第1話 ゼロからのスタート
小説家になろうに登録した日のことを、私はきっと忘れないだろう。
名前を入力し、プロフィールを整え、心臓を高鳴らせながら「投稿」ボタンを押す。
ずっと頭の中で温めていた物語が、ついに世界に解き放たれる。
誰かが読んでくれるだろうか。共感してくれるだろうか。ブックマークを押してくれるだろうか。
期待と不安が入り混じり、眠れぬ夜を過ごした。
翌朝、私はスマホを開いた。
画面に表示された数字を見た瞬間、心臓が冷たくなった。
――PVゼロ。
――ブックマークゼロ。
――感想ゼロ。
ある意味で完璧なゼロが並んでいた。
想像していた未来では、誰かが「面白い!」とコメントを残し、ブックマークしてくれるはずだった。
だが現実は、世界に向かって叫んだ声が、何の反響もなく闇に溶けていっただけだった。
「……あれ、俺、間違えたかな?」
作品の設定をミスったのかとページを何度も確認する。公開はされている。間違いなく誰でも読める状態だ。
それでも、数字はゼロのまま微動だにしない。
この瞬間、私は痛感した。
「なろう」という舞台において、無名の作者は砂粒以下の存在だ。
■ 読まれない現実
その日一日中、私はスマホを握りしめていた。
仕事の合間も、移動中も、何度もリロードを繰り返す。
数字が増えていないか、ブクマがついていないか、ひたすら確認した。
だが画面は残酷に静かだった。
ゼロ。
ゼロ。
ゼロ。
まるで「お前の小説には価値がない」と突きつけられているようで、胸が締め付けられた。
私は机に突っ伏して、思わずつぶやいた。
「……俺には才能がないんだ」
だが心のどこかで、それを完全に信じることもできなかった。
なぜなら――私はまだ、本気で戦っていなかったからだ。
■ 絶望から転機へ
数字がゼロのまま一週間が過ぎた。
その間、私は何度もアカウントを削除しようとした。
「やっぱり俺には無理だ」と諦める理由はいくらでもあった。
だが、ある日ふと気づいた。
「この経験自体を作品にすればいいんじゃないか?」
誰も読んでくれないなら、読んでもらえるようになるまでの過程を、全部公開してしまえばいい。
失敗も、愚痴も、数字の上下も、全部さらけ出す。
きっと同じように悩んでいる作者がいるはずだ。
ならば、その人たちに向けて「共に戦おう」と声を上げればいい。
そう考えたとき、胸の奥に火が灯った。
■ 反応がなくても続ける意味
誰も見ていない日記を、延々と書き続けるのは虚しい。
だが、私はあえてやってみることにした。
「今日はPVゼロでした」
「タイトルを変えました」
「タグをつけ忘れたことに気づきました」
そんな小さな気づきを、毎日のように文章にして投稿した。
もちろん、最初は本当に誰も読まなかった。
けれども、数日経ったとき――奇跡が起こった。
■ 初めての一歩
その日、私はいつものようにスマホを開いた。
数字は「1」になっていた。
――PV1。
たった一人。
たった一回。
それでも、私にとってはかけがえのない「最初の読者」だった。
思わずスクリーンショットを撮り、泣きそうになった。
「読んでくれる人がいる」
たったそれだけで、心が救われた。
やがてPVは「2」になり、「5」になり、「10」になった。
まだまだ小さな数字だが、ゼロの頃の私にとっては天文学的な伸びだった。
その瞬間、私は確信した。
「この挑戦は無駄じゃない。続ければ必ず届く」
■ 今日のまとめ
無名作者の最初の数字は、容赦なくゼロである。
ゼロは才能の欠如ではなく、スタート地点の証。
絶望をコンテンツに変えれば、共感が生まれる。
最初の一人の読者は、かけがえのない存在。
私はまだ何者でもない。
だが、このゼロから始まる物語を、これからも記録していこうと思う。
いつか「1位を取った」と胸を張って言えるその日まで。




