お話17 お母さんか
から揚げ、ブロッコリーや人参などの温野菜、生キャベツの千切りに俺が作っておいた味噌汁。いい献立になった。
日頃自分で食べている夕食とは雲泥の差だ。
首かけのメンズエプロン姿がよく似合う(いつのまにか着ていた)ゴリさんが後片付けの段取りを終えて行永先輩の隣に座った。
男ふたりは助手として雑用にあれこれ動いていたが、最もご足労いただいた彼女に野菜ジュースを注いで労わせてもらおう。
「まあこれで乾杯ということで。ゴリさんわざわざありがとう、いただきます」
コップが触れる音がカチチンと鳴ってすぐ、俺と先輩はから揚げにかぶりついた。
ゴリさんは温野菜を口にしている。
「あれ八べえトマト嫌いなん?」
温野菜の上に盛り付けられたトマトをよけて野菜を食べていると、目ざとく突っ込みが入った。よく観察されている。
「これ胃に入ると逆流するんだよね」
「食わず嫌いじゃないのね。しょうがないなあ、今度小さくわからないようにして出してみるよ」
「やめてくださいしんでしまいます」
俺とゴリさんを眺めていた行永先輩が、味噌汁を飲んだあと大きく息をついた。
にこやかな嘆息だった。
「やっぱり……いいよなあ。団欒ってやつ? 皆で食べるご飯はうまいよ」
「……先輩晩御飯もひとり?」
俺の問いに頷きながらひょいと箸をのばす眼鏡先輩。
争奪戦のようにから揚げを奪い合う。
「黙って食べてるとどれだけ豪華なものも味気なくてねえ」
「あたしも人に作るの楽しかったよ。やっぱり食べてくれる誰かがいると気合がちがうもん」
それが料理上手になる素質てやつだよ真昼くん、そうのたまいながら野菜も食べつつメインディッシュを次々とたいらげている好敵手。
くそ俺も負けんぞ。戦いはこれからだ。
「八べえ肉ばっか取らないでキャベツも食べなー?」
……もはや確定的に子供あつかい。お母さんか君は。
満腹になった腹をさすり仰向けに寝転ぶ。
台所では後片付けを請け負ってくれた男女が仲良よさそうに洗い物の最中だ。
けして楽をしたいからさぼってるのではなく、いきなりの眠気が襲ってきたためでもない。
今度また一緒に晩御飯食べようねとか言い合っている。
ゴリさんは声が弾んで嬉しそうだし、先輩も日頃見せない満足げな横顔だった。
ほほえましくも爽やかな、お似合いのふたりじゃないか。
以前よりよっぽど前に進んでいる気がする。
あとはゴリさんが自分で判断して告白するだけだ。
今でも十分可愛らしくなったと思うんだけど、彼女いわくまだ自信が持てないらしい。女の子の気持ちはとにかくはわからない。
後片付けがある程度終わるとテーブルを囲んで帰る前にお茶会。
ショッピングモールで買ってきたゴリさんご所望のレモンティーをほんわかといただきながら、先輩のいう団欒の続きを開始した。
趣味の音楽談義や、次また開かれるであろう会食日程の調整など他愛のない話で盛り上がった。
時折笑い、趣味の話で意見が激突したりと性別や歳が違っても打ち解けるのには十分な時間が過ぎていく。
頻繁に来るメールの返事にゴリさんは忙しそうだ。
「もー違うっていうのに」
しつこいメールにとうとう直接連絡してなにか話している。
「利くんと八べえと、健全なお料理会なんよ! なにそのむふふ声ー」
「一体どういった勘違いを……」
「先輩女の子たちですから。そういうネタ大好きなんで弁解しても無駄ですよ」
何かしらの弁明を試みているであろうゴリさんの邪魔をしないようヒソヒソ話だ。
「達観してるねえ君は。経験者だな」
「ああいうノリになった彼女たちには何を言っても無駄ですからね」
事実はここにあるし、ゴリさんの友達ならまあ悪い噂にはならないだろう。
そしてそれを合図に解散ということになった。
すっかり夜になり、眼鏡先輩は部活の後輩を送っていくことに。
玄関にてお礼とお別れの言葉を口にしようとすると、靴を履き終えたゴリさんが飛ぶように立ち上がって自分に振り向いた。
「今日はありがとね、楽しかったよ八べえ」
「こちらこそご馳走さまでした、いろいろありがとうゴリさん」
「んーん、いろいろありがとうはうちだよ」
行永先輩をちらりと見やってにっこりと。
今日何度目かのすばらしい笑顔だ。
「八方君お邪魔しました。君の家はいいねえ、団欒というのが恋しくなったよ」
「ならまたみんなでご飯食べましょう。俺なら大歓迎ですから」
ありがとう、と何故かお互い握手した。
後輩にも態度の変わらない、いい人だ利くんは。
心の中ではもう利くんと呼ぶことにしよう。親しくなった意思表示だ。
一人暮らしにもかかわらず、残った後片付けも朝食の下準備も風呂すら入らないで寝た。
こういうのをゴリさんに知られたらまた叱られそうだが、朝風呂にすれば問題ない。
ご飯は今日の残りで大丈夫そうなので、部屋着のまま布団に入ろうと思う……歯をちゃんと磨いたあとで。




