お話25 楽しい夏休み
「可愛くも品があるセクシーさでとてもよくお似合いですよふたりとも。眼福だなあ」
「つまらない」
「……」
内容を吟味して紳士的に振舞ったのだが、一刀両断にダメ出しされた。
ゴリさんも何やら不満そうだ。
「そんなとってつけたようなつまらん世辞ではなく、変態らしい自分の言葉で感想を言ってみろ」
ツンモードですか。
本領を発揮していた昨日は引いて怒っていた気がするが……
まあしかし思うがまま述べてよしとのお許しが出たところで、素で褒めるとワードがやらしくなるからヘタなことはほざけない。
「うち……どうかな? 昨日と違って思いきってみたんよ」
ゴリさんの顔が少し赤い。
しかし肌を見せることを恥ずかしがっていた昨日と違い、しっかりと俺を見つめていた。それにしてもうるうたんとはタイプの違うスタイルの良さだ。
くびれからの曲線が特に芸術的なラインを描いている。
これは変態目線から拝見するに、殿堂入りの水着姿として認定されてもおかしくない。あの部位の大きさ形のよさに関してはうるうたん以上か。
「えっとね。八べえが見慣れるように、できるだけおし」
「一慎! いい判断だ、この子たちの姿はほかの男に見せられないもんな!」
「おう。俺としてはお前にも見せたくないけどな」
またしても遮ってしまったが、危ないところだった。
ゴリさんとの朝での会話は誰にも内緒にしたい。
一瞬うるうたんの眉がぴくりと動いたが、実情をけしてもらしてはならない。
何事にも限度がある。
変態を直すためにアレの部分を凝視していい、なんていう話をうるうたんに聞かれたらどうなることか。まさに重要機密だ。
「目を逸らさずにちゃんと私たちを見ろ」
君の好きなところもな、と言いつつ後ろを向いたうるうたんとゴリさん。
想像以上ののボリュームと秀逸な形の陳列に、前言を忘れて思い切り凝視した。
「言葉もないか。どうやらお気に召していただけたようだ」
「うちまだかなり恥ずかしいんですけど」
一慎や利くんがこの桃色空間の発生を感知しない間に、逃げるように波打ち際へ飛び込んだ。イロイロなものがこみ上げてきたのでクールダウンだ。
追いかけてくる煩悩の発生源たちは無邪気な声でこちらとの距離を詰めてくる。
恥ずかしがっているゴリさんはともかく、うるうたんは堂々として嬉しそうだ。
この子はかなりのサドなのだろう。会心の笑みがそれを証明している。
ビーチボールで水遊びならぬ海遊び。
波にもまれながらも4人の男女がそれぞれペアを組んで決勝戦になった。
ぼっちの俺は当然一次予選で敗退だ。
最下位のため人数分のアイスを買いにいけとパシリに認定。
戻って見れば優勝は利くんとゴリさんのチームだった。
運動神経が抜群だった眼鏡先輩と実は球技が得意なゴリさんが、僅差で到達点に達したらしい。
負けず嫌いの美男美女が悔しがるなか、ふたりは大盛り上がりでハイタッチ。
優勝商品のアイスを食べた後で第二回戦だと息巻いていた。
俺はというと昨日のソファでは熟睡できなかったので、パラソルの下に寝そべってうとうと。無論冷たく甘い食べ物を口にできるわけもない。勝負は非情だ。
意識が途切れしばらくして目が覚めれば、見渡せど男たちの姿はなく、可愛い水着の女の子たちが左右に自分を見下ろすだけだった。
ぴたりと頬につめたい感触。
ゴリさんがクーラーボックスから健康飲料を取り出してくれたようだ、
まだ半分おねむの状態ながら、ありがとうとお礼を言ってそれを受け取った。
「楽しいな。こんなに楽しい夏休みは記憶にない」
俺の一気飲みを見つめていたうるうたんが子供を見るように目を細め、優しく頭を撫でてくる。
勢いすぎて口からこぼれた水分をゴリさんに拭き取ってもらうその様は、まさしく幼児そのもの。いい年をした男の尊厳は微塵もない。
「君は昔からいい夏をすごしていたようだな」
「……ええ。そうかもしれませんね」
彼女はどういう幼少時代をすごしてきたのか気にはなったが、それ以上の詳細を知ることはできなかった。一慎にも語っていない気がする。
「今穿いているきわどい水着など考えもしなかったぞ、この私がこんな卑猥なものを」
「うちもですよ!」
ふたりともニコニコ満面の笑みで機嫌がいい。
先程は楽しそうだったし、彼女たちはこの旅行を心底満喫しているように見える。
俺も美人に囲まれた今回の旅行を楽しく思わないないわけがない。
変態的な性癖を指摘され、からかわれる事態になったのは予想外だったとしてもだ。
「八べえといると新しい自分を発見できる機会が増えるんよね、外見から内面から」
「そうだな、九介といると己の本性があらわになってくる。私は結構えっちで露出の癖があり、なおかつ悪い酔いかたをする女のようだ」
「……」
あの夜のことを覚えている?
