ハッピーエンドとバッドエンドは紙一重
"婚約者の王太子殿下が聖女様に纏わりついている"
あるいは、
"聖女様が王太子殿下を誑かしている"
そんな真反対の噂を聞いたのはいつの頃だったか。こちらが聞いてもいないのに面白おかしく話してこちらを嘲笑っていく。仲良くもないくせに。思ってもいないくせに"心から同情しますわ"と優越感を滲ませて。こんな地位いつだって望まれれば手放すのに。王立学園の中庭で私はため息を隠せなかった。
最初は嬉しかった。王太子殿下に望まれて婚約を申し込まれて、両親もとても褒めてくれた。いざ王太子妃教育が始まって、教育の苛烈さに想像と違ったと落胆したけれど期待に応えようと必死になった。
先生に怒られて庭園の隅っこで泣いていた私を殿下が見つけてくれて、精一杯励ましてくれた。殿下だって普通の優しい男の子だった。私は王子様ではなく、普通の男の子に恋をした。
必死に必死に喰らい付いて、何とか形になって行けば、褒められることは少なくなり全てが完璧に出来て当たり前になった。
顔には王族らしい笑みを貼り付けて、話す内容には私のことは含まれない。必要なのは"王太子の婚約者"であり、私ではないのだ。殿下の教育が上手くいっていないと噂で聞いたのはこの頃だったかしら。
カリキュラムをこなせばこなすほど学ぶ内容が増えていった。おそらく殿下の内容を肩代わりし始めたのだろう。私はひたすら余裕がなかった。もし殿下との素敵な未来を叶えるとして、やり直す機会が与えられたならきっとこの辺りが分岐点だろう。私はがむしゃらに課題をこなすのではなく、殿下と腹を割って話すべきだったのだ。後になれば何だって言える。
殿下はいつからか優しく接してくれることが少なくなり、お茶会では上の空。いつしか出席すら稀になっていった。私は一人で待つことしかできなかった。
時間を持て余す私を不憫に思ったのか、たまにもてなしてくれたのは王弟殿下だった。「私なら身内だから誰も文句言わないだろう」と、その気持ちがただただ救いだった。
こうなってしまっては仕方ないので学園の噂を精査するために、本格的に情報を集めた。それで分かったのは"王太子殿下は一方的に纏わりついているだけで、聖女様は距離をとっている"という事実だった。
彼女は殿下を"褒めた"ことはあったが、一般的な挨拶の延長線上の言葉で深い意味はなさそうだった。つまりただの社交辞令だ。殿下の方が、美しい女性(聖女様)に褒められて舞い上がっただけだった。頭を抱えたくなる。
殿下は私と早々に婚約が決まったので、身内と侍女以外の女性は遠ざけられた。側近候補も男しかいない。社交でも私がいれば、そこまであからさまな接触はなかった。女慣れしていない代償だろうか。
誘惑したつもりさえなかったのにただの社交辞令で殿下を落としてしまい、彼女の顔は珍しく引きつっていたらしい。まさかあそこまで弱いと思わなかったのだろう。一目惚れもあったのかもしれないけれど。
それからは出来るだけ会わないように時間配分を整えていたようだけど、相手から来られたらどうしようもない。いくら聖女様とはいえ、王族をあからさまな態度で避ける訳にはいかなかった。余計な火種になりかねない。
彼女は必ず一対一にならないように、側に女性と男性の付き人を付けて対策されていた。女性だけだとまた変な噂になりかねないと思われたのだろう。本当にきちんとしている。
聖女様は単なる象徴ではなく、癒しの力や結界の力で国に貢献している。何かあれば派遣されるので、仕事で学園を休むことも珍しくなかった。それなのに彼女と殿下の目撃情報がかなり集まるのだから、どれだけ追いかけ回してることやら。
うっかり聖女様を見ようものなら、"私が彼女を睨み付けていた"という噂が立った。それが数日後にはどんどん変化して行く。"私が彼女を害そうと画策している"とか"私が聖女様の悪い噂を流すように頼んできた"とか。元々事実無根の噂は尾ひれはひれ付き、広がって行く。いつのまにか私は"悪役令嬢"と呼ばれているらしい。美しい聖女様を虐げて、想い合う二人を引き裂く悪役らしい。"想い合う"というところに疑問を抱くのは私だけなのだろうか。
