お話10 料理上手な女の子
男2人女の子1人というクラスも違えば学年も違う組み合わせで、下校途中ショッピングモールに寄っている。
行永先輩の大学受験参考書やゴリさんの音楽CD(現物を買うことに意味があるらしい)を物色するために、仲人として付いてきたのだが……
前を歩く2人はすでに自然な会話を交わせる関係を築いており、特に俺がどうにかしなくてもゴリさんが望むようにすれば事は進むんじゃないかと思えてくる。
「利くんおなかすいたー」
「んー? いつものクレープかい」
「あっ食べないんだうち。うっかり忘れてた」
当然相手には内緒の減量だろうけど、心安くつい口ずさんだのか。
かわいいなゴリさん。
本屋にしろCDショップにしろどちらが年上かわからないくらいあれこれ世話を焼いている彼女を見て、これは尽くしてくれる子かなとか、行永先輩だからかいがいしいのかな、とかわかったことはいくつかあった。
つまりこの関係を壊しかねない一歩を踏み出すには、相当の覚悟が必要だということが。それがやせるという意思決定に繋がったんだろう。
あとは先輩がゴリさんをどう思ってるかだが……
ストーキングばりに観察しなければ。
フードコートで飲み物を買い、休憩がてらなるべく人気の少ない場所を選んで椅子に座る。俺だけは2人の前に立って引き続き様子を窺いながら、アイスコーヒーを口に運んだ。
かなりの甘党である自分は、ミルクもシロップも全て入れるというお子様仕様の味覚だ。
「行永先輩それバランス栄養食?」
小腹が減ったのか鞄の中から固形携帯食を取り出して食べだしたので、即効突っ込んだ。
「昼がパンとかだから今頃になると腹が鳴るんだよね」
「弁当とかはどうしてるんです?」
根掘り葉掘り質問攻めをしても不思議に思わない先輩に乾杯。
「いやあ、親が共働きだからどうしても学食かこういうのになってしまうんだよ」
「利くん受験生だからなるべく偏らない食事したほうがいいよー」
ゴリさんも心配そうだ。そしてその瞬間、あることが閃いた。
いつもの見切り発車を発動させたいわゆる無責任モードが。
「……料理上手の女の子に心当たりがありますけど」
「えっ」
「その子に一度、お弁当を作ってきてもらえばどうですか? 彼女も貴方の栄養状態を心配しているようですし」
「えっ、え?」
顔を真っ赤にして俯くゴリさんと俺とを交互に見比べてとまどっているが、それは当然そうだろう。
思いつきの仕掛けなので多少無理がある展開になったとしても、自分としてはこの機会を逃すわけにはいかない。
突然のことで彼女もびっくりしているだろうが、異存はないはずだ。
「ゴリさんの手作り弁当なら、栄養的にも学食よりよほどいいかと」
「しかしお弁当って……わざわざ」
「……いいですようちは」
ぶっ、とカロリーなんとかを吹き出したその動作はやはりコント。
すばらしい反応だ。
ゴリさんは思い直したのか、顔が赤くなりながらも先輩を見つめている。
「いやあさすがに悪くないそれ」
「悪くないです!」
「ふたつぶん弁当作るって手間じゃ?」
「ひとつもふたつも変わりませんよ」
彼女も攻めにきている。しかし彼がためらうのはもっともなことだ。
でも勢いだけで押し切ってしまおう。
「……ということです、今度持ってきてもらいましょうね」
強引に納得させた形となったがしかしまあ上出来だ。
あとはどうこれを継続させていくか……
「八方九介」
さてこれからが考えどころ。
とにかく二人でいる時間を増やすことが大事だけど、受験生にどれだけの余裕があるのか心配だ。
「八方九介!」
女としてのゴリさんを認識させるってのは……例えば?
「ひどいじゃないか、私の声だけでは振り向いてもくれないのだな」
不機嫌に唇をとがらせる黒髪の美人が立っていたのに気付いたのは、それからしばらく後のことだった。




