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無名作者がなろう1位を狙うまでの全記録――ゼロPVから1位へ――全てを公開する創作日誌!  作者: 妙原奇天|アコンプリス


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第六章 ランキング下位に名前が出た日

 ランキングページを見ることには、独特の痛みがあった。

 見なければいい。

 そう思う。

 だが、見てしまう。

 自分の作品が載っていないことは、見る前からほとんどわかっている。わかっているのに、確認せずにはいられない。もしかすると、という期待が胸の奥に小さく残っている。その期待は、たいてい数秒後に潰される。ページを開き、上から順に作品名を追い、どこにも自分のタイトルがないことを確かめる。その瞬間、期待は音もなく潰れる。

 それでも、また見る。

 人は、自分を傷つけるものほど何度も確認するのかもしれない。

 その日も、私はランキングページを開いた。

 夜に投稿した作品は、これまでの中ではよく動いていた。

 PVは三百を超えた。

 ブックマークは五つ。

 評価は八ポイント。

 感想は相変わらずゼロだったが、それでも数字としては私の過去作を明らかに上回っていた。

 だが、ランキングには載っていなかった。

 前夜の段階では、そうだった。

 だから、朝になってページを開いたときも、私はそれほど大きな期待はしていなかった。いや、正確には期待しないふりをしていた。心のどこかでは、もしかしたらと思っている。その「もしかしたら」を認めると、外れたときの痛みが増す。だから私は、ただの確認だと自分に言い聞かせた。

 日間ランキング。

 ジャンルを選ぶ。

 スクロールする。

 上位には、当然ながら知らない作者の名前が並んでいた。知らないと言っても、私にとって知らないだけだ。読者にとっては、すでに何度も見かけた名前なのかもしれない。作品タイトルはどれも強い。読者に向かってまっすぐ言葉を投げている。

 私は上から順に眺めた。

 十位以内にはない。

 当然だ。

 二十位以内にもない。

 それも当然だ。

 三十位台。

 ない。

 四十位台。

 ない。

 五十位台。

 ない。

 そこで、私は一度スクロールを止めた。

 やはりない。

 そう思った。

 胸の奥に溜まっていた小さな期待が、少しずつしぼんでいく。仕方がない。まだ足りないのだ。ブックマーク五つ、評価八ポイントでは届かない。もっと初動が必要なのだろう。もっと評価率を上げなければならないのだろう。

 私は諦めかけた。

 だが、指がもう少しだけ動いた。

 六十位台。

 七十位台。

 八十位台。

 そして、九十位台に入ったところで、私は画面を見つめたまま固まった。

 そこに、自分の作品名があった。

 私を殺した犯人が、今日から私の母になった。

 順位は、九十七位だった。

 上位ではない。

 華々しくもない。

 ランキング入りと言っていいのか迷うほど、端の端だった。

 だが、確かに載っていた。

 私は瞬きをした。

 見間違いかもしれないと思った。

 もう一度、文字を読む。

 私を殺した犯人が、今日から私の母になった。

 作者名も、自分のものだった。

 私はページを更新した。

 消えるのではないかと思った。

 だが、消えなかった。

 同じ位置に、同じタイトルが表示された。

 私はスマートフォンを取り出し、そちらでもランキングページを開いた。検索条件を間違えているのではないか。ログイン状態のせいで何か違って見えているのではないか。そんな馬鹿げた疑いが次々と浮かんだ。

 スマートフォンの小さな画面にも、同じタイトルがあった。

 九十七位。

 私は、しばらく何もできなかった。

 嬉しい、というより先に、現実感がなかった。

 ランキングページは、これまで私にとって遠い場所だった。駅の構内に貼られた大きな広告のようなものだ。名前のある作者たちが並ぶ場所。読まれている作品だけが立つ場所。自分はいつも、その前を通り過ぎるだけだった。

