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得体のしれないもの

掲載日:2026/06/07

 なんて素晴らしい天気!!



 晴れ渡る青白い景色を見ながら、僕はたくさんの遊びに胸をおどらせます。


今日は木に登って虫を捕まえたり、川で遊んだり、双子の弟とじゃれ合うだけでも楽しいな。


毎日が楽しく飽きることなんてない。そんな晴れ晴れとした気持ちで毎日を生きています。


 僕はお母さん、双子の弟と一緒に木々が生い茂る自然豊かな場所で暮らしています。


お母さんは本当に優しくて、いつも僕と弟のことを気にかけてくれています。


そんな深い愛情を与えてくれているお母さんは、いつもニコニコしています。


僕はお母さんが大好きでしょっちゅうべったりしてくっついていますが、そんな僕の姿を見て弟も負けじとべったりしようとしています。


なんて毎日が楽しいんだろう。幸せなんだろう、いつもそう思っています。


 僕たちはお引越しもしょっちゅうします。寝る場所もしょっちゅう変えてます。


いつものところでいいのにと思っていいてもお母さんが決めたことなので守らなければなりません。


お母さんが決めたことは絶対でした。僕や弟が危ない場所にいったりすると怒られます。でも怒られた後は強く抱きしめてくれます。


お母さんの身体はとても大きいので僕の身体は途端に温かくなります。


弟と一緒にお母さんに抱きしめられているとき、いつもこうしていたいなという気持ちがどこからともなく湧いてくる。こういった気持ちをいつまでも持っていたいな。いつまでもお母さんと弟と一緒に暮らしていけるように。



 木々が紅く彩られ、森が紅葉の世界に変わり始めた頃、僕たちは川で魚を捕まえに行きました。


とても水が冷たく気持ちのいい刺激で、ぴょんぴょんと飛び跳ねる魚たちは目の前で一生懸命動いていました。


その魚たちに近づいていくと、


あれっ!


ふと視線の先の川岸の向こうで得体のしれないものが動いています。その存在は身体が大きく僕たちを見ています。どんな顔をしているかは遠すぎて見えません。


なんだろう、あれは。


動いているから動物なんだろうけど、初めてみるその存在は怖さがありますがとても興味を引きました。


最初はびっくりしていたのですが、抑えられない好奇心がとめどめもなく湧いたので近づいてみたくなります。


1歩、2歩、浅い川の中を選んで川の水にうたれながら近づいていく。


飛び跳ねる魚たちを横目に一歩一歩前進していくと得体のしれないものも動き始めています。向こうはこちらに近づく感じはありません。


するとどこからともなくお母さんがとても怖い顔をして僕の所に走ってきました。


「近づいたらダメ!!。」


お母さんの顔は恐怖にひきつっており、こんなお母さんは初めて見ました。


怒られた僕は気持ちがめげてしまいしょんぼりしていると、その得体のしれないものはいつの間にかいなくなっていました。


その後、お母さんの表情はいつものような優しいお母さんに変わっていて、安心してまた僕を抱きしめてくれました。


あの大きい生き物はなんなんだろう。なんでお母さんはあんなに怖がっていたんだ。よぎる疑問が頭を覆いつくしていました。


 夜になって、お母さんの身体に寄り添いながらまどろむ弟を尻目に、昼の川での出来事を思いだしていました。


あんなワクワクをまた感じみたいな。


今まで見たことないものや景色をみると心がおどるのはいつもそうだ。


ただ、お母さんのあの恐怖にひきつった顔もまた忘れられない。近づくなとだけしか教えてくれなかった。


もっと僕も大きくなればわかるのかな、


いつの間にか隣にいる弟と同じく、まどろみから夢の世界に連れられていきそうだった。


お母さんの肌の温もりの心地よさからいつの間にか考えが止まって眠りについた。



 そして時は流れ寒い冬が近づいてきました。


今日もいつも通り弟と一緒に森の中で遊んでいます。


すると弟と一緒に見たことのない大きな硬い箱を見つけます。


その箱の中にはとても甘い匂いのする美味しそうな果実がありました。


箱には僕たちでも入れるところがあって、その中にとても美味しそうな赤い果実があるのが箱の外からでも見えます。


「うわ!すごく美味しそう。」


弟のよだれを垂らす顔つきと共に声がでます。


僕と弟が目についたものは違っていました。


僕はその見たことのない箱に。


弟は美味しそうな果実です。


僕が怖くておろおろしていると、それを横目に弟が先にその箱の中に入ります。


「えっ、怖いから止めとこうよ」


僕はその箱が見たことがないのもあってか恐怖心で前に進めませんでした。


しかし、その美味しそうな果実をがむしゃらにかぶりついて食べ始める弟を見ると僕も自然とよだれが出てきました。


「なんて美味しいんだろう!、こんな美味しいものは初めて!」


嫌味にも聞こえるその声もあってか、食べたいという欲望が恐怖心に勝るようになってきます。


お母さんも近くにいるし大丈夫だろうと僕は考えるようにして箱に一歩一歩近づいていくようになりました。


その足取りは恐怖もあってか非常にゆっくりです。


箱の入り口まで来て僕は立ち止まりました。そして、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら箱に入ろうとした時でした。


