お話43 鈴木小一郎(仮)
安心できる数合わせ。ダミー。雑用。
呼び名はいろいろあれど、お前ほど同年代の交流会にふさわしい野郎はいない。
クラスのとある男友達から、どう考えても褒め言葉ではない太鼓判を押された俺が連れていかれたのは、近郊のアミューズメント施設だった。
ボウリングやカラオケなどが気軽に楽しめ、多少なりとも顔見知りといった男女が会っても仲良くなりやすいというのが、選択の理由らしい。
いわゆる交流会、または親睦会。身も蓋もない言い方では合コン。
そして男にとっては戦い。
みな同じ高校生で学年も一緒らしいが、学校は違う。
女の子たちは女子校で、制服はセーラー服だった。
顔見知りらしい男と女の子が先導して、指定された部屋の中に入っていく。
男女3人ずつ知り合いはクラスメイトの男のみというなか、まずはカラオケでの接待が始まった。雑用は多々あるものだ。
飲み物の注文から曲の入力、自己紹介の司会など、心の声は多いものの多弁でない自分がしきるには多大な努力を必要とした。
司会に曲の入力をさせるなか、狩人の男たちはやってきた他校の女の子に狙いを定めて攻勢に出る。
若気の至りにまかせて突っ走っているその姿に、やれやれ、やってしまえいと思う部外者の俺なのだった。
無責任モードだ。
「あんたさっきから見てるけど、ぶっ器用だね!」
女は愛嬌、という表現がぴったりな明るい大柄の子が声をかけてきた。
司会のくせに女の子の名前全員忘れたのは内緒にしておこう。
「ばれたか。うまくさばいてるつもりだったのに」
生真面目な顔で頭を振る俺に、その子はぷっと吹き出してばんばんと肩を叩いてきた。親戚のおばさんに君のような人がいた気がする。
ベリーショートな髪の、可愛いというより男前な顔つきだった。
「どこがよ! 頼んだ飲み物と違うの出てくるし、曲間違えるし」
「おっ? ……なんということだ」
「あはは、落ち込むな。全部アタシのやつだからかまわないよ!」
「ありがたいのう」
「おっさんか」
互いに気楽な会話。
相手もあれ? といった様子になり、理解したにやり顔に変化した。
「乾杯だ」
「何に?」
聞き返すも、ジュースグラスをカチンと合わせて無言の返答。
他の4人の男女も、ひとしきり話を広げるのに成功しているようだ。
いい展開だ。
「数合わせに乾杯」
「お、おお。乾杯」
2回目のグラス合わせ。
相手の境遇がわかれば話相手は決まったようなもの。これは気が楽でいい。
「アタシはあんたの名前を知らないし、あんたはこっちの名前を忘れた。そうだろ?」
「察するねえ。部外者ならではだね」
「話のついでに、どうして連れてこられたか聞いておこうかな」
理由か。
そこにいる耳上ツーブロックのつんつん野郎が振られたということで、新しい出会いのための付き添いなんだが、それを暴露するわけにはいかない。
振られた相手が俺と仲のいいゴリさんだったというつながりだが、さてどう言い繕おうか。
「まず男前じゃない。友達であるあいつの邪魔をしない。人畜無害の数合わせ、理由は様々だね」
「なるほど悲しいな!」
豪快笑い。俺はおっさん気質だが、君も結構アレだな。
「後は若いもんで遊んでくれると、俺も家に帰れるんだけど」
「だからおっさんかっつの」
ぱしっと突っ込み。
せっかくなので礼儀としてもう一度名前を聞いてくことにした。
「あたし? んー山野辺花子」
「鈴木小一郎ですよろしく」
一期一会、一度きりの邂逅なので偽名といったところか。
妥当な判断かも。
ふたりともまったく面白くない顔をしながら、名前だけ紹介しあった。
寒いとか痛いとかの感想もあえて挟まない。
お互いの仮名が判明したところでほかの4人が意気投合したのか、場所を移してボウリングとなった。
4人の男女はそれぞれチーム別でアベレージをを競うことになったようだ。
まさに蚊帳の外の花子さんと小一郎は互いに飲み物をかけて戦うことに。
「不器用なコイチローがあたしに勝てるかなー?」
「甘くみるなよハナコ! その自信を砕いてやる」
偽名なので気安くお互い呼び捨て。
周りから見れば結構な仲に見えるかもしれない。
しかし勝負は勝負、ここは差別なく本気で投げさせてもらおう。
「……」
「あっはははは」
……。
彼女は余裕のスコア160越え。俺は必死でスコア140ちょい。
