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第九話 報告と始まり。

 ミーンミーンミーンミーーーン……ジジジジジジ。


「りっくん。明後日から終にインターハイだよ」


 親友のお墓に手を合わせて呟く。必ず優勝すると心に誓う。

 夏が来た。今日も蝉の声が心地良く耳に届く。

 今は八月夏真っ盛り。夏の日差しを体いっぱいに浴びて、この場所に来ていた。


「今回も報告があるんだ。なんと! この俺に彼女が出来たんだよ! 羨ましいだろう~!」


 恒例である最近の一番の出来事を、墓の前で言う。一番の内容と言えばこれしかない。

 葵さんが俺の彼女になったのである。

 俺は予告の通りに、葵さんの命を救い寝起きにぶん殴って泣かせて抱きしめてキスをして、誓いを立てた。

 その後は大変だった。最初は俺という最後の希望を断たれ、抜け殻のようになってしまっていた葵さんが、一度死んだ今なら普通に死ねるのではないか、と思いつき試そうとしたのだ。

 当然自殺は止めた。そして、理由を説明した蘭と共に葵さんの監視を始めたのである。

 実家である葵さんの家へ二人で居候し、家族の方々から怪訝な表情をされたが、素直に自殺を止める為だと事情を説明すると、逆にこう感謝された。


「過去の葵の自殺未遂を知って? くぅ~! なんて良い子達なんだ! 母さん!」

「ええ、ええ! お父さん! そういう事なら喜んで! ああ、終にあの子にも頼れるお友達が出来たのね!」


 実年齢より老けて見える両親だった。

 葵さんは公にはならないまでも、自殺未遂の常習犯であり、両親は娘の奇怪な行動に悩み苦労していたそうだ。

 聞けば父親は公務員でそれなりに地位のある人らしい。子供が自殺未遂ばかり起こしている問題児だと、世間には言えなかったようだ。


「いっくん。あの父親殴ってもいい? いいよね?」


 蘭は葵さんの真実を、立場を護る為に揉み消していた父親が許せなかったようである。

 終始、拳を握り締めて睨みを効かせていた。


「今の仕事を失って家族を路頭に迷わせることだけは、何としても避けたくてね、この不景気の時代、職まで失えば葵や母さんを路頭に迷わせることになってしまう。だから……」

「ううっ、おじさんも苦労してたのね、グスッ、さあ、もう一杯!」

「お前は本当に分かりやすいよ」


 しかし、その日の夕飯には話を聞いて半ベソで父親にお酌をしていた。


「いっくんが死なせてくれない……鬱だわ死にたい」

「殴りますよ」

「い、嫌っ! あれ痛いから嫌っ!」

「じゃあしっかり眠ってください」

「はい……」


 ほわほわが何所へやら、葵さんは二十四時間隙あらば自殺しようとするので、寝不足で目元は黒ずみ、やつれた表情になってしまっていた。

 生き返った時に殴られたことがショックだったのか、殴る仕草をすると脅えて大人しくなった。

 可哀想だが自殺を止める為だと心を鬼にして、蘭と二人交代で見守ったのである。


 そして蘭と二人必死に自殺を止め続けた結果。


「いっくん。わたしもう自殺はしない……必死ないっくん達を見てたら、もう少し頑張ろうかなって……思ったの」

「葵さん! よかった! 本っっっ当っっっっに、よかった!」

「そ、それで……今更こんなお願い、自分勝手だって分かってるけど、その……好き、なの! 好きになっちゃったの! お願いします! あの時の告白、受けさせてください!」


 頭を下げる葵さんは、震える両手でギュとスカートを握り締めていた。


「い」

「い……? 嫌だ? とか、かな……?」

「いよっしゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 葵さんの心配を吹き飛ばす大声で家中を走り回り、二階の葵さんの部屋の窓から外にジャンプして、幻想世界へ飛びながら空で大の字にガッツポーズをした。