その噂は殿下にも届き、叱責を受けたのだった。
私が調査を始めた事を察したのか、彼女側からコンタクトがあった。私の家の寄子の娘を通してお茶会の招待状が直接届いたのだった。その寄子の家は信心深いことで知られていて、夫人が熱心に孤児院で奉仕活動を行っているため伝手があったのだろう。
私に彼女が直接渡すには繋がりがなさすぎるし、最悪噂を悪化させかねない。教会から公爵家に送るには、これもまた色々と不都合があった。絶妙な抜け道であるが、一番適切な手段だった。
招待状もおかしな点はなく、聖女様が次期王太子妃に送る物として相応しい格式がある物だった。
「お兄様。ご相談させていただきたいのですがお時間はありますか?」
「ああ。大丈夫だよ。もしかしなくても、聖女様の件かな?」
「はい。私が不甲斐ないばかりに」
「ベアトリーチェ、君はよくやっているよ。私の元には良い評判が届いている」
お兄様は元々私に甘かったが、もう頭を撫でる年でもないだろうに。気恥ずかしいが、拒否したいわけでもない。甘んじて受け入れていた。
聖女様からの招待状を見せればくまなく調べていた。私にはあまり見せることのない真剣な表情だった。教会の紋章、聖女様の印鑑、ご署名。内容も真剣に吟味した後、私に視線が動いた。
「罠に嵌めるならこんな正式な手順は踏まないね。
これは彼女からお茶会の手配をしたと公的書類として使えるからね。全ての采配は教会の手のものが行う。このお茶会で何かあっても、君が手配したもので彼女が害されない限りは問題にはならない」
「そうですよね」
「強制するわけではないがこれは参加しておいた方が無難だろうね。場所もどちらかの権力に偏った場所でないし、心配なら他の者も連れてきて構わないと書いてある」
「やはり、あの方は」
「何か伝えたいことがあるんだろうね。それで君のことにもきっちり気を配っている。評判通りバランス感覚がある方のようだ。王太子殿下よりもよっぽど政治が分かっている」
念のため父上に報告しておく、と言ってくれたので兄に任せることにした。
いざ当日、連れて行く者は父からの指示もあり三名になった。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招きいただき感謝します」
聖女様はにこやかな笑みを浮かべていた。真意までは分からないが表面上は歓迎されている。
やはり美しい方。殿下が一目惚れされたのも納得できなくはない。
彼女の周囲にいるお付きの者も、給仕の者も丁寧な仕事であった。最近は何かしらの意図を含んだ視線に晒されていたから、ごく当たり前な態度ではあるが居心地は悪くなかった。
「きちんとお話をするのは初めてでしょうか。私は当代の聖女を務めております、セレスティア・ヴァイスハイトと申します」
「ええ、初めてになりますわね。ベアトリーチェ・ヴァロワールと申します。聖女様本日はよろしくお願い致しますわ」
「もしよろしければ、こうした場ではセレスティアとお呼びください」
うん。おそらくかなり歓迎されている。
聖女様が名前を名乗ることはあるにはある。しかし儀式などを除けば、外で名を聞くことのほうが稀だ。殿下にすら名乗ってないはず。そんな報告は上がっていない。それでも不敬に当たらないのが聖女という公人だ。
彼女が名乗るのは"個人として"仲良くしたいという意味を含んでいる。何故かは分からないが、彼女がそういう態度で来るのであれば乗っておこう。公女としても次期王太子妃としてもありがたい話だ。
「光栄でございますわ、セレスティア様。私のこともよろしければベアトリーチェと」
「ありがとうございます。ベアトリーチェ様」
心なしか嬉しそうな気配を感じる。
国立植物園のオープンテラスはかなり人気のある場所だ。そこを貸切にしつつも、園は通常営業のため人の目はちらほら見受けられる。声までは通らないが、揉めていたり事故があればすぐ気付くだろう。よくもまあこんな配慮が出来るものだ。婚約者に爪の垢でも飲ませたいくらい。
