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お話19   なにやってんの

 (にぎ)やかな話の輪に加わったのはいいのだが、どうにせよここでも部外者。

 主に聞き役になってほとんど相槌(あいづち)をうつ作業になった。

 男女のサークルというか仲間というのは、いかにも充実しているように感じられていい。この集まりの中に俺がいるのは場違いにすぎるが。


「さり気なく自分の席へね。真昼ちゃんお気に入りだな八方は」

「だって彼違うクラスなんよ? うちの椅子のほうがいいじゃん」

「え~さっきも自然に腕とりもって連れてきてるし、話にも彼の名前よく出るしー」


 からかう女友達に、なんだよーと少し顔を赤くして手をあげながら叩く真似。

 男どもはにやにや。そしてこうやって噂は量産され、各方面に拡散されていくわけだ。

 もはや収拾不能、どこまでも広がっていくがいい。少しやけになった。

 

 この面子では利くんのことは話せない。

 連中の誤解を解けないまま時は過ぎていったが、なんのために部室から移動してきたのか忘れかけたちょうどそのとき、誰かの足を踏み鳴らす音が教室に響きだした。

 パン、パンと規則的に鳴るその音の場所に、全員の視線が集中する。

 まず言い訳を考えたがすぐやめた。

 待つように指示されたはずが即効忘れたのは自分だ。

 先約は絶対といいつつこの体たらく。もれた吐息がしゃっくりのようになった。



「な・に・やっ・て・ん・の」



 足を踏み鳴らすリズムですごまれた。小さいのに怖い。

 女の子たちも引いている。男たちは可愛いもの見たさで目が釘付けになっていた。

 

「……うーこちゃんここ別のクラスなんで、落ち着い――」

「忘れる耳はこれだね、よいしょ」


 耳たぶをつままれて立ち上がる俺に、男たちが一斉に興奮して歓声をあげていた。

 彼らはマゾだと確信した。


「あーごめんごめん明春さん、またうちが誘ったんよ」


 すまなそうにゴリさんが割って入る。

 むうう、とうなってうーこちゃんが彼女を凝視した。

 見つめられた眼鏡っ子のほうは少しあとずさった気がする。

 

「っていうか、この頃五里さんキューちゃんと一緒にいるの多くない?」

「うんまあ……だってほら。おっと」


 利くんのことを言いかけて口ごもった。

 顔見知りだとしても詳しい事情を知らない連中がいるから今は言うべきではない。

 次の瞬間今度は女の子たちも明るい悲鳴をもらし、男どもが再度驚きの声をあげるなかで、うーこちゃんは堂々と臆面もなく俺の膝の上に座ってきた。

 さすがに動揺して顔を見れば、ふんと怒りの継続中で一瞥(いちべつ)をくらう。

 間近で見たよ、すげーなこれなどという外野の感想に一切取り合わず、彼女はゴリさんと話しだした。


「目をつけられているんだってね」

「えっ、なに?」


 ゴリさんもあっけにとられていたようで、自分に向かっての言葉と知ると、多少とまどいながら膝の下の男と膝の上の女の子とを見比べた。


「五里さんこの人に何か言われた? 可愛いとかそういうの」

「えーっと……うーんまあ。誰よりも最初に」


 今度こそキャーという女友達の叫び。

 そのとたんに男の一人から後頭部をはたかれた。

 ついでに言えば、うーこちゃんからも同時にはたかれていた。


「八方よ~。お前先物買いの天才かよ! なんなんだよそれ」

「うわあ……さすが明春さんと多聞先輩に取り入ってるだけあるわ」


 A組の子らは容赦ない。どん引きってやつだ。

 ゴリさんのはしょった言い方で、また変な誤解が生まれたようだ。

 まずいと思ったのか、眼鏡っ子は言葉を選んで補足しだした。


「もともとうち自身があまり自分を好きじゃなかったんよ。それが八べえに会ってから変わったんだ。きっかけをくれたんだよ」

「自分が好きじゃないって、どうして?」

「うちがブスでデブだから」


 顔を見合わせるクラスメイトたち。

 そういう自信のない彼女を見ていたからこその微妙な反応か。

 そしてうーこちゃんの質問攻めは続く。


「きっかけね。つまりこの人からその気にさせるなにかを言われたんだね」

「言われた。今も耳に残ってるよ、ブスとは思わないってはっきりと」


 照れたような、はにかんだような笑顔をうかべて下を向いている。

 また周囲から殺気を感じた。

 だが待ってほしい、彼女の好意を向けられるべき相手は利くんであって仲人の俺ではない。声を大にして言いたいが、事情を知るのはうーこちゃんだけだった。

 針のムシロだ。


「これは本物だ、本物の狩人だよ。俺らとは基本的に女の見る目が違う」


 事実を叫びたい。

 少なくとも獲物を逃がし続けている狩人だということを。



 


 ゴリさんやA組の連中からこの後一緒にと誘いがあったが、うーこちゃんが「まだこの人にね、はたき足りないから」との断固とした一言で別行動になった。

 含み笑いが止まらない女の子たちとあからさまに残念そうな野郎共。

 可愛いこの子とまだまだ一緒にいたい男心はよくわかる。

 俺は絞られる立場なので同情したのか、皆に生暖かく送り出してもらった。

 うらやましいと呟いた男もいた。やっぱりマゾがいる。


 B組に戻りジャージから制服に着替える間、うーこちゃんは俺の机の上に腰掛けて足をブラブラ。行動のひとつひとつが愛らしいのだが、自覚はないようだ。

 男受けはもちろん、嫌味がないのか女の子からも小動物みたいでキュートだと絶賛されている。

 男前にまったく(なび)かないのも女子受けがいい一因らしい。

 そう、つまり俺は……


「なーんだかな。五里さん似てきた」

「似てきた? 誰に」


 ブラブラさせていた足を俺の尻にめがけて定めてぱしん、と一蹴り。

 これこれ、はしたない。


「あたしと多聞先輩」

「……そうなの?」


 カニバサミはやめて下さい、着替えができない。


「とりあえずね、今日はあたしに付き合ってもらうから」

「承知しました。しかし行き先はどこに」

 

 びしっと俺を指差した。額に近かったのでそのまま指で弾かれる。

 今日はふるぼっこのようだ。

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