表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第十四話 試練と王。

 カーン……カーン……。


 朝になるとこの西の都では、鐘が鳴るようだ。

 飛び出していったイオを探しているうちに、朝になってしまったようである。

 翼がある天使に対して俺は空を飛ぶ術がない。しかも向こうはチートで飛行レベルマックス。

 遠くに行かれては探し要がないと慌てていたのだが……。


「ハァ、ハァ、ハァ……。汗だくで探し回ったってのに……酒場の屋根の上かよ」

「グスッ……走ってくの見えた……ずっと探してたんだ。こんなクズなのに」


 膝を抱えるようにして、イオは屋根の傾斜にちょこんと座っていた。

 その背中は寂しそうで、何かを失った子供のように見える。

 しばらくそれを黙って見ていると、イオがそのまま掠れた声を出した。


「どうして何も言わないの……殴ってもいいよ。その為に追いかけてきたんでしょ……」

「殴らないよ。ほかのことならしようと思ってたけどな」

「何かしてくれる気だったの……?」

「抱きしめてキスしてやろうと思ってたよ」

「なにそれ……プッ、ありきたりね」

「笑うなよ。俺はその辺のヒーローみたいに、かっこいい台詞なんて思いつかないよ」

「でも傍には来てくれるんだね……みんな、わたしの事なんてどうでもいいと思ってた」


 イオが立ち上がったと同時に、辺りが段々と明るくなってくる。

 視線の先で太陽がすこし顔を出していた。


「泣いてても誰も話しかけてくれなかった。イコクはどうしてわたしの傍に来たの?」

「どうしてって、そりゃ……」


 好きだから。そう言い掛けて止めた。それは葵さんに対する感情だからだ。

 このイオは俺の事を知らない。正直、俺も今のイオを葵さんとは見られない。

 なのに放っておけないのは、やはり将来の葵さんだと心のどこかで思っているから。

 葵さんとは違う。この子はイオ、まだ愛を知らない寂しやがり一人の女の子なのだ。

 この世界が、もうイオにとっては現実だと理解できたはずだ。

 反省もしている。今は愛を知りたいと泣く一人の女の子だ。

 一人にしない。俺は単純だからこうすることしか思いつかない。

 だからこそ、真剣に言葉にする。


「俺が愛してやる。だから、もう寂しくない」

「だ、駄目……触らないで」

 

 手を伸ばして触れようとすると、イオは軽く身を引いた。それでも手を取って引き寄せ、抱きしめる。

 これは拒絶ではない、始めて誰かに愛されるかも知れないと言う戸惑い。そして不安。

 それを取り除く為に頭を撫でる。

 大丈夫だよ。大丈夫だよ。君は一人じゃない。だから安心していいんだよ。


「あ……」

 

 小さな溜息。強張っていた体から力が抜けて行くのを両手で感じる。


「愛してる。辛かった過去の分も、今も未来もずっと……君を愛してるよ」

 

 抱きしめるのを止めて、黙って頷いた彼女にキスをした。


○●○●○


キィ……カチャ……。


「楽しんだ?」

「おいおい……無表情で言うの止めてくれよ。なんで分かった?」


 朝、宿へ戻り眠ったイオを部屋に残して外に出ると、廊下でニロが待っていたとばかりに声を掛けてきた。


「外まで声が聞こえてきた」

「マジでか、一応サイレントフィールドの魔法掛けてたんだけどな」

「あの勇者は威力ばかりで詠唱が雑。聴力を魔法で強化してるからよく聞こえてきた」

「詠唱が雑どころか詠唱してないからな」

「詠唱破棄……? 悪魔にしか出来ない……そう言えばイコクも……」

 

