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お話46   酔狂な子

 晩秋になると中庭での昼食がそろそろ億劫(おっくう)になってくる。

 悪友を見ればうるうたんが不在のため、女の子に囲まれた華やかな食事の最中ということで邪魔もできず、ぼっちのまま教室を出た。

 どこで一人飯をするか悩んで校舎をさまよっていると、ゴリさんと利くんが部室へ向かうのを遠目に発見した。

 さらに邪魔するわけにもいかず、見つからないように反対方向の階段を駆け下りて一階へと逃走する。


 そして結果的には場所を探すのが面倒になったので、寒々と中庭でぼっち飯ということにした。お弁当がゴリさんの手作りというのが大きな救いでもある。

 この寒空のなか、それでも彼女の作るから揚げは絶品だ。

 代行メイドさんがいる間は毎回これをメインにしてもらおう。


 ひたすら弁当をかきこんで早食いを展開していると、校舎側から笑い声がした。

 聞き覚えのある声色だ。


「ひとり! この寒いのにひとりでがっついてるぞたらしくんが」


 ああ、やはり貴方でしたか。

 部の仲間と爆笑してこちらを指差している。

 演劇部の部長とその部員男女数人が窓からのぞきこんで、こちらを見て笑っていた。

 何がおかしいのかわからないので、笑われているのにもかかわらずおかずを食べ、お茶をごくごくと飲む。

 お互い相手を見やりつつ、からかいを聞きながら食事という珍風景になっていた。


滑稽(こっけい)も度がすぎると情けなくもオモシロくなるのだな! あのとぼけた顔といったら」


 むっちゃむっちゃとご飯をかみしめながら、大受けしている彼らを不思議そうに見返す。寒くて身震しながら食べているのは事実だ。

 すると今度は校舎の中庭へと続く通路の方角から、元気のいい可愛い声が聞こえてきた。

 通り抜ける風をうけて髪と制服のスカートがぱたぱたゆれるなか、駆け寄ってきたのはショートボブの元気っ子、演劇部期待の1年生だ。


「おひさまうーこちゃん」

「おひさま! キューちゃん」

 

 少し息を切らしながらも、笑顔はまさしくお日様のようだ。

 俺もわけがわからない成りゆきを忘れてにへらと笑い返した。


「部のみんなとお昼ご飯だったんだ」


 そう言いつつも、またしてもちょこんと俺の膝の上に乗る。

 校舎からは演劇部の部員だけではなく、それを見ていた多数の生徒たちからの声も聞こえた。

 好奇の視線にさらされながらも彼女は平気で話しかけてくる。


「それお弁当? 手作りだね」

「そうだよ、これは――」


 ゴリさんの、と言いかけてややこしくなりそうなので口ごもった。

 覗きこんでおかずを見ていたうーこちゃんが、後ろにいる俺へ顔を向けた。


「多聞先輩、今いないじゃんね」

「……いないねえ」

「でもこれ手作りだよね」


 ジト目の横顔。周りの目におかまいなしだ。

 なんといってもこの子は学年の人気者、それが周囲にはばかりもせず膝のうえで男と会話となると、さすがに俺も人目が気になる。


「五里さん?」

「……」

「ふーん、彼女にお弁当まで作ってもらってるのかあ」


 太ももをぱしぱしと叩かれる。

 から揚げを口にしようとしたとき、それにぱくついて奪われた。


「あ、やっぱり得意って言ってただけあっておいしい」

「そうでしょうとも」

「でも……どうしてなの?」


 疑問は当然。なのでゴリさんはうるうたんのメイド代行として、婆ちゃんの池波家でしばらくお手伝いをするという主旨の説明を大雑把にしたのだが、それを聞いたうーこちゃんが膝から飛び降り、こちらを向いてにっこり顔を輝かせた。

 いつもの決定事項の確認ともいうべき台詞だ。


「あたし今日キューちゃんのお婆ちゃんにご挨拶するね!」





 確かに以前連れて来いとは言われたが、こうも短期間に彼女たちがこの家に(そろ)うとは思わなかった。


 うーこちゃんの部活待ちだった俺とは違い、代行として先に婆ちゃん家に来ていたゴリさんの不機嫌全開のお出迎えをまずは頂き、婆ちゃんの「若いころのわしだわ!」との恒例のお言葉も拝聴した。


