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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第83話 ライブ配信と旅行最終日<井戸川萌子side>





「どもー。ライライです!!!!」


「いどっちですっ!」


 ホテルに戻った後、私たちはソファーに並んで、早速ライブ配信を始めた。

 フタコンぶりだったから、気分が高まる。


「あっ。にしやんいらっしゃい。レバニラくんも来てくれたね!」


 常連リスナーが次々に入室してくれる。


【私服かわいい!】


【ライライちゃんがいる╰(*´︶`*)╯♡】


【二人での配信、嬉しいっ】


 あたたかいコメントばかり。隣の来那を見ると、指さしながら笑顔でコメントを読み上げていた。


「実はね。今ねっ。北海道にいるんだ!」


 えっ。言っちゃうの!?


【いいなー。旅行?】


【そっか。夏休みだっけ】


【昨日、僕、二人に会ったよ!】


 最後、レバニラくんが爆弾発言のようなコメントを残す。


【えっ。それ本当ですかー!?】


【羨ましい╰(*´︶`*)╯♡】


【私も会いたいー】


 そんなコメントで溢れている。


「しー!」


 来那は人差し指をちょこんと鼻に当てて言った。


「確かにレバニラくんに会ったよー! だけど偶然っ。内緒にしてね。もし、リスナーみんなと会う機会を作るならオフ会を開催しないとだねっ」


【偶然なんだ(*'ω'*)】


【オフ会良いかもー】


【ぜひぜひ開催してほしいー】


「プライベートは気を抜いているから、声かけられると、驚いちゃうかも。配信は、覚悟が決まってるから、みんなたくさん話しかけてねっ」


 負けていられないとばかりに、私も話しつつピースを見せた。


【わかったー!】


【確かに。急に話しかけられたらビビるよね!】


【コメントでたくさん話しかけるね╰(*´︶`*)╯♡】


 ホッ。良かった。上手くまとまったみたい。

 来那はすごい。リスナーを嫌な気分にさせずに、ライブ配信をする術を心がけているんだから。


 やっぱり私の好きなライライちゃんだ。


 ——その後は、リスナーのコメントを読み上げたり、歌を歌ったりした。

 しばらくすると、【みおぴょん♪さんが遊びに来たよ!】の表示が出る。


 ——山崎美音だ! 気づけば背筋を伸ばしていた。


【先輩、こんにちは】


「みおぴょん♪ちゃん、いらっしゃい〜」


 私はできるだけ明るく応える。


【二人は今、北海道にいるんだって〜】


 みおぴょん♪のために、前からいたリスナーがコメントで話題をつなげてくれた。


【へぇ。満喫してますか?】


「う、うん」


 プライベートを知っている相手だからか、返答するのにも、いちいち緊張してしまう。


【いいなぁ。お土産買ってきてください♪】


 そうコメントすると、なんとそのまま高額のアイテムを投げてくれた!

 画面にはキラキラとしたモーションが映し出されている。


 こ、これで買ってきてくれってか!?

 な、生意気! 先輩を舐めるなっ!