 その端に、自分の作品名がある。

 それは、奇妙な光景だった。

 まるで、入ってはいけない会議室の末席に、自分の名札だけが置かれているのを見つけたようだった。

 私はノートを開いた。

 手が少し震えていた。

 時刻。

 ランキング種別。

 順位。

 作品名。

 全部書こうとしたのに、最初の一行を書くまでに時間がかかった。

 朝八時十二分。

 日間ランキング、九十七位。

 自作の名前を確認。

 何度も更新しても消えない。

 書いた瞬間、ようやく実感が少しだけ湧いた。

 ランキングに載った。

 下位だ。

 ほんの一瞬かもしれない。

 数時間後には消えるかもしれない。

 それでも、載った。

 私は椅子から立ち上がった。部屋の中を歩く。昨日までと同じ六畳の部屋だった。床に置いた本の山。洗濯物。机の端に残ったマグカップ。何も変わっていない。

 だが、画面の中だけが変わっていた。

 それは、小さなことではなかった。

 私はもう一度、ランキングページを見た。

 九十七位。

 すぐ上にも作品がある。すぐ下にも作品がある。自分の作品は、その間に挟まれていた。特別な扱いはない。フォントも同じ。表示の大きさも同じ。ただの一覧の一部だ。

 それが、たまらなく嬉しかった。

 同じ場所に並んでいる。

 読まれている作品たちの列に、ほんの端だけでも混ざっている。

 私の作品が、投稿サイトの流れの中で、完全な無ではなくなっている。

 私はスクリーンショットを撮った。

 保存したあと、すぐに不安になった。

 こんなことで浮かれていいのか。

 九十七位だ。

 一位ではない。

 十位以内でもない。

 多くの読者は、そこまでスクロールしないかもしれない。ランキング入りと言っても、わずかな時間のことかもしれない。誰かに自慢できるほどの順位ではないのかもしれない。

 しかし、その不安はすぐに別の声に押し戻された。

 それでも、ゼロではない。

 私はまたノートに書いた。

 ゼロではなくなった。

 その一文を書いたとき、胸の奥が熱くなった。

 第一夜のことを思い出した。

 PV、0。

 ブックマーク、0。

 評価、0。

 感想、0。

 何度更新しても変わらなかったあの画面。部屋の中に冷たいコーヒーの匂いだけが残っていた夜。才能がない、という言葉が頭に浮かび、それでもノートに「全記録」と書いた夜。

 あのときの自分に、この画面を見せたらどう思うだろう。

 笑うだろうか。

 九十七位で喜ぶのかと、呆れるだろうか。

 いや、たぶん泣くほど嬉しがる。

 ゼロの場所にいた人間にとって、九十七位は十分に遠い。

 十分に高い。

 私はそう思った。

 ランキング入りの効果は、すぐに現れた。

 アクセス解析を開くと、PVが明らかに増え始めていた。

 朝八時の時点で、PVは二百四十三だった。

 八時三十分には、二百八十九。

 九時には、三百四十を超えた。

 ランキングページから来ているのかもしれない。タイトルを見た誰かが開いているのかもしれない。順位は低くても、一覧に載るだけで露出が増える。

 数字が数字を呼ぶ。

 私は、その現象を初めて目の当たりにしていた。

 今までは、投稿した作品が新着欄から流れたら、それでほとんど終わりだった。あとは、たまたま検索で見つけられるか、作者ページから入られるか、何かの偶然を待つしかない。だがランキングに載ると、作品は別の場所に置かれる。

 読者が探しに来る場所に置かれる。

 それだけで、動きが変わる。

 私はノートに書いた。

 ランキング入り後、PV増加。

 順位は低くても露出が変わる。

 ランキングは結果であると同時に、入口でもある。

 書いたあと、その言葉の重さに気づいた。

 ランキングは、単なる表彰台ではない。

 次の読者への扉なのだ。

 だから、ランキングに入る作品はさらに読まれやすくなる。読まれやすくなるから、さらに評価される可能性が出る。評価されれば、順位が上がるかもしれない。順位が上がれば、さらに目に触れる。

 逆に、最初に載れなければ、その循環に入れない。

 私は、その仕組みの残酷さを感じた。

 そして同時に、だからこそ初動が大事なのだと理解した。

 タイトルも、あらすじも、冒頭も、投稿時間も、すべては最初の小さな火をつけるためにある。その火が十分に燃えれば、ランキングという風に乗る。風に乗れば、少しだけ遠くへ届く。

 火がつかなければ、作品は静かに消える。

 私は、過去作が消えていった理由を改めて考えた。

 悪い作品だったのかもしれない。

 だが、それだけではなかったかもしれない。

 火がつく前に、新着の流れから落ちた。

 読者に見つかる前に、埋もれた。

 タイトルが弱く、あらすじが曖昧で、冒頭が遅く、投稿時間もばらばらだった。火がつく条件が足りていなかった。

 そう考えると、過去作が少しだけ別の顔に見えた。

 失敗作ではなく、火打ち石の使い方を知らないまま置かれていた薪のようだった。

 十時過ぎ、順位を確認した。

 九十一位になっていた。

 上がっている。

 私はまたスクリーンショットを撮った。

 こんなに何度も撮ってどうするのかと思ったが、手が止まらなかった。証拠が欲しかった。自分の目だけでは信用できない。明日になれば消えているかもしれない。いや、数時間後には消えるかもしれない。だから、今あるうちに残しておきたかった。

