お話47 3人で共有
そしていつものようにお年寄りは先にご就寝。
3人の家事手伝いは後片付けや掃除をこなしてから、恒例の応接間にてお茶休憩になった。
ソファにゴリさんが腰かけ、その下に俺が絨毯の上で直接座っている。
黒ニーソのまぶしい脚が肩口から伸びており、まるで彼女を肩車しているような
体勢になっていた。
目の前には指定席とばかりに、膝の上にちょこんと乗っているうーこちゃんがいる。
広い応接間をまったく生かさない、密着度の高い異様な光景だった。
「広いおうちだねえ。これならいつでもあたしがお嫁に来たって大丈夫だね!」
目の前の小さくて可愛いメイドが、ショートボブの髪をゆらしながら冗談めかしてつぶやいた。こちらに首をむけて横顔でにこりと微笑みかけている。
俺も当然の返礼としてへらりと笑い返した。
淹れたてのコーヒーをすすっていると、上のソファに座っているゴリさんが俺の顔をふとももではさんでいたずらしてくる。
この子の色白の肌の綺麗さと感触はさすがに別格だ。
うるうたんはそれより黄色があり、うーこちゃんも同じく健康的な小麦肌だ。みな肌は綺麗だが、色にはそれぞれ特徴がある。
「こにょくらいの熱さのがいちぶぁんのみやしゅいね」
顔をふとももで圧縮されているため、締めつけられておかしな発音になっている。
それを聞いてうーこちゃんが失笑し、ゴリさんは面白おかしくさらに挟んだ脚に力をこめた。
しばらくゴリさんのおもちゃ扱いと、うーこちゃんの充電と称する無言の時間が続く。
コーヒーを飲み終えるころになって、ゴリさんがそのままの圧縮を維持したまま話し出した。
「さっき、お婆ちゃんから言われてたね。一兎も得ないって」
「ふぉうね」
得体の知れない状態のまま、それでもなんとかコーヒーを飲み終えた。
ゴリさんの言葉に、うーこちゃんも横顔でこちらを見ている。
「もし……うちらがみんな他の男の人のとこに行ったら、そのとき八べえどうするんだろう」
「……」
眼鏡のメイドの手が頬にあたる。
優しく包み込むように、そして顔を覗き込んできた。
「すぐに他の女の子好きになったりして」
「いやあ、まず泣くからそれどころじゃないねえ」
「泣くんだー」
うーこちゃんがコーヒーカップをおいて正面に馬乗りしてきた。
泣くの? って今一度確認してくる。
うん、と正直に肯定しておいた。
「途方にくれて姿を消すよ」
「なんだよー。俺のとこに戻って来い、とか言ってくれないのキューちゃん」
「そうだよ! ときには強引さも大事なんよ?」
性格的に強引というのは難しい。
相手が利くんとか一慎だとすれば、さらにそんな選択肢はない。
一途な点で差は明白だろう。
「まあでも多聞先輩には中立くんいるし、五里さんには部の先輩がいるじゃん? その点あたしは独身だから安心だよね」
「……明春さん幼馴染のハンサムくんいるよね」
「ただの幼馴染になったから問題ないもーん」
俺を挟んで上下に視線を交錯させるふたりの可愛いメイド。
抱きしめるうーこちゃんの腕と、挟み込むゴリさんのふとももに力がこもった。
「うちもまだそういう関係じゃないんよ? 八べえにはいろいろしてるけどね!」
「いろいろ? してるって?」
顔が近いし目が怖い。何よりも首の圧迫を緩めてほしい。
「えっとねえ、腰とかお――」
「お世話になってるね! お弁当とか炊事とかね」
「このメイド服のスカートのなかに手を入れてね」
俺の遮りにまったくひるまず、あの夜の破廉恥を説明しだすゴリさん。
聞くたびにうーこちゃんの眉間に皺が増え、口角が不自然に上がって表情がきつくなっていく。
「キューちゃん……えっちすぎ。変態じゃん!」
「あうう」
詳細に説明されて思わず赤面する。
ゴリさんの攻勢に耐え切れず、肌に直接触れたのはまぎれもない事実だ。
あらためて下種の所業だった。
「そういえば、五里さんむちむちのぷりぷりスタイルだよねえ。男の子が好きなお色気満載じゃんね」
「まだでぶだと思ってるけどね。でも八べえが褒めてくれるからこれでいいんだ」