 ドキリとした。この体は悪魔の者である。

 詠唱無しで魔方陣を作り出したのはバグの一種だと思っていた。しかし、よく考えれば自分の意思でバグの力を発動させたのは、葵さんを助けたあの時だけである。

 ニロが無表情のまま両手で握った杖に力を入れているのが見える。何とか誤魔化さないと非常に拙い雰囲気である。


「二人は悪魔? 話によっては許さない」

「イオはどう見ても天使だろ。俺が詠唱無しで魔方陣を出したのは……えっと」

「あれは魔法ではなく魔方陣? それなら詠唱は要らない」

「あ。そうなのか?」

「変な人、魔方陣は詠唱して魔法を形にする為の場。普通は詠唱しない、マジックアカデミーで習うはず」

「あ、ああ。俺は田舎育ちで、アカデミー行かなかったからその辺は曖昧なんだ」


 暫くニロは無表情のままだったが、納得したのか頷いた。

 イオの事は勇者になる人間だから特別だと言うと、それも素直に信じたようだ。


「もう直ぐお昼になる。城へ行く時間、それを言いにきた」

「そうだったな……ニロはこれからどうするんだ?」

「城の魔法部隊に志願する。勇者の御供にはなれなかったけど、悪魔と戦うことは出来る」

(これは……行かせちゃ駄目だよな)


 葵さんの情報では、紅の魔女であるニロは最終的に敵になる存在。

 彼女も十分規格外な力を持っている、魔法部隊に入った後で、何らかの理由で悪魔と手を結んだのかもしれない。


「ニロも一緒に来れば良い、パーティに入れるようにしよう」

「パーティ? 何それ?」

「そうか、あの概念は元からこの世界に居る住人にはないのか……」

「この世界?」

「あ、なんでもない……一緒に勇者と戦えるように王様に頼んでみるかってこと」

「でもわたしは大会で負けた」

「勇者の頼みなら王様も聞いてくれると思うぞ」

「そう……それなら嬉しい」


 本当に嬉しかったのだろう。無表情が崩れてそれは可愛らしくニロは微笑んだ。

 とても悪い事をするような子には見えない。

 未来が決定してしまって変えられない可能性もあるが、彼女も護りたいと願ってしまう甘い考えを、今は受け入れるしかない。


「いっくん! そろそろ行くぜー!」


 外からりっくんの大きな声が聞こえてくる。

 終に王に会い。イオが勇者になる時がくるのだ。正直不安である。

 不安はではあるが、これから起こる事は、イオにとって最初の試練になるだろう。

 閉めたばかりのドアを開き、部屋の中でのん気に眠る勇者様を起こす事にした。

 


○●○●○


 ガチャァン!


「この人殺しがぁああああ! お前が勇者なんて認めるかーーー!」

「息子を返せーーー! この悪魔ーーー!」


 パレード用に作られた移動用の馬車に石や皿が飛んでくる。

 狙いはパレード台の上に立っているイオである。不安は的中したのだ。

 勇者を決める大会でイオがした事を考えれば、こんな物はまだ序の口である。


「イオ、分かってるな?」

「う、うん……逃げたいけど、逃げない。わたしがした事に比べたら、こんなの当たり前だもん」

「容赦ないなぁー。まあ仕方ないか」

「わたしはちゃんと堂々と勇者らしくしてるあなたを評価する」

「ニロちゃん……うん、わたし逃げないで勇者やる、魔王を倒して責任を果たして見せるからね」


 イオにとって兄を殺されたニロの励ましは、何より励みになるだろう。

 許される可能性があるなら、それに向かって突き進むべきである。

 パレードは大不況のまま終わり、馬車は城の中へと続く門を潜る。

 近くで見ると更に大きな城である。この国の規模と権力の大きさを改めて感じさせられる。


「ん? そう言えばニロはイーストマジックアカデミーの生徒だって言ってたよなー、てことは。もしかして東の都とかもあったりするのか?」

「りっくん良い質問だ。どうなんだニロ?」

「ある。わたしは東の都からここまで来た。でも東の都はルドルフ王の治めるこの西の都とは比べ物にならないぐらい衰退した」

「それはもしかして……」

「イコクが思っているので正解。北の地に住む魔王軍の攻撃で、壊滅寸前まで追い込まれた。でもルドルフ王が派遣してくれた遠征軍のおかげで、何とか国が無くなるのは防げた。同時に南の都も襲われたけど、そっちは遠征軍が到着した時にはもう、魔王軍に滅ぼされた後だった」