 九十一位。

 私は数字をノートに書いた。

 九十七位から九十一位へ。

 PV増加。

 ブックマーク、6。

 評価、10pt。

 ブックマークが一つ増えていた。

 評価も二ポイント増えていた。

 ランキングから来た読者の誰かが、反応してくれたのかもしれない。

 私は画面を見ながら、小さく息を吐いた。

 怖かった。

 嬉しいのに、怖かった。

 順位が上がると、落ちることが怖くなる。

 ブックマークが増えると、外されることが怖くなる。

 評価が入ると、次に入らないことが怖くなる。

 人間の心は、上がった高さのぶんだけ落下を想像する。

 私は初めて、ランキングに載っている作者たちの別の苦しみを想像した。

 上位にいる人たちは、いつも勝っているように見えた。読まれて、評価されて、羨ましい場所にいるように見えた。だが、彼らは彼らで、順位が落ちる怖さを知っているのかもしれない。読まれるほど期待され、期待されるほど数字に追われる。

 読まれない苦しさと、読まれる怖さ。

 どちらも違う形の圧力だった。

 私はまだ、読まれる怖さなど語れるほどの場所にはいない。

 九十一位で震えているだけだ。

 それでも、少しだけその入り口を見た気がした。

 昼になって、順位は八十八位になった。

 私は食事を取るのを忘れていた。

 空腹に気づいたのは、胃が軽く痛み始めてからだった。冷蔵庫を開ける。昨日買った惣菜パンが一つあった。袋を開け、立ったまま食べる。味はほとんどしなかった。片手にはスマートフォンを持っている。

 更新する。

 順位を見る。

 解析を見る。

 また更新する。

 私は数字に取り憑かれていた。

 それが自分でもわかった。

 わかっているのに、やめられなかった。

 ランキングに載った瞬間から、時間の流れ方が変わっていた。十分ごとに何かが起こる気がする。順位が上がるかもしれない。下がるかもしれない。ブックマークが増えるかもしれない。評価が入るかもしれない。逆に、全部止まるかもしれない。