お菓子やお茶がサーブされ、人心地ついた時彼女は表情を改めた。
「本題に入らせていただきます」
貴族らしくない話運びだ。貴族は遠回りな物言いを好む。言質を取られにくくし、責任逃れをするためでもあるが、話が分かりやすくて助かる。
「不敬を承知でこういう言い方をさせていただきますが、私は王太子妃としてベアトリーチェ様こそが相応しいと思っております」
この国は立太子は国王の一存で可能であるが、実際国王に就任する際は、議会で承認を得る必要がある。教会はこの議会に議席をいくつか有しており、彼女が成人して正式に大聖女となればその議席は彼女の物となる。その可能性が誰よりも高いため、不敬とまでは言い切れない。
連れてきた侍女のうち一人は身じろぎをした。私に肩入れをして不敬だと感じたようだが、この場に相応しくないのは彼女の考え方だ。帰ったら彼女は側近候補から外すように父に進言しなくては。
「こちらの調べでは王太子殿下の一方的な想いのようですが」
彼女は少し気まずそうにしつつも、目は逸らさない。
「気の迷いだとは思うのですが、淡い気持ちを抱かれていることに関しては否定しづらいですね。しかしどう転んだとしても私が王太子妃になることはあり得ませんし、教会が私を担ぎ上げることも致しません」
「断言できると?」
「今ならただの烏合の衆ですし、既に目星は付けて泳がせておりますので。ベアトリーチェ様と公爵閣下が不快なようであればすぐにでも手を打ちましょう」
にこりといい笑顔で言い切った彼女の後ろには何やら恐ろしい気配がした。逆らっては行けない感覚。この方聖女なのにお父様と同じ香りがするわ。
「父にも申し伝えます」
「一筆残した方が判断しやすいのであればそう致しますが」
「良いのですか?」
証拠になる物を教会の許可なく作成しても良いのかという意図も含ませたものの、にこやかな笑みで返された。
「この件は私に一任されております。大司教様の許可も降りておりますので、ご心配なさらずに」
「そうなんですのね」
「国とは不仲は困るのですが、近過ぎても弊害が出てきます。有事の際にすぐ動けないのは本末転倒なので、独自の権限は保っておきたいのですよ」
「聖女様は現場によく出て行かれてると伺っております」
「はい。おそらく色々な考えがあって然るべきだと思うのですが。私は聖女が権威や象徴であるよりも、より人の近くで役に立つ存在でありたいと考えております」
「なるほど。立派な考えだと思いますわ」
その後は穏やかに過ぎ、お開きとなった。
席を立ってお見送りを受けていれば彼女の視線がチラリと後ろに移った。すれ違いざまに掛けられた言葉が、耳から離れなかった。侍女たちは反応を見せなかったので、私にしか聞こえなかったはずだ。
"ベアトリーチェ様。先程お伝えした通り、私は王太子妃になることはありません。ただ望まれるのであれば殿下を教会で引き取ることは致します"
帰宅して早々に父から呼び出された。既に話は回っているらしい。
「どうだった」
「聖女様から文をいただきました」
「拝見しよう」
きちんと正教会本部の透かし印の入った正式な書状であった。
「なるほど。やはり」
父は考え込みつつ、私を見た。表情からは何も読み取れない。
「お前はどうしたい?」
「私は王太子妃としての自分の役割を果たすまでです。たとえ相手が誰であろうと」
顎を手で擦りながら、何度か頷いた。
「うちとしても悪い話ではない。お前には聖女様はどう見えた?」
「きちんと話したのは初めてでしたが、立場への理解が深く、芯がある方でした。一般的な聖女像とは離れているように思えましたが、悪い意味ではありません。将来的にも仲良く出来そうで安心致しました」
「噂通りのお方であれば気が合わないこともあるまいと思っていたが。お前がそこまで言い切るとは珍しいな?」
「はい。聖女様からお名前で呼ぶ許可をいただきましたので」
父は珍しくこちらが分かるくらい動揺した。何かもごもご言いつつ思案している。その後に私をはっきりと見た。
「聖女様はお前のことを買っているのだろう。私から見てもお前は立派な娘だよ。とても得難い縁だ。大事にしなさい」
