お話21 夏といえば
テスト結果もそれに繋がる通知表の段階評価も忘れて夏休みだ。
後になって実家に帰ったときにぶん殴られるだけのこと。
夏といえば海。
海といえば、わが家では毎年親父の会社の保養所にて親族で泊まるというのが恒例になっていた。
しかも安上がりで風光明媚な数日を過ごすことができるめったにない環境だ。
ということは、ここはやはり同年代とすごすのが最上の選択になるだろう。
今年は高校生になったことだし、悪友や知り合いを誘って例年とは違う面々で旅行に行くことにした。
男3人女の子2人、それぞれ決まった相手がいるのはいつものことで、無論余りモノは自分だ。
悔しくなんかない。ゴリさんの弁当はおいしいし、車窓からの水平線は綺麗だし女性陣はもれなく可愛いから……見てるだけでも。
例年身内で通いつめた予定表を組んで、まずは現地到達前に観光名所を見回った。
何回目か忘れたほど行きなれた城の景観とはいえ、連れている人が違うだけでずいぶんと違う印象を受ける。
歴史好きな行永先輩、いや利くんのはしゃぎようはなかなか見ものでカメラマンのようだった。本格的な一眼カメラ持ってきてたし。
暑い陽射しのなか歩き回ったあとは、駅地下の百貨店にあるカフェで体を冷やす。
ここで毎年食べるチョコパフェの刷り込みが、自分の甘党のルーツと勝手に推測している。
「旅先でもそれを食うかお前」
「ここだからだぜ一慎」
スプーンを指し棒がわりに一慎のあきれ顔へルーツの説明をしようとしたが、5人もいるとさすがに賑やかだ。
あれこれ会話が飛び交っていたので、説明を断念してかきこむことに集中した。
「残念だったな九介、妹が来れないで」
これで拭け、とさりげなく以前返したハンカチを差し出してきたうるうたん。
どうやらこれは俺専用になるらしい。ありがたく使わせてもらいます。
「部の合宿でしかたないですよ。まあコーメー君もうーこちゃんいないといる意味ないですしね」
「後でフォロー、じゃないだろうな」
じろりと睨まれ、するどい勘に目をそらして聞き流した。
初対面なのに歴史好き友達として成立した一慎と利くんが城の話に夢中になるなか、ゴリさんが女物のハンカチを平然と使いだした俺に面食らいつつもにこにこ顔で話しかけてきた。
「お弁当にトマト煮のおかずを混ぜたかったんだけどね、冷えたらおいしくないから断念したんよ!」
「その企みずっと断念でお願いします。しかしゴリさんますますお母さんに……」
「お母さん?! 五里くんはお母さんか」
ゴリさんへのお母さん呼ばわりはもう板についてきた。
うるうたんは自身を俺の姉、うーこちゃんは俺の妹を自称している、
だからこそ黒髪の美人は食いついてきたのだろう。
「手間のかかる子なんですよ八べえは」
「わかるよ、放っておけないお子様なのは。そんなぼうやには私がついててやらないとな」
「母性本能を刺激する行動ばかりとりますからねー」
女の子たちが俺をお子様呼ばわりするなか、男連中が歴史談義を中断して冷たい視線を向けてきた。
俺の扱いがうらやましいなら一度代わってもらいたい。
俺も一回は一慎のような男前の立場になりたいからだ。
ローカル線に乗り換えて15分ほどて終点へ。
三角アーチのエントランスがある小さい駅からさらにタクシーで10分ほど走らせると、ようやく目的地にたどりついた。
比較的小さい山の頂に建てられた会社の保養所で、外観や内装は地味だが部屋や風呂からは超一流ホテルにもひけをとらない水平線の展望が楽しめるひそかな穴場となっている。
「これで(企業秘密)円て」
「まあ営利目的の施設じゃないからな。設備も対応も比べ物にはならないが、そのぶん私たち学生には優しい料金だよ」
入館の手続きの間にロビーで腰掛けながら、遠方の水平線を眺めて一息ついた。
利くんはまたも撮影に懸命だ。ときどきゴリさんもさり気なく撮っていた。
俺のアパートと同じような年代の古い建物で構造も古い。
いまどき和室で松竹梅の間がある部屋にそれぞれ割り当てされたが、そのうちわけは自分たちで決めていいようだ。
