第十二話 躾と戦闘準備。
「成る程。この世界のラスボスは実は悪魔を操っているただの人間、その紅の魔女という訳だ」
「モグモグッひょうなのほ、へももひょもひょはへーむほせひゃいのせっひゃいだから、このひぇかいも」
「ガツガツガツッ……ぷはぁ~! おやっさん! おかわりくれ~!」
「イオは食べながら喋るな、りっくんは食べすぎだ。何杯目だよ」
『はしたない……見ないでいっくん』
(もう慣れました。あの食べ方、自棄食いしてる葵さんそのままですよね、見てる内に可愛く思えてきました)
『嘘でも嬉しいわ……』
適当にりっくんのレベル上げをしながら、道を進んでいた俺達は小さな街を見つけた。今はその街の酒場で腹ごしらえをしている最中である。
人間の住む街のようだ。俺が知る未来のエターナルには人間や悪魔は居なかったが、この世界にはまだ存在するようである。
葵さんの話ではこのあと、イオがなんやかんやしたのち、人間を束ねる王に謁見し、勇者として仲間達と旅に出て、魔王を討伐。黒幕である人間サイドの紅の魔女を倒してゲームクリアらしい。
『もう少し詳しく説明したいのに、細かい事は直前になってようやく思い出すの、ごめんなさい。あなた達がいっくん、りっくんと呼び合っていたのも忘れていたわ』
(気にしないでください、たぶんこの世界に起こる未来に係わる事は、なんらかのルールで防がれてしまう可能性もありますから)
『いっくんは冷静なのね。わたしもそっちに行ければいいんだけど、この時代にはエターナルはやっぱりもう無くて、念じてもいけないのよ』
(大丈夫ですよ。安心してください葵さん、必ず帰る方法を見つけますから)
『ええ、待ってるわ……愛してるいっくん』
(俺もですよ葵さん)
心の中で彼女といちゃつきながら、取り合えず腹を満たしておく。
イオは食い気に走って使えないので、情報屋だという酒場の店主から色々と聞き出した。
天使は人間の味方であり一緒に暮している者も多い。敵は魔王と魔物、それに使える悪魔。
悪魔は一見、今の俺のように人間と見た目は変わらない存在。王の近くで暗躍している奴も居るらしい。
何はともあれ、恐らく勇者イオとその仲間。仲間とは俺やりっくんの事を差すのだろう。
俺の世界でのエターナルに関する伝承本にも、勇者イオには四人ほど仲間が存在したと書いてあったのを覚えている。
元の帰るにしてもまずはこの世界をクリヤすることが必要。まずはなんらかの方法で王への謁見を済まし、イオを勇者にしなくてはならない。
その過程で仲間になるであろう残りの二人も見つける。勇者になってから仲間が集まるにしても、当面の目標はイオを勇者にすることで決まりである。
「マスター。王が居る街にはどう行けばいい?」
「ん? なんだ。お前さん達も勇者を決める大会にでる気なのか、ああ。連れが天使二人か、その二人を使って儲けようってこんたんか」
「ええ。まあそんな感じで……辺境の小さい村から出てきたので大まかには知らないんですよ。教えて頂いても?」
「いいぞ。良く食ってくれてるからサービスだ、西の都を束ねるルドール王が魔王討伐の為に力のある奴らを集めて闘わせるそうだ」
これはなかなかの情報である。
俺はイオをその大会に出場させるべく、西の都への道を聞き出した。
そして、たっぷり食べたイオとりっくんを連れて代金を払おうとしたところで気がついた。
「……イオ。もちろん三人で分け合った金で払える分だけ食べたんだよな?」
「え? イコクが奢ってくれるんじゃないの?」
「俺も無い! でも腹はふくれた!」
『ごめんなさい……』
「いいですよ。葵さんがしたと思えば許せますから……はぁ」
「イコクって変な独り言多いわよね、悩み事でもあるのかしら」
「年頃なんだよきっと!」
二人のせいだと突っ込むよりも、まずは店のマスターに三人で土下座が先である。
この山のように詰まれた食器を見てやれやれと首を振った。
道すがら倒した魔物のドロップ品を売った金では到底払えそうにない。
仕方なく俺達は酒場の店主に頭を下げて皿洗いをする羽目になるのであった。
○●○●○
「勇者になんかならないわよ、それよりイケメン探しに行くのよわたしは!」
「勇者になれば世界中に顔が知られてモテまくるかもしれないな」
「なる! 前から勇者になりたかったのわたし!」
「あの屋台の食い物美味そうだなー」
一文無しになり野宿した俺達はイオの説得も早々に街の中を歩いていた。
小さいといっても街というだけあって商業は盛んなようである。
中心街にはあらゆる屋台が軒を連ねて商品を並べていた。
「ここが仕事を紹介してくれるギルドか。掲示板見てくるから、二人は大人しくそこに座っていること、迷子になられても困る」