 ……まぁ。買ってくるんだけどね。


 ——でも、どんなに離れていてもライブ配信を通じて、しっかりつながれるのは、やっぱり面白いなと感じた。


 北の大地。隣には来那。昨日、リスナーのレバニラくんにも会えたし、今も配信を見てくれている。

 おまけに後輩が高額アイテムをくれて、お土産の期待までしている。


「あははっ」


「いどっちが笑ってるー!」


 思わずおかしくなって腹を抱えた。


 私、ライバーになって良かったなぁ。できれば、ずっと続けたいなぁ。


「いつもありがとう」


 目を擦りながら、画面の中のリスナーに向けて、感謝の気持ちを伝えた。


【こちらこそ╰(*´︶`*)╯♡】


【いどっちー!】


【大好き(*≧∀≦*)】


 私もみんなのことが大好きだよ。


 ——配信を終えた後は、昨日のリベンジで、来那と味噌ラーメンを食べに出かけた。


「あっつ……でも美味しいね」


 麺をすすった瞬間、濃厚な味噌の旨みが口いっぱいに広がった。もやしのシャキシャキとした感触にも舌鼓を打つ。


 レンゲですくったスープを口に運ぶと、生姜とにんにくの香りがふっと鼻に抜けた。


「美味しい……」


 ああ。もう思い残すことはない。

 北海道旅行も、いよいよ明日が最終日。残りの時間を悔いなく楽しもうと心に決めた。





 札幌の空は透き通るように青く、赤い屋根の時計台を見上げると、想像していたよりもずっと愛らしく感じた。

 まるで童話の中から飛び出してきたような姿なのに、どこか現実離れしたその存在感が、かえって魅力的に思えた。


 北海道旅行、最終日。私たちは、札幌市時計台に来ている。


「こういう家に住みたいな」


 来那は時々、子どもみたいなことを言う。


 毎日、お姫様のような気分で目覚められそう。彼女がピンクのドレスを着ている場面が思い浮かんだ。


 大通公園をゆるっと観光する。来那は、さりげなく歩く速度を合わせてくれた。


「山崎美音の、お土産何が良いかな」


「アイテムもらっちゃったしねっ。何でも喜んでくれそうだけど」


「うーん」


「紐パンにしたら?」


「!?」


 首をぐるりと回すと、来那が微笑みながら、こちらを見ていた。

 どこか得意げで、してやったりな表情に思わず口を閉ざす。


 せ、せっかく忘れようとしていたのに。


 あの日、私は気合を入れて紐パンを履いて北海道旅行に臨んだ。

 だけど、いざ来那に見られたら、恥ずかしくなって、どうにもできなかった。

 しかもその後、お腹の音まで鳴って……今、思い出しても、顔から火が出そうになる。


 来那の脇腹をえいっと、つつく。


 少しスタスタと先を歩くと、「まって〜」と調子の良い声が後ろから聞こえてくる。

 私はどうしても振り返る気になれなかった。





「結局、無難なものを選んじゃうよね」


 空港に着いてからお土産を購入し、搭乗時間までのあいだ、私たちはベンチに並んで腰を下ろしていた。


 山崎美音が何を喜んでくれるか考えた末に、最終的には「白い恋人」を手にしていた。口に広がる甘さと、ホワイトチョコのまろやかさが魅力のお菓子。


 「白い恋人」の"恋人"の部分には、三笘さんとの曖昧な関係に終止符を打った方が良いんじゃないというメッセージも含まれているつもりだった。


「旅行、あっという間だったね」


「うん。本当に」


 いざ始まるまでは緊張ばかりしていたのに、始まってしまえば一瞬だった。

 もっと早く旅行の計画を立てれば良かったな。

 来那とスタバで話し合った日が、遠い過去のようにも思えた。


 日帰り旅行で十分だと思っていたはずなのに。今ではすぐにでも来那と、また出かけたいと思っている。


「——なんかね、女の子同士で旅行すると不仲になることがあるんだって」


「……それ、どこ情報?」


「ネット! 前にラブと旅行したときも、ちょっとギクシャクした瞬間があったし……。あながち間違ってないのかも。でも、萌子とはずっと仲良くいられたよねっ」


 来那は「えへへ」と笑いながら、花がほころぶように微笑んだ。


「……でも、レバニラくんと会った後、来那、怒っていたよ」


「あっ」


 忘れていた。しまったというような顔をする。

 一瞬だけ考え込むような様子を見せる。


「——でも、イチャイチャしたじゃん」


「……」


 もう何も言えない。

 目の前を親子連れが通り過ぎる。子どもがスーツケースの上に乗っていて、お父さんが、それを引っ張っている。


「昨日の夜も、ラブラブしたもんね」


「……」


「ねぇ、萌子」


「……」


「かわいかったよ」


 バシッと肩を叩くと、来那がにこやかに笑った。

 ああ、もう、彼女には敵わない。


 私はその場の空気をやり過ごすように、目を閉じた。

 楽しかった。だけど、疲れたのも事実だ。


 帰りの飛行機では、お互い爆睡しているだろう。だけど、今のようにせめて手は繋いでいたかった。

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