父からの期待に胸が熱くなった。
どう父が聖女様にコンタクトを取ったのかは知らないが、数ヶ月で事態は急展開を迎えた。
卒業パーティーにて、私を断罪し、聖女様を婚約者にすると喚いた殿下が失脚。処分については後ほど議会で決定するが、王位継承権の剥奪は決定的であった。
聖女様は"私の存在が周囲にいらぬ混乱を呼んだ"と仰って自ら謹慎された。それに伴い彼女を王太子妃にと画策していた者たちも失脚した。殿下の側近も例外ではない。
きちんと諌めていた者もいたが、彼らは殿下によって既に外されていたので裁きの対象外であった。
私の冤罪は全て晴らされ、新たな縁談話が浮上した。相手は昔から私の心の支えになっていた、王弟殿下だった。
胸が高鳴るのを誤魔化すことは出来なかった。
Another side
「聖女様が謀略を巡らして、人を蹴落としていいのかい?」
「何の話か分かりかねますわ」
王弟殿下の細い目が開いた。圧力を感じる。惚けている場合ではなさそうだ。肩を竦めながら続けた。
「私のエゴです。そこは認めましょう」
「アレでも国王としては立てたはずだ」
一応頷く。立てるか立てないかで言えば立てる。議会の承認も集まるだろう。
「そうですね。ベアトリーチェ様がいますし、側近も優秀な方で纏めれば悪くない政治を行えた、かもしれません」
私の曖昧な物言いに彼は眉を顰めた。視線で先を促される。
「しかし、彼はベアトリーチェ様に対して劣等感を拗らせ過ぎていました。そしてベアトリーチェ様は王太子殿下の分の教育のせいで余裕がなさ過ぎた。彼が私にうっかり傾倒し始めた時に、仲を取り持つことも考えました。女神様の御心も窺った上でそれは止めることに致しました」
「女神様の御心、とは?」
「詳細は部外秘となりますので口外できませんが、見れば分かる通り彼らはあまり相性がよくありません。折り合いを付けてやって行くにはどちらかが貧乏くじを引くことになります。そして、身分的に貧乏くじを引かされるのはベアトリーチェ様になります」
反論はないようなのでそのまま続ける。
「ベアトリーチェ様は通常業務や公務に加えて、ひたすら夫の機嫌を取り続けなければならない。彼女が少し隙を作って殿下を立てながらうまく転がせるタイプなら行けるかもしれませんが、それは難しいでしょう。地獄ですよ。休む暇すらありません。そうしないと他に付け込まれてあわや大惨事となります」
身内のひたすらに情けない話に天を仰いでいる。そこまでなのか、と呟いた声に頷いた。
「総合的に考えて、彼の妃にベアトリーチェ様は勿体なさすぎる。彼女の無駄遣いです。それならば王太子を代えるか、王太子妃を代えるか。
王太子妃を代えてもいいのですが、彼女ほどの者はおりませんし、好ましい娘は既に嫁いでいるか、幼子になります。ベアトリーチェ様は王妃の器です。時代が違えば女王すらも成り得たでしょう」
「…そうだな。彼女にも王族の血は流れている」
反論はない。
「そして王弟、エドヴァルト殿下、あなたはまさしく王の器です。兄と継承権を争わないために辞退されましたが、彼がなるよりいい政治をされるでしょう。
彼が悪政を敷いた後、クーデターで引っ張り出されるよりはよっぽどマシな幕引きではありませんか? 悲惨ですわ、あの光景は。無駄な血は流さないに限ります」
私の宙を彷徨わせていた視線を彼に向ければ少し息を呑んだように見えた。
「随分とまあ、見てきたように言うんだね」
「ご想像にお任せしますわ」
否定はしない。そして彼はそれ以上追求しない。私が聖女という存在だから。
「君が王太子妃になることも出来ただろう? そうすればアレのまま上手いこと行ったのでは?」
私なら殿下を上手く転がせるだろう?と匂わされて苦笑した。
「そうですね。国を保つという観点ではうまく行ったかもしれません。ただ」
「ただ?」
「私が王太子妃、王妃となってしまえば有事の際に簡単に動けなくなります。初動が遅れてしまえばそれだけ被害が大きくなる。そして、私が大切な殿下は外に出したがらない。危険な場所であるなら尚更。議会も承認するでしょう」
