お話11 ハイタッチ
なぜここにうるうたんがいるのか、それを考える前にまずはこのかわいい生き物のご機嫌を麗しくなければならない。
他の2人も意外な人物の登場に驚きを隠せないようだったが、うるうたんのすらりとした姿に釘付けになった行永先輩の頭をゴリさんが無言でしばいていたのを視界の隅で確認した。夫婦のようだ。
「あーえっとその……こんにちはうるうたん」
「このごろ」
距離をつめられぎろり、と睨まれた。
腕を組んでの仁王立ちは美人であるだけになかなか迫力がある。
「君と会っていなかったから一慎にも誘うように頼んでおいたのだが、それを断って何をしているんだ」
「えっと……それはですね」
しどろもどろになりかけた俺を見て、ゴリさんが仲裁してくれた。
自分との先約を優先してくれただけで、多聞先輩との用事をことさら無視したわけではない。後日必ず八べえはフォローしますよ、とかなんとか。
「私を知っているようだが、君は八方九介のなんなのだ?」
後日フォローという言葉を聞いて納得したのか、首をかしげてゴリさんを見た。
再度デレっとなる行永先輩が2度目のはたきを受けていた。
「多聞先輩を知らない生徒なんていませんよ。この前の遠足で知り合いになりました五里真昼です。友達なりたてのほやほやですね」
「ほほう」
にっこり笑顔。逆に怖いんですけど。
「次から次へと……また心配事がひとつ」
「一慎と一緒だったはずでは?」
「お手洗いの帰りに偶然君を見つけたので、離れた場所で待たせている。詳しい話はまた後日フォローとやらの際に聞くとしよう」
ブレザーのネクタイを引っ張られ、顔が近くなったかと思えば頬をひとなで。
颯爽と手を振って去っていった。
うるうたんがいなくなった後3人の間で奇妙な沈黙が流れたが、行永先輩がトイレに行くというのでゴリさんと座って待つことに。
先ほどの仲裁の礼を言おうとすると、彼女はめずらしくため息をつきながら天井を見上げている。独り言のように話しだした。
「やっぱり、違うなあ……うちとはなにもかも」
自嘲ぎみの台詞に返す言葉を失った。
こういう場合返答の選択が難しい。言葉に気をつけなければ。
「あれだけ美人だとどんな男の子でもまいっちゃうよね、しょうがない。しょうがないかあ……」
「うるうたんと比べて?」
「うん」
ゴリさんと誰かを比べる。
うーこちゃんとか、他の女の子とか。
……なにか違うな。ゴリさんのいいところとうるうたんの美人なところを比べるというのも筋違いだ。
例えるなら俺と一慎でなら明らかに奴のほうが男としては魅力的だし、背も高いし顔もいい。だったらゴリさんもうーこちゃんも一慎が好きになるのかといえば、現実はまったくそうじゃない。
美人や男前はたしかに存在するが、それだけで全てが決まるほど世の中単純ではないだろう。それをどう伝えればいいか……
「ゴリさんはうるうたんより美人になりたいの?」
「えーまさかあ。そんなの無理だしその気もないよ」
「行永先輩になら料理上手っていう時点で結構効果があるように思うけど」
「んー……でもさっきの反応じゃ利くんも美人に弱そうだったから」
自分をブスだと公言していたし、負い目ってやつだろうか。
たとえそうだとしても……
「君自身が可愛くなれば問題ないじゃない」
「うち?! うちが可愛くなるってそんな」
吐息をもらしながら哂って俯くゴリさんを無言で見つめた。
おかしなところや笑うところなど一切ない。
視線に気付いたのか、窺うように俺を見た彼女へ「うん?」と水を向けてみた。
「八べえは前にもそう言ってたね」
「言ってたねえ」
「うちがブスじゃないって、ほんとにそう思ってるの?」
引け目というのはそうそう解消できるものじゃない。
ゴリさんにとっては何度でも聞き返したくなる事案なのだろう。
「金箔の額縁付きで保障させてもらうけど、元がいい子を可愛いって思うのに無理も嘘もないんだけど」
「八べえだけがそう思ってるとしても?」
「あと一慎もね。少なくとも2人が保証人てやつだな」
「……」
少し考える仕草をしたあと、いきなり彼女は立ち上がった。
何度も頷いてからいつもの明るさを取り戻したような、会心の笑みを浮かべていた。
「そっか、そうだね! 迷うのなんかもうやーめた。八べえがそう言ってくれるのなら、うち暴走するよ。やせてきっとかわいくなってやる。利くんの胃袋をつかんで振り向かせてやるんだ」
トイレから戻った行永先輩を目の前で、俺たちは2人して意味のないハイタッチをした。決意表明てとこか。




