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最終話 幻実。

「なんだここ?」


 真っ暗な空間である。訳が分からない。

 体が浮いて居るような感覚。真っ暗なので自分の体すらも見えない。


「うん……まずは昨日の事を思い出そう」


 胡坐をかいて腕組みをして、首を傾げながら考える。

 見事にアルウラネの女王、リフティアに惚れられてしまったりっくん。

 彼女の好意で古遺跡まで案内され、アルウラネ達に囲まれ飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。

 そして夜通し騒いだ後に、泊まる部屋に案内されてりっくん以外は倒れるようにベットにダイブ。

 何故かイオとニロに挟まれる形で川の字になって眠った筈である。


「そして目が覚めたらまた良く分からない状況と……どうしようこれ」

「いっくん」

「この声は……蘭?」


 闇の中で響いた声は幼馴染の蘭の物である。

 胡坐を止めて立ち上がり、声のした方に叫ぶ。


「蘭! どうなってるんだこれー! 何所に居るんだー!」

「いっくん。あのね……こうなったらもう、隠さないで言うね」

「隠す? なんのことだ?」


 不思議そうに言う俺に、蘭は驚くべき事を話しだした。


「いっくん……葵さんなんて元々存在しないのよ」

「……は? ははっ、何馬鹿なこと言ってるんだよ。ちゃんと……」

「いっくん。自分の名前言ってみて」


 悪い冗談を言う蘭に言われて、何を馬鹿なと自分の名前を言おうとした。

 しかし、それは叶わなかった。


「あれ……俺は、俺は……いっくん……名前は……名前?」

「分からないよね。それが真実なんだよいっくん……あの日から、いっくんは自分が作り出した世界に逃げ込んじゃったの」

「なっ……なにを、うっ! や、やめろ……やめろ蘭!」


 頭が割れるように痛い。嫌な感覚がして、頭を両手で押さえて蘭に叫んだ。

 蘭は悲しそうに俺にささやいてくる。


「葵さんは、いっくんを目覚めさせる為にわたしが作り出したもう一人のわたしなの……ううん。葵さんだけじゃない、剣道部の女子全員も、御嬢も、わたしも、蘭琥亭のみんなも。女の子は全部わたしの分身なのよ!」

「ど、どういうことだ……、何故そんな、俺は……」

「いっくんはわたしが好きだったのよ。でも、わたしが選んだのはりっくんだった」

「ギゥ! ぐっ……」


 頭がまたズキンッと痛んだ。忘れていた記憶が流れ込んでくる。


「なんで俺じゃ駄目なんだ蘭!」

「ごめんなさい。いっくんはお兄ちゃんみたいな存在なの。恋人には見れない、それにわたしはりっくんが……」

「なんだよ……なんだよ! いつも傍に居たのは俺だろ! 傍で支えたのは俺じゃないか!」

「そうね。わたしが虐められていた時、いっくんは確かに傍に居てくれた。でも……」


 助けてはくれなかったわ。


「うがぁあああああ! ハァ、ハァ、ハァ……そうだ。俺……俺がりっくんを」

「思い出したのね」


 暗闇の中に光が灯る。俺の姿を映し出したのは、一人の天使だった。

 天使は俺の体を抱きしめて、耳元でささやく。


「あの日、いっくんは自ら作り出した幻想世界エターナルへりっくんとわたしを連れ出した。そして自らラグナロクを発動させてりっくんを死に追いやった」

「ああ……そうだったな」


 脳の中がスッキリしてくるのが分かる。

 同時に目の前の天使を引き裂きたくなるよな感覚が襲う。


「りっくんを失ったわたしは泣き叫んだわ。いっくんは、そんなわたしの傍で何時も励ましてくれた。わたしはそれを支えにしてた……でも、見てしまった。いっくんの部屋に始めて泊まったあの日、興味本位で机の中にあったこの日記をね」

「くくくっ……それで?」

「それでですって? よくも……」


 良い気分だ。何もかも思い出した。

 エターナルを破壊したのは蘭なのだ。りっくんを死に追いやったラグナロクの発動。

 それ自体は俺がやった。だか世界を滅ぼしたのはこの女自身。

 チートなどという力を持って、現実世界に転生した女だと気がついたのは、告白した次の日だった。

 絶望が俺にバグという最高の力を与えたのだ。そして次に蘭を見た時分かった。

 この世界は現実などではなく、奴が女神に作らせた、現実世界そっくりの幻想世界だったのだ。

 バグの力を手に入れた俺は復讐する事にした。蘭が作り出した、この世界のシナリオを破壊してやろうと決めた。

 彼女にとって俺は最高に邪魔だったのだろう。自分の分身達が可哀想なヒロインとなり、男に慰められ、最後には誰か一人を選んで幸せになる世界。

 男はだた彼女達の恋愛ゲームの為に作られた人形だったのだ。

 だから俺は全ての男を世界から消し去ってやった。そしてこの俺自身の分身と入れ替えたのだ。


「お前が全ての男を自分の分身にしてくれたおかげで……全てのわたしは、最後の最後で裏切られたわ」

「それで?」

「本物のいっくんを返して……あんたはあのいっくんから生まれた、だだの人形なんだから、いっくんさえ、あのいっくんさえ目覚めてくれれば!」

「そうだな。あいつは最後まで自分である俺達を否定し続けた。だから邪魔になって眠ってもらった。自害でもされたら俺達は全員消えるからな、お前もそれは拙いんだろ?」

「くっ……」

「くくくっ……俺と戦うお前が何人目か、俺が何人目なのかは知らないが、今回は惜しかったな。もう少しで本物に会えたかもしれないのに……悪いが俺は外れだ」

「うん……馬鹿ね。例えここでわたしが敗れても。この世界に居る別のわたしが必ず本物のいっくんを探し当てるわ」

「はははっ、ハーハハハ! 面白いなイオ、いや葵か? それとも蘭、御嬢? キッツ、猫子、リッコ、ヌゥ? 赤衣? ニロ? ……まあなんでもいい」


 体中から黒いオーラを放ちながら、俺はゆっくり闇の中を歩いた。階段を上るように一歩一歩高く、闇の上へと進む。

 そして振り向き、下を見る。そこに居るのは翼を持つただの敵である。


「死合を始めようか」


 混沌の世界はこれからも変わらずに続いていくのだろう。

 何時か彼女が本物の俺を見つけたとしても、それが幻想か現実か分かるはずもない。

 何故ならここは、バグと言う俺が作り出した、幻想と現実との狭間にある世界なのだから。



 くくくくっ……またどこかで会おう。愛しい人よ。

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