 人生で一番の歓喜の咆哮だったに違いない。

 俺の必死の行動に、葵さんは思いなおしてくれたのである。

 しかも告白という最高のプレゼントまで貰ってしまった。


「娘さんと結婚を前提に、お付き合いさせていただく事になりました!」

「うぉぉぉぉん! 娘を頼む! 君なら任せられる!」

「娘をよろしくねいっくん! もし不幸にしたらぶち殺すけど!」

「殺しちゃ駄目よお母さん! 本当に駄目だからね!」


 両親へそのまま挨拶、父親は男泣きし、母親は釘バットを手に不安になるような言葉を発していたが、葵さんが本気で焦っている様子から、触れずに流しておいた。

 そして、この報告を受けて一番取り乱すと覚悟していた蘭は……、


「終にこの日が……く、悔しいけど……いっ、ぐん゛おめでどう~! あ゛おざんもおめでどう~!」


 泣きながら素直に受け入れて祝福してくれた。

 それが一番嬉しかったのは言うまでもない。


 ○●○●○


「じゃあ。また来るよりっくん」


 一通り話し終えて、りっくんのお墓を後にする。

 お墓の入り口まで来て、手を振った。相手はさっきまで親友に自慢していた俺の彼女である。


「お帰りなさい。いっくん」

「ただいま。葵さん」

「ごめんなさい。わたしもお参りしたいけど……」

「決心がついてからでいいですよ。それに葵さんは悪くないですから、そこは気にしないでださい」

「うん……うん。ありがとう、いっくん」


 葵さんはりっくんを助けられなかった事を自分の責任だと感じ、お参りするのが怖いらしい。

 もちろん責任は無いとこうして説明するが、本人はまだ納得できないようである。


「いっくん、準備はもう出来ているかしら? 今の高校生インターハイは試合数が多くて、泊り込みになるのよ~」

「やっぱり葵さんはその表情が一番可愛いです。てい!」

「あんっ……もうっ! 大人をからかわないの! お返しよ~!」

「あ、あははっ! 駄目ですって、俺も脇は弱いから! はははっ! それに、大人と言っても葵さんは精神年齢高いだけで、実質俺とは一歳しか、あはははっ!」


 二人で並んで横断歩道待ちをしていると、ほわほわな笑顔で話しかれられたので、ナチュラルに脇をくすぐってやる。

 葵さんは少し色っぽい声を上げたが、直ぐに怒った声で笑いながら反撃してくる。

 周りから、なんだあのバカップルは、と視線で語られているが気にしない。

 カップルがいちゃつくのは当然である。何も悪い事はしていない。


「貴様達は今すぐ爆発した方が世間の為だと思うぞ! ハーハハハッ!」

「うわぁ!? 唐突に出て来ないでくださいよ不良先輩!」

「あら~? どうしたの不良先輩? お出かけかしら~?」

「あの海での一件以来その呼び方で固定か!? まあいい! 明日の買出しに行くところだ!」


 突然後ろに現れたのは、マウンテンバイクに跨り、より立派になっているリーゼントを風に靡かせている不良先輩である。

 どう立派になったのか説明すると、十センチ程、前に伸びている気がする。


「あれ? でも不良先輩、今年は三年で出場は辞退するって話しをしてたような?」

「うむ、そうなのだが、応援には行こうと思ってな」

「あら~? 後輩の子達と出場選手以外は学校から旅費がでないはずだけど~?」

「自費だ!」 

「じ、自費ですか? お金とかは……?」


 高校生には相当痛い出費である。

 普段はバイトをしている俺でも、月の食費を稼ぐのに精一杯であるというのに。

