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土蔵に描かれた「水」の文字

作者: 東雲未だき
掲載日:2025/08/23

4年前、高校生になって初めての夏休み。ぼくは両親の代わりとして、地方の深い山奥にある田舎の村に行かされるはめになった。ご先祖のお墓参りでごく簡単に済ませるつもりだったが、両親が重要視していたのは親族が一堂に会するお盆の集まりの方であった。


親戚連中は結局40~50人は集まっただろうか。想像していた通りほとんど70歳以上の爺さん婆さんだらけであった。ところがそんな中にぽつんと1人の女の子がいた。きっと遠い親戚筋の娘さんなのだろう。幼いながらも整った顔立ちで、かなりの美少女。うちの家系にあんな美人がいたなんて。それが彼女との初めての出逢い。お年寄りだらけの親類に囲まれていたためか、若さも手伝って輝くように可愛らしい。伯母によると、つい先日8才になったばかりで小学3年生。年に一度この集まりの時にだけ隣村から山を越えて1人で歩いてここまでやって来ていると、伯母も聞いたそうだ。

「おにいちゃん、あそぼ!」

彼女も退屈していたのだろう、ぼくにやけに懐く。ぼくは10代半ばの高校生。親戚の手前もあって恥ずかしいのでやめてほしい。


翌年、つまり3年前の夏休み、またお盆の集まりに駆り出された。1年ぶりに逢ったあの少女は小4にしてはやけに大人びていた。相変わらず居場所のないぼくたちは、親戚連中の目を盗んで2人で林に囲まれた古い土蔵に忍び込んだ。蔵の壁に「水」の文字が描かれている。一体なんの意味があるんだろう? おまじないなんだろうか? いや、今それよりも気になるのは彼女のことだ。誰にもバレないように蔵に入る。何百年も前からの建物らしく少し埃っぽい。見慣れない道具や器具に触れたり、いくつも並んだ大小の木箱など覗いてみたり、しばらく探険してみたが、次第にそれらも飽きてきた。ぼくと少女は階段を上がった薄暗い2階の奥まったところの木造の床に座った。他愛のない会話を繰り返した。セミの鳴き声も微かにしか聴こえない木箱と木箱の隙間のせまい物陰。物凄く美しい思い出。ただ。ただ不思議なのは、ぼくが認識していた彼女の年齢、8才の次、9才ではなく、13才の中学1年生になっていて、身体もそれなりに成長していたことだった。親戚連中は何も気にしていない様子だ。ひょっとすると、ぼくの勘違いだったのだろうか。


そして一昨年の夏休み、小学5年生、いや、中学2年生になっていると思っていた彼女が大学3年生になっていた。年齢計算がさっぱり合わない奇妙な感覚に陥りながらも、2人っきりの蔵で話し込んだ。田舎に滞在した3日間、彼女との世界にぼくは溺れた。そんな最中でも、ふとよぎる。初めて出逢って2年。8才から確かに2年経ったはずだが彼女は21歳らしい。成長が早すぎる。女体にさほど詳しくはないが、どう考えてもおかしい。しかしそんな不可解な疑問よりも、充分に成熟した年上の女性の魅力が遥かにまさった。


去年の夏も田舎を訪れた。大学生を卒業する予定だった彼女はめっきり大人の女性で、話をしていると、ぼくの年齢を遥かに越え、34歳になったらしい。どう考えてもおかしい。しかし大学生から見ると、より一層魅惑的で、ぼくらは例年と同じように、むしろ例年以上に土蔵での密会を繰り返した。


こうして今年も再び、ぼくは田舎に来た。彼女は明らかにおばちゃんになっている。尋ねると55歳になったらしい。それでも美しいまま熟女となった彼女と、土蔵での逢瀬を存分に楽しんだ。


一夜明けて帰る日の朝、どうしても気になったぼくは、名前も知らない親戚の伯父たちに聞いてみた。

「土蔵の屋根に描かれている水の文字・・・」

彼女の急成長については怖くて聞けない。

「あの水の文字はどういう意味なんですか?」

「ありゃおめぇ~、ありゃな。

  みづみづし

  みづし むすめの

  みづあげは

  みづかげ みづて

  みづぐきおろし

~っつぅてな、村に伝わる古い古い唄の意味じゃ」

「んだ。うら若ぇくりや働き娘の初めてのお付き合いはな、水に写ったべっぴんさんの方からな、男を誘ってんぞ~ってこった」

「え?」

「要するにな、おめ。水ってのは娘とちちくりあう場所って意味だな」

「防火の意味もあっけどな」

いやいや。もしかしてこの親戚連中は、彼女とぼくの関係を知っていたということか?

「若いもん同士だでな」

「知っとるもなんもなかろぉ。あの女はぁよ、巫水畏妨夏ふすいいぼなつの娘っつうてぇよ、男を好きになることで村と一族を守ってんだぁよ」

「1.6べえの早さで育つ女がな、いちばん美しいっぺぇな」

「フスイイボナツ・・・フスイボナツ・・・8才・・・13・21・34・55歳・・・フイボナツ・・・あぁそうか、フィボナッチ数だったのか・・・」

だとしたら、きっと彼女は来年には89歳になっているのだろう。そして再来年は生きていれば・・・おそらく死んでいないだろうが、144歳。その時、ぼくはまだ21歳をすぎたばかりなのに。



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