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お話27   つまりはそういうこと

 食事中も男ふたりのディフェンスに阻まれ、またもぼっち飯に。

 よほど警戒されているのか、彼女たちが俺に話しかけようものなら全力でほかの話題に振り替えられ、豪華な船盛りも味気なくあっさりと夕食は終了した。


 このあと朝に俺が見た景色の展望場らへんで花火をするそうだ。

 会話に加われずの盗み聞きで知った。なんともみじめである。

 浴衣に着替えてくるという男どもと女の子たち。

 俺といえばとぼとぼとひとりで梅の間に戻り、課題の続きをしようと炭酸飲料を冷蔵庫から取り出した。やけ飲み用だ。

 一本目のペットボトルを空にしたとき、梅の間の引き戸が開かれた。

 扉の正面に座って課題を進めていたため、彼女たちが見目麗しい浴衣を着ているのがすぐわかった。


「九介ー、花火の時間だ。さあいこう」

「あ。いや俺は」

「昼からまともに喋ってないじゃん。いこうよー」


 薄ピンク生地に花柄の牡丹、菊のデザインが美しい大人っぽい姿のうるうたん。

 エメラルドグリーン地にグリーンピンクのダリアと白百合がまぶしい、上品で可愛いいゴリさん。

 男がいる場所に連れていくのをためらうほど見栄えがいい女の子たちだ。


「一慎と行永先輩はどこに?」

「ああ、あれらか」

「いじわるばっかりするひとたちだね」


 ふたりとも鼻で笑ってすげない対応。

 どうしたことかと松の間をのぞいてみれば……浴衣のまま正座している男前と眼鏡先輩がいた。


「その……なんだ、ふたりとも」


 ギロリ、と睨まれた。利くんも目が血走っている。

 すぐ後からついてきた彼女たちと俺を見比べて悔しそうだ。


「多聞ちゃんが危険だからこの変態を遠ざけていたはずなのに、この仕打ちだ」

「真昼君があれほど怒るって……」


 同時に肩を落としてうなだれる男たち。

 ため息の長さが説教をくらったことを証明してくれていた。、

 俺はハブられたことを忘れて野郎どもに同情した。


「私の九介にあまりな態度の連続で、我慢の限界にきた。だから少し絞ってやったよ」

「うちにさ、八べえに近づかないほうがいいなんて言うんよ。許せないじゃん」


 ……半泣きでこっち見ないで利くん。怒りの形相の一慎より心にくる。


「あ、あの。俺もう含むとこないんでいい加減正座――」

「相変わらず優しいな君は。まあ正座と説教はあとで続けるとして、今は皆で外に出ようか」

「きっちり言い聞かせるのは花火が終わってからよね」


 ゴリさんだんだんサドのこの人に感化されてきてないか……

 利くんも調教される気がする。この悪友のように。





 花火といってもやかましいタイプの代物ではない。

 玩具花火のなかでも手持ち花火、線香花火、噴水仕様のようなものがあるくらいで、打ち上げや連発ものは騒音の問題や彼女たちの希望で使わなかった。

 それでも情緒あふれる季節感というものは十分に堪能できる。

 景色がいいことも何気ない花火をさらに際立たせてくれていた。


 しょぼくれていた男連中も童心に戻って騒ぎだす。

 一定の音量をおさえたはしゃぎっぷりだったが、利くんと一慎は肩を組んで何が面白いのか爆笑しながら花火を振り回していた。少しテンションがおかしい。


「誘ってくれてありがとうね、八べえ」


 線香花火を持ったゴリさんがバケツに入った水の用意に余念がない俺の近くに来て、しゃがみながらささやいた。


「俺こそ楽しませてもらってるよ」

「うん。やっぱり来てよかった……」

「先輩のいろんな面も見れたしね」


 俺と同じ変態業界の住人、意外に子供っぽい素の部分、先程の独白で見せた熱い男っぷりなど、どれも新鮮なものばかりだった。


「ほんと。あんな利くん初めて見た」


 回転しすぎて気分が悪くなったのか、笑いまくっていた男ふたりは花火を持ったまま崩れ落ちて荒い息を吐いていた。一慎を巻き込んでのコント仕立ての振る舞いに、彼女は笑いを堪えきれない様子だった。


「こんなふうに笑ってられるのも、全てはあのとき出会えたから」


 線香花火の明かりに照らされたポニーテールの横顔を見つめた。

 口元をほころばせたり、唇を少しかんだり、何かをかみ締めているようだった。


「八べえに会えたから、今のうちがいるんだ」

「……」

「自分で自分が大好きなんて、以前なら考えもしなかった。だけど今は心から素直に笑ったり怒ったりからかったり、やな部分さえ外に出せるようになったんよ。これって、どう考えても誰かさんの影響よね」