いやしかし今朝はそんな素振りなど何一つ感じさせなかったが……
「五里くんから聞いた。私が梅の間で寝ていた理由をだ」
「調子にのって何かを開放させすぎましたね」
その開放の度合いを今後は自重してもらいたい。
大胆になってストレス発散との目論見かもしれないが、変態の理性など期待するだけ無駄だ。
「つまりさっき見せたこの部分をこれからもっとだな――」
立ち上がろうとしたうるうたんを瞬間の判断で抑え、膝立てしたゴリさんの行動予定を察して腕をとった。
やらせるものか。この至近距離で拝見すれば俺がやばくなる。
この付近に誰もいないから、この子たちはやりたい放題だ。
「これではどっちのアレがいいのか判断できないじゃないか」
「そうだよ」
不満気に唇を尖らせるなふたり。
ナニをしようとしたのか冷静になっていただきたい。
「俺も一応男ですよ! そんな格好でそんな体勢をするもんじゃありません」
うるうたんを抑えた勢いで彼女が右ふとともの上に、腕をとった反動でゴリさんが左ふとももの上にそれぞれ乗っかっていた。台詞とは間逆の構図だった。
「大胆だな九介。諌めながらもする行動は変態そのものか」
「八べえ重くないー? うちはうれしいけど」
深層心理の行動なのだろうか。
偶然にしておくには弁解がきかない位置に彼女たちを侍らせている。
見たかこれが変態だといわんばかりだ。
「断っておくが、私はこんな格好やこんなふうに触れるのは君にしかありえないんだからな。一慎にはもっとおしとやかなんだ」
「うちは八べえの他には考えられません」
気安い相手もここまでくれば男と認識されていないんじゃなかろうか。
たまには危機感を煽ってやらねば、本気で自分が犯罪者になりそうだ。
「まあいいさ、はしたないのは君の前だけ。これからそれを教えてあげるよ」
うるうたんが力を抜いてこちらにもたれてきた。
それを見てゴリさんも同様に寄り添ってくる。
内心お経を唱えて冷静になろうとしたが、落ち着けという静止の声と、触ってしまえという煽りの声が頭のなかで交錯する。
恐ろしいほど真剣に躊躇と実行とを選び悩んでいると、いつの間にか彼女たちから小さく寝息が聞こえだした。
寝不足気味のうえまったりした雰囲気がおねむにさせたのだろう。
思いきり安心しきって熟睡している。つまり煩悩は退散だ。
寝顔の可愛さにやけながらも安堵したため息を吐いた。
「機嫌がよさそうだな、変態野郎」
彼女たちふたりがもたれかかっているので振り向けない。
かといって大声も出せないし身動きもとれない。
スルーしているわけではないが、わかってくれるだろうか心の友よ。
「お、遅かったな。どこにいっていたんだ」
「買い出しだよ」
利くんが目の前に来た。彼にしてはめずらしく若干のいらつきを見せた笑顔が貼りりついていた。
手にはコンビニで買い物したらしい袋があった。
「海の家もいいけど、予算的にこっちにしようと思ってね。遠くまで行って探してた」
「暑いなか御足労ってやつだ。その間にてめえは人の彼女にナニをしてるんだコラ……」
一慎にいたってはすでにキレた後。
彼の身になってみれば、俺は水平線の彼方までぶっとばされても文句は言えない。
「彼女たちが目を覚ますまでは待ってやる。起きたら正義の鉄拳をくらうことだな、このド変態のこまし野郎」