「うーちゃん、こっち来な。あんたもメイド服を着てみるといい」

「はーい」


 即効のあだ名呼ばわりにも気後れせず、婆ちゃんに続いて2階に上がっていくうーこちゃんを見送る傍らで、ゴリさんが腰に手をあてて唇を尖らせていた。


「なんだよー……」

「いやあ、お弁当が」


 しどろもどろに言い訳をしてみるも、ポニーテールが可愛いメイドの機嫌は悪いままだった。


「明春さんがこのメイド服着たら可愛いに決まってる。うちなんか見てもらえなくなるじゃん……」


 手をつかみぶんぶんと振り回しておかんむりだ。仕草が萌える。


「ゴリさんは可愛いので、変態としては見るよ? じっくりと」

「ほんとに?」

「今も見てますがな」


 似非(えせ)関西弁でにへらとしながら短いフリフリのスカート部分をガン見。

 絶対領域がまぶしいです。ええド変態ですとも。


「そっかあ」


 不躾(ぶしつけ)すぎる凝視(ぎょうし)にもかかわらず、ニコニコ顔になったゴリさんは平気でその部分をたくし上げて見せた。

 あわてて俺がそれを手で押さえる。


「なら後で、また触らせてあげるね? 今日けっこうお気に入りの穿()いてきたから」


 不機嫌がご機嫌に変わって結構なのだが、それは保留させていただく。

 興味もやる気も満々だが、自分の理性に自信が持てないのでこの際うーこちゃんがいてくれることに感謝するべきだろう。

 さすがにあの子のいる前でゴリさんの造形美を触りまくるわけにはいかない。


 そして現れたうーこちゃんのメイド姿は、同じデザインにもかかわらずさすがにフェミニン満載の、キュートの具現化そのものだった。

 あまりにもうーこちゃんの白ニーソ部分を見つめていたせいで、機嫌の直ったゴリさんが再び眉をひそめたが、婆ちゃんが食堂へと皆を誘導したため事なきを得た。


 だめだ、変態目線というものをもう少し制御しないと。

 そう思いつつも前を行くゴリさんの自慢部位へ視線を集中させる色ボケぶり。

 女の子というのはそういうものに敏感なのか、眼鏡っ子のメイドさんが気付いて首だけ横に向け、うふふと笑った。

 だからたくし上げて歩いたらいかん。




 

 煮炊き物は婆ちゃん手作りの粉をダシとしてゴリさんが、うーこちゃんは料理が得意ではないといいつつも懸命にカレーを作ってくれた。

 味の云々ではなく、こういうのは心意気だと俺は思う。

 ふたりの料理はどちらも均等に、渾身のの感謝を述べつつ食べさせていただきますとも。


「キューちゃん、はいあーん」

「いただきます」


 うーこちゃんのスプーンでカレーを手ずからもらう。

 それを見てゴリさんも自分の箸でじゃがいもを口元へもってきた。


「八べえ」

「ありがとう」


 異論を挟まず続けてぱくりと。

 口のなかでカレー、ダシがしっかりしみ込んだじゃがいもが混ざりあう。

 混合だが、思ったより味同士けんかはしていない。


「うるちゃんが言ったとうりだ」

「なにが?」


 スプーンとお箸からふたつの料理を続けていただきながらも、肘をついている婆ちゃんのにやにや顔を見て尋ねた。


「美人ばかりだな」

「そうだね」


 事実なので即答。

 そしてわんこそばよろしく、双方から次々と出されるものを消化する。


「さすがのうるちゃんも、それは心配になるわ。よくもまあこんな可愛い女子(おなご)ばかりたらしこんだものだ」

「……人聞きの悪い。たらしこむて」

(とろ)かされたよねー」

「うちはじわりじわりそうなんよね」


 顔を見合わせてそこだけ意気投合。

 可愛いメイドさんたちに挟まれてご満悦の俺だが、ひとつ婆ちゃんに聞いておかねば。


「で? 彼女たちを連れて来いっていう魂胆を聞きたいんだけど」

「孫の相手を見ておきたいのは当然だろ」


 食欲旺盛に煮物を咀嚼(そしゃく)しながら箸を振ってふたりを指した。

 汁が飛びますよ。


「誰が嫁になるか候補を見ておかんとな」

「嫁! 嫁ねえ。そんな酔狂な子は……」


 双方から肘うちをいただいた。

 強めの打撃のようだ。すこしむせた。


「なるほど、決められんか。まあ3人とも可愛いものな。そして一兎(いっと)も得ないまま他の男に取られる結果かの」

「――ああ」


 左右の彼女たちを見ながら(うなず)いた。

 たぶんそうなるだろう。

 3人とも美人ぞろいで相手に事欠かない環境だろうし、いい男などいくらでも寄ってくるはずだ。


 将来起こりうるであろう事実を受け入れる覚悟とか、そういうのは今から心得ておくべきだろう。

 自分以外の誰であっても、奈落の底へ落ち込むことはわかりきっている。

 ゴリさんが下を向いて考えこむ俺を(のぞ)き込んで、口元についたカレーを拭き取った。


「キューちゃん、そんな顔しないで」


 うーこちゃんも気遣わしげに詰め寄ってくる。

 ふたりに気を使わせてしまったか……

 自業自得はひとまず置いておこう。


「ま、こんなのでも嫁になってくれればありがたいんだけどな、わしとしては」

「うちなら今すぐにでも嫁ぎますよ?」


 テーブルの下で手を握り締めてから、ポニーテールのメイドさんが明るく笑った。

 それを見てショートボブのメイドさんは婆ちゃんの前にもかかわらず、俺の膝に飛び乗った。


「あたしもキューちゃんのお嫁さんになるー」

「大胆な娘っこだの!」


 ふたりのメイドが(にら)み合うなか、婆ちゃんがそれを見て大笑した。


「まあふたりとも俺の嫁ということで」


 気晴らしで高言を口にした俺に、一族の長老から拳骨をいただいた。

 調子にのるなよ小僧、といったところか。

 鈍痛が残った。

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