 この緊張を一日中続ければ、壊れる。

 そう思った。

 私はノートに書いた。

 ランキング入り後は、数字確認の頻度を決める。

 見続けても順位は上がらない。

 確認は一時間に一回まで。

 書いた直後に、私は更新ボタンを押した。

 矛盾している。

 自分で笑いそうになった。

 だが、笑えなかった。

 八十六位。

 また上がっていた。

 私は、ルールを破ったことを反省するより先に、スクリーンショットを撮った。

 午後二時、順位は八十二位まで上がった。

 PVは五百を超えた。

 ブックマークは7。

 評価は12pt。

 私は、だんだん現実感を取り戻してきた。

 この作品は、確かに今、読まれている。

 大ヒットではない。

 バズでもない。

 上位でもない。

 だが、今までの自分からすれば、明らかに異常な動きだった。

 それを認めた瞬間、胸の奥に別の感情が浮かんだ。

 もっと上へ行きたい。

 九十七位に載った瞬間は、載っただけで十分だと思った。

 八十八位になったときは、八十位台でも夢のようだと思った。

 八十二位になると、七十位台が見たくなった。

 この欲深さ。

 私はノートに、ほとんど呆れながら書いた。

 人は、届いた瞬間に次の高さを見る。

 それが悪いことなのかは、わからない。

 欲がなければ書けない。

 だが、欲だけになると書けなくなる。

 この二つの間をどう歩くか。

 その問いを書いたとき、私は少しだけ冷静になった。

 ランキングに入ったことは嬉しい。

 だが、これは目的地ではない。

 最終目標は一位だ。

 いや、本当は一位を取ることだけでもない。読まれる作品を書くこと。数字と向き合いながら、自分の書きたいものを潰さないこと。その記録を残すこと。

 順位が動くたびに自分を見失っていたら、続かない。

 そう思って、私はパソコンを閉じた。

 今度こそ、一時間は見ない。

 そう決めた。

 十分後には、スマートフォンで見ていた。

 七十九位になっていた。

 私は、声を出して笑った。

 笑うしかなかった。

 自分が情けないのか、嬉しいのか、もうわからなかった。

 七十九位。

 ついに七十位台。

 九十七位から、十八位上がった。

 画面の中のタイトルは、相変わらず同じフォントで表示されている。ただの一覧の一部だ。だが、私には少し光って見えた。

 午後三時過ぎ、私はようやく机に戻った。

 ランキング入りの興奮だけで一日を終えるわけにはいかない。今日見たことを、記録にしなければならない。感情が新しいうちに書かないと、あとから都合よく美化してしまう。

 私はノートを開き、ランキング入りした日の記録を書いた。

 まず、事実。

 投稿は二十一時。

 タイトルは強め。

 ジャンルは内容と合っていた。

 冒頭で異変を提示。

 投稿後一時間でPV104。

 翌朝、PV243、ブックマーク5、評価8pt。

 日間ランキング九十七位を確認。

 その後、順位上昇。

 PVとブックマーク、評価が増加。

 次に、感情。

 見間違いだと思った。

 証拠が欲しくてスクリーンショットを撮った。

 嬉しいより先に怖かった。

 順位が上がるほど欲が出た。

 数字から離れられなくなった。

 ランキングは、救いであると同時に支配でもある。

 書きながら、私は自分の中の興奮を少しずつ整理していった。

 紙に書くと、感情は少しだけ外に出る。

 外に出た感情は、観察できる。

 観察できるものには、飲み込まれにくくなる。

 私はそれを実感していた。

 夕方、順位は七十七位だった。

 PVは六百を超えた。

 ブックマークは8。

 評価は14pt。

 感想は、まだ来ない。

 感想0。

 その数字は相変わらず少し痛かった。

 だが、以前ほどではなかった。ランキングに載っても、感想が来るとは限らない。読まれても、言葉で反応されるとは限らない。その現実を、少しずつ受け入れ始めていた。

 読者は黙って読む。

 黙って去る。

 黙ってブックマークする。

 黙って評価する。

 その沈黙のすべてを、無関心と決めつけてはいけない。

 私はそう自分に言い聞かせた。

 夜、ランキング更新後、順位は少し下がった。

 八十四位。

 私は思った以上に落ち込んだ。

 下がったといっても、まだ載っている。朝は九十七位だったのだから、それよりは上だ。十分すぎる結果だ。そう頭ではわかっている。

 だが、心は違った。

 七十七位を見てしまったあとでは、八十四位が後退に見える。

 人間は最高到達点を基準にしてしまう。

 私は画面の前で、しばらく黙っていた。

 ランキングから消えたわけではない。

 それなのに、負けたような気がする。

 この感覚は危険だと思った。

 上がったときだけ自分を認め、下がったら自分を否定する。そんな状態では、書き続けられない。ランキングは常に動く。自分より強い作品が出れば下がる。時間が経てば下がる。読者の流れが変われば下がる。順位は、自分の価値そのものではない。

 私はノートに大きく書いた。

 順位は作品の現在地であって、作者の価値ではない。

 書いたあと、もう一行足した。

 ただし、現在地を知ることから逃げてはいけない。

 この二つは、両方必要だった。

 順位に支配されてはいけない。

 だが、順位を見ないふりしてもいけない。

 ランキング入りしたことで、私はその難しさを知った。

 翌朝、作品はランキングから消えていた。

 私は思っていた以上に静かだった。

 画面を開く。

 上から順に見る。

 ない。

 昨日あった場所にもない。

 もっと下までスクロールしてもない。

 消えている。

 わずか一日足らずのランキング入りだった。

 胸が痛んだ。

 だが、昨日の夜に順位が下がったときほどではなかった。どこかで覚悟していたのかもしれない。ランキングに載り続けるほどの力は、まだない。初動で一瞬入っただけだ。作品の勢いが落ちれば、消える。

