閑話:神々の遊び
1月2日、午後2時。
往路レース終了直後。
日本のインターネット・サーバーは、物理的な熱を帯びていた。
原因はただ一つ。
星雅大学という「バグ」が、箱根駅伝というシステムを完全に破壊したからである。
***
SNSのトレンド
1. #箱根駅伝
2. #星雅大学
3. #往路優勝
4. #湊カケル
5. 区間新
6. 山の神
7. シンクロ兄弟
8. 1時間3分28秒
9. 復路どうすんの
10. 全員変人
リアルタイム・タイムライン
@ekiden_master
星雅大学、往路5時間15分25秒って何事???
大会記録を5分以上更新してるんだけど。
これもう別競技だろ。
#箱根駅伝
@minato_fan_club カケル様あああああ!! 1時間3分28秒!! 人類未踏!! 去年の「幻影」を自分でぶっ壊すとか最高すぎる!! ゴール後の「これが現実だ」ってセリフで無事昇天しました!!
@yama_naboru_man 5区の雪村って選手、マジで何者? この寒空の下で正気かよwww 笑いながら登ってたぞ。 「山は友達」とかいうレベル超えて「山は俺の庭」感凄かった。
@anime_icon_009
3区と4区の雷兄弟、完全にロボットじゃん。
フォームもピッチも全く同じとか、双子でもありえなくない?
兄貴のデータを弟にインストールしたとしか思えん。
あいつら絶対背中にUSBポートあるよ。
@hakone_ota
1区:脚壊れるまで爆走する元王者
2区:1時間3分台のハッカー
3・4区:シンクロ率400%の双子
5区:野生の山猿
……これ、アベンジャーズか何かですか?
星雅大のスカウト担当、どうやって集めたの?
悪魔と契約でもした?
巨大匿名掲示板・陸上実況スレ
【悲報】箱根駅伝、星雅大学のせいでゲームバランス崩壊
1 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 13:30:15.55 ID:BaGuHaCk
2位と5分30秒差ってなんだよ。
復路は散歩でも勝てるぞこれ。
5 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 13:31:22.88 ID:SeigaSaikyou >>1 いや、待て。 星雅の選手層見たか? 往路の5人は「特待生」ばっかだけど、復路のメンバー……。
12 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 13:33:40.11 ID:BonJinDesu
>>5
見た。
10000mの持ちタイム30分〜31分台の凡人しかいねぇwww
これ、往路の貯金を守り切れるのか?
いや、5分あれば流石にいけるか?
25 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 13:38:00.00 ID:Phantom
湊カケルのことだ。
このアンバランスな構成も全部計算済みだろ。
往路で稼げるだけ稼いで、復路は死ぬ気で耐える「籠城戦」の構えだ。
44 :名無しのランナー:202X/01/02(火) 13:42:10.33 ID:MajiYaba それにしても2区の1:03:28はエグい。 今後100年は破られないだろ。 もはや「参考記録」じゃなくて「神の記録」だわ。
スポーツ新聞・WEB記事見出し
【号外】星雅大学、驚愕の往路新記録! 2位に5分半の大差つけ完全優勝
【2区】湊カケル、伝説の「1時間3分28秒」! 自身の幻影を超え、世界への扉をこじ開ける
【分析】「個」の暴力と「集団」の論理。星雅大・湊監督(選手兼任)が描いた勝利の方程式とは?
【悲報】青学・嵐山監督「お手上げです」。駒澤・安田監督「ファイト!」と絶叫も届かず
夜のニュース番組・スポーツコーナー
キャスター:「いやー、凄まじかったですね星雅大学!
特に2区の湊選手、そして5区の雪村選手。彼らの走りは陸上の常識を覆しました」
解説者(元・箱根ランナー):「ええ、言葉もありません。 湊選手の走法は、エネルギー効率を極限まで高めた『転がる走り』。 雪村選手に至っては、舗装路よりも不整地を走るような足運びでした。 ……正直、真似したら怪我します。彼らは『選ばれた変異種』です」
キャスター:「さて、明日は復路です。
5分30秒のリードがありますが、星雅大学の復路メンバーは未知数です。
逃げ切れるでしょうか?」
解説者:「……厳しい戦いになるでしょう。
復路の6区、9区、10区は距離も長く、経験が物を言います。
青山学院や駒澤大学には『復路のエース』が残っています。
もし星雅の選手がプレッシャーで潰れれば、5分なんて一瞬で溶けますよ。
……鍵は、9区に配置された留学生、ユージン選手でしょうね」
星雅大学・特設テント裏にて
「……ふふ、あはははは!」
スマホの画面を見ながら、星野アスナは狂喜乱舞していた。
「寄付金サイト、サーバーダウン復旧した瞬間また落ちました! 『湊カケル着用モデル・シューズ』は即完売! 『雷兄弟のシンクロ・ドリンクボトル』も予約殺到! お金が……お金が唸りを上げて飛んできます!」
彼女は札束の幻影を掴むような手つきで、空を仰いだ。
「先輩、やりましたね。
これで大学理事会も文句なしです。
来年の予算、さらに倍プッシュいけますよ!」
アスナは、テントの中で氷嚢を当てて休んでいるカケルの方を振り返った。
彼はスマホなど見向きもせず、明日の区間配置表を睨みつけている。
「……浮かれるなよ、星野」
カケルの声は低く、冷たかった。
「明日は『凡人』たちの戦いだ。
ネットの連中は『5分あれば余裕』とか言ってるが、俺たちの戦力差を考えれば、5分なんて『首の皮一枚』だ。
……明日、本当の地獄を見るのは、俺たちかもしれないぞ」
その言葉に、アスナも表情を引き締めた。
ネットの熱狂とは裏腹に、チーム内には「明日への恐怖」が静かに満ちていた。
神々の遊びのような往路は終わった。
明日は、人間たちが泥にまみれて戦う、復路の号砲が鳴る。