 田舎の両親からの仕送りや、葵さんの両親から一人分の生活費は貰っているが、やはりデート代や遊ぶお金が高校生は欲しいものである。


「さらっと、二人が同居している様な説明が入っていた気がしたが?」

「気のせいですよ」

「気のせいよ~」


 因みに今は法律で、親の許可があれば十六歳で男女共に結婚が許されている世の中である。

 あ。報告し忘れていたが、数日前に男になった、まる。


「まあ人の恋路をとやかく言いはせんが、節度は持てよ貴様達! ハーハハハッ! ではな!」

「行ってしまった……自転車漕ぐの速いな~。なんだったんだあれは」

「わたしにも分からないわ~」


 不良先輩、今となっては葵さんよりも謎な人かもしれない。

 葵さんは違うのかだと? 彼女だぞ、もう隅から隅まで知り尽くした。

 知らないことなどない。……たぶん。


「何の話でしたっけ?」

「明日の準備よ~! 歯磨きとか、着替えとか色々あるでしょ~?」

「それなら、もう葵さんのもばっちり準備してありますよ。玄関に荷物はまとめて置いてあります」

「……いっくんのえっち」

「あ……い、今更じゃないですか!」

「そういう問題じゃないのよ~! も~!」

「あ、いや……すいません」


 着替えを準備したという事は、そういう事である。

 その後、恥ずかしそうにしている葵さんと手を繋いだまま、初心な成り立てのカップルのように、照れてお互い視線を合わせずにマンションへと帰るのであった。


○●○●○


「死にたい」

「ブーッ! ゴホッ、ゴホゴホッ! 上に吹いたから顔面に、じゃない、葵さん!?」

「(ごっきゅん!) うぐっ!? の、喉が!」

「……え? あ、わたしまた? ごめんなさいね、まだ時々……」

「あ、ああ。あれですか? し、心臓に悪いですね、それ」

「吃驚して口に含んでたお茶、全部飲み込んじゃったよー! ああ、痛かったー!」

「蘭様! あたくしは顔に吹き掛けられても構いませんわ!」


 インターハイ会場へと進むバスの中で、葵さんの一言に蘭と二人で慌てる。

 葵さんは未だに、ふと思い出すように不穏なことを呟くのだ。

 りっくん。俺も親友を失った当時、発作的に呟いていた事があるので、その感覚は理解できる。

 意識せずに呟いた後で、後悔にも似た感情が胸を締め付ける。不安で不安で苦しくなる。


「葵さん、おいで」

「あ……いっくん……」


 胸を手で押さえて僅かに不安の色を見せる葵さんを安心させようと、何時もしているように、肩を抱いて引き寄せた。

 右手で頭を何度か撫でると、葵さんは気持ち良さそうに、俺の肩に寄り掛かって眠った。


「うぉおおお! 俺の脚力に比べればバスなど物の数ではない! ハーハハハッ!」

「蘭様、あれ乗せてあげた方がよろしいのかしら?」

「お金ないから乗らないって言ってたし、別にいいと思うよー?」

「人間の限界って凄いよな、俺はもう何も驚かないぞ」


 通路を挟んで隣の席、蘭と御嬢の様子に顔を向けると、窓の外にリーゼントの先端が見えた。

 そこには、バスに並走してマウンテンバイクを漕ぐ不良先輩の姿、背中には巨大なリュックサックを背負っている。

 因みに今は高速道路を走っている。後に聞いた話ではあるが、不良先輩は我ら最強番長族という幻想世界で高レベルの存在であることが判明した。

 それで習い事をしていない蘭に勝てないのだから、恐らくセンスがないのだろうと推測しておく。