羨むような、拗ねるようなうーこちゃんの呟きに、ゴリさんは照れ照れで俺の頭をなでながら返答した。
「あたし小さいから、多聞先輩や五里さんみたいに色気ないよ……」
しゅんとなる小さいメイドさんだったが、感情の変化は早く、顔を上げて首に回した腕を絞めあげながら威嚇してきた。
「だってふたりきりになって水着で抱き合ったり、短いスカートひらひら目の前で見せてるのに変態してくれないもんね」
「……」
お互い暴露合戦はやめてください。
頭を触っていたゴリさんの手が握りこぶしに。
髪がはさまってますプチプチ抜けている。かなり痛い。
「八べえほんと浮気ものなんよねー。うちそれだけが心配」
「ふふ~ん」
うーこちゃんが得意げに胸を張った。
「キューちゃんが撒き散らす浮気はあたしと、五里さんと、多聞先輩」
ねー? と頬ずり。
何がねーなのかゴリさんも理解不能だろう。俺もわからない。
「ものすごい美人でモデルみたいなすらっとした女の子でさえ、キューちゃん見向きもしなかったからね」
「そうなの?」
ゴリさんが俺を覗き込むように前屈して顔を寄せてきた。
そういえばコーメー君の連れてた子か。
名前も顔も忘却の空の彼方だ。髪がくるくる巻きのロールパンだとは認識している。
「そうだよ! あたしよりずっと綺麗でスタイルもいいのにさ、その子に冷たいって言われてたでしょ?」
「あー、そうだっけ」
「冷たいってなんよ?」
左右に可愛いメイドの頬に挟まれながらも思い出す作業に。
うーこちゃんを揶揄する子に好意は抱けない、とだけ説明した。
「明春さんにひどいこと言ったのかあ。それで八べえが怒ったと」
「キューちゃんはいつでもあたしの味方だって思ったよ。相手がどんな美人でもさ」
美人? 美人というのはこの子たちのことを指して言う。
少なくともロールパンは俺にとってその範疇ではない。
そして話は俺をよそに、いつの間にかうーこちゃんとゴリさんとうるうたんの3人なら許そう、とかいった協定みたいなのが定められた。
「うちら以外の女の子に一切手を出さないのが大前提なんよね」
「それはゆずれないねー。だからあたしが許すのは五里さんと多聞先輩だけにする。それでも浮気だと思うし、妬くけどね!」
浮気と思いつつ妬くのが許すことになるのか。ますます理解不能。
「なら他の人に目移りしたら厳罰だね。うちそうなったら泣くからね八べえ」
「ぶん殴ったあと、泣きまくって困らせてやろうよ」
なぜかまた意気投合。
俺がすでに4人目に気を移すのが前提の話か。
まあ、ないとは言い切れない……ただもう自分の許容に空きはない。
しかたがないから共有で許してあげる、とか言いあっているメイドさんたちに気をとられ、部屋の外の物音に一切気付かなかったのはこの際やむを得ない。
そして乱雑かつ豪快に応接間の引き戸が開かれて動きもままならず、上下から密着される姿を見られたのもやむを得ないだろう。
引き戸がすごい音をたててゆっくりと戻っていく。
静寂の空間に無表情の美人が黒髪をゆらしながら立っている。
相対するゴリさんはなでる動きをやめず、うーこちゃんは抱きついたまま首だけその方向へ振り返る。
肝の据わったふたりと違い、俺は現実逃避で無の状態になった。
このごろ短くなった制服のチェックスカートが揺れている。
その横に鞄を落とした彼女の握りこぶしが震えていた。
「お、おかえり」
かろうじて声が出た。小さいしかすれていた。
上下の可愛いメイドは堂々とした挨拶を彼女に向けた。
うるうたんは無言のままこちらに近寄り、目の前に膝立てしたかと思うと、首に手を回しているゴリさんをやんわりと振りほどき、頬ずりしながら抱きついてくる。
「先輩キューちゃん成分を補給中かな」
「一連の動きに一切無言なのが証拠みたいよね」
振りほどかれたゴリさんのふとももに力がこもる。
しばらく静寂の時間が部屋に漂った。
「ふう。やっと落ち着いた」
何度か俺の頬に唇をつけたりすりすりしたりが一段落すると、その体勢のまま黒髪の美人が口を開いた。