「離れなさい!」


大きな草の茂みからザワザワと音を鳴らしながらお母さんが出てきて言いました。


ビクッとした僕は瞬時に箱から離れました。


弟は意に介さず食べ続けています。


お母さんは不安と恐怖に入り混じった表情で弟を見ています。


「早く箱から出なさい!」


箱の外から弟に呼びかけます。しかし弟は果実が美味しいあまり、お母さんの呼びかけに応じません。


僕にはこの箱がなんなのかわからない。でもお母さんも多分この箱がなんなのかは理解していなかったとは思う。ただただ恐怖感が箱の周りを支配していました。


お母さんの不安が強くなり、とうとう箱の入り口まで来て


「早く出なさい!」


と、再度呼びかけます。


しかし弟は言うことを聞きません。


お母さんの表情がだんだんと疲れ始めます。


しびれを切らしたお母さんは弟を引きずりだそうと、箱の中に入ります。僕はただただ怖くて箱の外で突っ立ていました。


すると次の瞬間


ドンッ!!


大きな音が鳴りました。


開いていた箱の入り口の上から急に硬い物体が降りてきて閉じられてしまいました。


お母さんと弟は箱に閉じ込められてしまい出ることができません。


箱はとても硬く、非常に力の強いお母さんでも全く開けることができませんでした。


僕は箱の外でおろおろするばかりです。


弟も閉じ込められた恐怖でずっと泣いています。


お母さんは不安を隠しきれていないけど泣きたい気持ちを抑え込んでいます。


「大丈夫よ」


と、弟と僕を落ち着かせるために声をかけ続けます。


箱が勝手に開くこともなく、時間は刻刻と流れていき、辺りは暗くなってそのまま夜を迎えます。


箱の中にはお母さんと弟。箱の外には僕。


近づいて肌を密着させることで支配されている恐怖、不安と闘います。


なんでこうなったかはわからない。ただただこの箱が開くのを待つだけでした。


そして朝日が昇り、周辺が明るくなってきた。僕が目を覚ますとお母さんは起きていた。そのそばで弟は眠ったままだ。


もちろん箱の中にいることは変わらず問題は解決しない。


どうしようと考えていたところ、急に周りで声がすることに気が付いた。聞いたことがない声であり音だ。その声と音はだんだんと近づいてきます。


お母さんの表情が一層険しくなる。


「早く逃げなさい!」


お母さんが大きな声で捻りだした逃げろという声。


その声で弟も目を覚ます。


近づいてくる聞いたことのない声と音による恐怖は一層怖くなり、僕はその箱から離れ、近づく声と反対方向の茂みに隠れます。


そして近づいてきた声と音は得体のしれないものとして箱の中のお母さんと弟の前に姿を現しました。


その得体のしれないものは二ついて両足で立っていた。両手には見たことのないものを持っており明らかなに僕たちとは異なる生き物です。


この二つの得体のしれないものは何かを話しながらお母さんと弟を指さしていた。


何をしようとしているかはわからない。


茂みからなるべく音を立てないように気持ちを静めてお母さんと弟を見守る。それだけしかできませんでした。


「私たちに近づくな!」


必死にお母さんが怒鳴り続けます。


弟は隣で震えておりお母さんにぴったりとくっついている。


でも得体のしれないもの達は、まったくひるまずにごそごそと動いている。


そうこうするうちに木のようなものを手に取り、


シュッ!


という音とともにお母さんの身体に突き刺しました。


それまで叫んでいたお母さんは急に声を出さなくなり表情が止まります。


しばらくして木のようなものが引き抜かれます。


お母さんはの身体は崩れ落ちるように地面に横たわりました。全く動きません。その横で弟は横たわったお母さんの前で泣き崩れており離れようとはしませんでした。


「お母さん!お母さん!」


泣きじゃくる弟の声が響きわたります。


得体のしれないもの達は何か声を出して話しているも全く理解できず、さっきお母さんに突き刺した木のようなものを、泣いてお母さんの胸を掴んでいる弟に向けます。


弟は向けられていることに気づいていません。


シュッ!


得体のしれないものの手が伸ばされて、お母さんと同じように弟も突き刺されました。


弟は一瞬で声を出さずに表情が無くなります。


僕は泣きながら漏れでる自分の声を殺しながら、その光景をみているしかありませんでした。


その後、箱が開けられるとお母さんと弟は縛られて得体のしれないものたちに引きづられてどこかへ行ってしまいました。


 大好きだったお母さんと弟はいなくなってしまいました。


僕はあの得体のしれないものたちは何なのか、全くわかりませんが許すことはできません。


しかしそれと同時にあの時の恐怖が忘れられないのです。


これから先は僕だけで生きていかなければならない。もうすぐこの山は雪で覆われる。そうなれば食べ物は十分にない。どうすればいいのかわからない。


生き方を教えてくれるお母さんはもういません。


でも生きなければならないのです。


あの箱の中には本当は僕が入っていたし、お母さんがいなければ僕も得たいのしれないものに殺されていた。


お母さんや弟のためにも僕は生きる。


小さな僕があ母さんがいなくて冬を乗り切れるなんかはわからない。


でも…生きたいんです。


流れでる涙と共に僕は生きるという決意を固め歩き始めました。




読んでいただきありがとうございます。


自然の摂理というのは不条理だなと書いてて自分が感じてます。

人間から恐れられる熊という存在をテーマに書いてみましたが、熊からすれば人間はそれ以上に恐怖の存在ですよね。

人間を襲う熊って子熊を連れてる母熊が多いそうです。でも我が子を守る気持ちからですもんね。



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