「着いたぞ! ここがインターハイの会場かーーー! 優勝するぞーーー!」

「なんとなく真似して着いたぞ! ここがインターハイの会場かーーー! 優勝してねーーー!」


 目的地に到着し、蘭と二人並んで両手を挙げて大の字になり叫ぶ。

 そこは巨大なドーム型体育館である。延べ三万人が入れる体育館は、外から見ると絶景の風貌である。

 テンションが上がって叫んでしまったが、直ぐに後悔した。

 入り口には全国の猛者が集まっていた。ピリピリとした視線が、叫んだ蘭と俺に突き刺さっていたのである。

 顔中に嫌な汗を掻いて大の字のまま、蘭と二人後退する。


「あら~? いっくんどうしたの?」

「はしゃぎ過ぎました」

「ら、蘭様? どどど、どうされましたの?」

「はしゃぎ過ぎました」


 荷物をバスから下ろしていた葵さんと御嬢に、それぞれ後ろから抱き着いて落ち着くと、近寄ってくる人影があった。

 どうやら他校の生徒のようである。


「葵さん、お久しぶりね」

「赤衣さん? お久しぶり~!」


 葵さんとは正反対の容姿をした女子だった。

 きつく釣りあがったような目に、強い視線。ピリピリしたような雰囲気を身に纏っている。


「今年こそ勝たせてもらうわ! 覚悟していることね!」

「うふふ、今年は負けちゃうかもしれないわね~」

「は? ふざけてっ……ご冗談を、毎年一回戦でわたしに勝っている癖に!」

「どうしてそんなに怒っているのかしら~?」

「その喋り方、ムカつ……癇に障るから止めてもらえるかしら?」

(ずいぶん攻撃的だな……ん? 赤衣? まてよ、そう言えば)


 葵さんがテレビを見ながら言っていたことを思い出す。


「赤衣さんという子がね、中学の時から、毎年個人戦一回戦で必ず当たるのよ~」

「へぇ? 凄い確率ですねそれ」

「本当にどうしてかしら……わぁこれ美味しい~!」


 葵さんは何気なくそう言って、温かなミルクティを幸せそうに飲んでいた。

 他愛無い会話の一部分であり、気にしていなかったが、彼氏としては放っておけない。


「毎年わたしに勝つ癖に、生意気に今年は負けるかもですって? これだから良い所のお嬢様はお高くとまっ」

「勝つ負けるは勝負の世界だから当たり前だろ? それに良い所の御嬢様って、つまり自分は違うって言ってるのと同じだよな? 貧乏な人は心まで貧乏なのか?」

「なっ……なななな、なによあんた! この、わたしに向かって……葵! こいつ誰よ!」

「いっくんよ~。わたしの彼氏様、うふふ~」

「かれっ、し? 葵に彼氏!? こ、こんなふわふわしたお惚け女に彼氏!? しかもそこそこ格好良いしっ!?」

「お褒め頂いてどうも、そこそこ格好良い葵さんの彼氏です。てなわけで、俺の可愛い彼女を虐めると、女でも容赦しないからそのつもりでよろしく!」


 口をパクパクさせて驚いた様子で、赤衣はキッと視線を強くして指差してきた。


「わたしだって今年こそは好きな人に告白して彼氏作るわよ! 見てなさいよ! 葵には負けないから!」

「それは頑張ることだな! ハーハハハッ!」

「ぷきゃー!? り、リーゼントさん!? 何時から後ろに!?」


 妙な悲鳴を上げて、赤衣は後ろに居た不良先輩を見て、どぎまぎし始める。

 リーゼントさんとは、なかなかシンプルでナイスなネーミングセンスである。


「リーゼントさん、こ、今年は出場しないと聞いてましたからお、驚きました」

(あら~あら~これは~……)

(わかりやすいなあの子……)