結果は惨敗だった。
「甘い! 甘いよコイチロー。これじゃ何回やってもあんたのサイフが軽くなるだけだよ」
「くっ、くっそおおお」
演技ではなく本気で悔しがった。
何本目かの飲み物を進呈するも、とにかく勝負に拘ってゲーム再開。
「……ぷっ、くくっ」
腹をおさえて爆笑を我慢する花子。
床に手をついて絶望姿勢の小一郎。
何回やっても試合の結果は変わらなかった。
「わはははは」
抑えきれなくなったのか花子大笑。
ますます俺は落ち込む。
隣レーンでは、ほかの連中が賑やかかついい雰囲気で投げ合っている。
「ハナコがこれほどとは……弁解の余地なく完敗だ」
椅子に力なく座り込み降参のポーズ。
目の前の花子は、得意顔で勝ち取ったお茶をがぶ飲み。
体格も行動も肝っ玉気質が見て取れる。
この子は子沢山の勝気な母ちゃんになりそうだ。
適当な予測だけど。
「アタシはこの通りがさつで男みたいだからさー、いいんだけど」
口からこぼれたお茶を手でぐいっと拭きとる。
立ち振る舞いはたしかに男前だ。
「コイチローは自分から狩りに行かないのかな。このままだと学園生活は灰色じゃね?」
「まあいろいろありまして……進むも引くもややこしくなりそうなんで、とりあえず現状維持ですかね」
隣のレーンで2組のペアが勝負を決めたようだ。
友達のつんつん頭負けたか。
まあ交流自体まくいってるようで満面の笑みだったが。
「へえ、あの子たちメール交換してるよ。気が合ったのかな」
「付き添いとしては上場の結果で何より」
花子がこっちを向いてにやり。俺はにへらと笑い返した。
偽名のふたりを除く彼らのメール交換が済んだのを合図に、この施設での遊びは終了。当初の目的は遂行できたようだ。
外に出てそれぞれの相手と意気投合した男どもの提案で、ペアどうし別行動することになった。
なかなかスピードの速い展開だが、花子が軽挙はダメだよ、とか女の子たちに念押ししていたのでまあアレなことにはならんだろう。
つんつん頭がほくほく顔で肩を組んできた。にやけた面だ。
「俺ら今から別々にメシいくけど、お前どうするんだ。あのデカイのとどこか行くのか?」
「いや数合わせはあの子も同じだったから、このまま解散して帰る」
「なんだよ、甲斐性ねえな!」
ご機嫌麗しいのは結構だが、腹を叩くな2回も。
つんつんが相手に呼ばれて離れると、花子が近寄ってきて手を上げてきた。
ハイタッチだと理解して、ぱしんと軽く叩きつける。
「任務完了だ。アタシらの仕事は終わりだね」
「終わったねえ」
「付き添いでもコイチローみたいに変なオモロイ男と出会えたことだし、楽しかったよ!」
「全く同じくなんだぜハナコ。君の豪快さは記憶に残ったよ」
がっちりと握手。
性別をこえた感情がこもった。
友達としては理想的かもしれない。
「おーい花子あたしらもう行くからねー、またね~」
「おーぅ、じゃあの!」
立ち去ろうとする女の子たちに手を振って笑う花子。
……ちょっと待て。
「花子……? ハナコ!?」
「うん、花子。まあどこにでもある名前で少し恥ずかしいんだけどな!」
おいおいおい。偽名じゃなかったのか!
それはうかつだった俺だけ嘘を……
「ではアタシらも解散だ、またどこかで会うかもな! さいならコイチロー」
あっさり別れを告げながら背を向けて歩き出した花子に向かって、俺は慌てて声をかけた。
「待ってハナコ、ごめん俺今まで勘違いで名前――」
「問題ないって! あんたは鈴木小一郎。一期一会ならその名前でもいいじゃん。また会えたらコイチローって呼ぶわ」
振り返りもせず、手だけぷらぷらさせて遠ざかっていく長身の花子。
立ちふるまいが男前すぎて、同姓として惚れそうな振る舞いだった。
彼女は男より女の子に好かれる気がする。
俺といえば小さくなる花子後姿を見送って、憮然としていた。
ちゃんと名乗った相手に偽名使ってしまった後悔の念てやつだ。
それにしても爽やかであっさりとした子もいるんだ。
連絡先聞いとけばよかった。
初めて気を振りまくことのない女性というのに会った気がする。
いい出会いとはこういうものか。
自分だけかもしれないが、あのつんつん頭には感謝しておこう。
帰れば婆ちゃん家で家事手伝いとしての仕事が残っている。
星が顔を出し始めた空を見上げながら、俺も背を向けた。