「む、なんだか生意気ね、ちょっとイケメンだからって……わたし子供じゃないわよ」
「あ、待てよいっくん。仕事を探しに来たなら、酒場のおやじに紹介文書いて貰ったから、ほいこれ」
「へ……? りっくん何時の間に?」
「こんな事もあろうかと二人が寝てる間に色々な、いっくんは飛べないし、イオはともかく俺も飛行での長距離はまだ難しい、馬車も必要になるだろうな、ちょっと安そうな店さがしてくる、一時間後にまたここで会おう、んじゃな!」
紹介状を俺に手渡すと、りっくんはスチャッと右手を上げて、風の如く街の人ごみの中へ消えていった。
普段はあんなにおちゃらけているというのに、こんな時はやはり頼りになる幼馴染である。
あの行動力は是非、さっそく忠告を破って逆ナンしているイオに見習えと言いたい。
「きゃぁ~! 受付のお兄さんイケメンだね、わたしとデートしましょうよ~!」
「仕事中ですので」
『助けていっくん……恥ずかし過ぎてもう駄目かもしれないわ』
「一々突っ込んだらきりないので、さっさと慣れてください」
『ああ……終に態度がドライに……』
ここまで来る途中、逆ナンしまくりのイオである。葵さんの過去の姿だとしても限度があった。
そして、その日の夜、俺は終に堪忍袋の緒が切れた。
「今日稼いだ金を全部男遊びに使ってきた……?」
「そうよ。あ~楽しかった! なんかイケメンの天使がたくさんいるお店でね~、飲み物が凄い金額だったわ」
「いっくん。馬車は買ったけど食糧買う金が全部なくなってる」
流石のりっくんも、お金袋を逆さまに振って呆れ返っている。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
「大丈夫です葵さん。これからこの自分が最強だと思い上がった悪ガキ娘を粛清しますから」
「粛清ってなに~? わたしは世界最強なの、たかがその辺の悪魔に憑依してるようなイケメンに負けるはず……」
ごちぃ~ん!
「はきゃぁ!? い、痛い痛い痛い! な、なに今の?」
「ハーッ! 一発で済むと思うなよ、その腐りきった性根を文字通り叩きなおす」
頭を抑えて涙目になっているイオに、拳に息を吹きかけながら笑顔で近付く。
一発で済む筈がない。これ以上思い上がらせない為に、誰が上であるかはっきりさせなければならないのだ。
『思い出した……だからあんなに怖かったのね』
「ごめんなさ~い! もう殴らないで、ふぎゅ……ほ、ほっへひゃふねるのもひゃめぇへぇ!」
「ほ~らじわじわ力強くするぞ~」
「楽しそうだなー! じゃあ俺はお尻ペンペンだぜー!」
「だりゅかたふへて~!」
こうしてりっくんと二人、朝までイオにお仕置きをしたのであった。
○●○●○
ガタガタ……ヒィィィン! ブルンブルンッ!
「馬車って結構揺れるのね、イコク様」
「正直悪かったから普通にしててくれ」
「ははっ! 流石はいっくんだ、一晩で随分躾けたな~、ハイオー馬ー!」
「躾けたとか言うなよ……はぁ、とにかく普通にしてろ」
「ひひゃいひひゃい! わはひまひた~!」
馬車を動かしているりっくんのからかいを軽く流して、すっかり萎縮して硬くなったイオの顔を両手でムニムニミョンミョンして元に戻す。
「ほっぺたがぁ……でも、イケメンの顔があんな近くに。ぐへへ」
「どうしよう。蘭よりも扱いが難しい子供がいる」
『蘭ちゃんに今度謝ってくるわ、変な子だと思っててごめんなさいって』
蘭も十分変だから無問題である。
他愛無いやり取りをしながら馬車に揺られる事数日。
俺達はルドール王の居る西の都に到着した。
城下町だけあってかなり大きい。城は大きく街のどこからでも一望出来る。
大会の会場は巨大なコロッセオ型。観客も相当入りそうである。
「すいません、勇者を決める大会があると聞いて来たんですけど」
「はい。お名前を聞かせて貰えますか?」
「イコクです」
「イオよ」
「リベルだぜー」
コロシアムに入ると受付のような場所に大勢並んでいた。
しっかりと並び順番が来て、受付のお姉さん相手にエントリーする。
「はい。イコク様、イオ様、リベル様ですね……全員勇者コースでいいですか?」
「違うコースもあるんですか?」
「はい。剣士と魔法使いコースもあります」
『思い出したわ、確かいっくんは魔法、りっくんは剣士にエントリーしてた』
(ふむ。試合形式にもよるな)
「どんな感じで試合を? トーナメントですか?」
「参加人数が多いので当日のバトルロワイヤルになります。勇者と共に闘う魔法使いと剣士の大会も時間をずらして行われます」
「それに勝たないと勇者と共に戦えないと?」
