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お話23   冷蔵庫のなかのムニャムニャ

 部屋割りは大人の配分、と余計なお世話を焼いたものの、うるうたんの「先輩後輩の関係だけで同室はダメ!」との一喝であえなく変更になった。

 うるうたんとゴリさん、一慎と利くん、俺はぼっち。

 今宵は女同士の話になるという彼女の強い意志で、深夜になる前の段階で賑やかしが解散になった。これからが夏の思い出というのに残念だ。

 一慎と利くんは欠伸をしつつも歴史友達としての交友を深めるそうで、異議なく松の間に戻っていく。


 俺といえば独り者の寂しさから炭酸飲料をがぶ飲みしたため、胃からガスを排出する作業が絶え間ない。

 のんべえよろしくTVをつけっぱなしにしながらうつ伏せで黄昏(たそがれ)ること数刻。


 完全に寝静まった館内のお手洗いから戻ってしばらくすると、そっと引き戸が開いたような、足音のようなものを感じた。

 とくに誰かとか確認するわけでもなく、無造作に柿のタネをボリボリとかじりつく。

 危機感のない、まさに自堕落そのものの振る舞いである。


 人の気配がするものの、感性が欠落した自分もうつ伏せ姿勢のためか判断すらできない。しばらく柿のタネを噛み砕く音がTVの音響にまざって部屋に響いた。

 次の瞬間、部屋の電気が消える。

 反射的に跳ね起きてあたりを見回すと、TV画面の光のみでも十分相手を確認できた。


 ……。

 この匂いは、あれだ。あと数年経たないと飲んではいけないものだ。

 言葉を(にご)しているが、相手の状態は直球で言わせてもらう。

 へべれけである。


「う~、きゅすけ~」


 なるほどこれは大層な酔いどれぶり。

 真っ赤な顔にへろへろの表情のうるうたん。名前言えてないし……

 何で飲んでいたのか一目瞭然。

 おそらく冷蔵庫のなかのムニャムニャ類を空けたのだろう。


「あぶないですようるうたん」


 ふらふらの彼女がこけそうになったのであわてて助けに入る。


「どーん」


 大トラか。

 体当たりされて布団の上に転倒したが、彼女がからみついてくるので起き上がれない。

 何がそんなにおかしいのか、くすくす笑いながら背中をバンバンと叩かれる。

 これはかなりの前後不覚。遠出をしてみて初めて気付くうるうたんの一面か。

 しかしこれはアレの力だ。


「しっかりしてくださいよ、かなり回ってますね」


 変な汗が出てくる。

 まさかこの子ひとりで痛飲したわけでもなさそうだ、つまり……


「まさかゴリさんもこんな――」

「あははははっ」


 爆笑ですか。

 これは人の話聞ける状態じゃない。

 まずうるうたんをなんとかやりすごしてゴリさんの様子を見にいかないとだ。


「きゅ~すけ~」

「はいはい」


 これはどう見ても子供だ。かわいい小悪魔そのものだ。


「わたーしのなあ。お尻だっていいんだぞ~?」


 口のなかに残っていた柿のタネをぶっと吐いた。

 何言いだすんです?


「五里くんのが好きなんだろ~? でも私のもけっこう大きいし形もなー」


 こらこらこら。

 一慎が聞いたら驚倒(きょうとう)するような事をにへら笑いで口走っている。


「くびれだって――」


 口をふさぎました。

 しかしこれほどアレの力がすごいとは。

 この子は将来なんとかクセが悪い人になるだろう。

 だがこの状況。俺がうるうたんにのしかかって襲っている(てい)に見えなくもない。

 はやく落ち着かせて隣の部屋に……


「こーやって抱きつくのはにどめー」


 額をぐりぐりと胸に押し付けられる。

 今からの展開が全く予想できない。また笑ってるし。


「……」


 あれ?動きが止まった。寝たかな?

 ぐすっと鼻をすする音がした。

 さっき背中を叩かれた要領でこんどは胸を叩かれる。


「きゅーすけは興味ないっていうんだ。私の水着なんて見たくな……って」


 ……まさか。

 今度は泣いてる?


「あの子のほうがいいって。せっかくがんばってティ(ピー音で規制)のやつ穿()いたのに全然かまってくれないんだ」


 感情の上下変動が急激すぎてついていけません。

 なんとか癖の悪いひとへの対処法といえば……

 わかっているのは逆らわないことだけだ。

 とりあえず胸にたまっているモノを吐き出させることにした。


「あいつは五里くんが可愛くなったから私のことなんてもうどうでもいいんだ」

「……そ、ですよねえ。そりゃ怒りますよ」

「そうだろう。今あれが気にかかっている女のな、五里くんと明春くんと3人のなかで、一番きゅーすけと長いのは私だ。あれは私のモノだ! 誰がほかの飼い主に渡すものか……」


 それ、ペットですよね?