 それでも、載った事実は消えない。

 私は保存したスクリーンショットを開いた。

 九十七位。

 九十一位。

 八十八位。

 八十二位。

 七十九位。

 七十七位。

 そして、八十四位。

 画面の中には、確かに自分の作品名があった。

 消えたあとで見ると、その画像は少し切なかった。花火の写真のようだった。今はもう空にない光が、画面の中にだけ残っている。

 だが、それで十分だった。

 花火が上がったことは、嘘ではない。

 私はノートに書いた。

 ランキングから消えた。

 しかし、ランキングに入った事実は残る。

 ゼロではなくなった経験も残る。

 ここから、何を学ぶか。

 私は昨日の数字をまとめ直した。

 初動の重要性。

 タイトルの強さ。

 投稿時間。

 ジャンルとの一致。

 ブックマーク率。

 評価率。

 ランキング入り後の露出増。

 ランキングから落ちる速さ。

 そして、心の揺れ。

 数字だけではなく、心の揺れも大事だった。

 ランキングに入ると、自分が思っていた以上に冷静でいられない。嬉しさと恐怖と欲が一気に来る。数字確認に時間を奪われる。書く時間が減る。次の作品に集中できなくなる。

 これは対策が必要だった。

 私は新しいルールを書いた。

 ランキング入りしても、確認時間を決める。

 スクリーンショットは撮ってよい。

 ただし、一日中張りつかない。

 順位が下がっても、作品を嫌いにならない。

 ランキング入りした作品を分析し、次作に使う。

 浮かれすぎない。

 萎えすぎない。

 最後の二行を書いたとき、自分で苦笑した。

 浮かれすぎない。

 萎えすぎない。

 簡単に書けるが、実行は難しい。

 だが、書かなければもっと難しい。

 昼過ぎ、私はランキングから消えた作品の本文を読み返した。

 不思議なことに、昨日より冷静に読めた。

 良いところもあった。

 タイトルは強い。冒頭の引きもある。母親という近い存在に恐怖を置いたのも効いている。中盤の記憶の食い違いも悪くない。

 だが、弱点も見えた。

 終盤の真相が少し急いでいる。

 母親の人物像が、恐怖と愛情の間で揺れきれていない。

 主人公が「自分は殺された」という記憶を疑う過程に、もう少し厚みが必要だった。

 読後に評価を入れたくなるほどの余韻が、まだ弱い。

 ランキング入りはした。

 だが、上位に残るほどではなかった。

 私はその事実を、以前より穏やかに受け入れられた。

 作品が駄目だったわけではない。

 でも、まだ足りない。

 その「まだ足りない」は、絶望ではなかった。

 次の課題だった。

 夜、私は新しいファイルを開いた。

 ランキングに入った作品の要素を分解し、次に試す短編の案を考える。

 近い人間が敵になる。

 自分の存在が揺らぐ。

 タイトルで異常事態を明確にする。

 冒頭一行で危機を出す。

 中盤で疑いの方向を反転させる。

 終盤で感情の着地点を作る。

 今度は、ランキングに載るだけではなく、もう少し長く残りたい。

 そう思った。

 欲がある。

 はっきりとある。

 昨日までは、ランキングに載るだけでよかった。

 今は、もっと上に行きたいと思っている。

 その欲を、私は否定しなかった。

 ただ、ノートに書いた。

 欲はある。

 しかし、欲だけで書かない。

 数字を見て、作品を直す。

 数字に見られて、自分を壊さない。

 書き終えると、少しだけ呼吸が深くなった。

 ランキング下位に名前が出た日。

 それは、私にとって小さな勝利だった。

 同時に、数字の怖さを知った日でもあった。

 ゼロではなくなることは、楽になることではない。

 ゼロではない苦しみが始まることでもある。

 だが、それでも私は思った。

 ゼロに戻りたくはない。

 読まれない安全な場所へ、もう戻りたくはない。

 傷ついてもいい。

 順位が下がってもいい。

 ブックマークが外れても、評価が伸びなくても、感想が来なくても、それでも誰かの目に触れる場所へ作品を置きたい。

 それが、書いて公開するということなのだろう。

 私はパソコンの画面を見つめた。

 新しいタイトル案が、いくつか並んでいる。

 どれもまだ粗い。

 だが、昨日までより少しだけ、読者のほうを向いている。

 ランキング下位に載ったことで、私は初めて知った。

 読まれる作品の列に入ることは、特別な才能を証明することではない。

 ただ、次の読者に見つかる場所へ一歩進むことだ。

 そして、その一歩は、思っていたよりずっと大きい。

 私はノートの最後に、その日の結論を書いた。

 ランキングに載った。

 下位だった。

 すぐに消えた。

 それでも、ゼロではなくなった。

 ペンを置いたあと、私はしばらくその文字を見つめていた。

 ゼロではなくなった。

 その一文は、ランキングから消えたあとも、消えなかった。



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