「この子たちには最近借りがあったから怒るに怒れなかったが、これに抱きついてなんとか我慢できた。えらいな私」
「うるうたん今日が帰りだったんですね」
「ああそうだ。私も一慎とさっきまで一緒だった。しかしこの憤りは別として考えるぞ。君たちひとのメイド服を……」
唇をかみ、悔しそうにメイド服の後輩を見るうるうたん。
自分の領域を侵犯されたと思っているのだろうか。
「八べえのお婆ちゃんに許可いただきましたよ! うちら3人で共有しましょうよ、この服もこの人も」
「さっき決めたんだよねー。こんな場面のたびに睨みあってたらキューちゃん擦り切れそうだもの」
それを聞いてほほう、と目を細めたうるうたんが顔を覗きこんできた。
視線を逸らそうにも頬は両手でがっちり抑えられている。
「メイド服は百歩ゆずっていいとしよう、おば様のお墨付きがあるのならな。しかしこれを共有だと?」
さあ開戦の合図だ。
子供がおもちゃの取り合いをするように、引っ張りあいのつかみ合いになった。
「これは私のモノでな。共有などする気などさらさらないんだ」
「じゃああきらめて中立くん一筋にしてくださいね」
にっこりやりかえすゴリさん。
膝立てのうるうたんはそれを見返して髪をかき上げた。
顔に黒髪があたる。いい匂いだ。
「宝物を手放す馬鹿がどこにいる? これはな、そういう立場を越えている存在だ。むろん男であるからには肉体的に望まれることもあるだろう。そして私ならいつでも歓迎する準備はできている」
「えっ、キューちゃんに変態してもらう準備?」
うーこちゃんも思わず口を挟む。
黒髪の美人はそれにも頷いた。
「これを手元にとどめておけるのなら、造作もない迎合だ」
「多聞先輩も色仕掛けなのかー。五里さんもそうだし、あたしもそうしよっかな!」
「そんな軽々しく言うもんじゃありません」
にこにこする小さいメイドを諭しかけたとき、うるうたんが小さく笑った。
これは怒りの表現だ。
「九介、今から一緒にお風呂に入ろう。温泉も楽しめたが、やはりここの入浴が一番いい」
展開についていけず、無反応。
ふたりのメイドもさすがに驚き顔。
立ち上がりながら水着をとってくる、と早足に2階へ向かおうとする。
「まってちょっと待って。うるうたん俺水着ここにないんで――」
「ああ、君は裸でいい。私もイロイロ見たいからな」
上下の女の子をそっと放し、慌てて立ち上がった俺を振り返ってにんまり顔を綻ばせる痴女。感嘆の合唱をあげるメイドふたり。
「じゃあうちも入る! 先輩水着貸してください、あとで洗ってかえしますから」
「あたしもー。サイズが合わないだろうけど、キューちゃんと一緒なら貸してもらうよ」
うるうたんが後輩の提案に反対すると予想し、だったらやめましょうと結論づけようとしたのだが、彼女の答えはそれに反していた。
「ふむ、五里くんも明春くんにも借りがある。ここの風呂は広いし、皆で仲良く入ろうか」
うるうたんの誘いを受けてハイタッチするゴリさんとうーこちゃん。
何故そんなに女の子のほうが積極的なんだ。男の立場がない……
「話せますね先輩! うちはティ (規制) のでいいですから」
「悪いがそれは私が穿く。君は得意の部位があるからどんな水着でもこれを悩殺できるだろ」
いきなり話が別方向に盛り上がり、ガールズトークよろしく3人の女の子は俺をおいて賑やかに上の階へ消えていった。
……。
普通なら絶好の機会だし、男としては冥利につきるこの展開。
しかしながらさすがにこれは変態とかの領域をこえて色魔に等しいというか、犯罪者というか。
女の子たちと水着で風呂。そして俺は裸。
そうだ気合だ。何も起こさせない気合と根性だ。
自制と期待で胸が躍ったが、騒ぎを聞きつけた婆ちゃんが起きてきた時点でこのどエロな展開は中止になった。
4人とも正座で年寄りに説教を食らったが、この子たちはまだアパートのお風呂がある、とか呟いていた。
やる気満々なんですね。
恥じらいも嗜みもなしという積極的な彼女たちの攻勢に対し、攻め入る側の貞操を守るという不可解な必要性を感じる俺だった。