 その扱いペットそのもの――


「しかしまあうるうたんには一慎ていうハンサム後輩がいるじゃないですか」

「一慎はきゅーすけのように気が多くないし、浮気なんてしない」


 ……なんというのろけ。

 というかなんという評価の違い。

 もはや男と男の比較ではなく男と動物の構図に……


「少し手綱をゆるめるとすぐほかの女に……だから色気にはいろけで立ち向かうのだ」

「なるほど飼い主としての矜持(きょうじ)ですね」


 言ってて悲しくなってきた。

 それはスキンシップも躊躇(ちゅうちょ)なくするはずだ。


「そう、つまりお尻にはおしり。今度あれの家に行って」


 これ以上お伝えすることはできません。ピー音でどうぞ。





 竹の間にそっと忍び足。

 いや(よこしま)な意味があって忍んでるのではない。

 ようやく寝付いてくれたうるうたんを梅の間に残し、その後のゴリさんの様子が心配だったからだ。

 摂取する量によってはただ事ではすまないので、こちらとしても窺わないわけにはいかない。

 引き戸をあける。そっとだ、そっと。


 もし松の間のふたりに見つかれば、俺は怒りの鉄拳をくらうことになる。

 どうして梅の間にうるうたんがいるのか、それをなだめる(すべ)はたぶん浮かばない。

 憤怒の一慎が容易に想像できる。


 静かな竹の間の寝室に潜入成功。

 明かりは豆電球のみ。絶好のシチュエーションだが、標的はどこにいるのか。

 う……というかすかな声が聞こえた。

 見渡してもその姿はない。さすがに容態を計りかねて気持ちがあせる。

 壁と布団の山にはさまれて乱れに乱れた格好のゴリさんを見つけたのは、それからしばらく後のことだった。


 お姫様だっこをしてひとまずはちゃんと敷かれた布団の上へ。

 彼女や隣の野郎どもを起こさないようにゆっくりのっそりと移動する。


「あ……」


 しまった起きた。

 さすがに抱えていては気が付かれてしまうか。


「八べえだ……」

「いろいろ飲んだようだね。調子はどう」


 抱っこのままひそひそと。

 うるうたんほどの変化はなさそうだ。つまり量的に少なかったのか。


「んふふ」

「……」

「いけないんだ。変態さんに抱っこされてる……うちどうなるんだろ」


 少し酔っているようだ。

 普段ならもっと恥ずかしがる仕草を見せるはずだが、堂々としたもので色気も半端ない。布団の上におろそうとすると、首にしがみついてがっちり固定。

 うむ、やはりこの子もへべれけだ。

 とにかく女っぽさ爆発といった様子で、はだけた胸元が眩しすぎて目を逸らしっぱなしだ。

 とくに問題がないなら早々にここから出て行かないと……

 俺の理性もいろいろやばい。


「うちをあんなに褒めるから~、今日の水着は大胆なのにするんだ、ねー?」


 なんですと?

 なぜ同意を求めるのかは不可解だが、ゴリさんも複数所持らしい。

 女の子としては当たり前の感覚みたいだ。連泊なので当然か。


「多聞先輩もー……今日着る水着でうちと勝負するんだって。部位勝負だー」

「なに部位勝負って」

「八べえがあんなに褒めるから悪いんだ。造形美で張り合うんよ」


 ……。

 ああそうか。俺は自分がド変態ということを忘れていた。

 いきあたりばったりの行動に罪と罰が与えられようとしている。

 そんなこと海辺でされたら一慎と利くんが怒髪、天を衝くぞ。命の危険だ。


 頭をなでなでとしていると、自然にゴリさんが寝息をたて始めた。

 ふうと一息。

 この静かな騒動で判断力が適当になり、目の前に置いてあった飲みかけのお茶を考えなしに一気に飲みほした。細かいことは気にしない。


 俺自身もういい加減おねむしたい。

 そして自らが戻る部屋に先客がいることを思い出した。

 自分はどこで寝ればいいのか。

 しばらく思い悩んだ末、何もかも面倒になって竹の間を出ることに。

 どこまでいってもこの宿ではぼっち。

 すなわち大浴場出口にあるソファが一日目の寝床になった。

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