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お話2   にっこり

 大爆笑というにふさわしい一慎のリアクションとそれに続くうるうたんの回し蹴りを合図に昼休みが終わった。

 何度も謝る彼女へ苦笑いを返し、尻を押さえて(うずくまる)る無礼者に肩をを貸して教室に戻る。

 俺とこの悪友の関係は遠慮がない。

 中学からのクラスメイトで互いに性根も知っており、こういうときに相手がどういう反応をすればいいか判っているからこそ、彼は大爆笑したのだ。

 身から出た錆というか、俺自身がそうしてくれと言葉にしたから。

 こいつの底なしの明るさに何度も救われている気がするが、すぐ調子に乗るので感謝を表したことはない。

 

「尻が泣いている。多聞ちゃんがあれほど怒るとは」

「あのタイミングであのリアクションは誰だって怒るだろ。彼女が即効つっこんだのには俺のほうが笑いかけたが」

「九介だからオモロイんだけどなあ……そこのところまた説明しとかないと。そうだ! 帰りにクレープでもおごって機嫌とるとしよう」

「人の悲哀をいちゃつきの口実にするなよ」

 

 苦笑しかけて黒板へ向き直る。さっきのように頭に一撃はごめんだ。

 

「玉砕後とはいえお前も明春さんとやらと約束してただろ。まあどんな用事かは大体予想がつくけど」

 

 心に秘めとくもんだそういうのは。むなしくなるから。

 

 

 

 

 一緒に帰るという美男美女を見送ってすぐその元気っ子は現れた。

 小さいのにどこにいてもよく通る明るい声をつれて笑顔で教室の中に入ってくる。

 前下がりのショートボブの髪も弾んでいた。

 

「おまたせー、キューちゃんありがとね今日は」

「いらしゃい。すべてが終わってからその言葉は聞きたいね」

 

 (かばん)をとって立ち上がる。

 俺の身長が特に高いわけではないが、並ぶとうーこちゃんとの差は頭一つ分くらい。

 この子はおそらく150cmもないだろう。

 演劇部の人気者である彼女と2人で歩き出すと、同じ学年の男どもから様々なヤジが飛んできた。君らの気持ちはよくわかる。俺も大差ないのよ実は……

 

「ちょっと正念場なんだよね……なんか舞台立つよか緊張してきた」

「緊張してても明るいし元気だなうーこちゃん。それなら大丈夫だよ」

「うん! キューちゃんがいてくれるしね」

 

 向けられた側が嬉しくなってにっこり返してしてしまうほどの、この笑顔だ。

 これで俺はやられたんだよなと再度の認識をかみ締めた。

 

 

 

 

 校舎のすぐ隣にある一級河川の堤防河川敷を歩いている。

 澄んだ風を感じられるこの通りは、春をすぎたベストシーズンもあって学生のみならず、近隣住民の運動コースになっており人通りが結構多い。

 青春を謳歌(おうか)したい奴らの絶好のルートであっても、俺にはひとまず関係ないのが悲しいところだ。

 

「背伸び寝転びしたいねー、いい下校日和」

 

 本当に寝てしまいそうなので却下。

 まあ気持ちのよい風を受けて充電したんだから決戦に行くとしよう。

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