「…ありそうだな」
「私がしびれを切らすか、民衆の方が限界を迎えるか、どちらにせよ一騒動は免れない。"私"がいるので国が壊れることはありません。王権が弱くなるか、民衆が弾圧されるか、そこは神のみぞ知るところになります」
「私が王として立った方が、弊害が少ないのか」
「はい。それに、あなたにとっても悪いことばかりではありませんでしょう?」
意図を分かりかねたのだろう。訝しげな顔でこちらを見遣る。
「あなたは殿下がベアトリーチェ様を放置するたびに会いに行っていたではありませんか」
「それは。身内の不始末を」
「確かにそうです。しかし、あなたはどちらかと言えば合理主義。人を遣ってお茶会を中止にすることも、殿下を呼び出すことも可能だったでしょう。しかし、あなた自ら対応した。もし彼女じゃなかったとしても、同じ対応されましたか?」
(あれ? もしかして無意識だったのか)
ハッとした顔になった彼に少し驚く。女神様が言うにはこの二人はかなり相性がいいのよね。
「エドヴァルト様とベアトリーチェ様が結びつけばこの国は安泰。お二人には女神様の祝福があります。殿下のやらかしによって、エドヴァルト様の王位継承権の復帰と立太子は問題なく整います」
「議会はどうなる? 王妃や反対派閥だって反対することも」
途中で遮る。問題はない。
「既に動いておりますので。議会の方も全会一致となります
殿下は責任を取って教会に身を寄せることになる。政治の世界にはもう戻ることはないでしょう。殿下は王位継承権も王族としての立場も失いますが、聖人として好きな私と結ばれる。
これが俗に言うハッピーエンドというやつですわ」
私がにこやかに彼を見遣れば、彼は苦い顔をしている。なぜ?
「ベアトリーチェの気持ちはどうなる」
「あら、あなたは気付いておりませんの?」
「彼女はアレを好いているのだろう?」
「エドヴァルト様、落ち着いて聞いてくださいね。ベアトリーチェ様はかなり責任感が強い方ですわ」
「分かっている。でも彼女はあんな扱いをされてもアレのことを」
「あのですね、ベアトリーチェ様も女の子ですよ。責任感から殿下を支えるのを投げ出したりはしません。でも、ただただ苦しい時そっと寄り添ってくれた方がいたら、そちらに少し想いを向けてしまうことだってあるでしょう。その淡い気持ちを誰が怒れますか?」
「そんな、まさか?」
「後できちんとお気持ちを確かめ合ってくださいね」
何度も確認してくる彼に面倒になって、とりあえず頷いておく。普通の人は相性が良い人とか分からないから仕方ないのかもしれないけれど。
終わり良ければ全てよしとばかりに思っていれば、彼は胡乱気な視線を向けてきた。
「そんなことを言っておいて君がアレが欲しかったから、ではないのか?」
「下心までは否定は致しかねますが、それがきっかけでないことは確かです」
「趣味、悪くないか?」
「馬鹿な子ほど可愛いと言うやつでしょうか。王太子としては相応しくありませんが、単純過ぎて可愛いというか。どちらかと言えば好みです」
「……アレを落としたのは本当に"うっかり"なのか?」
「あれは本当に驚きました。私がいくら美しいとは言え、微笑みだけで骨抜きに出来るとは思ってもいなくて」
「君じゃなければ嫌味だな」
「今回の事象は、喩えるならば金鉱山を掘っていたらそのまま隣の山の銀鉱山まで掘り当ててしまった、みたいな感じでしょうか」
「あまりよく分からないな」
「私が女神様に愛されてしまったばかりに、と言った方がわかりやすいでしょうか」
「これだから聖女は」
「アレが嵌められたことに気付いたらどうするんだ?」
「まあそこまで愚かではないので、おそらく近い未来に気付くでしょうね。それまでには中身も骨抜きにしておきますのでご心配なく」
「これだから聖女は」
全ては女神様のお導きです。
王太子が女神様によって排除されていない点から察していただければ。
コメント、評価ありがとうございます。
賛否両論受け止めつつ、楽しく感想を読ませていただいてます。こちらにて感謝申し上げます。




