伺うことで丸投げしよう。
二度寝をかましているところで、膝のうえの重みと両側の体温で目を覚ました。
「少しでも間があくと寝るのだな、子供か君は」
「こどもかー」
笑いながらぷにぷにと頬をつねるうるうたんに、膝のうえで足をばたつかせるうーこちゃん。子供はどっちだというツッコミ待ちか?
言葉を投げかけている湯上り姿の見目良い女の子たちへまわりの野郎どもの視線が集中する。
おっさんから爺さんまで、男というのは皆美人好きだ。
余っていた俺のコーヒー牛乳をゴリさんが堂々と飲み干している。
残したらだめよー? とか言われた。お母さんだった。
汗を流したものの、温まった体を再度冷やす時間を要して家に戻った。
ゴリさんを料理長とする女の子たちの作った朝食をとりながら、今日の予定を話し合う。
「夕方まで時間あるのなら、ここでゆっくりするのはどうなの?」
かきこむご飯の食べこぼしを拭きながら、ゴリさんが提案した。
食べこぼしているのは無論俺だ。
「確かに私と五里くんは、昨日から今日にかけて外で過ごしていたしな」
「あたし家にいたけど、キューちゃんとくっついていられるならそれでもいいよー」
邪魔は誰もいないことだし、歓迎すべき桃色空間かもしれない。
下種の考えが頭をよぎったとき、あることに気がついた。
そういえばこの可愛い生き物たち、昨日からほとんど寝てないんじゃなかろうか。
変態紳士としては、寝不足で外に連れまわすのはいかがなものか。
「ご飯食べたら洗口液で口ゆすいでから、まずは寝ようか」
3人の女の子が同時に動きを止める。
それぞれの反応を見れば、ゴリさんが赤くなりながらもしっかりと頷き、うーこちゃんがうつむいて小声でうんと呟き、うるうたんが頬を染めながらも目を輝かせて立ち上がった。
「お風呂に入っていてよかった。そうとなれば私にも準備がある、部屋に戻るぞ」
「あっ、あたしも洗面所に行くー」
「うちもいろいろ用意とかするよ、ちょっと覚悟もきめなきゃ」
慌しく食堂を出て行く彼女たちに、米を口元につけたまま呆然と見送った。
何を勘違いしたのか、あの子たちはアレとかコレとかに思い当たったようだ。
そのあと誤解をといて安静な眠りに至るまで、平身低頭しながらつねり叩きなどの洗礼を受け続けることになった。
一緒じゃないと寝ないという断固とした意思に対し、うるうたんのベッドで4人が寝るという展開になったのだが、当然自分に拒否権はない。
うーこちゃんに抱きつかれながら、左右をうるうたんとゴリさんに挟まれて寝る肉林状態に。
忍耐と我慢と気合を入れて迎撃体制をととのえるも、横になった彼女たちはすぐ寝息を立て始めた。両側のふたりはともかく、上に抱きかかえるようにして眠っているうーこちゃんを起こさずに時を過ごすというのはなかなか骨が折れそうだったが、この子に関しては俺は兄気分を全開にできる。
数時間程度は耐えてやろうじゃないか。
あとは昼に帰ってくる婆ちゃんに、この破廉恥な光景を見られたときの、言い訳を考えて俺も寝る。




