第79話 気持ちってさ、言わないと伝わらないね。【吉瀬来那side】
「お、お腹空いたね。ご飯食べよっか?」
「うん……」
ゆっくりとベッドから身体を起こし、二人でソファーへと移動した。
きっと、腹が減っては戦ができぬってやつだ。
はるばる北海道まで来たのに、結局、夕ご飯にコンビニのご飯を選んでいるという、今の状況がおかしかった。
「萌子ってツナマヨ好きなんだね」
袋から取り出したおにぎりを両手持ちする萌子は、ちょこんとしたリスのようでかわいかった。
「うん。おにぎりはこればっかり好きでいつも食べてる。——来那は、サンドイッチ好きなの?」
食べる手を止めて、わたしの手に持つものをじーっと見つめる。
「好き! コンビニでご飯を買うときは、なんとなくサンドイッチをいつも選んじゃうね」
レタスとハムが挟まれたサンドイッチを、一口頬張ってみせた。
「……」
「……」
「あのさ」
「うん?」
萌子が口を拭って、わたしに向き直る。手元には、もうおにぎりはなかった。
「——来那も嫉妬することあるって本当?」
先ほどの話題にそっと触れる。萌子はずっと気になっていたんだ。
「うん。あるよ」
「知らなかった」
「ええー! レバニラくんしかり、山崎と仲良さそうなのも妬いちゃってたもん! わたし、そんなふうに見えなかった?」
「……」
萌子は自信なさげな顔をして俯く。
しっかり言葉と行動で示さないと、気持ちって伝わらないものだなと、あらためて実感した。
「あれから、山崎のマンションにも通ってるんだよね? ……LINEもなくて不安だったよ」
「あっ。送るの忘れてた」
「……」
萌子が山崎の家に行くとき、LINEが来たのは、あの初めの一回だけだった。
彼女のことは信じているつもりだけど……内心、気が気じゃなかった。
「ふんっ」
わかりやすく拗ねてみる。漫画のヒロインのように、ほっぺたをぷくっと膨らませてみせる。
「かわいい……」
すると、萌子はうっとりと目を細め、恍惚とした表情を浮かべた。
ちょ、ちょっと。
「そんなつもりでしたんじゃないんだけど!」
「ふふふっ」
「なに笑っているのっ!」
食べかけのサンドイッチを横に置いて、照れ隠しのために、萌子にこちょこちょした。
「ご、ごめん。嬉しくて。来那、ヤキモチ妬いてくれるんだなぁーって、今初めて実感できたかも」
彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「気持ちってさ、言わないと伝わらないね。さりげないだけじゃ、駄目なのかもね」
「……うん。そうかも。だけど、いつか全部話さなくても、来那と気持ちが伝わるような仲になりたいな」
「えへへっ」
わたし達は見つめ合う。どちらからともなくキスをした。微かにしょっぱいツナマヨの味がする。
わたし達の関係はまだ始まったばかり。手探りな部分も……まだまだまだまだある!
だけど、こうして萌子と確かめ合って仲を深めていきたい。そんなことを札幌の夜景を見ながら思った。
「でも、山崎の家に行くときは、やっぱりLINEほしいな」
「……うん。わかった」
想いを言葉にして伝え合い、ギュッとハグをする。
萌子いわく、わたしは人気者と言うけど、本音を話せる人は少ない。
それでも今、萌子には言葉にしづらかった胸の内を打ち明けることができた。
「萌子は、わたしに何か言いたいことってある?」
「……」
「ん?」
「大好き……」
わたしの彼女はずるい。思いがけないタイミングで、ふいに甘えてくる。
言った本人が照れている。顔が真っ赤だ。だけど、不機嫌そうに眉をひそめているのは、どういう感情なんだろう。
「……それ、照れ隠し?」
「うん」
照れ隠しだった!
わかりにくいよ!
わたしはこれからも萌子に翻弄されるだろう。
わからなければ、その度に聞けば良い。
これからも、そんなふうに二人で歩んでいけたらいいな。