保養所の管理人さんとはすでに顔なじみである自分の役得だといえる。
俺の独断でこう割り振ってみた。
松の間に一慎とうるうたん、竹の間に利くんとゴリさん、梅の間――俺、以上。
大人の組み合わせだ。
まだ恋人未満であろうふたりの反応といえば、利くんは多少とまどいがあったものの反対の意見ではなかったし、ゴリさんも赤くなって終始俯いていたけど何も言わなかった。つまり問題なしだ。
この重要なイベントに男同士女同士なんてやってられるか、という野次馬根性が俺を動かした。後悔などしない。
ちなみにそれぞれの人物を見て信頼し、組み合わせているとお断りしておこう。
普通なら男女別にふりわけるし、同好会の先輩後輩が望まないならすぐにでも変更する。ましてや美男美女である学校一のペアに配慮など無粋だろう。
夕方にはまだ時間があった。部屋で休憩をとったあとは早速海水浴だ。
……一慎が怒り心頭になったのも無理はない。
うるうたんの水着が大胆すぎたからだ。
上はまあ今年の流行でいいとしても、下のショーツがヒモ見せとは……
遠浅の海が自慢の海水浴場、比較的子供やお年寄りも多いなかで、それでも若い男もよく見かける。
彼女を見つめる男どもの目線を独り占め釘付け状態って、俺でも引いたあと叱ると思う。さすがにこの絶妙な露出には興奮と同時に心配になった。
「驚かせたかったけど、あてがはずれた」
唇を尖らせて不満気な黒髪の美人。
たしかに他人からすればスタイル抜群で色気満載な水着姿であっても、もともと生真面目な一慎からすればただの露出過多。
ショーツの下はティなんとかという説明に頭がのぼせ上がった。
2着あるうちのひとつというので着替えを希望したが断固として受け付けず、くびれた腰に手をあてて仁王立ち状態で拒否。
絵になる姿にまたも注目を浴びたので、やむを得なく人気の少ない場所に移動することにした。
ゴリさんは上にパーカーを羽織り、ブルーのショートパンツ姿のいわゆる体型カバー水着というのを着用している。
かわいらしい仕様でこれは安心して見ていられそうだ。
どこらへんがデブなのかさっぱり理解しがたい。
腹筋がひきしまったうるうたんと比べるのは間違いと思うし、もっと言えばやせているより少しふっくらしてたほうがいい。
おれ自身マネキンには一切興味がない。
「お尻が大きいからデブだしもっとやせたいんだ」
「ほほう……」
「見ちゃだめだよー、もう!」
利くんとふたり同一の動きで同時に目線を移動させたが、浮き輪の反撃をくらい砂浜にのけぞった。
これはコント風でいい。しかし暑い。
「へえ九介、子供かと思っていたら」
波打ち際で体を冷やしていると日焼け止めを塗ってもらっていたのか、パラソルの下から立ち上がってうるうたんが揶揄するように声をかけてきた。
なにかを理解したといわんばかりだ。
「どうにも私にさえ冷静でいられる理由はそれか。君は変態だったのだな」
「……どういう意味です?」
変態ってなんだ?
いやたしかに変態だ。
けれどもそれを女の子から指摘されるというのは心外でしかない。
「君は胸よりお尻が好みか。どうりで五里くんばかり興味があって、私にはそっけないわけだ」
「……」
「変態だー!」
黙れ一慎、お前には知られているだけに余計腹立つ。
利くんを見れば挙動不審に……もしかして先輩……いや同志か。
貴方とはもっと仲良くなれそうです。
「少しどころか大幅に見損なったよ。君は変態か。そうか弟はヘンタイなのか」
「噛みしめて繰り返さないで下さいよ! いやまあ……変態紳士ってことで納得できませんかね?」
「無理だな。私の大切な君へのイメージが崩壊している最中だ」
男なわけでして、それはしかたがないじゃないですか。
ゴリさんは赤面しながらもお尻を隠して俺と利くんに距離をとっている。
そうだねヘンタイからは離れたほうがいいね。
破廉恥気味な話がしばらく続きます。
話の構成上必要なのではなく、ただ書きたいがための衝動です。