 

 背中を少し押した形になっただけで、続けて踏み出し結果を出そうとしているのは明らかにこの子自身の力だ。

 自分を好きでいることだって自信のひとつになるのなら、それだけでも俺と君が出会った価値とか意味があるような気がする。


 ポトリと線香花火の灯が落ちた。

 同時に彼女が俺に向き直った。

 その視線は俺ではなく、いつの間にか後ろで佇んでいたうるうたんに向けられている。黒髪が美しいこの美人さんも、ゴリさんと同じように微笑んでいた。


「いい女の顔をしているな。どうやらここにきて理解したようだ」

「……なんていうことでしょうね。理解したら目の前のこの人を蹴り飛ばしたくなりました」

「そう、つまりはそういうことだ。いつもいつも後になってから気付かせてくれるんだ、この自覚しない変態男は」


 麗しい浴衣姿の女の子たちはこちらをじっと見つめたあと、お互い顔を見合わせて楽しそうに笑いあっていた。

 少し離れた場所で男どもも意味不明に爆笑。

 珍妙な空間だった。不可解なのは俺だけで、他はどういうわけかやたらと明るく盛り上がっている。


 一慎と利くんも冷蔵庫のムニャムニャを痛飲していたという事実は後で知った。

 意味不明に笑いが出たり、やたらと高いテンションなどの所作はすべてアレのせいだったらしい。

 それでも怒鳴ったりからんできたりしない彼らの自制は大したものだと感心する。

 へろへろの状態のふたりを介抱するのは確実に俺の役目になるとしても。




 

 午前様になってから酔いどれ野郎どもを松の間に寝かせたあと、今日もぼっちで就寝とばかりに梅の間に戻って布団を敷いた。

 ここ何日か寝不足が続いている。

 今夜こそ安らかな眠りにつくつもりで洗面所にて歯を磨いていると、違和感のする笑い声とともに引き戸が開いた。

 昨日と同じにやにやと赤い顔。ふらふらの様子。思わず歯磨き粉を飲み込んだ。

 同じ失敗を同じように繰り返しているようなへべれけの女の子ふたりに対応できず呆然と固まっていると、そぉいの掛け声とともに布団に引き倒された。

 ろれつの回らない口調で俺の名を呼ぶふたりの大トラ。


 悩みも屈託もない童心のような笑顔だ。有無をいわせない笑顔でもある。

 昨日と違って、確実にわかっててやってるだろうというぐだぐだぶり。

 飲んで呑まれることが解放というのなら、間違いなくこの子たちは今解き放たれている。


「よっこれ」


 意味不明の掛け声とともにうるうたんが腹の上に(またが)った。

 にんまりと俺を見下ろして白い歯をみせている。

 見上げる光景はすばらしいの一言につきた。

 寝間着である浴衣の裾がめくれていろいろあらわになっているために、上半身を見上げる必要性があったからだ。

 それに比べれば、はだけた胸元ならまだ我慢のしようがある。変態として。


「口元まっしろだ~」


 ゴリさんといえば、ひとの腕を寝枕にぴったりと密着して頭を寄せている。

 唇同士の距離が近い。

 ぺちぺちと頬を撫でながらも、口の端についている歯磨き粉をティッシュでふき取ってくれた。

 こんな状態でもお母さんだ。


「うるうたん見えてます。上も下も」

「ふふっ、見せてるんだよ。これは君のために穿いたティ」

「仕方がないな! これは俺が手ずから直しておきましょうね」


 裾を正常の状態にしっかりと整える。

 ド変態もどん引きの露出癖に、煩悩のほうが先に退散していった。

 いつの間にか正座したゴリさんの膝に、自身の頭が乗っていることに気付く。

 太腿と太腿の間に頭があるという、正式な膝枕の状態に。

 髪をなでなでとされる。お母さんかお姉さんのようだ。


「今度こそうちと先輩のどっちがいいお尻なのか、見てもらうんだもんねー」

「望むところだ。私はすでにこれで準備はできている」


 また裾をめくったようだ。目を閉じてやりすごした。

 ゴリさんはお母さんモードではなかった模様……


「うちだって小さめのなんですよ!」

「なるほどやる気満々だな、受けてたとうじゃないか。あれの大きさでは負けるが形では負けんぞ」


 アレ比べなどを実演させるわけにはいかない。

 無論描写は不可能。

 ここまでくると一慎や利くんに気がねするという段階ではない。

 さすがに良心の欠片が残っていたのか変態は一切発動しなかった。

 双方とも浴衣をまくって造形美を露出しだした瞬間、またしてもほうほうの態で部屋から脱出することに。

 とりあえず最後の夜も指定席は大浴場前のソファになった。

 旅行中の睡眠不足が解消されることはないだろう。

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