「そうなります」
『よかった。間違ってなかったみたいね』
「そうですね。イオは勇者、リベルは剣士、イコクは魔法使いでお願いします」
「了解しました。……はい、完了です。大会は二日後の早朝から順次行います」
全員エントリー札を貰ってコロシアムを後にした。
その後、大会を二日目に控え、宿を借りて準備を始めた。
イオは何も心配なく勝つだろう。後は俺とりっくんである。
りっくんはこのままパーティを組んでレベルを上げていけば強くなれるだろう。
問題は俺である。勇者は魔法も剣も許可されているが、剣士は剣スキル、魔法使いは魔法スキルの攻撃しか許されないそうだ。
街の外に移動して、開けた場所でトレーニングを開始する。
イオは適当にその辺の魔物を倒して資金調達、りっくんは剣スキルの発動や飛行の練習をしている。
そして俺はと言うと、
「……魔法覚えてないじゃないか。そもそも覚えてても使えるのか?」
壁にぶつかっていた。
本来魔法の威力を示す『マジック』の値が俺は『妖力』になっている。本来なら泰平妖怪絵巻において妖怪が妖術を使う為に必要とするスキルである。
魔法を使うために消費する『マナ』はそのままだか、そもそも魔法スキルその物がステータスに存在しない。
あるのは『掴み』『投擲』『キック』と妖怪絵巻でも見たことの無いスキルなのだ。
「葵さん。俺ってどんな風に戦ってたか分かります?」
『えっと、掴んだり投げたりしてたような記憶があるわ……』
(掴んでだり投げたりか……)
取り合えず右手を握ったり開いたりを繰り返してみる。
すると、掌に紫色の魔方陣らしき物がボウッと浮かんだ。
「妖気を感じるな……」
形象文字のような物が何個も集まって、蜘蛛の巣の様な形になっている。
葵さんの言った事を思い出す。掴んだり投げたり。
蜘蛛の巣みたいな魔方陣……掴む。蜘蛛の巣……捕まえる。
そこでひらめいた。
「もしかすると……イオー! ちょっと来てくれー!」
「いいわよー! こいつ倒してからねー! レベルマックス、ファイヤーソード、わたしが考えた超格好良い技その二! マスター・ド・ハリケーン!」
イオの剣が炎の渦を召喚し、巨大なドラゴンを一瞬で消し炭にしてしまった。
前にイマジンランドで俺に撃った技と同じである。威力だけは桁違いのようだ。
「ドラゴンの鍵尻尾ゲット! 高く売れるわよこれ、それでなに?」
「ああ、俺に向かって何か弱い魔法を撃ってくれ」
「え? マゾ?」
「違う、試したいことがあるんだよ。ほらほら、さっさとしろ~さもないと~」
「ごめんなさい。その握った拳を下ろしてください」
直ぐに頭を下げてくれた。調教の成果である。
イオは少し離れた場所へ飛び退き、こちらに右手を向けてきた。
「ファイヤーボールでいいわよね……はぁ!」
「剣は技名言うくせに詠唱無しかよ。てか……でかくない?」
『いっくん逃げて! わたし魔法が下手で加減できないの!』
「それを早く言ってくださいよ!」
目の前には超特大の火の玉が迫る。この大きさでは到底回避は無理である。
「こうなったら勘を信じるしかない! うぉおおおお!」
『きゃぁあああ!』
葵さんの悲鳴と共に、俺は右手を火の玉に向けた。
今はこの魔方陣の力を信じるしかない。
ギュィィィィィィィィン!
そして、想像の通りの変化が起きた。
魔方陣が急に光を放ち、まるでネットのように巨大に広がって火の玉に覆い被さったのだ。
ネットは火の玉を包み込み、段々と小さく凝縮して掌で持てるサイズに変化した。
見た限りではサッカーボール程度の丸い物体である。
「た、助かったぁ~……」
「それ、どうなってるの?」
イオが興味有り気に近寄り聞いてくる。
「ああ、たぶん魔方陣で魔法をからめとってこの形にしたんだ、あとは……」
「お~い! 助けてくれぇ~!」
「おお、ナイスタイミング……うおりゃぁあああああああ!」
良い所に魔物を大量に引き連れたりっくんが空から現れた。
俺は丸く変化した蜘蛛の巣デザインの魔方陣を、手にとってぶん投げた。
ズガァアアアアアアアアアアアアン。
「うわぁ!?」
「きゃぁああ!」
「おおう。良い眺めだ」
先頭の魔物に玉が着弾したと同時に、後ろに連なっていた魔物諸共に綺麗に吹き飛んだ。
りっくんは後ろからの衝撃波で空中にポーンと投げ出されたが無事である。
吹き荒れた風でイオのスカートが捲れたが、前だけ押さえて後ろにいた俺には丸見えだった。
『いっくんったら、そんなに見ないで~!』
葵さんが恥ずかしがる姿を想像して、お礼を言って頭を下げておいた。
こうして俺は、敵の魔法を『掴む』魔法と、それを『投擲』する技を習得したのである。




