閑話:ネットは炎上、世界は熱狂
1月2日、正午。
往路レースが終了した直後、日本のインターネット空間は、ある一つの話題によって占拠されていた。
優勝した大学でも、シード権争いでもない。
たった一人の「記録に残らない選手」についてである。
***
SNSのトレンド
1. #箱根駅伝
2. #幻の区間新
3. #湊カケル
4. 学生連合
5. 参考記録
6. 留学生ごぼう抜き
7. 星雅大学
リアルタイム・タイムライン
@rikujo_love_tarou ちょwww 学生連合の2区www 留学生をちぎったぞ!? なんだあの白いユニフォーム!? #箱根駅伝
@hakone_freak
速報。学生連合・湊カケル(星雅大)、手元の計測で1時間04分30秒。
これ、従来の区間記録を1分以上更新してます。
でも「参考記録」だから公式には残らない……。
残酷すぎるだろこのルール。
#幻の区間新
@minato_fan_001
推しができた。
カメラに向かって「俺と一緒に歴史をハックしたい奴は来い」とか言ってた。
厨二病すぎて最高。抱いてくれ。
@ekiden_maniac フォーム分析したけど意味不明。 地面を蹴ってない。滑ってる。 大腿四頭筋の使い方が自転車競技のそれに近い気がする。 どこの高校出身? 陸連のデータベースに名前がないんだが。
@seiga_univ_student え、うちの大学(星雅大)って男子陸上部あったの? 女子部のおまけだと思ってた……。 てか、いつもキャンパスのベンチで死んだ魚の目をしてる人? 嘘でしょ!?
@kintore_gachi
湊カケルの太もも見たか?
あれは走る筋肉じゃない。登る筋肉だ。
重力を殺す形状をしている。
美しい……。
巨大匿名掲示板・陸上実況スレ
【悲報】学生連合の無名ランナー、ガチで留学生を公開処刑
1 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:25:30.12 ID:HaKoNe001
見たかお前ら。
戸塚の壁で加速装置使いやがったぞ。
2 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:25:45.55 ID:RunRun002
>>1
見た。コーヒー吹いた。
なんで学連選抜にあんな化け物がいるんだよwww
5 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:26:10.88 ID:SeigaOtsu
星雅大の湊カケル。3年。
高校時代の実績ゼロ。
陸連登録も大学から。
帰宅部でママチャリ通学してたらしいぞ。
8 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:26:55.20 ID:HaKoNe001 >>5 は? ママチャリ?
15 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:28:12.33 ID:MajiYaba 公式記録サイト更新された。 区間賞:ベゴン(東京国際) 1:05:40
※参考 湊(学連) 1:04:30
この「※」が重すぎる。
実質日本記録&区間新だろこれ。
33 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:32:00.00 ID:Phantom
インタビュー見た?
「今日の区間賞は俺じゃない。でも誰が一番速かったかは全員知ってる」
「来年、この幻を現実にするから星雅に来い」
これ、ただのイキりじゃなくて、完璧なリクルーティング演説じゃん。
自分の記録が残らないことを利用して、逆にインパクト残しに来たんだぞ。
45 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 10:35:44.11 ID:RecruitWar
>>33
これ。
偏差値微妙な星雅大に、全国の「俺は速いのに評価されない」系のひねくれ天才が集まりそう。
来年の箱根、面白くなるぞ。
ネットニュース見出し
【箱根駅伝】花の2区に「幽霊」現る! 学生連合・湊カケルが驚愕の「幻の区間新」
【陸上】1時間04分30秒でも「記録なし」……ルールの壁に泣かない男、湊カケルの不敵な予告
【衝撃】「ママチャリで鍛えた」最速の帰宅部、箱根の山を制圧。星雅大学に問い合わせ殺到
某ワイドショー・スポーツコーナー
司会者:「いやー、驚きましたね! 学生連合の湊選手! 見てくださいこの映像、他の選手が止まって見えますよ!」
解説者(元・箱根ランナー):「ありえませんね。常識では考えられない走りです。
特にこの権太坂の登り。普通は前傾姿勢で耐えるんですが、彼は重心を後ろに残して、ハムストリングスの反発だけで登っている。
自転車のペダリングに近い動きです。これなら乳酸が溜まりにくい。
……正直、真似しようとしても無理です。骨格レベルで作り変えないと」
コメンテーター(タレント):「しかもイケメンじゃないですかー! ちょっとクールで怖い感じですけど、そこがいい!
『俺と一緒に歴史を変えよう』なんて言われたら、私が男子高校生ならイチコロですよ!」
司会者:「星雅大学には、既に全国の高校生から『練習参加したい』という電話が殺到しているそうです。
これは来年、台風の目になるかもしれませんねぇ」
星雅大学・某会議室にて
「……ふふ、ふふふふふ」
タブレットでSNSの反応を眺めながら、星野アスナは暗い部屋で一人、不気味な笑い声を漏らしていた。
「トレンド1位、動画再生数500万回突破。
大学のHPはサーバーダウン。
広報課の電話はパンク状態。
完璧……完璧です、先輩!」
彼女の目の前には、ホワイトボードがある。
そこには『スカウト候補リスト』が貼られており、既に数名の名前に赤い丸がつけられていた。
「火野、雪村、雷兄弟……。 今まで見向きもしなかった『Sランクの原石』たちが、自分から連絡してきましたよ。 やっぱり大きい魚を釣るなら、とびきり派手な餌に限りますね」
アスナは、画面の中の無表情なカケル——インタビューで不遜な態度をとっている愛しい共犯者——の頬を、指で愛おしそうになぞった。
「さあ、忙しくなりますよ。
この熱狂を冷めさせないうちに、全部『現実』にしてしまいましょう。
……私のカケル先輩」
その瞳は、箱根の山よりも深く、熱く燃え上がっていた。