 聞きにくそうな雰囲気を感じたのか、ニロは一気に説明してくれた。

 どうやらルドルフ王は相当器が大きい人物であるらしい。一つの国が二つの国を同時に助けようとしたのだ。自国が戦力を裂いた隙に襲われるリスクを考えても普通は出来ない事である。


「お待ちしておりましたぞ勇者イオ様と御供の方々、我が国はそなた達を歓迎する」

「ど、どうも! よろりゃ、よろひ……よろしくお願いしまふ!」

「もう少し落ち着け」


 少し態度の大きそうな大柄の白髪老人に、イオは緊張しているようだ。

 白髪老人にこの国の大臣だと説明を受け、王の居る謁見の間へ案内される。

 長い赤カーペットを進むと、豪華な黄金の扉の前に来た。

 両開きの扉の両サイドには、天使らしき女性が静かに控えている。


「王様。勇者イオ様とその御供の方々をお連れいたしました」

「入るがよい」

(声だけでこの威圧感……間違いなく本物だ)


 大臣の言葉に反応した王の声を聞いて、途端に体中から汗が噴出してくるような感覚に襲われた。

 王という存在は勇者を従えるだけの才能を持っているものである。

 

「か、帰りたい……」

「駄目、勇者らしくしっかり堂々と立って」

「うひょー! お姉さん可愛いね~、この後暇なら俺とデートしよう!」


 イオも軽く泣きそうな顔になっている。怖気づいたのか腰も引き気味である。

 その引き気味のお尻を、小さな体を一杯に伸ばして、ニロが無表情で怒りながら支えている。

 りっくんはドアを開ける係りらしいお姉さんをナンパしている。これは見なかったことにしよう。


「来たか勇者イオとその御供の者達よ。我こそがルドルフ=アルバート=ガレオス=ジーハード……西の都を統治する王である」


 階段の遥か上、見下ろしてくるルドルフ王が居た。

 正に王に相応しい貫禄のある体、見るからに輝きを放つオーラ。

 ルドルフ王ここにあり。その輝きを見て、自然と全員がその場に片膝をその場についていた。


「このような血に汚れた家畜にも劣るわたくしが、ルドルフ王にお会いできた事、この上ない喜びにございます」

(家畜にも劣るか……イオがそれでいいなら、何も言わないけど)


 イオは大会で大勢の命を奪った。それを恥じているようである。

 しかし、そんなイオに向かってルドルフ王は言い放った。


「フハハハハー! あの大会は我が死ぬか戦えなくなるかで勝敗を決すると決めたのだ。お前は何も間違ってはおらん。我が民がどう言おうと、お前はこの我が認めた勇者である! 何を後ろめたく思う必要があろうか!」


 圧倒的な笑い声と力強い言葉、その一言が全て正しいのだと思えてしまう。

 これが一つの国を束ねる王。勇者を従える者なのだ。


「勿体無いお言葉です……このイオ=アーストラヴァ。ルドルフ王の為、全ての人々の幸せの為に必ずや魔王をこの手で討ち果たしてご覧に入れます」

「よくぞ申した! それでこそ我が認めた勇者よ! サイフール、例の物を勇者イオに与えよ!」

「ははっ! 仰せのままに!」


 白髪老人はサイフールという名のようである。王の言葉に、サーフールは手にしていた大きな布を被せてある物をイオの前へと差し出した。


「立って布をとるがよい」

「はっ……これは……鎧?」


 イオが布を取ると、そこにあったのはあの白ビキニタイプのライトアーマである。

 それは精霊の加護を受けた鎧であり、西の都の王に代々受け継がれている秘宝だと説明を受ける。

 鎧は光を放ち、次の瞬間にはイオの体を包み込んでいた。


「凄い……力が溢れてくる」

「ゆくがよい勇者イオよ、見事魔王を討ち果たし、先ほどの公言が嘘で無い事を証明して見せよ!」

「は、ははっ! この命に代えましても、必ずや王様のご期待に添えてみせます!」

「フハハハハー! 良いぞ、今日は良い、実に気分が良い!」


 その日、ルドルフ王の笑い声が謁見の間から消える事はなかった。

 こうして勇者イオは誕生し、エターナルの歴史、最初の一ページに記されたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