 謀らずも葵さんと考えていることが一致しただろう。

 赤衣は頬を紅く染め、視線を下に向けて、両手の人差し指を合わせて顔の前でちょんちょんと、くっ付けたり外したりを繰り返している。

 完全に好きな人を前に、視線を会わせられない女の子の図である。


「ハーハハハッ! 今年は後輩達の応援に来たのだ! ところで貴様、誰……」

「赤衣さん! 毎年わたしと一回戦で当たっている赤衣さん! 今年も一回戦で当たったらよろしくね! わたしと互角に打ち合える赤衣さん!」

「ごふっ!? お、おおそうか、赤衣だったな、頑張れよ! ハーハハハッ!」

「は、はい! 頑張って勝ちます! リーゼントさん!」


 ドゴンッと葵さんの綺麗な肘打ちが脇に決まり、不良先輩は悶絶気味である。

 赤衣も不良先輩に応戦されて嬉しそうにしている。

 天使で女神な葵さんは、恋する乙女の味方なのだ。


「ねぇねぇいっくん、気になってる事があるの」

「ん? どうした……どうしたその格好?」


 袖を引っ張ってきた蘭を見て、思わず聞いてしまう。

 何時着替えたのだろうか、両手にポンポンを持った蘭はチアリーダーの格好をしていた。


「もちろんいっくんの応援だよ! フレッフレッ! いっくん!」

「見せパンだとしても、こんな所で女の子が足を振り上げるんじゃありませんっ! で? なんだ?」

「はぁい。んと……あのね、葵さんって今はチートの力、消えちゃったよね?」

「ああ、あの一件以来、エターナルのアバターも力も失った……俺に負けたからな」

「そうだよね……じゃあさ、その前はわたしと同じ高レベルだよね?」

「ああ……あれ?」


 蘭の疑問が何か気がついて首を傾げる。

 そうなのだ。正式なスポーツの試合に出る人間は、高レベルになってはいけないのである。

 現実世界の人間全ての幻想世界でのレベルは政府の監視下にあり、高レベル者は試合に出ることすら出来ない。

 しかし、葵さんは中学の頃から赤衣と試合をしていた様子である。


「さっきは。あ、ありがとねっ! でも! 試合は手加減しないから! 全力で勝つわ!」

「うふふ。楽しみにしてるわね~」


 丁度、赤衣と手を振って別れている葵さんに聞いてみることにする。


「……と、そんな疑問が浮かびまして」

「それなら簡単よ。わたしは幻想世界が世界に知られて、政府に管理される前にチートとしてあの世界にいたから、データバンクに記録がないのよ」

「あ! なるほど! そっかー、スッキリしたー!」

「俺はまだちょっと、それでもその体に転生した後で、幻想世界に飛べばバレますよね?」

「するどーい! 流石はわたしの彼氏様~! えっとね。じつは葵であるわたしは、いっくんと同じで10レベル程度の力しかないのよ~」

「それは……あ! わかったぞ、あれはイオである葵さんの力、そうですね?」

「正解! 混沌の領域限定であの姿になれていたの、あそこは政府のデータバンクも侵入不可領域だからバレないのよ~」


 疑問は晴れた。

 付け加えておくと、死ぬと現実世界へと戻るというルールも、混沌の領域では独自のルールがあるらしく、その効果を発揮しないらしい。


「ふぅ~……よし! ハーハハハッ! 我ながら素晴らしい出来だ!」

「うわっ!? そこの君! こんな所にテント張って貰っちゃ困るよ!」

「む! なんだ貴様達! 俺の拠点に何をする! 止めないかーーー!」


 入り口の前で不良先輩に良く似た男が、複数の警備員に取り押さえられていた。


「よーし! 頑張って応援するぞー! フレッフレッ! いっくん!」

「蘭様ー! 今日はまだ開会式で試合はありませんわー! これにお着替えになってー!」

「葵さん荷物持ちますよ」

「あら~あら~。ありがとういっくん~」

「葵さん彼氏いいなぁ」

「何? 広美、彼氏欲しいの? 俺なんてどうよ?」

「門脇はねーよバーカ!」

「勝って範毛はげ先生の奢りで焼肉行くぞー! 道子好きだー!」

範毛はげ先生の奢りで行くわよー! わたしも空彦愛してるー!」

「ハゲではない! 範毛はんけだ! ハンケ! 初の顧問の出番はこれだけかね!?」


 しかし、他人である剣道部員は全員、男を無視して体育館へと入場するのであった。





「ボーイさん! わたしの部屋をダブルにして! 請求書は赤衣銭湯! 至急よ!」


 何所からか不良先輩の騒ぎを嗅ぎつけて、赤衣が自分の宿泊するホテルの部屋をシングルからダブルに変更したらしいが、何があったのかは知る由もない。


 熱い夏が始まろうとしていた。

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